格差はつくられた: 保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152089311

感想・レビュー・書評

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  • この本も現在の二極化の本質を理解するためには非常にためになる本だと思います。内容も理論整然としてわかりやすいですが、読むのには結構頭を使わされる本ですね。

  • ノーベル賞にも輝いた経済学者クルーグマンが
    アメリカ経済でなぜこの30年ほどの間に
    所得の格差が増大したのかを、明らかにしていく。

    原題は The Conscience of Liberal なので、
    直訳すると「リベラルの良心」となろうか。

    私は経済学に関する著者の本はほかに少しだけ読んだけれど
    こういうはっきりとした政治主張は初めて読んだ。

    要するに著者が言いたいことは、
    保守派富裕層が政治家をカネで懐柔し、彼らに有利な
    税制はじめ社会制度を作らせていることがあるのだが、
    それを押し通す原動因とも呼べるものが人種差別である、
    ということである。
    黒人やヒスパニックなどの移民層は低所得者が多く、
    ゆえに所得の再配分を手厚くする政策をとった場合に
    彼らに振り分けられる配分が増えることを、
    人種差別マインドを持つ人々をうまく刺激することで
    行わないようにする、まぁ実際には富豪への税金を減らさせる
    ことを目的としているということである。

    とはいえ、これだけなら他にもこういう本は山ほどありそうだが、
    クルーグマンたるところは、
    「時間軸」(タテ)や「他国の状況」(ヨコ)からしっかりと
    データを集め、いかに今日のアメリカの状況がおかしいかを
    的確に指摘している論の説得力の見事さであろう。

    タテでいえば、アメリカの第二次大戦後は
    格差が「大圧縮」された時代であったという。
    それは、戦争によって賃金上昇が抑えられたことが大きいと指摘する。
    そうすることで、戦後の「中流層が多く、大きく成長する社会」が
    実現したとみている。
    (大恐慌以前は「金ぴか社会」と呼ばれる大格差社会であった)

    日本なんかの左翼思想にありがちな「戦争絶対悪」のような
    筋の通らない感情論は持ち出さない。さすがである。
    戦争が望ましいなどとは全く著者も思っていないけれど、
    戦争によって結果もたらされた格差縮小は適切に評価している。

    また、ヨコでいえば、
    たとえば今日アメリカで(といっても本書が記された2007年は、
    オバマケア以前なので、その時点の話だが)は医療技術の進歩によって
    低所得者ほど医療負担が重くなる(なぜなら民間保険、無保険が多いから)
    事態は、フランスやドイツといった欧州先進国と比較して明らかに
    異常であり、それは決して大きくない財政負担で実現できることを
    明示している(なぜなら、それらの国ではできているからだ)。

    したがって、国民皆保険を導入しないようにしているのは
    「あきれた保守派のやり方」のせいであることがはっきりしてくる。

    ただし、著者は明るい未来を見ている。
    それは、WASPと呼ばれる白人の人口構成比率が下がり、それまで
    マイノリティとされていた人々の発言力が相対的に増していること、
    また白人層でも人種差別意識の薄い人々が増えていること、
    そして保守派のやり口のおかしさが露見してきていること、などを
    理由としている。

    実際に現実には、著者の「予言」するように、オバマ大統領が誕生し、
    オバマケアと呼ばれる皆保険が成立した。

    無茶苦茶な格差信奉者が跋扈し、宗教色が色濃い国家である一方で、
    著者のような「進歩派知識人」の卓見が、社会を公正にする影響力を
    もたらせる国家でもあるところが、アメリカのすごいところだと思う。
    民主主義国家というのは、そういうものすごい綱引きの上に成立している
    ものなんだと思わされる。

    少なくともそういう観点からすれば、日本とアメリカは全然違う。
    そのあたり、日本の経済政策を考える上ではよくかんがみる必要があると思った。

    2012年、オバマは大統領に再選された。
    ただし、相変わらず議会多数派は共和党が握っていたりする。
    来年以降のアメリカの民主主義と経済の進み方が、アメリカ国民も、世界も
    大きく左右しそうだ。

  • 南部州は、今でも他のアメリカとは多くの意味で異なるが、1950年代には全く別の国のようであった。人種隔離政策と差別はあからさまで、黒人の低い社会的地位は法律や公的政策によって明記され、暴力によって押し付けられていた。

    レーガンは共産主義の脅威に対する大衆の被害妄想をくすぐることにも成功している。

    戦後の急成長の最後の数年、規制されていた電話通信の独占企業を除けば、民間企業としてはGMがアメリカ最大の雇用主だった。
    現在はウォルマートが80万人を雇用しアメリカ最大の企業である。

  • 私も政治によって社会の仕組・経済の流れを変えることはかなり困難、という常識に捉われております。
    そのため、著者の主張はちょっとすると陰謀論すれすれのようにも聞こえますが、医療保険の問題など、面白く読めました。
    残念ながら本書は完全な翻訳ではなく、米国独特の風俗や事情などは割愛されているとのこと。
    読み易さを優先したのでしょうが、表層的な情報ではない、米国の事情はやはりこのような単行本で無いと知り得ないので、残念でした。
    そのため☆を一個減らして評価いたします。

  • この本はすごい。原題は "The Conscience of a Liberal (リベラル派の良心)" で、邦題とはずいぶんと違うのだが、日本ではリベラルと言われてもピン! と来ないし、邦題の方が内容を的確に表しているようにも思える。

    アメリカに住まない我々日本人にとって、共和党と民主党のイデオロギーの変移や、社会情勢、経済状況の移り変わりは肌感覚としてなかなか分からないのだが、ここ 100 年ほどの変化をこの一冊で読み取ることができる。

    2008 年にノーベル経済学賞を受賞しているポール・クルーグマン教授が本書で綴る驚きの真実は、経済格差は広がっていることと、それは技術革新やグローバリゼーションがもたらした結果ではないということ。では、経済格差の原因はどこにあるのか? それは人種差別という負の遺産の影響を活かし続けた共和党の戦略にある。すなわち、誤った政策のために "格差はつくられた" と。それが真実かどうかは、本書を読んで確認していただきたい。

    もっとも、ことはアメリカの事情である。ポール・クルーグマン教授は、国民皆保険の導入について,本書で多くのページを割いているのだが、既に国民皆保険が導入されている日本に住む我々にとって、本書から学べることは少ないような気もする。私が本書が綴る歴史から学んだことは、選挙の重要性だ。人種差別時代は選挙権を持たない多くの人たちの問題は解決されることがなかった。その後も根底に燻る人種差別意識をうまく利用し、投票を妨害するなどの戦略をもって、白人富裕層に有利な社会として発展を続けたのが大きな潮流とのことだが、これを投票率の低い日本に当てはめると、投票率の高い一部の人に有利な (そして全体としてはマイナスとなる) 方向に社会が傾倒しているであろうことが想像できる。経済学者ではない私には、ここまでの日本の状況を端的に語ることはできないのだが…。

    閑話休題。

    最後に、ポール・クルーグマン教授の著書は、その肩書きから想像するのとは違って、めちゃめちゃ読みやすいことを伝えておきたい。一般書だからということもあるのだろうが、マルクスだのなんだの…難しい経済学の常識を前提知識としていなことと、平易な文体であることが大きいと思う。もちろん、日本語で読んでいるので翻訳者の方の尽力のお陰でもある。どうやって "格差は作られた" のか? その謎に興味があったら、「経済なんて難しそうだし、まして教授が書いた本なんて…」というアレルギーは無用だ。遠慮なく手に取って、謎に迫っていただきたい。

  • 2010/1/8
     副島さんの本の薄めた野みたいだ​”

  •  リーマンショック前に書かれたものであるが、「経済格差が是正されること」「国民皆保険の実施」などの幾度となく説かれていた。
     日本に当てはめても、経済格差も政策でつくられたもの、グローバル化で安いものが入ってきて、産業構造が変わって、勝ち組と負け組が生じたといった議論もあるが、国民がそれを是正することを望み、政府が是正する政策を実施ししてきたならば、ここまで経済格差が広がらなかったと考える。

  • ポール・クルーグマン
    ノーベル経済学賞受賞
    当月号のクーリエジャポンに寄稿していたので、手に取りました。
    アメリカの経済の歴史が大半だった為、殆どは読み飛ばし、
    一番最後の第12章とあとがきだけで十分です。
    これからの展望で良い

  • ●読書録未記入 ●未読
    ◎「世界金融崩壊七つの罪」p.170でも紹介。原題:「リベラルの良心」

    〜全ての根源は、アメリカの人種差別問題にあるということである。今でも残る奴隷制度の悪しき遺産、それはアメリカの原罪であり、
    それこそが国民に対して保健医療制度を提供していない理由である。先進諸国の大政党の中でアメリカだけが福祉制度を逆行させようと
    しているのは、公民権運動に対する白人の反発があるからなのだ。(帯より(第1章:「あの時代の追憶」より。
    p.246「訳者あとがき」にも同様の記述あり)


    p.54〜55 【南部州の政治家にとっては、貧しい白人に医療を提供するよりも、黒人を白人の病院に入れさせたくないことのほうが
          重要であった。】(1964頃トルーマン大統領の頃。白人と黒人の病院は現在と違い分かれていた)

    p.122 【「ランボー」(映画)のセリフ:「俺は勝つ為に(ベトナムで)戦った。だが、誰かがそれを邪魔したんだ」
       (文民がアメリカ軍の手を縛った為に勝てなかった)
         :「空港で俺に唾を吐いて抗議して、俺を人殺し呼ばわりした嫌な連中」
       (リベラルな人々が兵士に対し無礼である、という俗説に)
       この匕首(あいくち)理論の後に出てきたのが、復讐の空想。↓以下はその流れを受けた映画
       「地獄の七人」(1983)・「地獄のヒーロー」(1984)・「ランボー/怒りの脱出」(1985)
       →反抗的な兵士がベトナムに舞い戻り、戦争をまた戦い、勝利する
       「ランボー/怒りの脱出」前作の精神的に傷ついていたベトナム帰還兵をアクションヒーローとして登場させて成功している。

    p.203 ◎「ニューリッチ」(ロバート・フランク)という本の紹介。
       〜【今日の富裕層は、彼ら独自のバーチャル国家を造り上げている。…
         独自の医療保険システム(高級プライベートドクター)、
         旅行のネットワーク(自家用・企業用ジェットの「ネット・ジェット」)や超高級ホテルやリゾートクラブ…、
         そして独自の経済といった具合に、彼らはすべてを備えた自分たちだけの世界を築き上げている。
        裕福層の人々はさらに裕福になっていったのではない。彼らは次第に経済的によそ者になっていき、国の中にいながら
        彼ら独自の社会や経済を造り上げていったのだ。】

    p.206 【RDK〜「リッチ・ダム・キッズ」(金持ちの・バカ・息子たち)

    P.239 【「メディケア」(高齢者向け医療保障)には「薬代(処方箋薬)」が含まれない。
        これは制度開始当時、それほど薬の治療費に占める割合が高くなかったことによるが、医療費の高騰した現在にはそぐわなく
        なっている。(高齢者の慢性病や医療の進歩による多額の費用を必要とする高度医療の発達のため)

    以下は「訳者あとがき」
    p.247 【レーガン大統領の頃、福祉の恩恵を受けていたのは、貧困に喘いでいる黒人や移民たちであり、その福祉の財源と
        なっていたのは、白人たちが支払っていた血税だったからだ。
        つまり、レーガン大統領が福祉削減を声高に訴えたとき、彼は「小さな政府」の必要性を主張しながら、自分たちの稼いだ
        カネを黒人たちが食い物にしていると思い込んでいた白人たちの反発や猜疑心、そしてその根底でうごめいていた
        人種差別意識を刺激し、人気を博することができたというわけである。】

    p.248 【アメリカ国民全員に健康保険を与える場合、当然、黒人・ヒスパニック・アジア系などの非白人を含むことになり、
        それを税金によって一番多く負担する事になるのはアメリカの富裕層である。そのほとんどが白人たちだ。
        一部の白人たちにとってそれは到底受け入れ難いものなのだという。
        実際アメリカでも過去において国民皆保険が実施されそうになったことがあったが、一部の白人たちが黒人と同じ病院を
        使用することに猛反対したために実現できなかったという。
        また、レーガン大統領らの保守派が説く「小さな政府」や「富裕層に対する減税」論を聞いて、
        なぜこの「レーガノミックス」が支持を集めるのか、長年理解できなかった。
        巨額の軍事費増加と同時に大規模な減税を敢行すれば、財政赤字と累積債務が膨れ上がることは明らかであった。
        だが、実際のところ、その支持は経済イデオロギーの枠を超え、国民皆医療保険が設立されない理由とほぼ同根の
        差別意識に支えられてきた側面が大きかったのである。(アメリカでは1960年代半ばまで、黒人は法律・制度によって
        あらゆる差別を受けてきた)
        ・「white backlash」:「黒人解放運動に反対する白人の反発」

    p.250 【「保守派ムーブメント」の成功に不可欠であった「white backlash」:「黒人解放運動に反対する白人の反発」を
        基礎とする政治は、2つの理由でその勢いを失いつつある。
        1.アメリカの白人人口の減少 2.以前ほど白人が人種差別的でなくなって来ている】

    p.254 【クルーグマン教授は「アメリカの経済格差は是正されるべきだ」と本書で主張している。
        それは何も人種差別撤廃といった社会正義だけのためではない。
        アメリカが最も繁栄したのは政策的に中流社会を生み出したときだった。
        したがって、アメリカの経済・社会の発展の為には、再度政治的に貧富の差を是正しなければならないということである。
        〜この点は日本にもあてはまるのではないだろうか?】

    p.255 【「シッコ」(マイケル・ムーア監督のアメリカの医療状況・問題を扱った映画】

    訳者のHP http://homepage3.nifty.com/ymikami/index.htm






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著者プロフィール

NY市立大学教授。2008年、ノーベル経済学賞受賞。
イェール大学で学士号を、MITで博士号を取得。イェール大学、スタンフォード大学、MITで教鞭をとったのち、プリンストン大学経済学部教授。1982~83年には1年間大統領経済諮問委員会(CEA)のスタッフも務めた。主な研究分野は国際貿易。収穫逓増と不完全競争に焦点を置いた「新しい貿易理論」の創始者の1人である。国際金融、特に通貨危機の問題にも取り組む。1991年、アメリカ経済学会のジョンベイツクラーク賞受賞。日本語への翻訳書多数。

「2019年 『未完の資本主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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