かくして冥王星は降格された 太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて

  • 早川書房 (2009年8月21日発売)
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本 ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784152090645

感想・レビュー・書評

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  • ユーモアたっぷりに冥王星降格騒動を振り返る。2006年08月24日、国際天文学連合は惑星の定義を採択。その結果、冥王星は惑星の定義から外れ準惑星ということになり、世界中が関心を寄せたのは覚えている人も多いだろう。しかし、それより5年も前に冥王星を巡る騒動に巻込まれた科学者がいた。それがこの本の著者であるタイソン。ニューヨークにある米自然史博物館ローズ地球宇宙センターの責任者だった著者は、太陽系の展示で惑星を地球型惑星、木星型惑星、冥王星とカイパーベルトの3分類で展示するという「科学的に正しい」展示をした。それを冥王星を惑星でないと展示しているとニューヨーク・タイムズが批判。その報道をきっかけに矢のような批判に晒され、市民や科学者から批判の手紙やメールが寄せられた様子がユーモア混じりに書かれている。何故米国人がこれほど冥王星を愛するようになったかという文化的背景から、冥王星を惑星と呼ぶことができなくなった宇宙科学史的背景がたっぷり語られて、とても面白い。ただ、IAUでの議論については当事者ではなかったそうで、あまり詳しくは語られていないのが残念。その後の各種悪ふざけのようなユーモアの数々も何とも米国人らしいなぁ、と。ところどころに挿入される風刺漫画の数々や抗議文の数々もいい味を出してる。太陽系が惑星軌道のはるか外、カイパーベルトやオールトの雲まで広がりを見せる中で、この騒動が太陽系観を少しでも変えてくれればと思う。

  • 科学と感情論の争い。誹謗中傷を書籍に昇華。11歳の少女がロマンチックに名付けたプルート。最終ページ、8歳の少年の手紙との時代を超えた温度差がエモい。

  • この書籍は、2006年の国際天文学連合にて「それまで第9惑星」だった「冥王星」の扱いと言うか分類が決まった。
    その原因の一つが「冥王星」より若干大きい惑星「エリス」によって、「冥王星」の扱いが決まった。

  • 冥王星がどのような経緯によって惑星から準惑星に「降格」
    されたのか。科学的な経過、反応だけでなく、社会の─特に
    発見者がアメリカ人だったことから、日本人には想像も出来
    ないくらい冥王星になじみのあったアメリカの─反応も取り
    上げ、「冥王星事件」の顛末のすべてを教えてくれる本。
    それまで「惑星」に明確な定義が存在していなかったという
    意外な事実。

  • 図書館にて

  • 冥王星は惑星でなくなってから時間がたっている。なんで惑星じゃないのかあまり意識していなかったが、改めて知ることができた。
     アメリカではプルートと呼ばれディズニーのキャラクターと重なり論争になったようだ。降格に反発して法律で惑星と認定している州もあるなどは驚きだ。iPadのアプリでも普通に冥王星は存在していた。
    標準化戦争というのはどの世界でも大変なようだ。

  • かつて惑星だった冥王星がどのようにして惑星でなくなったかが書かれています。なぜ冥王星が惑星から外れたのか知りたい人は読んで見るのもいいかもです。(環境学・M2)理図書 445.9||Ty8 11687390

  • 2013年8月26日

    <THE PLUTO FILES:The Rise and Fall of America's Favorite Planet>
      
    cover photo:Wiliam Radcliffe/Science Faction/Corbis/amanaimages
    装幀/two minute warning

  • 請求記号:445.9タ
    資料番号:011115144

  •  冥王星は昔から奇妙な「惑星」だった。軌道はいびつだし地球の衛星である月よりも小さい。でも、太陽の光の届かない太陽系の端っこで、カロンという衛星をつれて健気に公転している。幼かった僕は学校の図書館で図鑑を眺めながらそんな異端の惑星をイメージしていた。
     そんな冥王星が一躍脚光を浴びたのは2006年。8月にチェコのプラハで開催された国際天文学連合(IAU)で冥王星が「惑星」としての地位を追われ、「準惑星(dwarf planet)」とされたのだ。
     その様子は日本でも大きく報道されたが、扱いとしては「科学ニュースの面白いトピック」といった感じで、まあ何か難しい事はよくわからないが、こういう感じで議論は進行しているらしい、といったニュアンスで報道されていたように思う。
     しかしアメリカ国内ではもっと大きな論争を巻き起こしていたという。なにせ、冥王星は唯一アメリカ人が発見した「惑星」だったからだ。
     科学的良心を訴える派、冥王星に同情的な派、そしてアメリカのプライドを堅持したい派、論理的な意見、感傷的な意見。いろいろな考えが噴出し大論争へと発展。本書はそんな喧々諤々の狂想を、騒動の中心にいたニューヨーク・ヘイデンプラネタリウムのニール・ドグラース・タイソン博士が機知とユーモアたっぷりに描き出すノンフィクション、そう、「冥王星事件簿」である。

     本書を読んでいて感じるのはアメリカの人々の冥王星への愛着である。まあ著者が学者なので周りにそういう人が多いのかも知れないが、小学生たちが「冥王星が惑星じゃないなんて言わないで!」なんて手紙を送ってきたりするのだから、やっぱりその愛着は日本とは比にならないようだ。冥王星に友達がいなくなるのは可哀想!という訳だ。
     「プルートー(pluto)」という可愛いらしい英語名もアメリカの子供たちに人気がある理由の1つだろう。この名前も11歳の女の子が提案したものだというから、やはり子供たちに人気があるのも納得なのだ。ディズニーでおなじみ、ミッキーのペット・プルートも、この星との明確な関係は言及されていないが同時期にデビューしているし、94番目の元素プルトニウムの名前はこの星の名前から取られたのだ。
     「冥王星」といういかつい名前がつけられた日本ではこの星にこういう愛着はあまりないように思う。僕は個人的には強そうでカッコイイから好きなのだが、まあそれでも確かに愛着とはちょっと違うな(ちなみに話は逸れるが、plutoを日本語に翻訳するとき「幽王星」という名前も考案されていたそうだ。これは怖い)。

     本書の著者タイソン博士はその勤務先ヘイデンプラネタリウムにおいて冥王星を地球や木星といった他の惑星とは別に展示していた事から2001年頃にアメリカで様々な批判を浴びた人物(苦難の時代だったらしい。それを考えると今は隔世の感がある)。そのため今回の騒動についても克明に記録している。
     とはいえタイソン博士の特筆すべきところはその語り口にわかりやすさとユーモアを忘れないところ。本書中には豊富な資料が収録されているが、冥王星を歌った歌や冥王星騒動をコミカルに風刺したマンガなど初心者にも面白く読める資料を多く収録しており、実際のところそれらを眺めているだけでもとても楽しい。
     そもそも冥王星が惑星としてそれまで扱われていたのは実は「惑星」の定義が明確になされていなかったためである。太陽系の深部まで観測できるよう技術が向上し、太陽系外縁に次々と天体が発見され太陽系が広がった今、「惑星」の定義をしっかりした上で冥王星の処遇を決めることは天文学と科学の前進に不可欠なものだ。本書にはその過程が記されている。
     しかし、専門的になりすぎずこのような科学的啓蒙書を著すのはセンスが必要だ。口絵にはロケットや天体写真に混じって、ディズニーのプルートとタイソン博士の2ショット写真のほか、パサデナで開催された科学者たちによる「冥王星追悼パレード」の様子など楽しそうな科学者たちの様子が掲載されており、とっつきにくい科学に対する僕らのイメージをきっと変えてくれる。

     この本では、冥王星をめぐる一連の騒動を通して科学のあるべき姿や人々の思い入れを考えさてくれる。しかもときどきギャグを挟んで笑わせてもくれる。
     そしてもちろん、「準惑星」へと格下げされた今も冥王星は今までと変わらず太陽を巡っている。遠く地球に暮らす人類の大騒ぎなどどこ吹く風だろう。そう、冥王星は昔から太陽系辺境の星などではなかった。もうずっと昔から太陽系の外側に暮らす大家族たちのリーダー格だったのだから。

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