虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 811
レビュー : 162
  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152088314

作品紹介・あらすじ

9・11以降、激化の一途をたどる"テロとの戦い"は、サラエボが手製の核爆弾によって消滅した日を境に転機を迎えた。先進資本主義諸国は個人情報認証による厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃するが、いっぽう後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加していた。その背後でつねに囁かれる謎の米国人ジョン・ポールの存在。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、チェコ、インド、アフリカの地に、その影を追うが…。はたしてジョン・ポールの目的とは?そして大量殺戮を引き起こす"虐殺の器官"とは?-小松左京賞最終候補の近未来軍事諜報SF。

感想・レビュー・書評

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  • あまりにも衝撃的なラストだった。

    母を殺したという罪悪感にさいなまれながら軍人としての職を全うしてきた主人公クラヴィス・シェパード。
    虐殺の文法なるものを発見した言語学者ジョン・ポールやその愛人ルツィア・シュクロウプとの出会いによって、自分の罪を自覚し、ついには英語の中に虐殺器官を目覚めさせる決断をした。

    多くの社会問題の根源となる、人間の心理というものへの視線を感じた。
    自分が見たいものだけを見る人間(人工筋肉はイルカや鯨から作られる)、良心や暴力の所在(良心も暴力も、進化の過程で適応したために存在している)、意識/無意識の境界の曖昧さ(クラヴィスの母は脳の様々な部分が壊れていた)、刺激の受容と知覚の違い(痛覚マスキングにより、痛みが「わかって」もそれを「感じる」ことはできない)などなど。

    物語の要となる言語への視点も非常に興味深い。
    クラヴィスは言語の見方が独特(その設定は序盤だけに見られ、最後まで活かきれていなかった感はあるが)だし、ジョンも言語への造詣が深く、ルツィアもバーにいたルーシャスも見識がある。
    言語による一対多のコミュニケーション、言語と思考の「卵が先か、鶏が先か」じみた関係、(フィクションだろうが)言語の中に眠る虐殺の文法……。
    読んでいると言語学をやってみたくなる。

    また、オーウェルの『動物農場』『一九八四年』への言及があった。
    読んでおいてよかった~~。
    他にもカフカなど、いろいろなところから引用があって、よくわからない人名、作品名があったので、その辺もわかってから読んだらもっと面白かったかも。

    計劃が自身の思想を語るために物語を作ったような節が見えるので、かなり説明口調で話が進む。
    苦手な人は苦手だろうが、その内容が非常に人間心理やら社会やらを見直す?ヒントになるので、私もそういうのは苦手なタイプだが、面白く読めた。
    その割には話も面白いし。

    もう一度読みたい本のひとつになった。

    p.s.
    外部サイトで見つけた某さんの考察が秀逸だった。そういうことね……

  • この題材と設定で、この読みやすさと説得力。なるほどすごい。そこはあくまでも現実と地続きの世界で、各国の描写やラストの淡々とした絶望にやるせなさを感じる。人は見たいものしか見ない。ほんとにね。著者の新作が読めないことがとても残念。

  • 24:タイトルと表紙絵は通勤向けではないけれど、それらから連想されるようなスプラッタな内容ではなく(いや、ある意味そうかも)、言葉と意識、自我、意思、そういった関わりを描いた大作でした。残酷表現も多々含まれてはいますが、苦手意識を持つどころかガツガツ読めてしまいます。本屋に平積みされていた頃、興味を抱きながらもスルーしてしまったのが悔やまれます。むちゃくちゃ好み! 文庫版を購入予定。

  • これを只のライトノベルとか、単なる近未来SF小説というのは過小評価ではないか?
    かなり知的・思索的読み物となっている。
    アニメ映画では分かり難かったことが、原作ではよく分かる
    人間は言葉を操り、1対多のコミ二ケーションをはかれるようになった。
    言語は思考を規定するのか?しないのか?

  • 近未来の世界を描いてはいるが、現代の抱える諸問題や社会の構図、技術のトレンドを土台に緻密に構築された描写によって、リアリティとSF的な非現実が同居した独特の雰囲気を持っている。語り口にややくどさを感じる場面もあるが、非現実の舞台設定と事件の構図が徐々にリンクして1つの結末に収斂して行く構図は見事なもので、読み応えがある。読み終えてようやく、著者が敢えてこの舞台設定を選んだ理由が見えて来た。これもまた読み終えてから知ったことだが、著者は本書執筆時点で既に癌に冒されており、その後34歳の若さで夭逝したそうだ。次回作が読めないのが残念である。

  • 暗殺や虐殺などの死にまつわる陰惨な事柄を扱っているが、主人公の内面を探る思索がそれを感じさせない。また、SFの世界観を紡ぐ言葉が丁寧に選ばれているので、仮想の世界がリアルに思い描ける。
    自分の行為に対する許しが欲しい。というのはひとえに安心が得たいという事だろうか?物語の中核を通る文脈はこれに尽きると思う。
    虐殺器官→目や心臓の様に人間に元から備わっているものとしてジョン・ポールがみつけた。それを追うシェパード大尉。ルツィアとの関係。最後まで終わりが見えないミステリー。

    「僕は記録が欲しくてたまらなかった。自分の想像に根拠が欲しかったからじゃない。自分が想像すら出来ていない事を認めるのが怖かったからだ。」「見つめられる事の安堵は、息苦しさの表側に過ぎない。」

  • 銀座シックスの蔦屋書店で特集されていて気になって読みました。今年上半期のナンバー1です。
    10年前に書かれたと知り、クオリティにびっくり。作者がこの2年後に夭折していたことに更にびっくり。生きていれば、大作家になっていたのでは。

  • 映画を観た後に再読しようと思っていたので、手に取った。原作のラストが好きだったから、映画もそのままでやって欲しかった。

  • 上映前に読んでおこうと思ってやっと。

    読み終わり沈痛な面持ちのワイ。
    いや、面白かったです。

    「虐殺器官」のぼんやりとした設定が明かされて、主人公たち軍人が作戦前に施される感情調整および痛覚マスキングの詳細な説明を聞いてるうちに「あれ…?これは…」て思った。思うよね。思うよ。

    だからその先があるんだと思ったのよ。
    ジョン・ポールが虐殺の文法を用いて大量虐殺を生産し続ける理由にものすごく期待するじゃない?


    そこいらのカタルシスがちょっと期待外れというか、もっとこう、あらゆるピースがハマっておおお!みたいな快感があるかなぁと思ったんだけども…インドの悪夢みたいなドンパチがクライマックスになってしまった印象。
    あの辺りの描写はとても惹き込まれる。

    というか、ジョン・ポールさんが心中を語らんでも、主人公が母ちゃんの愛を確認できなくとも、物語として語られるべきことは語られているはずなんだけど、あえてその理由を理由として語ろうとしている部分が蛇足に感じられてしまうのがとてももったいない。
    物語の核になる部分が作者の意図していない部分に発現してる感じ。狙ったとこじゃないとこに顔を出してるというか。
    それの最たるものがルツィアさんかなぁ…キーマンなはずなのに、大事なところで(この人邪魔だわぁ)ってなる。


    近未来テクノロジーの描写は10年前とは思えなくて、ああ確かにこんな感じになっていくんだろうなぁと思ったし、軍事関係の諸々のテクノロジーは攻殻感あって正直ちょっとワクワクしちゃうし、それはそうと9.11後そう間もない時期にこういうお話を作れるのはすごいことだなぁと思う。

    あと結構大事なことなので2回言いました的に同じ表現、同じ文章がよく出てくるけど、これはとても映像的でなかなか好きです。強度が増して、印象が深まる。
    コメディの基本は繰り返しだ、ってのも2回言ってて、それ自体はその通りだけど、この話の内容を鑑みると色々考えちゃって、それはそれでなかなか面白い。

  • 近未来、テロを先導する謎の男を追う米軍特殊部隊と言うメインプロットは面白い。10年近く前に書かれた作品ながらディテールまで描きこまれた様々な近未来のガジェットも良く出来ている。
    しかし、話が長くて退屈。このプロットをテンポよく進めば面白かっただろうが、ここに特殊部隊ということで生殺与奪を繰り返す主人公の死生観が長々と、それも何か所でも出てきてこの思索描写が冗長。
    特に母親との絡みが繰り返され、挙句”罰してほしい”という心理変化など全く表層的な描写で退屈。

    ガジェットが詳しいのも同様で、筋肉組織を使ったポッドなど面白いのだけど、その”筋肉”の説明が延々とあったり…。
    近未来の世界観が確立しているのは十分わかるから、不要な説明は省いた方がずっと面白くなったと思う。
    この2/3程度の長さで十分。しっかりとした編者がいれば「機龍警察」レベルの傑作になったろうに、残念!
    作者は映画が好きなようで、様々な作品・俳優が会話に登場するがすべて現在の実際の作品。
    (ただし、カラス神父が落ちるのは「オーメン」ではなく「エクソシスト」)
    この作品自体をしっかりとした脚本で映画化したら面白くなるだろうけど。主演はジョエル・キーナマン辺りがいいかな?

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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