双生児 (プラチナ・ファンタジイ)

  • 早川書房
3.70
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  • Amazon.co.jp ・本 (510ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152088154

作品紹介・あらすじ

1999年英国、著名な歴史ノンフィクション作家スチュワート・グラットンのもとに、第二次世界大戦中に活躍した空軍大尉J・L・ソウヤーの回顧録のコピーが持ちこまれる。グラットンは、次作の題材として、第二次大戦中の英国首相ウィンストン・チャーチルの回顧録のなかで記されている疑義-英空軍爆撃機操縦士でありながら、同時に良心的兵役拒否者であるソウヤーなる人物(いったい、そんなことが可能なのか?)-に興味をもっており、雑誌に情報提供を求める広告を出していた。ソウヤーの回顧録を提供した女性アンジェラ・チッパートン(旧姓ソウヤー)は、自分の父親は第二次大戦中、爆撃機操縦士を務めていたと言う。果たして、彼女の父親はほんとうにグラットンの探しているソウヤーなのだろうか?作家の棲む現実から幕を開けた物語は、ジャックとジョーという同じイニシャル(J)をもった二人の男を語り手に、分岐したそれぞれの歴史の迷宮をひたすら彷徨していく…。稀代の物語の魔術師プリーストが、SF、ミステリにおける技巧を縦横無尽に駆使して書き上げた"もっとも完成された小説"。英国SF協会賞/アーサー・C・クラーク賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 以前、借りて読んでいたのを電子書籍版を購入し再読。途中の中断期間が長く、ただでさえ注意して読まねばならないタイプの本なのに、かなり記憶も曖昧な形で読み進めたが、以前、集中して読んだ時もやはり意識は混乱した覚えがあり、結局どうなのというツッコミも意味ないタイプのプリーストの小説。ただこの実存性が曖昧になる、今、私が生きているかもしれないこの世界はリアル?と、ふと不安に思ってしまうような、そんな疑いを持ってしまうほど、プリーストの作り出す世界は何か確固たるものがあり、どちらの世界も本当に、パラレルに存在している気がしてくる。
    嘘を嘘と思わせない、現実を侵食してくるような背中のざわめき感がプリーストを読む醍醐味。

  • 最後まで読ませる腕前に感服です。
    悲しいかな、解説読んで真のおもしろさがわかりました(^_^;)
    再読したいが、ボリュームに敗ける・・・

  • 1

  • ベストSF2007年1位


    mmsn01-

    【要約】


    【ノート】

  • ジョーとジャックはベルリン・オリンピックに出場するためにボートを屋根に載せた車でユーロッパ大陸をベルリンまで急いでいた。ドイツではナチス党が政権を取り、ユーロッパの国々はその覇権を恐れていた。オリンピックで銅メダルを取ったジョーとジャックの兄弟はある秘密の荷物を運んでこんどはドイツからイングランドを目指して急いでいた。その荷物によって二人の運命は右と左に分かれていく。我々の歴史と所々で違っている異世界のお話だ。知らないうちに違った世界を眺めているような不思議な感じ。

  • パラレルワールドか妄想か,双子特性の紛らわしさとそれぞれの視点で語られる世界の微妙なズレ,読みながら些細な違和感がずっと気になりながら,どこまでいっても解決されず,とうとう作家のスチュワートの登場する現在になって,別の世界の登場人物であるアンジェラと交差する不思議.戦争屋チャーチルの人物像も興味深かった.

  •  これを読んでの感想は英国版RSBC(レッドサン ブラッククロス)だなというものであった。RSBCでは日本が日露戦争に敗退することによって、日本が却って覇権国家になるという話だったが、ここでは英国がナチスドイツは1941年5月に講和することによって、世界の覇権国家としての地位を確固たるものにするのである。英国がドイツと講和した結果、「英国に対するすべての義務から解放されたと勝手に思った」アメリカはドイツ軍のバルバロッサ作戦の始まる二週間前に日本とその占領地域へ先制攻撃をかけ(個人的な感想なのだがこの際米軍が逆真珠湾奇襲とでも言うべき作戦をやったのではないかと思われる気がする。日本を打ち破った後、「蒋介石の国民党との便宜的な同盟関係」によって、満州に兵を進め、さらに満州からソ連へ侵攻した米軍がウラル山脈の辺りまで進んだように書かれているからである)、日本を打ち破る。その後、中国国民党政府のために、毛沢東の共産軍を打ち破る(但し「毛沢東軍との見かけ上の勝ち戦」とあることから、大きな被害を被ったようである。また作中で「米中戦争」と称されているこの戦いは、米国に「経済不況と社会的沈滞」を招いたという設定になっている)。ドイツ軍と米軍によって東西から挟み撃ちにされたソ連は両国に敗れてウラル山脈の線を境に解体される。
     しかしその後米独両国は第三次大戦に突入したが、お互い相手を打ち破り切れず、手詰まりになったようである。一方、英国は、「第三次大戦が一九五〇年代膠着状態に陥るころには、西ヨーロッパの民主主義との緊密な軍事上の連帯を結」び、「中東の油田を無競争で入手できることで、英国は今日まで、世界情勢における政治的かつ経済的な強国として一頭地を抜く存在となっていた。チャーチルの手による歴史を支持する者たちは、英国の覇権を二十世紀中盤のチャーチルという戦争好きの野望のおかげと見做している」という記述から、英国が覇権国家としての地位を保っているということがわかる。第三次大戦による戦費が膨大になるにつれ、米独は「不況及び社会停滞」に見舞われる。それでもドイツは欧州連合から非ナチス化プログラムの援助を受ける(この時、ドイツの政治の民主化も行われただろうことは想像に難くない)ことによって辛うじて回復したが、米国は半世紀以上の手詰まりが続いた結果、深刻な結果を招く(1960年代になってもアメリカのシベリアへの軍事的な関与は続いており、作中世界でこの時期に大統領になったニクソンは、「兵士たちを帰国させよう」というキャンペーンによって当選したのに、シベリアの軍事的な関与を二倍にしたという意味の記述があることから、シベリアに米軍が駐留していたことはほぼ確かであろう。また、補給路の都合から考えて最低でも満州と日本列島の北部にも米軍が駐留していると思われる。このことは少なく見積もっても20年以上米国が戦時状態もしくはそれに準じる状態にあったことを示していると言えると思われる。20年以上そのような状態が続けば、人権は軽視されやすくなるだろう。もっと悪いこととしては平和を知らない世代が出てくることだろう。少なくとも準戦時状態が人々の精神に良い影響を与えるとは思えない。恐らく米軍基地が存在している日本や中国にしても、米国がこのような状況では史実のような経済成長は難しいだろう。日中を始めとするアジア諸国の停滞により、欧州が史実以上に繁栄しているということかもしれない。またシベリアに米軍が介入していること、恒常的に占領下に置くとも思われないことから、米国の影響が強い政権があるだろうと思われる。蛇足ではあるが、その政府に対する反政府運動も盛んなのではないかと私は感じた)。
     具体的には「西側世界でもっとも新しく、おそらくはもっとも優れた民主主義を実現しようしていた」アメリカ合衆国は、「まずい軍事上の決定と、腐敗した文民政府と、戦前の孤立主義を顔面なからしむ政治的な自閉のせい」で、「不安定な独裁主義共和国」となり、「実質的な、資本家に雇われた軍人と極右武装組織に支配され、一体感のない社会と重武装した住民」に蝕まれることになる。国内では、「疑り深い官僚主義と、わずらわしい貨幣取引、機能しないテクノロジー」、「のさばる孤立主義的メンタリティ、露骨に検閲されているメディア、犯罪者が支配する都市、燃料不足、高騰する物価」に悩まされている。何よりも「あたらしい町や郡に到着するたび警察あるいはFBIに登録しなければならない」こと(史実現代のロシアでは外国人旅行者は土日祝を含まない7営業日以内に滞在登録をしなければならないこと思い出させる)と外貨制限(アメリカドルがハードカレンシーの地位から転落しているらしいことを窺わせている)、米国を出入国する際の税関と出入管での長い遅延が相当煩わしくなってきていること、「ヨーロッパの携帯電話は、自由化が実現されないあいだは、まだ米国では使えな」いという記述(情報統制が行われており、さらにインターネットや携帯電話の利用にも何らかの制限があるらしいことが推測される)からは、米国社会が閉鎖的で、明らかに住みにくいものになっていることが容易に想像できる。
     ほかに触れるべきこととしては史実世界と「双生児世界」とでも言うべき作中世界の話が交互に書かれているため、本を読みなれた人でも最初はかなり読みにくいという点と、ユダヤ人国家がパレスチナではなく、マダガスカルにマサダ共和国として建国され、先住のマダガスカル人が島内の特別居留区に閉じ込められており、島内では戦闘やテロ(レジスタンスと言った方が適切かもしれない。なおマダガスカル人には作中の年代で2000年に自治権を与えられることになっているようである)が起こっているということ、史実世界の部分は飛ばして、「双生児世界」の部分を読むだけでもかなり面白い話であるということ(本を読みなれい人はそうした方がいいと思う)である。

  • ベルリンオリンピックのボート競技で銅メダルを獲得した双子.主にその後第二次大戦が勃発.片方は爆撃機のパイロットになりもう片方は兵役拒否者となる.後者の日記で物語が進行する部分が多いが,その中で平和会議が物憂されルドルフ・ヘスとチャーチルの間で和平合意がなされ大戦は終結する.簡単に言えばパラレルワールド者だが.読んでいてどこまでが現実かわからず.プリースト独特の不安感に浸ることができる.

  • 500 ページ弱を一気読みさせる面白さだが、
    好みは「奇術師」のほうかな。
    大森望さんによる巻末解説は、
    本作を理解する上で大いに助けとなるし、
    作品の完成度に驚くのは確かである。

    2002 年 英国SF協会賞受賞作品。
    2003 年 アーサー・C・クラーク賞受賞作品。

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