観光

  • 早川書房 (2007年2月22日発売)
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本 ・本 (280ページ) / ISBN・EAN: 9784152087966

感想・レビュー・書評

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  • 「再読」である。
    本書を最初に読んだのは、2011年4月のことなので、13年以上前のことになる。当時、私は、本書の舞台となっているタイ国に駐在していた。
    以下、初読の際のブグログに書いた感想を下記する。

    【2011年4月に書いた本書初読の際の感想】
    バンコクの伊勢丹の中に紀伊国屋書店が入っており、そこでは日本の本を買うことが出来る。日本の大型書店と比べると品揃えは今ひとつだったり、そもそも本の値段が日本で買うのに比べると5割増しくらいになるのだけれども、バンコクにある書店らしいのは、タイ、あるいは東南アジアのことを扱った書籍や、そこを舞台にした小説のコーナーがあることだ。
    この本はそのコーナーで見つけたもので、タイ系のアメリカ人作家による、7編の短編を収めた短編集である。短編の舞台は全てタイ。どれも素晴らしい短編だと思う。
    バンコクに住み始めて3年近くになる。3年程度を主として会社の仕事をしながら過ごしているだけなので、タイという国について何か分かったとはとても言えないのだけれども、それでも、実際に住んでいる国のことなので、毎日出会うことの中から、何らかの「印象」を持つようになる(それは実際には誤った認識かも知れず、「偏見」なのかもしれないことは分かった上で)。
    タイの2009年の一人あたりGDPは約4,000ドルであり、日本の1/10程度。経済規模が小さいということは住んでみれば分かるのだけれども、経済規模が小さいということに加えて、この国はかなり貧富の差が大きいのではないか、とも感じる。実際にあらためて経済統計を調べてみると、日本などに比べると、タイの所得格差はかなり大きいことが統計的にも確認できる。更に言えば、この国は階層間の流動性が低いような気がする。これは統計的な裏付けも何もない個人的な印象だ。要するに金持ちの家に生まれたら金持ちであり続ける人が多く、そうでない場合には、自分の努力だけで経済的な豊かさを得ることが難しい国なのではないか、という印象があるということだ。
    この小説に収められている7つの短編のうち、6編の主人公はタイ人。子供と呼んで差し支えのない年齢の者から10代後半と思われる年齢の少年であり少女であり青年たちだ。彼らは、小説の中で、何らかの「困難」に出会う。それを一括りに「困難」と呼ぶのは、内容や程度が個別的過ぎるのだけれども。小説の中で、彼らは、それぞれの方法で、その困難に立ち向かったり、立ち向かわなかったり、悩んだり、やり過ごしたりする。それは、必ずしも自覚的な方法であるわけではないのだが、それでもそのそれぞれの対処のやり方が(あるいは対処しないやり方が)印象的であり、それぞれの短編の主題になっているという風に小説を読んだ。
    彼らのやり方を痛快に感じたり、痛ましく感じたり、という経験を読者はするはずだ。彼らの生活は貧しい者もいれば、そうでない者もいるが、決して社会の上流階層に属しているわけではないことでは共通している。上述した、階層間の流動性が低いだろう、という自分の印象、あるいは、偏見と合わさって、僕自身はある種のせつなさを小説を読んで感じた。お勧め。
    【引用終わり】

    それから13年以上が経過したが、既にバンコクに伊勢丹はなく、私はタイ人女性と結婚し、日本に帰国し、定年で会社を引退した。感覚的には、あっという間のことだったが、私自身にも大きな変化があったことに今さらながら気がつく。
    しかし、本書を再読してみての感想は、上記の2011年に書いたものと、大きくは変らない。当時感じた「せつなさ」を今回も感じながら読んでいた。その「せつなさ」は、社会の仕組みの中で、あまり恵まれていない立場にいることを強いられている主人公たちが、その立場ゆえに味わうことになる困難や理不尽さが哀れであり、また、それでも、困難に立ち向かおうとする行いが健気で勇気づけられるという感覚である。
    タイ人女性と結婚し、彼女の友人のタイ人とも多く知り合いになり、今でも「タイ国」は私にとって身近に存在する。その「タイ国」感覚、および、以前、タイ国に駐在していた際に感じていたタイ国に対しての、多くの感想・想いをあらためて想起させてくれる読書であった。

  • まだ二十代だったタイの青年の書いた小説が、どこかの書評でとても評価されていたのを見てから気になっておりやっと手に取りました。

    どの作品を読んでも感じられたのは、タイという国の背景というか国柄、そしてガイジンに対する見方。皮肉たっぷりに感じられるけど確かにそうだなと納得してしまう身も蓋もない赤裸々な表現。全編に漂う理不尽さと言うか諦観というか、読んでいて決して楽しい物語ではないけれどだからこそ静かに沁みこんでくるようなもの悲しさをも感じます。確かに日本人の二十代の物書きなら理不尽を描いてもこういう雰囲気の物語にはならないだろうと思いました。

    本書のタイトルである「観光」はタイトルからは想像できなかった母と息子の切ない思い合いの話が展開されていました。他のどの作品も良かったのですが自分は「徴兵の日」「闘鶏師」が良かった。
    本書の出版からほぼ14年。この著者はまだ書き続けているのでしょうか。あまり手に取ることのないアジアの作家は新鮮でした。

  • タイ系アメリカ人によるタイを舞台にした、そこに暮らす人々の短編集。
    タイのあの暑さや人々やゾウのいる景色が目に浮かぶような描写と切ないストーリーの数々。
    少し読むのに苦労しましたがこれまで読んだことの無いタイプの小説で面白かったです。
    訳者のあとがきで、邦題は、原題"Sightseeing"の通りの意味と、光を観る、という意味合いで「観光」とした、とありなんだか素敵だなと思った。

  • タイへ行ってみたいっ!

    ってな事で、ラッタウット・ラープチャルーンサップ、古屋美登里·訳の『観光 Sightseeing』

    ガイジン
    カフェ・ラブリーで
    微兵の日
    観光
    プリシラ
    こんなところで死にたくない
    闘鶏師
    の7つの短編集。

    タイを舞台に旅行に来たガイジンしか好きになれない少年、
    兄に夜のダークな街へ連れて行ってと頼む弟、
    アメリカから息子の居るタイへ移住した父、
    闘鶏師の父が連勝して安定した生活をしていたが、ある男が現れてから生活が激変……

    等々タイへ来たような感覚に成れる様なお話ばかり。

    話の内容は昭和30年~50年代の日本と変わりない様な懐かしさを漂わせる感じかな

    2019年49冊目

  • タイ系アメリカ人の著者による全7偏の短編集。
    とても良かった。
    「ガイジン」のパンチから始まり、「闘鶏師」のドラマチックな残酷さで幕を閉じるという、どれも悲哀の中に燃える生命の煌めきを綴る。
    2007年刊行時は、”日本の過去のどこかの場面とつながっているように思え”たと訳者あとがきにて書かれているけれど、観光立国を謳う2020年の日本に接続してしまったようにも感じられる。
    そういう普遍性をたたえた作品だった。

  • 嘘と少しのやさしさで構成されたこのままならない世界で生きる喪失感ときらめきが、熱い風に乗って伝わるような短編集。
    自身のバックボーンを生かし社会問題など生々しく重い題材に切り込みながら、文学として食べやすく調理してしまえる作家。結末で光(希望や温かな光だけではない。闇を引き立てる光、消えゆく光、薄明かり等も)を提示する物語構成力はガチ。この人が長編書くなら絶対読みたい。
    『こんなところで死にたくない』の老人視点すごい。要介護で息子が外国人と結婚して孫たちもみんな外国語で喋ってて不気味で心細くて疎外される恐怖と差別感情とそれでも不器用に愛する気持ちを掬い上げている。
    『闘鶏師』は映画向き。見せ場が明確すぎる!そして人間心理の解像度高い。最低限の台詞やしぐさから人物の背景や人となりまで見えてくる。

  • 水面に漂うだけの小舟のように、抗うことの出来ない環境に身を置く主人公の、静かな諦めと無力感が切なく心に響いて、切なかった。

  • 図書館にて借りる、第十二弾。

    旅行本でもガイドブックでもない。

    タイを舞台にした小説。

    凄く久しぶりに外国人の書いた小説を読んだが、合わない。
    私には合わなかった。

    なんだろうか、読み進むのに時間がかかるし、何の満足感もない。

    儚さのようなものを感じなくはないが、それが何だというのか。

  • カフェ・ラブリーで、が好きでした。どの短編もタイという国や人の事情が伝わってきました。

  • 美しい景色、濃く澱む熱気。快楽を求めて押し寄せては去って行くガイジン、身を寄せ合いひっそりと集まっては追い出される難民。生活に深く根付いた不正貧困と、温かくも儚い家族との繋がり。生きている限り決して消えることのない哀しみの海の中で、泡沫のように弾けては光の在処を指し示す温かな感情をそっと拾いあげていくような。全編通して、辛い現実を生き抜くしなやかな強さに支えられているのを感じる。「よお、世の中よ。おい、このボケ。おれはおまえになんかに流されたかないね。この場にとどまってやるからな」

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