わたしを離さないで

  • 早川書房
3.91
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152087195

作品紹介・あらすじ

自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムの仲間も提供者だ。共に青春の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。キャシーは病室のベッドに座り、あるいは病院へ車を走らせながら、施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度、そして、キャシーと愛する人々がたどった数奇で皮肉な運命に…。彼女の回想はヘールシャムの驚くべき真実を明かしていく-英米で絶賛の嵐を巻き起こし、代表作『日の名残り』に比肩すると評されたイシグロ文学の最高到達点。アレックス賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わって、なんともいえない気分になった。人が、臓器提供のために、育てられるなんて、あってはいけない事だと思う。その施設、ヘールシャムが、どんなに人間的な場所で、良心的な環境であったとしても。

    • りまのさん
      にゃんこまるさん、前向きですね。素敵です!そうですね!
      にゃんこまるさん、前向きですね。素敵です!そうですね!
      2020/11/04
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      りまのさん
      にゃー
      りまのさん
      にゃー
      2020/11/04
    • mina4102さん
      りまのさん、こんばんは。はじめまして。見つけてくださって、フォローくださって、ありがとうございます。りまのさんの本棚がお素敵でぜひ読みたい本...
      りまのさん、こんばんは。はじめまして。見つけてくださって、フォローくださって、ありがとうございます。りまのさんの本棚がお素敵でぜひ読みたい本が沢山あります!私も、このカズオ・イシグロのわたしを離さないでを読みました。りまのさんと同じで、なんとも言えない気持ちになりました。臓器移植もタイミンングの合わない愛も。ただ、物語展開がおもしろくて読むのは止まらなかったです!これからも、よろしくお願いします。
      2021/01/07
  • いまやフライパンはテフロン加工があたり前になってしまいましたね

    昔ながらのフライパンは登山家のキャンプ用具か職人気質の料理人が営む洋食屋の厨房でしか見かけなくなりました(そんなわけないだろ)
    もちろんあっという間に淘汰されてしまったのはテフロン加工が圧倒的に使いやすいからですよね
    焦げつきが少なく手入れも簡単
    ですが注意しなければいけないこともあります
    最初のころは自分もよく奥さんに怒られました

    『たわしで擦らないで』なんちて

    さて『わたしを離さないで』です

    前々からカズオ・イシグロの作品は読んでみたかったんです
    なにしろノーベル賞作家ですからね

    で、実際に読んでみて思ったのは
    凄い「したたか」だな〜ってことです
    ちょっと言葉悪いかもしれませんが、このお話し設定が凄い突飛なのにずっと普通の顔してるんですよ

    こちらが「こんなん現実にはありえないよ!倫理的にもおかしいし!」と声高に叫んでも逆にぽか〜んとされちゃうような感じ
    え?いやいやそんなこと言われましても…みたいな
    で特に説明もされずに当たり前に進んで行きます
    最後にはあれ今のイギリスってこんな感じなん?みたいなね
    あ、なんか自分の方が間違ってたんかな
    なんかすみませんでしたっていう

    完全に詐欺師のやり口w

    私は単に同じ施設に育った男女3人の恋や悩み、希望、秘密そして別れを描いただけですよ
    そちらがどう感じるかは自由ですよ

    そして自分はまんまとそれが現実のような気がしてしまったのです

    そしてそしていつかそんなことが本当に現実になって
    その現実を世界が普通に受け入れて特になにも感じない
    そんな日がきたら
    それはかなり嫌だな〜と思いました

  • ノーベル文学賞受賞を記念して、以前読んだ本のご紹介です。
    5歳まで日本で育ったという日系イギリス人作家の代表作。英語で書かれたものの翻訳です。

    介護人として生きる女性の回想という形で丁寧に語られる、ある施設で育った少年少女の物語。
    前々から評価の高かった作家ですが、これが最高峰でしょうか。
    SF的な骨格を用いていますが、舞台は近未来ではなく現実の90年代以前を模していて、むしろノスタルジックな雰囲気。
    抑えのきいた丁寧な文章で若き日への郷愁を誘いながら、しだいに明らかになっていくその世界とは…!?

    31歳のキャシーは介護人という特殊な仕事につき、かっての同級生も担当することになります。
    平和な田園地帯ヘールシャムにあった寄宿制の学校で、世間から隔絶されたまま、変わった方針でずっと育てられた仲間でした。
    小さい頃にはいじめられ子だったトミーが、だんだん魅力的な青年に成長していく様はリアルです。
    キャシーの親友だったルースが、トミーとつきあい始めるのですが…
    幼馴染みの男女3人のみずみずしい青春物としても読めます。

    限定された世界での奇妙な感覚、教師達の言動から次第にわかってくる怖さ、若々しい願望や戸惑い、切ない思い…
    重い手応えですが、命がいとおしく、きらめいて見えます。
    これこそ文学というものでしょう。

    現実の臓器移植の危険性といった問題に警鐘を鳴らす意味もないとは言えませんが、声高に告発するものではなく、どんな人間にも通じる普遍的なことを描いているように感じました。
    誰しも案外狭い世界で身近な人の言うことを信じて限られた生き方をし、どこで道を間違えるか、どこで不当に扱われるか、わからないところがあるのではないでしょうか?

    • nohohon08739さん
      本棚を見てくださってありがとうございます。
      この本の最後2行のレビュー、特に共感します。
      本棚を見てくださってありがとうございます。
      この本の最後2行のレビュー、特に共感します。
      2018/05/11
    • sanaさん
      nohohon08739さん、
      コメントありがとうございます。
      思わず自分のレビューを読み直しました。
      この作品はとても美しく、心を揺...
      nohohon08739さん、
      コメントありがとうございます。
      思わず自分のレビューを読み直しました。
      この作品はとても美しく、心を揺さぶられる内容だったので、ここまで考えたのだな‥と思います。
      たくさんチェックしていただいて、嬉しいです。
      こちらも興味深い本の丁寧なご紹介に感銘を受けました。参考にもさせてもらいます~次に何を読もうかな‥
      また見に伺いますね^^
      2018/05/13
  • ただ淡々と、感情を抑えて、回想するところがいい。
    育った施設・環境のこと、親友のこと、男女関係のこと等、出来事やその時の感情を丁寧に語るのだけど、そこには ”人ではない” キャシーの ”人生” があって、過酷で決められた最期があるにしても、それまで精一杯生きた彼女たちを感じることができる。

    語られる彼女の過去は、やはり一般的ではなく特別だと私は思うけど、彼女たちにとっては当たり前で、他の ”人” と比較して悲観なんてしない。

    やるせないなあ、と余韻の残る読後。

  • キャシーの思い出話のような話が延々と続く。何のことなのか、なぜここまで記憶が良いのか、不思議な霧の向こうの景色を見るような話が延々とつづく。
    そして、話の全貌が明らかにされ、すべての謎が解明される。

    現実ではありえないフィクションといえばフィクションであるが、
    実は私たちも死を迎えるべくして生きていて、誰かのために生きたいという欲望もあり、何のために生きるのかはよくわかっていないのだ、人生について深く考えさせられる本。
    さすがはカズオ・イシグロだ。何年も積読状態だったのを後悔した。

  • とりあえず装丁が美しいです。読了した後、表紙のカセットテープじっと見つめてしまった。ああ、このカセットテープはあのカセットテープかと。
    読み終わった晩、胸が押しつぶされそうになって眠れなくなる本を読んだのはこれが初めて。
    ヘールシャムの教室を照らす日差しの暖かさ。そこで暮らす生徒たちのざわめき。そんな何気ない日常風景はとてもリアルに描かれてるのに、生徒たちの親や社会背景に関する描写がまったく出てこなくて、最初はとても不気味で気持ち悪かったけど、それがだんだん読者が望まない形で明らかになってきます。
    問題の根が深すぎて見て見ぬ振りをし何も無かった事にしてしまう出来事が日常でも(スケールの大きさは違えど)あるけれど、それを最も残酷な形で見せつけられたような気がします。
    同じ作者の「日の名残り」よりも面白かったなー。

  • ノーベル賞作家カズオ・イシグロの代表作。
    感情の描写が直接的じゃなくて、わかりにくい部分もあるけどその分情景の描写が丁寧。
    必要以上に何かを書こうとせず、何気ない日常の出来事やそのシーンを克明に描いてそこに何かを語らせる。
    どちらかと言えば小説というより、映画などの映像作品に近いのかも、と思った。
    悲しいし、切ないけれど、読み進めていく中で自分の心の中が静かになっていく感じがした。雨の日、家に篭っている時に読みたい本。

  • 限られた時間の中で
    登場人物の感情の動きが
    読んでて伝わります。
    すごく面白かったです。

    いつまでも自分の生が続くと
    思ったらいけない。

    時間は有限と思って生きようと思います。

  • カズオイシグロというと、記憶の捏造や自分語りが有名だが、今回も、出だしはよくわからないまま進行し、いわば、主人公の語りにある種の違和感がずっとつきまとっていたが、徐々に明らかになる様子が、飽きさせることなく惹きこまれた。

    最後まで読んで、また最初の数ページをめくると、細かい設定納得のいくようになっていて、作者の構成能力に驚愕した(The 小説という構成ですね)。

    全体的にクローン人間であるはずの主人公の心の機微が丁寧に描かれていて、最後の場面で普通の社会の人間のエゴ(すなわち現代人のエゴチズム)が、浮き彫りになったのが印象的だった。

    P.S.
    両方読んだからわかることだが、『約束のネバーランド』の設定は、かなりこの作品の影響を受けていると思う。

  • エミリ先生の言ったこともなんとなく分かるけど幸せな時間があった分後々のことが余計に辛いよね…とも思う。でも他の提供者はヘールシャムを羨んでいたし…やっぱり一時だけでも、結末が酷なことだとしても幸せな時間があるっていうのは少し救いなのかなとも思うし…どっちが良いとは簡単に言えないかもしれない。

    ルースが出てくるたびにギスギスしそうで心配したし(大体ギスギスした)本当に友達かこれ??って思っちゃった。色々なことがあっても友達続けられるのすごいよ…。

    すごく後になっちゃったけどトミーとキャシーがちゃんと一緒になれて良かったと思った。

    これが初めてのカズオイシグロ作品だったけど他のも読んでみたいな。

  • 朝日新聞平成の30冊の2位にも選ばれ(読んだことのある作品が4冊くらいしかなくて悔しい)その他でもオススメの記事を何度か来るが見たことある本作を読んでみた。
    最近のテンポいい系小説ばかり、読んできたのでこういった純文学系?(周りの描写が多くストーリーが進まない、物語の目的がすぐには分からない)が読みづらい。止めちゃおうかなと思うが、途中のこの世界のあり方が分かってからは話にのめり込んだ。止めなくて正解でした。

    人に勧めるか?と言われると考えてしまうが、人のあり方を考えさせられる一冊。

    孤児院で暮らす主人公の女の子、物語が進むとこの孤児院がどういう存在なのか、そこで生活する子供らはどんな存在なのかが明かになり、心を打つ。

  • 臓器提供の為のクローンであるキャシー ルース トミー3人?!の友情 というより愛情の過程が、重いテーマだけど軽い調子で淡々と31歳になるキャシーの語りで進んでいく。提供者となる友人や介護人となる友人など それぞれが哀しい現実と宿命を理解せざるを得ない悲しさが伝わってくる。タイトルでもある゛Never Let Me Go゛♪をYouTubeでたまに聴きながら一息に読了した。ひとつ前に読んだ静謐な「日の名残り」と がらっと異なる作品ですね。こちらも良かった。

  • 10年以上積ん読にしていたのだけど、ようやく読み始めたら引き込まれて1日で読んだ。この積んでいた年月はなんだった(^_^;;

    不穏な空気のただよう、謎めいた学園もののようなはじまりで、語り手であるキャスの記憶は行きつ戻りつし、ときには横道をたどったりしながらも、ていねいにもつれた糸をときほぐして自分たちの人生の物語を語っていく。その圧倒的な語りの力とリーダビリティに打たれた。

    人生は日々の積み重ねで、その1日1日はこういう何気ないやりとりや、ちょっとした行き違いや、ささやかな喜びやなんかの集積体なのだなあと。ひとつの大きなできごとで何もかもががらっとひっくりかえったりするのではなくて、ちょろちょろとした小さな流れが積みかさなって潮流ができていくんだということがすごくリアルな肌触りで伝わってくる。

    でもって、この設定の突飛さ。これ、日本だったら芥川賞候補になっても受賞できないパターンなんじゃないのか(^_^;; でもすごくリアリティがあるし、のみならず、人間っていったいなんなのかという大命題まで浮かび上がってくる。

    彼女たちに「人生」はあると言えるのか、言えないのか。将来の職業を選ぶこともできず、最後は「提供」で使命を終えるしかない身ではあっても、そこには確かに生きた軌跡があった。切ないし残酷だとも思うけど、それが人生の本質かもしれないという気もしなくはない。という思いがぐるぐるめぐる本。

  • 舞台はイギリスの片田舎。淡々と回想される主人公たちののどかな子供時代から、この小説の恐るべき世界が暴かれていく。とかく描写が美しく、ヘールシャムの風景が目に浮かんでくるようだっただけに、後半で描かれる残酷な生のうずきを感じずにいられない。

    幼い頃より他者により運命が定められ洗脳された人間であっても、当然、そこには笑顔があり、泣き顔があり、喧嘩があり、恋があり、子どもとしてごく普通の感情や思い出がある。しかし、彼らは自分の運命について小さな疑問を抱くことはできても、結局その世界から逃れられないのである。そしてそうした「人間」たちを"作る"プロセスが完成されてしまった、社会。一度社会が出来上がってしまえば、残酷な思想が社会で容認され続けることも容易である、ということを、現代のパラレルワールドを通じて思い知らされた。

  • 冒頭から出てくる「介護人」「提供者」という不穏な単語に何のこっちゃと思いながら読み進めていくと俄然面白くなって一気に読んだ。

  • 3人がお互いをわかり合い過ぎて身動きできないのが息苦しい。最後のページは心臓をギュッとつかまれるよう。

    自分が社会にとって一種のリソースであり、存在が尊重されるのはあくまでも許容される範囲内だということ。いろんなことを「わかったつもり」で日常を送っていること。自分も、自分の大事な人もいつかは死ぬんだということ。ヘールシャムと提供者はそういうことを極端な形に変換して表している。

  • 2018.11.21

  • はい。ミーハーで読んでみました、2017ノーベル文学賞のカズオ・イシグロ。

    神林(バーナード嬢曰く。)も
    「映画にもなったし超有名で世界的にも評価の高い」
    と言っていたので、すごーくハードル上げて読んでみました。

    淡々と語られる寮生活。
    始めは普通の子供たちの話に見えるが、少しずつ何か世界背景に不穏なものが感じられ・・・という始まり方で、こういうのは大好き。

    全編にわたって抑制のきいた語り口で、盛り上がりに欠けるといえばまあそうかな・・・。
    こういうのを情緒的と思って楽しめるかどうかかな。
    解説では事前情報少ないほど楽しめると言われているけど、SF文脈的には平凡なので、むしろ繰り返して読んで日常の尊さや友情について読みを深めるほうが楽しめる感じ。

    読了後に表紙を見返してみた時が一番感動かも。
    ああこれテープカセットか、と。

  • 初読。

    カズオ・イシグロは好きなのわかってるんだけど、
    作品数がけして多くないからあえて読まないように
    自分を焦らしてる気がする(笑)
    でも、明日死んじゃうかもしれないからね!
    意味が無いかもね!

    で、やっぱり好きだなぁ。この文章。
    星は「その時の自分にグッときた度」なので
    これはそんな高くないんだけど、でも★3.5くらい。

    クローンがどう、っていうのは私にとってあまり重要じゃなくて、
    抑制がきいているのに饒舌で、
    静謐なのに寒々しく淡々としているわけではない文章が連なって
    子供時代のああ、あったなぁこういうこと。と
    心がキュッとなる感じ。

    クローンじゃなくても、どうせいつか死んじゃうのに
    勉強して、世界を知って、自分の宝物を作って、でもそれで?

    それがどうなるの?

    というのがどこかにずっとあるのは
    もう自分が子供を持つ事はないと殆ど確信を得つつある今だからかと思うけど、
    (個人的には世界の継続に寄与するという事に自分の子を産む事は
    絶対必要条件では無いと思うけど、実感の強さとして大きいだろうと思う)

    でも、人間が持つ普遍的などうして?なのかもねぇ。

    私はルースみたいな信じたがり屋でもあるし、
    キャスやトミーのような知りたがり屋でもあるなぁ

  • 読み終わった時は苦しいほどだった。臓器移植用のクローンとして生を受ける という状況設定はともするとその運命に抗う主人公という物語に流れがちだ。この小説では全寮制の施設での共同生活を現在「介護者」である「私」が回想するという構造をとることで、そうした普遍的な(いってみれば「大文字」の)物語から逃避しようとする。運命とは乗り越えるもの、という現代的な常識を小さなエピソードの数々が巧みに揺さぶる。昨日の延長に今日、そして明日がある。その静かな日々の先には「使命完了」の日が待つことを彼らは受け入れる。ただ少しの望みもかなえられないことがわかった時もイシグロの筆は深刻な絶望を描かない。主人公の恋人はその短い人生の中で抑えてきた感情を小さく破裂させるだけだ。運命論でもなく単なる諦観でもない。たとえ曇り空の下に走る一本の荒れた道路のような人生であっても、そこを歩く人にとってかけがえのないものである、そんな当たり前のことに気づかされる物語だ。

  • 寄宿学校施設ヘールシャムで生活するキャシーたちは、施設内の規則に従いながら学び、詩や絵などを制作している。
    やがて18歳となった彼らはヘールシャムを離れて外の生活に慣れ始める。

    彼らはクローン人間であり、臓器を提供する使命を持って生まれてきた。
    臓器提供を始めるまで彼らは介護人となり、臓器提供者の介護にあたる。

    ヘールシャム内で深く愛し合った男女は提供を始める時期に数年の猶予が与えられる、という噂を信じたキャシーとトミーは彼らの創作物を回収していたマダムの元へ向かう。

    そこで彼らが知った事実。
    彼らの創作物は、臓器提供者として生まれた彼らの人権運動につかわれていたこと。今やその運動も下火になっているということ。
    真実を知ったトミーは感情を抑えられない。

    他人に臓器を提供する使命を持って生まれた彼ら。
    彼らの身体は他人のもの。
    では、心は誰のもの?

    クローン人間の人権を思う。

    ------------------------------------------

    普段は意識しないことだけど、人間はいつか死ぬ。いくら医療が発達しても何百年も生きられるようにはならないだろう。人間じゃなくても生きものは死ぬ。ぼんやりとしているけど、当たり前のこと。

    ヘールシャムやその他の施設で、育った彼らは臓器を提供する使命を持って生まれてきた。
    彼らに待ち受けるのは、はっきりとした使命と、明確な死。ぼんやりなんてしていない。

    まるで死ぬために生まれてような彼らが、コミュニケーションを楽しみ、愛を育み、架空生物を作り出す姿はあまりにも残酷で、とてもつらかった。

    ルースもトミーも誰かに認めてほしかったんだと思う。ヘールシャムの外にいる人間たちに自分たちを認めさせたかったろう。キャシーはその客観的な視点を持ってるから介護人として評価されたのかな。

    とても重くて、つらい話だった。
    でも、死ぬことが決まってるのは彼らだけじゃない。人間全員いつか死ぬ。そう決まっている。うぬぼれるな。
    非常に重要なメッセージを掲げた話だった。

  • 自分では変えることも選ぶことも出来なかった過酷な「運命」を背負って生きていく人たちのお話です。
    いくらでもメロドラマチックに出来てしまいそうなテーマに溺れなかった著者の人はすごいと思う。
    抑制の効いた文体が、余計に主人公の哀しみや虚無感を感じさせて、泣ける。号泣。

    話の後半で、「支援する」側の人たちの傲慢さがさらりと露呈されるが
    それすらも淡々と書かれている。
    確かな希望が浮かび上がったと思ったら、そっと打ち砕かれる。
    それでも恨み節のようなものは語らない。
    感情的な場面も静かに描写され、やさしくフェードアウトしていくかのように終わっていく。
    たまらん。

    落ち着いた語り口調だからこそ、
    書かれなかった部分に思いを馳せる楽しみが味わえる本です。

    図書館で借りて、あまりに好きだったので自分で購入し、さらには原文のニュアンスも知りたいと洋書も買いました(まだ読んでないけど)

  • 救いの無いような終わり方が逆にリアルで、本当に世界のどこかで同じことが起きているような悲しい気持ちになった。
    文章自体はとても読みやすいものでした。

  • 提供人と介護者、など何の意味だろう?という言葉が多い中、読み進めると徐々に全貌がつかめてくる。
    まさか臓器提供という大きな背景があるとは思わなかった。
    登場人物たちがそのことを当然のように受け止めていることが、背筋が凍る思いだった。
    「それが当たり前の世界」に生きることの恐ろしさ。決して遠い話ではないと思う。

  • 読み終わってすぐに感想が思い浮かばないくらいに、衝撃を受けた作品でした。自分の状況と重ねてしまった部分はあると思います。

    狭い世界に押し込められた若者たちが、癖のある友人との不毛な交際から逃れられず、卒業後せっかく離れ離れになったのに、自らまた面倒な友人関係を回復させてしまう、人間心理の不条理というか、読んでいて苛ついてくる話だなと思っていました。この話の不気味な舞台に気づくまでは。

    将来、現実にあり得る話というか、ともかく理論的には可能な話だけに、自分がそういう風に生まれたら、と考えてしまいます。
    周りが彼らをそういう風に扱っていることより、彼ら自身が自分たちをそのように扱っていることの方が、数段こわい。
    だめだ、うまく表現できない。

  • 提供者間のセックスが触れられている。挿話としていい印象を受けた。謎に満ちた物語ではあるが、静謐な文体で淡々と描かれる。イシグロの代表作とのことだが、他の作品も読みたくなった。先を先をとページをめくった。かなり辞書ひいた。

  • 初イシグロ
    映画が観たい!

  • 2017年ノーベル文学賞を受賞したカズオ イシグロの「日の名残り」と並ぶ代表作。

    90年代のイギリスで提供者と呼ばれる患者を世話をする介護人のキャシーは、自分の育ったへーシャルムというに施設やその後を回想しながら、自分の出生の秘密や目的を紐解いていく。

    ヘールシャムの「真実」とは、臓器提供のためのクローン育成場であり、驚愕の真実に向き合う子供達。オリジナルに会う旅や、提供免除の噂を信じての頑張りを通しての葛藤を描く。

    クローン羊ドリーの衝撃をいち早く人間に置き換えて、抑制された文体で人間と社会の新たな関係を描き出した話題作。

  • 主人公キャシーの淡々とした独白を、?と思いながら幼少期/青年期と読み進んで行くうちに設定がだんだんと明らかになるファンタジーホラー。

    仲間同士の関わりの描写が精彩で、そのほんとうに些細な、どうということのないエピソードが、彼らの悲壮な運命に陰影を与える。

    想像していたような衝撃や意外性はなく静かな荒涼感が漂う。

    [more]<blockquote>P319 追い風か、逆風か。先生にはそれだけのことかもしれません。でもそこに生まれた私たちには人生の全部です。

    P326 新しい世界が足早にやってくる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。そこにこの少女がいた。目を固く閉じて、胸に古い世界をしっかり抱きかかえている。心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、それを抱きしめて、離さないで、離さないでと懇願している。</blockquote>

  • 読み終えたばかりでまだ整理がつかないが、この本の本当の主題は何なのかと考えモヤモヤしている。理不尽で苛酷な運命に翻弄され健気に生き抜く若者の姿に涙してほしいという動機付けは著者に当然ない。進化し続ける先端医療の危うさを警告した書でもないだろう。ロボットやAIなどすでに身近に溢れつつある物に心が宿ることを読者に想像させるための書だろうか? それも何かしっくり来ない。よく「ディストピアSF」と評されるが、そのSF的設定をつぶさに見ていくと、細部までよく練り上げられているとは到底いいがたい粗さや幼稚さが目立つ。

    もし臓器提供用のクローンを確保しておくなら、それが誰に所有権があるのか判然としないまでも、コストのかかり脱走や自傷などのリスクを伴う運営方法よりも、可能であれば映画でよく見られる液体入りのカプセルの中でチューブに全身が覆われるような飼育方法の方がリアリティがありそう。保護人の監視下を離れて寄宿舎から巣立っていくという設定もよくわからないし、提供の回数は語られるが何が提供されたのかも触れられず、最後の猶予を認められる認められないも求められる親の健康状態次第でそもそも希望自体に無理がある。

    こういうSF的要素は物語の背景に過ぎず、拘泥していては著者の本当の意図を見誤るのかもしれないが、それ以外にも不可解な点はいくつかある。特にピエロの登場の場面。「わたし」たちの関係性を暗示するための風船であり、それだけのために都合よくピエロが「わたし」目の前に現れる。介護人という制度も「わたし」がルースやトミーと物語上、少しでも長く結びついておくためだけの作為にしか見えない。そもそもこの「わたし」というのは誰に語りかけているのか? 同じ臓器提供者予備軍なのか、被提供者も含めたすべての人なのかよくわからない。

    "どんな環境下におかれても「心」を失わないことの大切さ"であるとか、"困難な制約下でも生き抜いていくことの素晴らしさ"であるとか、そんな健全な課題図書風のものが主題であるとは到底思えない。クローンが自分の親を探しに監視下を離れ自由に出歩く様などの描写は、常人の倫理性を試すギリギリのところを平気で狙っているようで、著者の本当の意図の理解に苦しむ。臓器提供するためだけの若者たちを、読者の誰もがノスタルジックな共感を示す寄宿舎での青春の一コマとして丹念に描いたら面白いだろなという、ごく単純な実験的な試みなのか?

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

カズオ・イシグロの作品

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