- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152089700
作品紹介・あらすじ
すべては、若き古美術商アレックス・ベネディクトと、その相棒の美人宇宙船パイロット、チェイス・コルパスのところに持ちこまれた、ひとつのカップから始まった。一見したところありふれたカップだったが、コンピュータの解析によれば、およそ9000年前に造られたものと判明したのだ。しかもそこに描かれている古代文字から、抑圧的だった当時の地球を脱出してユートピアを築くべく出発したものの、その後消息を絶ち、いまでは伝説と化している宇宙船"探索者"の備品であることが確定したのである!もし、いまも銀河のどこかを漂っているこの宇宙船を発見できれば、巨万の富は約束されたようなものだ。しかも"探索者"が見つかれば、彼らが移住したといわれる植民星マーゴリアも発見できる可能性はきわめて高い。そうなれば、史上空前の大発見だ!かくて調査を開始したアレックスは、かすかな手掛かりから次々に新事実を手繰りだしてゆく。そしてアレックスの指示のもと、チェイスは愛機"ベルマリー"を駆ってリムウェイを飛び出し、テレパシー能力を持つアシユール人の惑星や、人類の故郷である地球にまで赴いて調査を続けるが…!?2007年ネビュラ賞最優秀長篇部門受賞作。
感想・レビュー・書評
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ネビュラ受賞作に例の如く騙された。ハードSF好きには物足りないとは思うが、気軽な冒険エンタテイメントとしては上モノの部類だろう。美人パイロットと古代ミステリ、異星人と出会い、ユートピアたる惑星探しと、満載。長い移動時間の暇潰しに良い。
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SF界では著名な賞(日本文学で言うと直木賞や芥川賞に相当するのでしょうか?)であるネビュラ賞受賞作の本書。
主人公達が古物商と美人のパイロットのコンビである小説です。
物語はパイロットの1人称視点、つまり本書は彼女が書いた回顧録と言う形式をとっています。
訳者の後書きを読んでこの小説はシリーズ物の3作品目と言う事を初めて知りましたが、話はそれぞれ独立しているらしく、実際、前作の2作を読んでいない私でも十分楽しめる内容でした。
さて、本書の粗筋を簡単に紹介すると、
古物商のアレックスとパイロットのチェイスが2人だけでやっているレインボウ・エンタープライズ社。
この会社の業務内容は、銀河系において勢力圏の拡大と衰退を繰り返してきた人類の遺物を発掘、販売する事。
金持ち連中には歓迎されている商売ですが、一方で墓場荒らしと批判する勢力も存在しています。
そんな折、2人の元にかつて理想郷を創り上げようと当時の専制的な地球から脱出した後、消息を絶ったマーゴリア人達の遺物(具体的にはマグカップ)が持ち込まれます。
伝説と化していたマーゴリア人の遺物。
そこに巨大なビジネスチャンスを見つけ出したアレックスとチェイスが、他にマーゴリアの遺物が無いか探し始めますが・・・・
と言った感じになりますね。
遺物であるマグカップの由来の究明や2人のような古物商に賛成しかねているチェイスの旧友の存在。
テレパシー能力を持ち、人類と緊張関係にある知的生命ミュート人の惑星への訪問。
マーゴリアの謎に迫るにつれ、2人に迫る暗殺者の影。
謎の影に更なる謎。
これらの要素が組み合わさって読者の視点をダイナミックに移動させる小説です。
(ちょっと話が脇にそれますが・・・)
良い俳句とされるもの中には、視点がダイナミックな移動をしているものがあると以前聞いたことがあります。
この小説もその条件を満たしており、またそれだけで無く読者の予想を覆す話の流れも十二分に楽しめました。
SFにありがちな未来の社会や技術と言った舞台設定の説明も小説の流れの中で自然に理解できるように書かれていますし、(訳者の後書きから引用すれば)スペース版インディー・ジョーンズと言った感じです。
本文が約370ページに上下2段、びっしりと印刷されてた文量の多い小説ですが、小説なので難しくて頭を悩ますという事は無く、読み始めると作品世界にグイグイと引き込まれます。
一読されては如何でしょうか。 -
舞台となるのは今から一万年後の未来。超光速航法の開発により人類は地球を母星として、様々な星系へと進出・入植している。さぞや多くの異星人との出遭いが・・・と思いきや、これまで人類が遭遇した異星人はただの一種族のみという設定も、何となくリアリティが感じられて楽しい。
遺棄され、忘れ去られた宇宙基地や漂流宇宙船を探索・発見し、そこで回収した備品を販売するレインボウ・エンタープライズ社の社長アレックス・ベネディクトと、唯一の従業員であり、宇宙船のパイロットでもあるチェイス・コルバスが主人公。
彼らの生活は、好みのアバターを付したAIの活用やVRの浸透といったことを(もちろん宇宙航行もだが)別にすれば、私たちの今の暮らし方とさほど違いはないようだ。
そんな彼らが9000年前の世界に思いをはせ、当時の人々はもうコーヒーを飲んでいたのだろうか、とか新聞とは何ぞやなどと考えるのは、さしずめ私たちが縄文時代の人々の生活に思いをはせるようなものか。
時経てしまえば、そこに生きた個人の感慨や人生は跡形もなく消えうせ、ただ、“当時の人々の生活”というくくりで語られるのみとなる。
そう思うと、代わり映えのしない自分の毎日も、なにやら愛おしいものに思えてくるから不思議だ。
さて、物語の方は、9000年前のものと推定された合成樹脂のカップが、アレックスたちのところに偶然持ち込まれたことにより、そのカップが発見されたと思われる行方不明の宇宙船とその宇宙船が向かった先の所在不明の植民惑星の探索へと動いていくことになる。
その探索の途上で、正体不明の者から命を狙われたり、あと数時間で命がないという絶体絶命の状況に陥ったりするのだが、アレックスとチェイスは冗談めかしたやりとりで、慌てず騒がずだ。
こうしたゆるゆるとしたユーモラスな展開の果てには、「よくぞ!」と胸が熱くなるような感動が待っている。
それにしても、この二人の関係はなんとも不思議。シリーズ三作目という本書での、居心地よさげなこの距離感がいかにして育まれたものなのか。一作目から読んで確かめてみたくなる。
Seeker by Jack McDevitt