父さんのからだを返して 父親を骨格標本にされたエスキモーの少年

  • 早川書房 (2001年8月24日発売)
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本 ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784152083654

感想・レビュー・書評

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  • 胸糞が悪くなるほど面白くてやりきれない話。

    19世紀に人気となった骨相学は、脳は精神が宿る器官であり、脳の部位ごとに独立した機能がある。その発達具合は頭蓋骨に現れる。したがって頭蓋骨を測定することで精神・気質などを測定することができる、というもの。その考え方にしたがって、犯罪者、学者、芸術家らの頭蓋骨が収集され計測された。多様な民族の頭蓋骨も集められ測定された。その骨相学の元に起こったのがこの悲劇。

    20世紀初頭、「科学」のため、北極探検家によりNYに連れてこられた6人のエスキモーは、風邪によって次々に亡くなる。生き残った7歳のミニックは、アメリカで育てられ、ある日、自分の父が骨格標本にされ自然史博物館に展示されているのを知り、その返還をもとめる。
    青年になったミニックは、グリーンランドに帰るのだが、自分の居場所を見つけられず、アメリカへ戻る。

    エスキモーの地にあった隕鉄を奪い、エスキモーを自分の所有物のように扱った冒険家、「科学」の名の元に墓暴きする人類学者、アメリカに連れてきたことを感謝しろという新聞、まあなんとも非道い話ばかり。

    そしてミニックの文明に対する幻滅、アメリカ人でもエスキモーでもない、引き裂かれたアイデンティティの悲しさ。
    ミニックが最終的に居場所をみつけたのが、ニューハンプシャー州の季節労働者の集まる製材工場。そして、そこで知り合った友人の家族と共に暮らす。穏やかな最期はすこしだけ救い。
    アメリカに再度戻ったとき、エスキモーから聞いた北極探検の裏話を新聞に売り込もうとするなど、文明に毒された部分もあったりするのが面白い。

    自然史博物館からエスキモーの骨がグリーンランドに帰るのは、1990年代になってから。ただし、キリスト教の墓に入れられたというのは、釈然としない結末。

    昔話と割り切れない「文明」の散漫さがある。
    ケヴィン・スペーシーが映画化予定とのことで楽しみ。

  • 「ホッテントット・ヴィーナス」と呼ばれた女性がいた。18世紀の頃
    である。現・南アフリカ共和国に住むコイコイ族のサラ・バートンは
    イギリスへ行けば金持ちになれると騙されて、イギリスへ渡った。

    しかし、彼女を待っていたのは金持ちの生活どころではなかった。
    その身体的特徴を見世物にされたのだ。

    天然痘に罹りフランスで亡くなっているのだが、死後さえも安らか
    ではなかった。遺体は解剖され、その一部はホルマリン漬けにされ
    パリの自然史博物館に展示された。

    彼女の体が故郷に戻れたのは2002年になってからだった。

    本書を読んでいて、そんな話を思い出した。そして、こちらは
    北極からニューヨークに連れて来られたエスキモーの少年の
    話である。

    一緒にアメリカに渡った6人のうち、父をはじめとした4人が病死し、
    ひとりは北極へ戻った後に残されたのは少年ミニックだけだった。

    研究の端緒についたばかりの人類学の為に、ニューヨーク自然史
    博物館で研究材料にされたのに、ひとりぼっちになったミニックの
    将来をどうするのか。彼らは責任逃れをするばかり。

    そうして病死して埋葬されたはずの父の遺体が骨格標本にされ
    博物館に展示されていることが分かる。

    科学は人類に様々なものをもたらした、しかし、その裏側には
    人種差別に基づいた人権の無視があったことも忘れてはならぬ。

    孤児同然になりアメリカで12年を過ごしたミニックは、やっとのこと
    でエスキモーの世界に帰ることが出来るのだがそこさえも彼には
    安住の地ではなかった。

    エスキモーの世界と白人の世界。ふたつの世界の狭間で引き裂か
    れた人生は、ミニックを根なし草のようにしてしまった。

    どこにも居場所がない。そんな一生を歩ませてしまった科学と
    人間は、やはり残酷なのだよな。

  • アメリカのあまりにも身勝手で
    非人道的な人間ばかりが出てきて
    憤る
    傲慢な探検家
    尊厳を無視しイヌイットの骨格標本を展示するアメリカ自然史博物館の科学者達
    保身しか考えない資産家達

    アメリカに連れて来られて瞬く間に
    伝染病で命を落としたイヌイット達が
    不憫
    ミニックは7歳で孤児となり故郷にも
    帰れず、病がちの身体になり
    アメリカにも馴染めずアイデンティティを奪われた
    紆余曲折あり
    最後に見つけた安寧の地
    インディアン川のほとりで
    安らかであることを願います

  • 第47回ビブリオバトルinいこまテーマ「かえる」で紹介された本です。
    2017.6.25

  • あまりに人生の試練が多く、同情してしまいます。

  • 19世紀、探検家ピアリーによってグリーンランドからアメリカに連れてこられた北極エスキモー(イヌイット)の少年ミニックの生涯を追いかけたノンフィクション。

    ロバート・ピアリーは、初めて北極点に到達したとされる偉大な探検家だが、本書での印象はかなり酷い。イヌイットを利用することしか考えず、自分の名を挙げるための「戦利品」として6人をアメリカへ連れていく。たちまち風邪を引いて4人までが亡くなったというのだから、他と接触したことのない土地の住民を遠くへ連れ出すことの危険さがよく分かる。[https://booklog.jp/item/1/4103519614]で、「文明」側の人々が感染症を持ち込むことに非常に気を使っていたことを思い出した。
    孤児になったミニックを引き取ったのは、アメリカ自然史博物館職員のウォレス夫妻だった。夫妻はミニックを我が子のように育てるが、ウォレスが博物館の金を使い込んでいたことが発覚し、経済的に窮地に陥る。ウォレスの不正を追っていくくだりは、あまりの身勝手さにげっそりとする。しかし彼らの愛情は本物で、ミニックは生涯感謝していたという。人間は一筋縄ではゆかない。
    著者は返す刀で、アメリカ自然史博物館と、当時の探検家や科学者自体の歪みにも言及していく。タイトルのとおり、ミニックの父親キスクは亡くなった後、遺品や脳や骨格を博物館のコレクションに加えられた。ミニックを納得させるため偽の葬式まで行われたという。まだ骨相学が幅を利かせていたような時代とはいえ、人間に対してする扱いではない。
    またピアリーが「寄付」したと思われていたその他のコレクションも、実は博物館がひそかに買い取ったものだった。注目と資金を得たい探検家と、コレクションを充実させたい博物館の共犯関係。科学への情熱の裏側にある、業ともいえる。

    グリーンランドとアメリカ、二つの文化に引き裂かれて育ったミニックの人生は困難なものになった。自分の生きるべき世界を求めて文字通りさまよい、いったんは故郷のグリーンランドに戻るが、結局は馴染めずにアメリカへ帰る。最終的にはアメリカのいち労働者として、自分の特異な出自を注目されずに済むコミュニティにたどり着き、良い友人に恵まれて亡くなった。

  • 100年前にアメリカに連れてこられた、イヌイットの少年の物語
    自分の利益しか考えない文明人の犠牲になった少年の魂の叫び

  • 時代に翻弄されたエスキモーの子の話。今昔変わらず、文明という名を掲げて他人の人生を捻じ曲げても何とも思わない人たちの話。主人公よりもとりまきのどろどろに胃酸過多。著者が親戚。

  • 20世紀初頭、ニューヨーク自然史博物館の研究対象として持ち帰られた6人のエスキモー(イヌイット)。
    彼らは北極地方とは異なる環境に冒され次々と命を落としてゆき、父を失った少年ミニックは異郷の地で孤児となった。
    10年後、埋葬されたはずの父が博物館で骨格標本として陳列されているのを見つけた彼は、遺骨を取り戻そうと手を尽くすが……。

    アメリカ人にはなれず、けれどもうイヌイットとしても生きられない。
    二つの世界に引き裂かれ、最期はインディアン墓地に埋葬されるミニックの人生が突きつける悲しい現実と文明と言う名の野蛮。
    違う文化、習慣をもつ人々に対する無理解が、未だに民族間の間に大きな隔たりを作っている。
    何が文明的でどんな生活を未開と言うのか。読んだ後に、そういった価値観について考えさせられた一冊。

  • これはもう二度と繰り返してはいけない
    悲しい歴史です。
    恩という名目で連れ出されたエスキモーたち
    しかしそれは一種のわな。
    結局一人の少年、ミニックだけが残されました。

    そして衝撃の事実が…
    一人の少年にこんな重い事実は
    あまりにむごすぎます。

    特にひとりの探険家は嫌いになりましたね。
    最後に貶められて至極当然です。

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