虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 810
レビュー : 162
  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152088314

作品紹介・あらすじ

9・11以降、激化の一途をたどる"テロとの戦い"は、サラエボが手製の核爆弾によって消滅した日を境に転機を迎えた。先進資本主義諸国は個人情報認証による厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃するが、いっぽう後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加していた。その背後でつねに囁かれる謎の米国人ジョン・ポールの存在。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、チェコ、インド、アフリカの地に、その影を追うが…。はたしてジョン・ポールの目的とは?そして大量殺戮を引き起こす"虐殺の器官"とは?-小松左京賞最終候補の近未来軍事諜報SF。

感想・レビュー・書評

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  • あまりにも衝撃的なラストだった。

    母を殺したという罪悪感にさいなまれながら軍人としての職を全うしてきた主人公クラヴィス・シェパード。
    虐殺の文法なるものを発見した言語学者ジョン・ポールやその愛人ルツィア・シュクロウプとの出会いによって、自分の罪を自覚し、ついには英語の中に虐殺器官を目覚めさせる決断をした。

    多くの社会問題の根源となる、人間の心理というものへの視線を感じた。
    自分が見たいものだけを見る人間(人工筋肉はイルカや鯨から作られる)、良心や暴力の所在(良心も暴力も、進化の過程で適応したために存在している)、意識/無意識の境界の曖昧さ(クラヴィスの母は脳の様々な部分が壊れていた)、刺激の受容と知覚の違い(痛覚マスキングにより、痛みが「わかって」もそれを「感じる」ことはできない)などなど。

    物語の要となる言語への視点も非常に興味深い。
    クラヴィスは言語の見方が独特(その設定は序盤だけに見られ、最後まで活かきれていなかった感はあるが)だし、ジョンも言語への造詣が深く、ルツィアもバーにいたルーシャスも見識がある。
    言語による一対多のコミュニケーション、言語と思考の「卵が先か、鶏が先か」じみた関係、(フィクションだろうが)言語の中に眠る虐殺の文法……。
    読んでいると言語学をやってみたくなる。

    また、オーウェルの『動物農場』『一九八四年』への言及があった。
    読んでおいてよかった~~。
    他にもカフカなど、いろいろなところから引用があって、よくわからない人名、作品名があったので、その辺もわかってから読んだらもっと面白かったかも。

    計劃が自身の思想を語るために物語を作ったような節が見えるので、かなり説明口調で話が進む。
    苦手な人は苦手だろうが、その内容が非常に人間心理やら社会やらを見直す?ヒントになるので、私もそういうのは苦手なタイプだが、面白く読めた。
    その割には話も面白いし。

    もう一度読みたい本のひとつになった。

    p.s.
    外部サイトで見つけた某さんの考察が秀逸だった。そういうことね……

  • 文章が端整で、頭の中に自然に場景が湧いてくるのがとても好ましく感じた。作者の他のを読みたい

  • 一気に読んでしまいました。「虐殺は人類の本能なのか?」と言うテーマは、後に出た高野和明「ジェノサイド」と共通していますが、結論は全く逆。読み比べるといろいろと興味深いです。かなりミリタリー要素が強い内容なので、慣れないと読むのが辛いかも知れません。しかしそれでもなお、この読ませる力は凄いです。「ハーモニー」が早く読みたい。

  • 一気呵成に書き上げられた、新しい時代のデビュー作として申し分なく堪能できた。間違いなく労作。
    ただし、そういった作品についありがちな、使い古された「文学的」な比喩の挿入は少々大げさで鼻についたのが玉にキズ。でもそれを差し引けば、無駄でだらだらした描写は少なく、要領よく構成されて読みやすいのは、読者、それも海外で翻訳されることをも意識されているのか、そんな印象さえ受ける。

    端折った感もある。
    やや詰め込みすぎかと思えるくらい、21世紀の幕を開けた人類文明が直面している倫理と科学の問題を展開させている。

    それにしても、SFは滅多に読まないので詳しくないが、こういう内容が、これまでの日本SFでは書かれなかったのって本当だろうか?それが正直な驚き。
    読んでみて、たしかに着想がいいし、そうやすやすと真似できない創作エネルギーに感心するのだけど、本作をもって21世紀日本SFの代表作、とまで世間に持ち上げられるのは言い過ぎだと思う。

    むしろ、新しい日本文学、いや世界文学の夜明けを告げる、若いエネルギーに満ちた、記念碑的作品ではないだろうか。

    なにせ、心理描写・比喩・構成など、伝統的な文学としての面で見れば、もっと完成度の高い名作は、他に山のようにごろごろあるのだし。

    ・・・と、つい偉そうに拙い筆を走らせてしまうのは、あまりに本作が注目されすぎ、著者の夭折も相まって(?)、なにやら揺ぎ無い古典のように祭り上げられてる印象が否めないから。でも、話題になっていろんな議論を生じさせるぐらいがちょうどいいのかもしれない。

    あと個人的には、本編最後から二つ目のパラグラフにおける主人公の「幻想」が気に入っている。「大げさな幻想」は、ここの文脈に一番ふさわしいと思った。(2013/11/9、編集)

  • 愛する者を守るため
    これを知った時愕然としました

    幾度となく繰り返される「人は見たいものしか見ない」
    そうです、私も。そして世間一般ではとても評価のされる行為、感動映画ではお決まりの題材「愛するものを守るため」
    何から守られているの
    でも私達はぼーっとしている限り、見たいものしか見れない

  • ▼第一部の時点で、傑作だというのは確定的に明らか。やばい。超ドキドキする。血が沸騰する。何これ!
    ▼読了。…………血が沸騰すると思って読み出したのに、最後で血が凍りついた。第三部くらいから、「あ、命と愛の話なのかしら」と思い込んじゃったのが痛恨のミスだった。セカイ系だと思ってたものがその……決断主義だったみたいな。第五部以降、たった50ページ程度のひっくり返しっぷりにびびった。寒気が止まらない。
    ▼「人が自由だというのは、みずから選んで自由を捨てることができるからなの」。イメージに残って序盤、しるしをつけて読んでたんだけど、最後のアレを読んでから思い返すと……うそ寒い。
    ▼こんな『覚悟』を、果たして人はすべきなんだろうか。主人公は、母親を殺すか殺さないかの二択を選んだ時とまったく同じことをしていないだろうか。つまり、思考停止。二択を受け入れた時点で、他の選択肢を消去していたことは考えられないだろうか。もっと別の方法はなかったのだろうか……いや、物語そのものよりも、この作家が何を言いたくてこの話を書いたのか、っていうことが、まずもって問題かもしれない。
    ▼この人は強く『覚悟しろ』と言っている。でも私は、それでいいのですか、と問う。この選択をして罪を被るくらいなら、私は何もしないことを選びたい。引用した台詞にならうのなら、責任だって、背負わない自由がある。『覚悟しない』自由や、虐殺の器官を捨てる自由が。でも『覚悟しない』を選ぶことで、捨てる自由ってなんだろう。そんなことを考えた。
    ▼きっといつか、誰かが収まる棺の中にこの本も一緒に入るだろうと思う。それくらい、影響力のある小説。(09/4/2読了)

  • サピア・ウォーフ仮説やらチョムスキーやら見たことのある単語が並ぶSF?
    発想は面白いが、ちょい冗長に思えるような。
    ピザが食べたくなる。

  • この題材と設定で、この読みやすさと説得力。なるほどすごい。そこはあくまでも現実と地続きの世界で、各国の描写やラストの淡々とした絶望にやるせなさを感じる。人は見たいものしか見ない。ほんとにね。著者の新作が読めないことがとても残念。

  • 24:タイトルと表紙絵は通勤向けではないけれど、それらから連想されるようなスプラッタな内容ではなく(いや、ある意味そうかも)、言葉と意識、自我、意思、そういった関わりを描いた大作でした。残酷表現も多々含まれてはいますが、苦手意識を持つどころかガツガツ読めてしまいます。本屋に平積みされていた頃、興味を抱きながらもスルーしてしまったのが悔やまれます。むちゃくちゃ好み! 文庫版を購入予定。

  • これを只のライトノベルとか、単なる近未来SF小説というのは過小評価ではないか?
    かなり知的・思索的読み物となっている。
    アニメ映画では分かり難かったことが、原作ではよく分かる
    人間は言葉を操り、1対多のコミ二ケーションをはかれるようになった。
    言語は思考を規定するのか?しないのか?

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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