わたしを離さないで

  • 早川書房
3.90
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本棚登録 : 2811
レビュー : 587
  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152087195

作品紹介・あらすじ

自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムの仲間も提供者だ。共に青春の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。キャシーは病室のベッドに座り、あるいは病院へ車を走らせながら、施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度、そして、キャシーと愛する人々がたどった数奇で皮肉な運命に…。彼女の回想はヘールシャムの驚くべき真実を明かしていく-英米で絶賛の嵐を巻き起こし、代表作『日の名残り』に比肩すると評されたイシグロ文学の最高到達点。アレックス賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • ノーベル文学賞受賞を記念して、以前読んだ本のご紹介です。
    5歳まで日本で育ったという日系イギリス人作家の代表作。英語で書かれたものの翻訳です。

    介護人として生きる女性の回想という形で丁寧に語られる、ある施設で育った少年少女の物語。
    前々から評価の高かった作家ですが、これが最高峰でしょうか。
    SF的な骨格を用いていますが、舞台は近未来ではなく現実の90年代以前を模していて、むしろノスタルジックな雰囲気。
    抑えのきいた丁寧な文章で若き日への郷愁を誘いながら、しだいに明らかになっていくその世界とは…!?

    31歳のキャシーは介護人という特殊な仕事につき、かっての同級生も担当することになります。
    平和な田園地帯ヘールシャムにあった寄宿制の学校で、世間から隔絶されたまま、変わった方針でずっと育てられた仲間でした。
    小さい頃にはいじめられ子だったトミーが、だんだん魅力的な青年に成長していく様はリアルです。
    キャシーの親友だったルースが、トミーとつきあい始めるのですが…
    幼馴染みの男女3人のみずみずしい青春物としても読めます。

    限定された世界での奇妙な感覚、教師達の言動から次第にわかってくる怖さ、若々しい願望や戸惑い、切ない思い…
    重い手応えですが、命がいとおしく、きらめいて見えます。
    これこそ文学というものでしょう。

    現実の臓器移植の危険性といった問題に警鐘を鳴らす意味もないとは言えませんが、声高に告発するものではなく、どんな人間にも通じる普遍的なことを描いているように感じました。
    誰しも案外狭い世界で身近な人の言うことを信じて限られた生き方をし、どこで道を間違えるか、どこで不当に扱われるか、わからないところがあるのではないでしょうか?

    • nohohon08739さん
      本棚を見てくださってありがとうございます。
      この本の最後2行のレビュー、特に共感します。
      本棚を見てくださってありがとうございます。
      この本の最後2行のレビュー、特に共感します。
      2018/05/11
    • sanaさん
      nohohon08739さん、
      コメントありがとうございます。
      思わず自分のレビューを読み直しました。
      この作品はとても美しく、心を揺...
      nohohon08739さん、
      コメントありがとうございます。
      思わず自分のレビューを読み直しました。
      この作品はとても美しく、心を揺さぶられる内容だったので、ここまで考えたのだな‥と思います。
      たくさんチェックしていただいて、嬉しいです。
      こちらも興味深い本の丁寧なご紹介に感銘を受けました。参考にもさせてもらいます~次に何を読もうかな‥
      また見に伺いますね^^
      2018/05/13
  • とりあえず装丁が美しいです。読了した後、表紙のカセットテープじっと見つめてしまった。ああ、このカセットテープはあのカセットテープかと。
    読み終わった晩、胸が押しつぶされそうになって眠れなくなる本を読んだのはこれが初めて。
    ヘールシャムの教室を照らす日差しの暖かさ。そこで暮らす生徒たちのざわめき。そんな何気ない日常風景はとてもリアルに描かれてるのに、生徒たちの親や社会背景に関する描写がまったく出てこなくて、最初はとても不気味で気持ち悪かったけど、それがだんだん読者が望まない形で明らかになってきます。
    問題の根が深すぎて見て見ぬ振りをし何も無かった事にしてしまう出来事が日常でも(スケールの大きさは違えど)あるけれど、それを最も残酷な形で見せつけられたような気がします。
    同じ作者の「日の名残り」よりも面白かったなー。

  • カズオイシグロというと、記憶の捏造や自分語りが有名だが、今回も、出だしはよくわからないまま進行し、いわば、主人公の語りにある種の違和感がずっとつきまとっていたが、徐々に明らかになる様子が、飽きさせることなく惹きこまれた。

    最後まで読んで、また最初の数ページをめくると、細かい設定納得のいくようになっていて、作者の構成能力に驚愕した(The 小説という構成ですね)。

    全体的にクローン人間であるはずの主人公の心の機微が丁寧に描かれていて、最後の場面で普通の社会の人間のエゴ(すなわち現代人のエゴチズム)が、浮き彫りになったのが印象的だった。

    P.S.
    両方読んだからわかることだが、『約束のネバーランド』の設定は、かなりこの作品の影響を受けていると思う。

  • ただ淡々と、感情を抑えて、回想するところがいい。
    育った施設・環境のこと、親友のこと、男女関係のこと等、出来事やその時の感情を丁寧に語るのだけど、そこには ”人ではない” キャシーの ”人生” があって、過酷で決められた最期があるにしても、それまで精一杯生きた彼女たちを感じることができる。

    語られる彼女の過去は、やはり一般的ではなく特別だと私は思うけど、彼女たちにとっては当たり前で、他の ”人” と比較して悲観なんてしない。

    やるせないなあ、と余韻の残る読後。

  • 臓器提供の為のクローンであるキャシー ルース トミー3人?!の友情 というより愛情の過程が、重いテーマだけど軽い調子で淡々と31歳になるキャシーの語りで進んでいく。提供者となる友人や介護人となる友人など それぞれが哀しい現実と宿命を理解せざるを得ない悲しさが伝わってくる。タイトルでもある゛Never Let Me Go゛♪をYouTubeでたまに聴きながら一息に読了した。ひとつ前に読んだ静謐な「日の名残り」と がらっと異なる作品ですね。こちらも良かった。

  • 舞台はイギリスの片田舎。淡々と回想される主人公たちののどかな子供時代から、この小説の恐るべき世界が暴かれていく。とかく描写が美しく、ヘールシャムの風景が目に浮かんでくるようだっただけに、後半で描かれる残酷な生のうずきを感じずにいられない。

    幼い頃より他者により運命が定められ洗脳された人間であっても、当然、そこには笑顔があり、泣き顔があり、喧嘩があり、恋があり、子どもとしてごく普通の感情や思い出がある。しかし、彼らは自分の運命について小さな疑問を抱くことはできても、結局その世界から逃れられないのである。そしてそうした「人間」たちを"作る"プロセスが完成されてしまった、社会。一度社会が出来上がってしまえば、残酷な思想が社会で容認され続けることも容易である、ということを、現代のパラレルワールドを通じて思い知らされた。

  • 「わたしの名前はキャシー・H。いま三十一歳で、介護人をもう十一年以上やっています」「わたしが介護した提供者の回復ぶりは、みな期待以上でした」
    提供者と呼ばれる人々。介護人のキャシー・H。彼らは「へールシャム」という施設で育ち、大人になっていくが――
    英国文学最高峰「ブッカー賞」の最終選考まで残った名作。

    後書きで柴田元幸の言うように、「予備知識は少なければ少ないほどよい作品」。上記のあらすじは本文2ページまでの情報量に留めました。

    怖い話ですが、いきなり物陰からワッと驚かすような稚拙な手法を使わない。語り手は冷静な女性で、常に抑制がきいた穏やかな語りをします。驚かせるどころか、結論を先に持ってくるんですね。「結果的にこうなりました。それにはこんな要因があって…」と具体的なエピソードを付加してくる。この流れが読者を飽きさせず、惹きこみます。
    冷静な口調なのに、登場人物の感情の温度がまざまざと伝わってくるのも凄い。

    (土屋政雄の翻訳も良かった。そして後書きの柴田元幸、好きなんですよね。ポール・オースターの『偶然の音楽』の翻訳が良かったから。しかしエドワード・ゴーリーの絵本は理解できた試しがありませんよ・・・元々ワケの分からない絵本なのか、私に分からんだけなのか^^;)

  • 冒頭から出てくる「介護人」「提供者」という不穏な単語に何のこっちゃと思いながら読み進めていくと俄然面白くなって一気に読んだ。

  • 3人がお互いをわかり合い過ぎて身動きできないのが息苦しい。最後のページは心臓をギュッとつかまれるよう。

    自分が社会にとって一種のリソースであり、存在が尊重されるのはあくまでも許容される範囲内だということ。いろんなことを「わかったつもり」で日常を送っていること。自分も、自分の大事な人もいつかは死ぬんだということ。ヘールシャムと提供者はそういうことを極端な形に変換して表している。

  • 朝日新聞平成の30冊の2位にも選ばれ(読んだことのある作品が4冊くらいしかなくて悔しい)その他でもオススメの記事を何度か来るが見たことある本作を読んでみた。
    最近のテンポいい系小説ばかり、読んできたのでこういった純文学系?(周りの描写が多くストーリーが進まない、物語の目的がすぐには分からない)が読みづらい。止めちゃおうかなと思うが、途中のこの世界のあり方が分かってからは話にのめり込んだ。止めなくて正解でした。

    人に勧めるか?と言われると考えてしまうが、人のあり方を考えさせられる一冊。

    孤児院で暮らす主人公の女の子、物語が進むとこの孤児院がどういう存在なのか、そこで生活する子供らはどんな存在なのかが明かになり、心を打つ。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

わたしを離さないでのその他の作品

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Kindle版 わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) カズオ・イシグロ
わたしを離さないで Audible版 わたしを離さないで カズオ・イシグロ

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