夜中に犬に起こった奇妙な事件 新装版

  • 早川書房
3.65
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本棚登録 : 483
感想 : 85
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152087959

感想・レビュー・書評

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  • ぼくはこの本が気にいった。
    なぜなら、この本を読んでいる間ぼくは"ぼく"になれる、今日怒った嫌なことやお金がなくて困った、などということを考えなくてすむからです。
    悲しいとか嬉しい、という感情表現がないので、"ぼく"の視点で世界をみれる。


    これはクリストファーの物語だけど、その両親の物語でもある。
    自閉症の子を持つ事の大変さがリアルに伝わってくる。
    それでも、クリストファーに対する二人の愛情は素晴らしいよ。たしかに間違いもおかしたかもしれないけど、こんなに子を想っている親、素晴らしいじゃないか。

  • 舞台を先に見ました。原作もとてもおもしろかった。児童書作家の作者が初めて大人向けに書いたものだけれど、出版社が子供・大人どちらにも向けて出版しようと提案したそう。たしかに幅広い年齢層が楽しめる本。ヴァージニア・ウルフ「波」からの引用があるけれどとても深くて何度も考えてしまう。

  • 面白い!!ものごとはこんな風に捉えることもできるのか、と自分の見ている世界が広がる気がした。
    アスペルガーの少年クリストファーが書いたミステリ小説、という設定で、視点や感情の動きはあくまで書き手であるクリストファーの感性で物語が進んでいきます。しかし本編には主人公が自閉症だとはひとこともかかれていません。けれどもこういう性質の子はどこにでもいて、彼らと共に生きていくというのはこういうことなんだなと思う。
    舞台がイギリスだからなのか、この書き手だからなのか分かりませんが、クリストファーの言動に対する周りの人たちの反応が優しいというかなんというか。干渉はしないけど見守る。それは、自分とは関わりのないこととして遠目に(あるいは冷ややかに)見るのとは全然違う。日本にはどうしても後者が多いような気がする。わざわざ“彼は自閉である”なんてことは知らなくても、こうやってそっと見守ってあげればいいだけなのに。こういう彼らの特質を知ることが本当に大切。そして家族や周りの人よりもだれよりも、本人が本当に大変な思いをしているんだということがよく分かる。
    それにしても、多くの「定型発達」の人々の見ている世界が、いかに不条理で非効率的であることか!(私自身が限りなくグレーに近い性質だから共感出来るのかもしれませんが…)

    ※翻訳小説ですが、ここにカテゴライズしときます。

  • 『それぞれのアルファベットに1から26までの数値をあてはめてみる(a=1、b=2というように)。そして頭の中でその数字を足していくと、それは素数になるのがわかる。JESUS CHRIST(151)とか、SCOOBY DO(113)とか、SHERLOCK HOLMES(163)とか、DOCTOR WATSON(167)とか』-『47』

    「博士の愛した数式」か、「アルジャーノンに花束を」か。それは外からは通常伺い知ることのできない、複雑で、知的な世界の描写。小川洋子は、表情や一般的な行動としては表われてこないその内面の心情を、数式を通して世界に伝えようとしている様を、第三者の気付きという視点から描いた。一方ダニエル・キイスが描いたのは、特殊な事情によってその内側に閉ざされた世界が外側に広がってくる物語。

    マーク・ハッドンは、「アルジャーノン」の設定と同じように内側からの視点で描く。外の世界から自分に係わってくる人を(そしてそこで起こる困難を)描くことで、その狭間の大きさを描いている、とも言えるかも知れない。しかしどちらの側から描くにしても、その間にも確かな繋がりが存在し得るということを描く点は、この本でも共鳴していること。よしんば、その繋がりが同時進行の矢印が向き合ったようなの繋がりではなくて、一見互いに一方通行のように見えてその実お互いを支え合うような矢印の循環のような繋がりであったとしても。

    考えてみると、そんな風に閉ざされた知的活動の世界を、全く別のものと思ってしまうことがそもそも間違った問いの立て方であるかも知れない。普通に会話を交わすことができていると思っている人々の間にも、そのような理解の断絶はあるだろう。むしろ一見存在していると思える断絶を越えようとする努力があるからこそ、理解の補完が起こるのだとも思える。言葉の無力さを思う。

    ペットのネズミ。その描写を読む限り、それはハムスターであるように思えるけれど(果たして原文では何という言葉になっているのだろう)、その言葉の響きからは、マウスやラットというイメージが喚起され、実験用、という修辞がたちまち結びつく。そこまで連想が繋がれば、アルジャーノン、のことを思い出すのは、ほぼ必然となる。もちろん、読後感は全く異なるのだけれども、そんな風にダニエル・キイスとの比較は案外そこかしこで喚起される。

    但しダニエル・キイスが描いたのは、振り返って考えれば、二つの世界のギャップを科学の力によって、ある意味物質的に無理やり繋げてみせようとする物語。一方マーク・ハッドンはそのギャップを精神的な働きかけによって繋いでみせる。その物語のあり方は小川洋子の描いた世界とほぼ同じものであると思う。

    しかし二つの作品がほぼ同じ世界観で成り立っているといっても、イギリスを舞台としたこの物語は、石畳や人工物に囲まれた世界の中で起こる物語で、自然との繋がりがほとんどないという印象が残る。唯一人間が制御できないもの自然のモチーフがペットである動物なのだ。しかし小川洋子の物語には土のにおい、草のにおい、植物のにおいがする。そればかりか、野球という確率でしか捉えることのできない人間の営みも人間の制御できないものとして登場する。その違いが実は、同じような物語でありながら、「夜中に犬に起こった奇妙な事件」に対して、どこか「作り物」というような印象を生む原因となっているような気がする。但し、それは日本人的視点に絡みつく印象であるとも思ってはいるのだけれども。

    『しかし煙は煙突から大気のなかに出ていくはずだ。だからときどきぼくは空を見あげて、あそこにはお母さんの分子があるのだと思う。アフリカや南極の雲のなかにあるのだと、あるいはブラジルの熱帯雨林の雨や、どこかの雲になって降っているかも知れないと思う』-『61』

  • 児童文学の書き手だというのでほんわかあったかなやつなのかなと思ったら
    わりと重めの話だったので驚いた。

    主人公である自閉症の男の子が自分の意思で外の世界に出て行く場面、必死さがにじんでる感じが好き。

    外国小説を普段読まないんですが読みやすかった!

  • 僕には自閉症の弟が居ますが、重なる部分が多くて、クリストファーが小説の一人物と思えないほど、血肉の通った人間だと感じました。
    クリストファー等、障害がある人達と私達の間には、色んな差異があると思います。紛れもなくそれはあります。しかし、それは人間たる何かを否定するに値するものではないと思います。僕は、人間として大切なことをクリストファーに教えてもらったのです。

  • 自閉症の男の子が、向かいの家の庭で殺された犬の謎を追う、ミステリー&成長物語。

    彼は謎を解くうちに、自分に関係のある秘密に辿り着いていく。ショッキングな出来事もあるけれど、彼は自分のやり方で乗り越えていく。

    自閉症の人が、考えていることや、なぜ私たちには理解できない行動をするのかということがわかるように描かれていて、読んで見解が広がった。私たちにとって、彼らの突拍子も無いと思われる行動にも理由があること、それがわかるだけで、お互いのためになるのではないかと感じた。

    物語としても面白く、主人公の謎の解き方は私には到底できないくらい整然としていて素晴らしい。

    人の感情がわからないから、顔のマークで表現したり理解したりする主人公の始めのシーンが伏線?になっていて、読後がとても心地よかった。

    中高生から大人まで。

  • 舞台化と聞いて気になったので読んでみた。最初は語りの文にちょっといらいらしたけど、途中から気にならなくなった。お話の空気感がとても好き。

  • 13.feb.2

    発達障害のことが知りたくて、参考になる本はないか?と検索したら見つけた本。Amazonにて購入。

    とある養護学校に通う少年が書いた小説という設定で描かれる話。物語は高機能自閉症・アスペルガーらしき特徴を持った少年の一人称で進む。

    所詮、障害がない作者が書いた本とはいえ、独特の論理を持って生きてる少年の行動に終始興味をひかれた。
    マイナーな本みたいだけど、おすすめ。

  • 15歳のアスペルガー少年の書いたミステリー、という設定のお話。
    定型さんにはたぶんまどろっこしい文章が、私にはとても心地よかった。なぜかというと、論理的に事実だけ書かれているからです。あいまいな表現がないからです。
    一気に読んで楽しめました。

    著者も訳者もすごいなあーと思った。
    本当にクリストファー君がいて、彼が書いたみたい。

    内容はちょっと衝撃的だったけど、ラストはそれなりに前向きに進んでいけそうな感じで、よかったかな。

    最近読んだ『ウタフリスの自閉症入門』の中で紹介されてて読みました。
    そうでなければ知らなかった作品。
    出合えてよかったです。

マーク・ハッドンの作品

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