虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 811
レビュー : 162
  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152088314

感想・レビュー・書評

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  • あまりにも衝撃的なラストだった。

    母を殺したという罪悪感にさいなまれながら軍人としての職を全うしてきた主人公クラヴィス・シェパード。
    虐殺の文法なるものを発見した言語学者ジョン・ポールやその愛人ルツィア・シュクロウプとの出会いによって、自分の罪を自覚し、ついには英語の中に虐殺器官を目覚めさせる決断をした。

    多くの社会問題の根源となる、人間の心理というものへの視線を感じた。
    自分が見たいものだけを見る人間(人工筋肉はイルカや鯨から作られる)、良心や暴力の所在(良心も暴力も、進化の過程で適応したために存在している)、意識/無意識の境界の曖昧さ(クラヴィスの母は脳の様々な部分が壊れていた)、刺激の受容と知覚の違い(痛覚マスキングにより、痛みが「わかって」もそれを「感じる」ことはできない)などなど。

    物語の要となる言語への視点も非常に興味深い。
    クラヴィスは言語の見方が独特(その設定は序盤だけに見られ、最後まで活かきれていなかった感はあるが)だし、ジョンも言語への造詣が深く、ルツィアもバーにいたルーシャスも見識がある。
    言語による一対多のコミュニケーション、言語と思考の「卵が先か、鶏が先か」じみた関係、(フィクションだろうが)言語の中に眠る虐殺の文法……。
    読んでいると言語学をやってみたくなる。

    また、オーウェルの『動物農場』『一九八四年』への言及があった。
    読んでおいてよかった~~。
    他にもカフカなど、いろいろなところから引用があって、よくわからない人名、作品名があったので、その辺もわかってから読んだらもっと面白かったかも。

    計劃が自身の思想を語るために物語を作ったような節が見えるので、かなり説明口調で話が進む。
    苦手な人は苦手だろうが、その内容が非常に人間心理やら社会やらを見直す?ヒントになるので、私もそういうのは苦手なタイプだが、面白く読めた。
    その割には話も面白いし。

    もう一度読みたい本のひとつになった。

    p.s.
    外部サイトで見つけた某さんの考察が秀逸だった。そういうことね……

  • 愛する者を守るため
    これを知った時愕然としました

    幾度となく繰り返される「人は見たいものしか見ない」
    そうです、私も。そして世間一般ではとても評価のされる行為、感動映画ではお決まりの題材「愛するものを守るため」
    何から守られているの
    でも私達はぼーっとしている限り、見たいものしか見れない

  • ▼第一部の時点で、傑作だというのは確定的に明らか。やばい。超ドキドキする。血が沸騰する。何これ!
    ▼読了。…………血が沸騰すると思って読み出したのに、最後で血が凍りついた。第三部くらいから、「あ、命と愛の話なのかしら」と思い込んじゃったのが痛恨のミスだった。セカイ系だと思ってたものがその……決断主義だったみたいな。第五部以降、たった50ページ程度のひっくり返しっぷりにびびった。寒気が止まらない。
    ▼「人が自由だというのは、みずから選んで自由を捨てることができるからなの」。イメージに残って序盤、しるしをつけて読んでたんだけど、最後のアレを読んでから思い返すと……うそ寒い。
    ▼こんな『覚悟』を、果たして人はすべきなんだろうか。主人公は、母親を殺すか殺さないかの二択を選んだ時とまったく同じことをしていないだろうか。つまり、思考停止。二択を受け入れた時点で、他の選択肢を消去していたことは考えられないだろうか。もっと別の方法はなかったのだろうか……いや、物語そのものよりも、この作家が何を言いたくてこの話を書いたのか、っていうことが、まずもって問題かもしれない。
    ▼この人は強く『覚悟しろ』と言っている。でも私は、それでいいのですか、と問う。この選択をして罪を被るくらいなら、私は何もしないことを選びたい。引用した台詞にならうのなら、責任だって、背負わない自由がある。『覚悟しない』自由や、虐殺の器官を捨てる自由が。でも『覚悟しない』を選ぶことで、捨てる自由ってなんだろう。そんなことを考えた。
    ▼きっといつか、誰かが収まる棺の中にこの本も一緒に入るだろうと思う。それくらい、影響力のある小説。(09/4/2読了)

  • これを只のライトノベルとか、単なる近未来SF小説というのは過小評価ではないか?
    かなり知的・思索的読み物となっている。
    アニメ映画では分かり難かったことが、原作ではよく分かる
    人間は言葉を操り、1対多のコミ二ケーションをはかれるようになった。
    言語は思考を規定するのか?しないのか?

  • 銀座シックスの蔦屋書店で特集されていて気になって読みました。今年上半期のナンバー1です。
    10年前に書かれたと知り、クオリティにびっくり。作者がこの2年後に夭折していたことに更にびっくり。生きていれば、大作家になっていたのでは。

  • やっと読むことができた早逝の作家『伊藤計劃の虐殺器官』
    1974年東京都生まれ、武蔵野美術大卒
    この作品でデビュー。

    アエラだったか、何かの雑誌の書評欄で、
    有名な売れっ子作家がその文章のうまさに
    仰天したった2年の活動に残念がっていた作家。

    話は9・11以後、
    激化の一途をたどる世界中のテロ行為。
    サラエボにテロ組織の手製核爆弾が落ちたことにより、
    先進国のID管理はますます精密で厳格化する。
    かたや、貧困にあえぐ第三国では内戦状態が激化。

    アメリカでは特殊部隊が国が指定する悪玉を
    密かに抹殺する部隊がますます活躍する。
    ある時、同胞である一人のアメリカ人の殺害が依頼される。

    秩序が失われ、いつ内戦が激化し、その火の粉が
    先進国にも飛び火するのではないかという地域が
    その男が入国ししばらくすると必ず内戦が起こり
    血を血で洗う凄惨な状況に陥るというのだ。
    そこにその男の意図がある確かな証拠が。

    交通事故で脳死の母親の生命維持装置を切るという
    決断をした兵士が、その内面に悩みながら
    淡々と死を与えてゆく様は、近未来の脳活動をも
    科学的操作で、コントロールする国家と
    戦争という悲惨な現実に陥ることを選択する側の
    論理と向き合う。

    細かく散りばめられたエピソードや小道具も
    読む者を飽きさせない臨場感溢れる作品だった。
    映画のジャンルで「戦争もの」はあまり好まない私だが
    そんな私でも息をもつかせぬ内容があった。
    戦争、起こす側の論理、
    それを求めてしまう国民の論理
    何が始めさせてしまうか、
    なぜ止められないのか、
    そんな真理も描かれる。

    現実世界にもあまりに近いそんな作品は
    楽しめる方が多いように感じた。

  • 軍事諜報行動と、母親の人工的延命の中止の葛藤。
    命について、選択することについて、作者の考え方が随所に伺え、感情的ではない静謐さを感じさせる文章に、深く考えさせられた。
    http://blogs.yahoo.co.jp/rrqnn187/13412390.html

  • 語句が難しいし、少し想像力が必要かもしれない(私は場面を思い浮かべながら理解するので少し難しく感じた)、軍事?SFで、登場人物のやり取りが面白かったし、主人公の葛藤が面白かった。

  • デビュー作でこのクオリティとスケールはすごいね。同じ年とは思えない。心から敬服する。
    一ページ目から血の匂いや、脂肪や髪の毛の燃える臭いがして嫌悪感を覚えたけど、あまり気にならなくなった。毒されたのだろうか。
    互いに虐殺させる理由は納得できるものではないけど、時代によっては仕方ないのかもしれない、人間の器官として組み込まれてるのかもしれないと思ってしまった。けど、人間の命ってそんなに軽いもんじゃないよね。世界中でそんな現象起こるはずない。人間の良識を信じる。

  • 淡々とした主人公の視点で物語は進む。
    まるで戦争物の洋画を見ているような感覚。
    近未来SFなのに、まったくソレを感じなかった。

    翻訳作品のような文体で、クドイと感じたり
    重くて、暗くて辛いと感じる人は少なくないと思う。
    クセがある作品だと思ので
    気軽に手にとって楽しむような軽いノリでは、ツライかもしれない。

    が、ほんとに素晴らしい作品なのは確かなので読んでほしい。

著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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