犬なら普通のこと (ハヤカワ・ミステリワールド)

  • 早川書房
3.00
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152090768

作品紹介・あらすじ

暑熱の沖縄。ドブを這い回る犬のような人生。もう沢山だ-ヤクザのヨシミは、組で現金約2億円の大取引があると知り、強奪計画を練る。金を奪ってこの島を出るのだ。だが襲撃の夜、ヨシミの放った弾は思いがけない人物の胸を貫く。それは、そこにいるはずのない組長だった。犯人探しに組は騒然とし、警察や米軍までが入り乱れる。次々と起こる不測の事態を、ヨシミは乗り切れるのか。血と暴力の犯罪寓話。

感想・レビュー・書評

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  • すごーくすごーく面白かった。
    若い頃によく読んでいた冒険小説というかミステリーというか、アクション映画みたいな小説。
    矢作さんは読んでいそうで読んでなかったような気がするので、ここからちょっと追っかけてみようと思います。

  •  著者2人は、四半世紀前に『暗闇にノーサイド』、『ブロードウェイの戦車』、『海から来たサムライ』(のちに『サムライ・ノングラータ』と改題)という3つの長編冒険小説を連打した、伝説の黄金コンビである。

     私は、3作とも大好きだった。とくに『ブロードウェイの戦車』は、『忠臣蔵』の基本構造を冒険小説に盛り込んだ華麗な復讐譚で、「こんなに面白いエンタテインメント小説が日本にあったのか!」と驚いたものだった。

     この『犬なら普通のこと』は、黄金コンビの25年ぶりの共作。大いに期待して手にとった。
     その期待は……うーん、半分だけ裏切られた感じ。なかなか面白い小説だし、細部までよく練られてはいるものの、四半世紀前の3作のような「巻を措く能わず」の圧倒的エンタテインメントではなかった。

     かつての共作3作は「日本人離れした、欧米並みの長編冒険小説」を狙って書かれたものだと思うが、本作は冒険小説ではない。「暗黒小説(ロマン・ノワール)」であり、リチャード・スタークの「悪党パーカー」シリーズの流れを汲む「ケイパー(強奪)もの」なのである。
     旧3作とはまるで別物であるということを納得ずくで読めば、けっこう愉しめる。

     舞台は、沖縄。うだつの上がらない中年ヤクザの主人公・ヨシミは、弟分の彬(あきら)とともに、所属する組が麻薬の大取引きで使う現金2億円を強奪する計画を立てる。だが、襲撃の夜、そこにいるはずのない組長と出くわし、ヨシミは組長を射殺してしまう。
     現金は金庫に入ったまま。ヨシミが組長を射殺したことは、彬以外の誰も知らない。事件をめぐってヤクザと警察と米軍が入り乱れるなか、ヨシミと彬は組長殺しを隠したまま2億円を奪い、高飛びすることができるのか?

     ……と、いうような話。
     本場フランスの暗黒小説やフィルム・ノワールの場合、裏社会に生きる男同士の友情の絆が重要な要素なわけだが、この作品には「男の友情」など薬にしたくもない。組長と子分たちの間にも、ヨシミと彬の間にも、さらにはヨシミと妻との間にも、「絆」と呼べるようなものはないのだ。いつ誰が誰を裏切っても不思議ではない、荒涼たる世界が展開される。

     さりとて、馳星周の暗黒小説ほど救いのない真っ暗な物語でもない。矢作・司城コンビだけに、会話は軽妙洒脱だし、文体も洗練されたオシャレなもの。でも、人間関係は恐ろしいほど乾ききっているのだ。
      
     「悪党パーカー」シリーズほど痛快さはないが、クライマックスの銃撃戦のスピーディーにたたみかける描写は、なかなかのもの。

  • 25年前は有名なコンビだったらしいが、以前の作品は未読で、本作が初体験。

    スターク、ウィンズロウ、馳星周…みたいな、ノアール系、犯罪系、ヤクザ抗争アクション小説だが、一番近いのは北野武ムービーの雰囲気かな。銃器の描写、蓮っ葉な女、ちょっとイカれた男、カスヤクザ、そんなこんなが入り乱れてオーラス鉄砲バンバン…。

    読んでる間はムッサ楽しいが、読み終わったら何も残らない。アクションノベルやアクション映画なんてそれで十分。ええ意味でおバカな起承転結が心地よいのだ。

    欲を言えば、もうちょっと魅力的な登場人物が欲しかった。親身になれるキャラクターがいないのが残念

  • 本の内容
    暑熱の沖縄。ドブを這い回る犬のような人生。もう沢山だ—ヤクザのヨシミは、組で現金約2億円の大取引があると知り、強奪計画を練る。金を奪ってこの島を出るのだ。だが襲撃の夜、ヨシミの放った弾は思いがけない人物の胸を貫く。それは、そこにいるはずのない組長だった。犯人探しに組は騒然とし、警察や米軍までが入り乱れる。次々と起こる不測の事態を、ヨシミは乗り切れるのか。血と暴力の犯罪寓話。

  • あらまぁ結局は掌の上で踊らされるサル、というわけですよ。こんなインテリっぽいやつがちゃんと仕切りをやり切るというのは、なんか80年代チックではある。
    そして全体的にみんなしてやることが適当である。というのが沖縄だからというわけで許されてる的な酷い話ですよ。なもんだからインテリにやられるなんてもう切ないじゃないか。
    とは言え、なんだかんだとこのごった煮感も含めて、沖縄行ってユルユルしたくなる。

  • 2021/1/4購入
    2022/1/17読了

  • このミス2010で5位だった作品。沖縄のヤクザがアメリカ軍と覚醒剤を取引する為に用意した2億円を自分のものにしようとするが、当然様々な困難が待ち受けている。誰が敵で誰が味方なのか解からないまま、ヤクザ同士とアメリカ軍と警察が入り乱れ、事態はどんどん進み様々に展開する。中国と台湾が険悪になると沖縄の経済が潤い、現在のように仲が良いと沖縄にはメリットが無く、景気が悪くなる。またアメリカ軍と沖縄の経済的な繋がり等、そんな視点もなかなか面白い。がんがん人が死ぬがさほど陰鬱にならないのは沖縄の風土によるものなのだろうか・・・

  • 沖縄を舞台にしたハードボイルド(といいと思うんだけど)。
    中国と台湾の雪解け前にはにぎわっていた地下銀行などが中台の経済上の雪解けをもって仕事の多くを失って細々と生きている沖縄の暴力団の一人が主人公。頭の悪い一人の男が仕組む組の金の強奪を巡っての人間模様が面白い。沖縄だからもちろん米軍関連の絡みもあり、新宿を中心とした暴力系のお話とは違う、どこかちょっとテンポが少し遅い進行具合が新しい感じでよかったりする。矢作 俊彦さんと司城志朗さんの凶作との事だが25年ぶりの共作らしい。彼らの昔の作品は読んだ事がないのでちょっと読んでみたくなった。暑い夏の夜に読むハードボイルドなかなかでした。

  • このコンビとしては25年ぶりの新作。醒めた文体で淡々と描かれる南国のノワール。

    矢作俊彦の小説は、この司城志郎という人と組むと、ストーリーに破綻が無くなる代わりに矢作独特のダンディズムが失われる。本作でもそう。面白くなくはないのだが、凡百の小説と一線を画する何か、が無い。

    にしても沖縄の土地や事情が極めてよく調べられているのには素直に感心する。 主人公の妻である森の造形は、日本のハードボイルド史上でも出色と言えるのではないか。

    矢作だから星一つおまけ。

  • 「沖縄では、何によらず、たいていのことがうまくいかない」

     『暗闇にノーサイド』や『ブロードウェイの戦車』『海から来たサムライ』(後に『サムライ・ノングラータ』に改題改稿)等で知られる矢作俊彦と司城志朗のコンビ。この1950年生まれの同い年コンビによる25年ぶりの新作は沖縄を舞台としたバイオレンスなハードボイルド。炎天下の沖縄の暑熱の中で、悪党が起死回生をかけて這いずり回る。汚れた男たちの物語。

     50前の中年、ヨシミは那覇の運天会真栄城一家の杯をうけたパッとしないヤクザ者。ドブを這いずりまわる犬のような人生。そんな彼は組が2億円の大型取引をすると知り強奪計画をたてる。このカネで島を出て、これまでの人生を清算するつもりだった。こんな人生もう沢山だった。「暑いところは、もう嫌だ。四季があって夏も涼しくて乾いた町がいい」しかし彼が放った銃弾は思わぬ人物を仕留めてしまい……かくして、事態は組と警察、米軍までもが入り乱れる思わる状況に発展。ヨシミはこの不測の騒動を乗り切り、島を抜け出すことができるのか。

     単行本の紹介文には「血と暴力の犯罪寓話」と書かれている。そうだ、確かにこれは寓話だ。血と暴力が支配する、教訓だ。多数のキャラが登場するが、それぞれがそれぞれの思惑を胸に予想外の行動をとるため、物語は思いもよらぬ方向へ転がっていってしまう。手に負えなくなったからって始めてしまった犯罪を投げ出すことはできない。その時に待っているのは死でしかないからだ。
     行間からも射抜いてくる肌を焼くような沖縄の夏の日射し。熱気の中でドロドロしたヤクザたちの駆け引きが展開される。ストーリーは大金をめぐる冒険小説……というよりはノワール調の正統派の犯罪小説だが、沖縄の方言のなんともぬるい感触も相まって独特な空気感がありイマイチ入り込めない人も多いかも知れない。沖縄の人間である僕なんかはこの空気感のおかげですんなり入り込めたのだが。
     矢作によるエッセイ「アメリカでは意外なこと」(本書文庫版巻末に収録)によれば、この本はリチャード・スタークの『悪党パーカー』シリーズにオマージュを捧げたものだそうだが、舞台を沖縄に設定したためになんだかノンビリしたヤクザたちが勝手に騒いでいるようなブラックコメディのような雰囲気すら漂っている。
     でもってそこに書かれた人間関係においては、友情らしきものや愛情らしきものがあるようではあるが、そうだとしても傍目には彼らの関係はとてもドライなものに見えて、熱い絆、みたいなものは感じ取れない。
     沖縄と言われて想像するような人の温かさもないし、もちろん観光名所も登場しない。汗だくになって噛みつきあう犬が描かれるだけだ。

    「公園の向こうに、ソープやラブホテルのビルが林立している。那覇では、五、六階建ての建物でも大きく立派に見える。ネオンも同じだ。こんなネオン街、歌舞伎町と比べたら、墓場に残った線香の残り火と変わらない」
    「沖縄のやつは緩い、というのが、その理由だった。何をやらせても緩い。詰めが甘い。気が利かない。そのどれも、「致命的に」と枕がついた」
    「沖縄人(ウチナンチュー)はみんなそうだ。優柔不断なわけではない。空気の濃さや時間の速さが元から違う」
    「ウチナーの『早い』がどれほど早いのか知らないが、危険を冒すことはない」

     このコンビの作品らしく、冷徹で鋭い言葉のセンスが光っている。沖縄の人なら思わずウチアタイするような(ドキッとするような)文章も多数登場。「たっくるさりんどー」を「為んならねえぞ」と訳すセンスはさすがこのコンビ。
     「ロードスターは開南の先で左に曲がった。浮島通りに入って一方通行を少し走ると、那覇にしてはしゃれた店がいくつか増えていた」なんて描写は、僕にとっては地元の景色なのですごく臨場感があるのだけど、県外の人にはピンとこないだろうなあ。
     沖縄の事をとても取材したのだろうとは思うが、恐らくジミーの事だと思うのだが、それをジミーズと表記しているのはちょっといただけない(p263)。

     終盤ではこれまでのゆるい空気をひっくり返すような銃撃アクションのシーンが待ち受けている。なんとかかんとか進めてきた計画は、どこに着地するのだろうか。
     この小説で復活した、矢作俊彦+司城志朗のゴールデンコンビは、その後も『百発百中 狼は走れ豚は食え、人は昼から夢を見ろ』『ARAKURE あらくれ』など新作を精力的に発表している模様。

    「犬だって立ち去るときは小便くらいひっかけていくものだ」

     犬なら普通のこと。そのラストはハッピーエンドなのか。受け取り方は読み手次第だ。あまり感情移入できるキャラは登場しないけど、それでも感極まるものがあるかも知れない。
     楽園からは遠いところにある沖縄。冷酷な暴力にまみれたハードボイルド。

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著者プロフィール

1950年、神奈川県横浜市生まれ。漫画家などを経て、1972年『抱きしめたい』で小説家デビュー。「アゲイン」「ザ・ギャンブラー」では映画監督を務めた、『あ・じゃ・ぱん!』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、『ららら科學の子』で三島由紀夫賞、『ロング・グッドバイ』でマルタの鷹協会・ファルコン賞を受賞。

「2022年 『サムライ・ノングラータ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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