破局 (異色作家短篇集 9)

  • 早川書房 (2006年5月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784152087270

感想・レビュー・書評

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  • 目次
    ・アリバイ
    ・青いレンズ
    ・美少年
    ・皇女
    ・荒れ野
    ・あおがい

    何作かダフネ・デュ・モーリアの作品を読んだけど、『レベッカ』の衝撃を越えるものってないなあ。
    鋭い切り口の作家であることは、間違いないのだけれど。

    この中でいちばん衝撃的だったのは『美少年』。
    ヴェニスで休暇を過ごす初老の男が、美少年のために人生を狂わせてしまったといえば、その美少年は当然ビヨルン・アンドレセンである。
    しかし彼は積極的に近づいてきて、旅行者である初老の男の面倒を見る(仕事として)。

    美少年が話す家族について、男は妄想を膨らまし(病弱で口やかましい母親と、幼くけなげな妹)、同情し、休暇を共に過ごす提案をする。
    これ、絶対ハッピーエンドにならないやつだなと思いながら読むと、案の定現代っ子である美少年はモーターボートで出かけようと誘い(大金がかかる)、二人きりのデートのはずが家族同伴で(しかも陽気なイタリア人家族)、散々な一日の最後に大事件が起きる!

    けれどこれ、どうしようもない結末だけど、不幸ではないっぽいね。
    傍から見ると哀れかもしれないけれど、本人の頭の中は幸せなのではないだろうか。
    深い。

    『アリバイ』は、現代にも通じるミステリなのではないだろうか。
    うだつの上がらない中年男。
    家に帰ると口うるさい妻の言いなりで、妻が招待する、変わりばえのしない友人たちとのつまらない付き合い。
    そんな中で、自分の居場所を作ってしまったために陥る窮地。
    そこから逃れ出る術はない。
    侮蔑に満ちた妻の目から逃れるために、男はもっと深い罠に落ちていく。

    『あおがい』。
    このタイトルの意味は、最後まで読んでもわからなかったし、辞書で調べた今もまだわからないのだが、面白かった。
    設定はありふれていると思うが、無自覚の悪意、または余計なお世話が、次々に人を不幸にしていく。
    最後まで主人公は、なぜみんなが自分から離れていこうとするのか理解できない。
    そこが、いわゆる悪女ものとは一味違うのかもしれない。

  •  1959年に刊行された原著を抄訳した短編集。
     やはり、ダフネ・デュ・モーリアの小説は面白い。本書はなかなかにバラエティに富んでいるが、どれもよく書けていて、各作品に流れる小説ストリームは心地よく、惹き付けられた。エンタメ系にしては人間観察がしっかりして深みもあり、描き出される心理の綾もリアルだ。心的にリアルでナチュラルなストリームは、まるで充実した音楽のように、私を楽しませてくれる。
     本書の中では「皇女」は異色作で、ヨーロッパの架空の小国の歴史を記述するという、彼女には珍しいスタイル。しかしそれでも適切かつ巧妙に語り口は調節されている。この作品で描かれている、陰謀論にそそのかされデマに踊らされ、憤激に駆られて暴徒と化す大衆の愚かさは、そのまま、現在の日本国民の愚かさと同じである。
     私としては、美しいメルヘンのような「荒れ野」に特に魅力を感じた。

  • 『レベッカ』のデュ・モーリアの短篇集。
    デュ・モーリアの短編というと『鳥』が圧倒的に有名だが、こういう人間のイヤな部分を凝縮したような内容のもいいなぁ……。

  • 「美少年」 ザバダックのオハイオ殺人事件みたいな。懲りない男だ。

  • 「アリバイ」「美少年」が好き。

    同じ作者の短編集なら、『鳥』の方が粒ぞろいで楽しめた。

  • デュ・モーリアと言えば、「レベッカ」「鳥」
    どちらも作品に惚れ込んだ
    ヒッチコックによって映画化されている。

    私も、「レベッカ」を大久保さんの翻訳で
    (新潮文庫の裏表紙の粗筋と言う名の種明かしに腹を立てつつ)
    のめりこんで読んだくちだ。

    6編の短編集

    「アリバイ」

    うんざりした毎日に飽き飽きした中年の男は
    いろんなことから抜け出す手段として
    殺人を想像し、実行することに。
    思いつきで訪ねた家の幸薄い親子に
    狙いをつけるが…

    この、本当のことを話しているのに
    今の状況からどう考えても信用してもらえない、と言う恐怖、

    言っている本人もなんだか
    自分でもわからなくなって…

    嘘と本当の境目、どっちがどっちか…


    「美少年」

    想像していたのと
    考えていたのと違う事が起こる、のが人生。

    それでもめげないこりない主人公に
    ある部分なぜかほっとする。

    「皇女」

    集団心理の恐ろしさ


    「あおがい」

    親切に見せかけた意地悪、と言うか
    悪辣なおためごかしと言うか、

    意識しているのか、していないのか。

    「こういう嫌な人がまわりにいる」と言う小説は多々あるが、
    それが主人公と言うのが秀逸。

    吉行理恵がお好きな方は絶対に気に入るはず。

    どれもこれも読後感はわりとどんより
    武田百合子さん風に言えば「墨を飲んだような気持ち」

    しかしながらただただグロテスクと言うのでは無い。

    心に潜むものをつぶさにうつし出していて
    人間の脆さとしぶとさを再確認。

  • 一話目アリバイ、終わり方が雑だ。心情描写は丁寧

    美少年は後味が非常に悪くて心に残る。読んでる途中で、登場人物達の下心に気持ち悪くなる

    皇女は丁寧な描写のSF。ユートピアを捨てるアダムとイブ

    青いレンズ、ストーリーはもはや陳腐(古典に対して、もはやとか書いてる時点で筋違いなのは承知)。口調で、ああ、昔に書かれたんだなぁと当たり前だが思う

    短めの話の方が好き

  • 個人的に風景描写の文章に突出した美しさのある
    作家さんという印象なのですが、それは今作でも健在。

    しかしながら今作でよりインパクトを感じたのは
    女性の登場人物の絶望の描写。

    周囲を固める女性たちの陰鬱さや絶望が一見地味ながら
    かなり濃厚で、それが一本一本の短編ごとの色分けを
    明確にしているのかもしれないという印象がありました。

    内容や展開的には相当強烈なインパクトを求める方には
    あまり向かないかもしれませんが、
    丁寧に感情をつむぎながら粛々とまとめている風なので
    デュ・モーリア好きなら読んで損はしない内容だと思います。

  • 傑作です。発想の面白さで勝負しているのではなく、書く技術と寓意と示唆にあふれている。

    実存主義的なアリバイ。
    コミカルながらも疑問をなげうつ青いレンズ。
    中年男の哀愁と人間の醜さを象徴した美少年。
    ガルシアマルケスの迷宮をも想起させる皇女。
    深い悲しみを引き起こす荒れ野。
    そして信頼できない語り手を十分に風刺し描写したあおがい。

    小品でなく全てがじ2時間の映画となりうる。
    絶対追いたくなる作家。ヒッチコックが惚れ込んでたのが十二分に納得できる。

  • 異色作家短篇集の10巻です。
    特に気に入った「青いレンズ」は眼の手術をした女の人が包帯を取ると人の顔が動物にしか見えなくなっていたという話ですが、この話には人間の顔には裏表があるという意味が込められているように感じます。
    「美少年」は少年愛の話です。
    作者は同姓愛者だったらしいですが、この話にも作者からしてみては意味がありそうです。
    「あおがい」の主人公の性格設定には考えさせられます。
    こういう困ったちゃんはいつの世にもいるんでしょうね。

  • 短篇集。6篇収録。

    原著は1959年に出版されているので、ほぼ50年前の作品ではあるが、突発的な無差別殺人の衝動とか児童に対する虐待など、現代にも通ずる病理が扱われ、まったく古めかしさを感じさせない。

    どの作品の主人公も救いのない状況に置かれたまま、物語の幕が閉じられるのだが、読まなきゃよかったと思うような暗澹とした気持ちにはならないから不思議だ。
    デュ・モーリアの品のある筆捌きがそうさせるのだろうか。温かみがあるわけではないのに、寒々しくもない・・・なんとも微妙な温度感。

    妻の采配ぶりに嫌気がさし、ある衝動にかられて見知らぬ家を訪れる男。その衝動を成就するため妻にも会社にも内緒の秘密の時間を持つことになるのだが・・・・・。どきっとするような設定で始まる「アリバイ」だが、自分でもそうと気づかぬまま男が望んでいるのは、妻の称賛(まあ、あなたにもこんな一面があったのね、すごいのね、といったような)を得たいという、ただその一念であるように思える。
    ラストの告白は、その称賛が、今までも、これからも決して得られることがないことを悟った男のやぶれかぶれの(犯していない罪に対する)告白であったと読んだのだが、どうだろう。

    妄想のうちに自身を美化し、己の真の姿は見ようとしないという点で言えば「美少年」の語り手も、ご同様である。

    目の手術を受けた後、異様な世界を目にする女性を描く「青いレンズ」は、彼女が心理的に追い詰められていく様も読み応えがあるが、愛しているはずの夫や心を許した看護婦が、何故そう見えたか、言外の意味を探る余地が残されていて楽しい。

    一国の盛衰を寓話風に描いた「皇女」。何より怖かったのは、情報によりいとも簡単に操られてしまう人の心。

    言葉を話すことができない少年と、彼が荒野(ムーア)の盗賊団と信じる一団との一夜が、なんとも幻想的でせつなく美しい「荒れ野」。

    「あおがい」でひたすら我が身を嘆いている女性。しらっとした無邪気な顔をして毒を吐きまくる。こういう人は、見かけたらさっさと逃げ出すに限る。



    バイ・セクシャルであったらしいデュ・モーリア。若い頃の写真を見ると、少年のようなきりっとした顔立ちで、美しい。

     The Breaking Point by Daphne du Maurier

  • じわじわ怖い。
    「あおがい」は、イヤ〜な感じが伝わってくるのが絶妙にうまくて、誰でもきっと感じたことのある感覚なんだけど、それを文章にできるのがすごいなあと思う。

  • 2010/2/2購入
    2012/7/4購入(旧版)

  • 事件はいつも、予期しないときに襲ってくる。それはそっと忍び寄り、背後でじっと待ち構えている…。ヒッチコックが映画化した「レベッカ」「鳥」で知られる著者が人生の断面を鋭く抉る6つの物語。
    「アリバイ」「青いレンズ」「美少年」「皇女」「荒れ野」「あおがい」

  • 事件はいつも、予期しないときに襲ってくる。それはそっと忍び寄り、
    背後でじっと待ち構えている…。ヒッチコックが映画化した「レベッカ」
    「鳥」で知られる著者が人生の断面を鋭く抉る6つの物語

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