格差はつくられた: 保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152089311

作品紹介・あらすじ

少数派の代弁者にすぎない共和党が、平等な中流社会を壊して格差社会を築き上げた驚くべき方法とは?世界が注目する経済学者が急遽打ち出したアメリカの病根への処方箋。

感想・レビュー・書評

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  • 最初に述べておくが、著者のポール・クルーグマンは、ニューヨーク・タイムズにコラムを書くエコノミストであり、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者である。
    が、本書『格差はつくられた』では、ほとんどデータは出て来ない。
    時折、データを表しても、その出典を示さないという学者とは思えない執筆振りである。
    が、読むに絶えない本であるかと言えば、そうではない。
    僕が、この本を手に取った理由は、T・バトラー=ボードンの『世界の経済学50の名著』に紹介されており、面白そうだったからである。

    本書の主張の核心は、共和党を動かす「保守派ムーブメント」が、アメリカの格差を作り出したというものだ。
    「保守派ムーブメント」とは、恐らく新自由主義を信奉する人々と同義であろう。
    インドのノーベル経済学賞受賞者であるアマルティア・センが、貧困(飢饉)が政策によるものと明らかにしたように、また、『国家はなぜ衰退するのか』でダロン・アセモグルとジェイムズ・A・ロビンソンが、国家が繁栄するには、豊かな国と貧しい国を分けるものは、経済体制であり政治体制であるとしたように、格差が政治によって作られたものであるという主張は、突飛な主張ではなく、肯ける論である。

    また、コリン・クラウチの『ポスト・デモクラシー―格差拡大の政策を生む政治構造』を読んだりした結果、世界は新たな段階に入っているのではないかという強い思いを抱いた。
    経済も政治(民主主義)も、第2次世界大戦後辺りが最高潮であり、コリン・クラウチが言うように、我々は一見自由を謳歌しているようだが、支配者層を仰ぎ見ると、王侯貴族らが支配していた時代とあまり変わらない時代を生きているのではなかろうかと。
    本書によると、アメリカでも、親の所得階層が高いほど、大学卒業率が高いデータが示されている。
    階層の流動性が低くなっているのである。

    昨年の日経エコノミストが選ぶ 経済図書ベスト3のジョセフ・E. スティグリッツの『スティグリッツ PROGRESSIVE CAPITALISM(プログレッシブ キャピタリズム): 利益はみんなのために』も、中流階層をもう一度再生させようとしているが、この『格差はつくられた』も、戦後アメリカの中産階級社会を理想郷と見ている。
    確かに、国が繁栄し、活気があったのは、中流階級が主流であった時代であり、民主主義を正しく機能させ、国民の幸福度、生活への満足度が高いのは、経済格差の少ない社会であろう。
    が、国民全体がだれでも知るような出来事などや楽曲の同時体験が、殆ど無くなっており、この先、格差が狭まっても、以前のような全体が一体感を持つような社会が到来するのではなく、そこそこで一体感を保持するような多元社会のような未来が到来するであろうと考えている。

    ポール・クルーグマンは、共和党が右にシフトしたと述べるが、今言われていることは、民主党を始め、世界のリベラル派がエリート主義になっている事であろう。
    今のアメリカの民主党、共和党、報道されているアメリカ社会や本書を読むと、アメリカの分極は激しいものを感じる。

    ポール・クルーグマンによると、共和党がニューディール政策を受け入れたことへの反発から、「ニューコンサーバティズム」という小規模の運動が起こり、それが強力な政治勢力に成長すると、「保守派ムーブメント」と呼ばれるようになった。
    この「保守派ムーブメント」が、メディア、シンクタンクなどを巻き込み、その資金を大富豪や大企業が出資し、その資金力を背景に、政治家らを次々当選させ、いつの間にか、共和党を牛耳ったという。

    また、ポール・クルーグマンは、全ての根源は、アメリカの人種差別問題にあるという。
    福祉の受け手が黒人である事への反発を共和党の新自由主義的政策の実現に上手く利用したのだという。
    この本には、日本人の僕には輝かしい歴史に思う公民権運動に対する白人の反発も強いという。
    この本を読むまで、政治という公的な領域において、人種差別問題が大きな影響を与えているとは考えていなかったが、公民権運動を経ても、昨今報道される黒人男性が警察官に打たれた事件やその後の運動を見ると、まだまだアメリカにおいて人種差別問題は大きな問題なのであろう。

    しかし、ポール・クルーグマンによると、この状況も変わりつつあるという。
    1つは、白人の比率が減少していることと、X世代の先進性が良く取り上げられるが、アメリカ国民の意識調査の結果が変わりつつあるという。
    また、ビジネス界の「保守派ムーブメント」支持者らは、安い労働力に繋がるため、移民流入には賛成であるが、共和党支持の有権者は、移民の流入に反対という、「保守派ムーブメント」内に亀裂が生じているという。

    格差は、1980年代の半ば辺りから広がり始めたという。
    そして、現在まで、富裕層の所得税率や法人税は下げられ続けた。

    ポール・クルーグマンは、労働組合の役割に期待するが、アメリカ人の特質に詳しい訳ではないが、日本を見ると、労働組合の組織率の低下は、もはやもう戻れない不可逆な出来事のように思う。
    J.K. ガルブレイスの言うように、労働者が豊かな時代を実現できたのは、労働組合と経営者層との互いに拮抗する力によって成り立っていたのではあるが。
    経営者層の所得がグンと伸び、労働者の賃金が伸びないのも、突き詰めれば労働組合の力が弱まったせいである。
    日本の場合、労働組合が非正規の問題を取り上げたのは遅すぎたし、本気度も疑問だ。
    また、80年代に入るまでは、社会が労働運動に価値を置いていたが、いつの間にか価値を認めなくなってしまったのだ。
    官製春闘など、本来、左派政権がすべき事だが、そこまで、労働組合の力は弱まったという事であろう。

    ポール・クルーグマンの示す格差への処方箋は、貧弱で具体性に欠ける。
    曰く、富裕層への増税、多国籍企業の税金逃れへの規制、キャプタル・ゲインへの課税、労働組合の再活性化である。

    「保守派ムーブメント」がどのように支持を広げて行ったかは、本書の簡単な説明より、より詳しい要因があっただろうが、確かに、そのようなムーブメントはあったと思う。
    最終章で、ポール・クルーグマンは、現在、「進歩派ムーブメント」が胎動し始めていると述べる。
    この本が原著で完成したのは、2007年の夏である。
    その後、オバマ大統領が誕生している。
    「保守派ムーブメント」、新自由主義的思考の影響は大変大きなもので、その影響は、共和党だけでなく、民主党政権下でも影響を与えたと僕は考える。

    トランプ政権をどう位置づけるかは難しいが、バイデン大統領の掲げる「大きな政府」にどの程度、その「進歩派ムーブメント」が影響を与えているのかは未知数であるが、社会民主主義を掲げるバーニー・サンダース上院議員や彼らを支持する人達の民主党内での影響力も小さくないという。
    僕なんか、アメリカ政治で社会民主主義が脚光を浴びているという事自体、一つの事件のように思う。

    新自由主義の影響力も大分減ってきていると思う。
    バイデン大統領以降、「進歩派ムーブメント」が大きな影響力を行使していくか、その動向を注視したいと思う。

    最後に、本書を購入すべきかどうかの観点であるが、新自由主義の歴史、格差の観点からアメリカの現代史を知りたい方が、ちょっと読んでみるにはいいのではないかと思います。
    難しい事が書いている訳でもないし、文章自体、高校生以上なら誰でも読めるのではないかと思います。

  •  アメリカに国民皆保険の存続がいかに厳しいかが分かる。保障や格差是正を大事にする民主党。所得税の税率を安く、格差が広がり続けることに無関心な共和党。それぞれの党の歴史を紐解いていくと、今のアメリカのことに納得できる。
     オバマケアは税金が保障へと使われ、富裕層にとって都合が悪い。国による保険が手薄なアメリカによって、必要なもののはずなのに、富裕層の支持者が多い共和党は、オバマケアに消極的だ。そんな姿勢が、アメリカの格差を広げていくのだろう。

  • 民主党・支持者としての立場を明確にし、フランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策支持と共和党レーガン大統領誕生からの社会的格差の広がり(取り分け法人税減税、対ソ冷戦への危機感の醸成による社会不安の転嫁、社会保障費増大への危機感の煽り)について解説された本です。オバマケア→トランプ大統領の誕生→民主党・売電大統領の誕生→?(トランプ大統領復活)の予言に繋がるのか。。。

  • 2008年、オバマ政権の誕生前に書かれた、クルーグマンのアメリカの格差についての話。

    健康保険、富の集中、移民問題など、現在もだいたい残っている(たいていはより悪くなっている)アメリカの諸問題についてわかりやすく持論を述べている。
    エッセイ集でなくて、1つの切り口でまとまってるので、よりわかりやすいと思う

  • ちょっと難しかったな

  • アメリカ経済の歴史に興味があるならおすすめ。それ以外は無意味。

  • ・ニューディール政策以前の金ぴか時代(1920年代)と2005年のアメリカの所得のばらつき具合はほぼ一緒≒どちらも格差社会
    ・貧しい白人に医療を提供するよりも、黒人を白人の病院に入れたくない
    ・60年代に起こったことは、共和党が60年代の新しい文化に対し国民が抱いていた敵意や恐怖を利用して、いかに選挙に勝つかを学んだ
    ・白人たちの心の底に潜む黒人に対する負の感情に気が付いたのがロナルド・レーガン
    ・69年のGMと今日のウォルマートの所得配分の違いは「第二次大戦後、格差の広がりを抑制していた制度や規範が消え去り、格差が金ぴか時代に逆戻りしたこと」を示唆
    ・70年代以降、大企業からの資金援助を受けた「保守派ムーブメント」のシンクタンクが増大 → 専門家は大企業のイヌに
    ・2002年の夏にブッシュの支持率は下降傾向へ。国民の関心は企業スキャンダルと経済の不振へ → その後イラク戦争が起こった → 安全保障政策を国の最重要課題へ
    ・2000年、フロリダの共和党州幹事長は「黒人有権者の大量追放」を行った
    ・「保守派ムーブメント」の成功にとって不可欠であった黒人開放運動に対する反発を基礎とする政治は、2つの理由から勢いを失いつつある(白人が減少していること、白人が人種差別的ではなくなってきていること)

  • 『格差はつくられた――保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略』(早川書房 2008)

    原題:The Conscience of a Liberal: Reclaiming America From The Right, 2007
    著者:Paul Krugman
    訳者:三上義一

    【目次】
    第01章 あの時代の追憶
    第02章 長期の金ぴか時代
    第03章 大圧縮の時代
    第04章 福祉国家の政治
    第05章 60年代騒然の中の繁栄
    第06章 「保守派ムーブメント」
    第07章 大格差社会
    第08章 格差拡大の政治力学
    第09章 大量破壊兵器
    第10章 平等で格差のない政治
    第11章 緊急を要する医療保険問題
    第12章 格差社会に立ち向かう
    第13章 リベラル派の良心

  • 3

  • 2008年6月20日初版
    拡大していった不平等と格差が共和党を右へと引き寄せたと考えられる。→因果関係が逆なのでは?

    2002年中間選挙 2004年大統領選挙→ブッシュの勝利にテロ事件、イラク戦争が有利に働く。

    ニューディール政策以前 21世紀初頭 富と権力の配分において非常に大きな格差社会

    経済歴史家 1920年代から50年代 所得格差の圧縮 The Great Compression

    サイモン・クズネッツ 1930年代 GDPの測定法 統計学

    ヨーロッパ 経営者のトップの給与はアメリカより遥かに少ない。

    保守派ムーブメント 投票の不正 2007年8月タッチスクリーンの電子投票機の使用を全面禁止

    保険会社 加入申請者を選別、保険金の支払いを避ける傾向→政府が保険会社として機能する国民皆医療保険制度

    ジョンソン大統領 メディケア制度に署名→就任から9カ月以内
    クリントン大統領→遅れ→政治的勢いを失う。

    トマス・ジェファーソン「小さな土地の所有者こそが国の最も重要な部分を成している」

    ディヴィッド・カード、アラン・クルーガー→最低賃金の上昇が、失業につながった事例はない。→ワシントン州とアイダホ州の境では、ワシントン州の方が雇用が多い。

    すべての問題の根源は、アメリカの人種差別問題にあるということである。…黒人解放運動に対する白人の反発があるからなのだ。

    日本のレーガン大統領のイメージ 減税、小さな政府→いかに言葉巧みに白人の人種差別意識に働きかけてきたかは、あまり知られていない。
    無言のメッセージ わざわざ肌の色についてふれる必要などなかった。
    自分たちが稼いだカネを黒人が食い物にしていると思いこんでいた白人の反発や猜疑心→人気を博すことができた。

    国民皆保険 黒人、ヒスパニック、アジア系を含むことになる。

    マイケル・ムーア監督「シッコ」 アメリカの医療がいかなる状況か知り、愕然とした人も多いはず。

    ☆日本の格差社会化は?
    人種差別はないが,近隣諸国出身者は?国民皆保険への加入状況要勉強

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著者プロフィール

NY市立大学教授。2008年、ノーベル経済学賞受賞。
イェール大学で学士号を、MITで博士号を取得。イェール大学、スタンフォード大学、MITで教鞭をとったのち、プリンストン大学経済学部教授。1982~83年には1年間大統領経済諮問委員会(CEA)のスタッフも務めた。主な研究分野は国際貿易。収穫逓増と不完全競争に焦点を置いた「新しい貿易理論」の創始者の1人である。国際金融、特に通貨危機の問題にも取り組む。1991年、アメリカ経済学会のジョンベイツクラーク賞受賞。日本語への翻訳書多数。

「2019年 『未完の資本主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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