- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152091161
感想・レビュー・書評
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早逝のSF作家、伊藤計劃の短編、インタビュー、対談、エッセイ、映画評を収録。
◯The Indifference Engine
民族浄化紛争に参加していた少年兵が、戦闘終結後、敵味方の区別ができなくなる公平化(indifference)治療を受ける。
「自分たちとは違うから殺せ」。そういう選択肢しかなかった少年たちから自他の区別を奪い去った時、彼らは世界に牙を剥く。
アイデンティティの違いが争いを生むのは確かだが、アイデンティティを持たないものが生きて行ける場所など存在しないのもまた確か。少年たちは彼らを生み出して、壊して、放り出した世界に向かって進撃する。
エスニッククレンジングの描写は確かにおぞましいが、それと同じくらい、自分勝手で独りよがりな善意や、現実に存在して、主人公らのような人々をどこかで生産し続けているであろうこの世界がおぞましい。
◯セカイ、蛮族、ぼく。
蛮族であることを恨みながらも、蛮族としての生き方しかできない「ぼく」。突然刑法177条的な××をするというぶっ飛んだ話で、自分がしたい生き方と実際の生き方との乖離の苦悩とかやるにしてもこういう物語でやる意味はよくわからなかった。
◯From the Nothing,With Love.
ナチスから奪取した精神転写技術により、他人の肉体に代々転写されてきたある天才的な英国スパイの精神は、経験の蓄積、シチュエーションの繰り返しにより無意識化していく。もはや我々が初心者のようにキーボードを叩く指の一本一本にわざわざ意識を集中せずとも、半ば上の空でもタイプできるようになるかのように。
意識とは、無意識とは何か。このような考え方を採るとすれば、私たちは日々、「私」ではなくなっていくのではないか。現実には存在しない技術シチュエーションの導入で、逆に現実の、自分自身の根本、本質について考えさせられるという、SFの醍醐味みたいなのを味わえた気がする。SFは未来に対する空虚な妄想ではなくて、状況を極限化することで物事の本質を炙り出す文学なんだと思った。
◯屍者の帝国
死体に魂を再インストールして労働力として利用する技術が確立している世界を描く冒頭部分を収録。円城塔氏が引き継いだ小説も読んでみたい。
「人という物語」というエッセイの最後の部分。
「そしてわたしは作家として、いまここに記しているように私自身のフィクションを語る。この物語があなたの記憶に残るかどうかはわからない。しかし、わたしはその可能性に賭けていまこの文章を書いている。
これがわたし。
これが私というフィクション。
私はあなたの身体に宿りたい。
あなたの口によってさらに他者に語り継がれたい。」
著者が早逝したいま、改めてこの文章に込められた彼の切実な思いに気づかされる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「The Indifference Engine」が面白かったです。
あと映画評、観ようと思っていた映画についての言及が多く参考になります。 -
SF
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Library
Reserved -
2010年3月25日 初、並、帯付
2013年 月 日 イオンモール鈴鹿BF。 -
未完となった『屍者の帝国』の「試し書き」を含む前半の短編群がどれも素晴らしい。特に一発目、『The indifference engine』。ネタは明らかに隠す気がないんだけど、それだけに冒頭に提示されている破綻への道が終始目の前にぶら提げられている感じがもうぞくぞくする。前三つの共通テーマは"アイデンティティ"でゆるく括れるか。それでいて方向性がまるで違っていて、なおかつどれもしっかり重いのがすごい。『世界、蛮族、ぼく。』なんて4ページちょいしかないのに、発想の次元に笑いが止まらない。
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「The Indifference Engine」をこっちからとったとは知らずに先に読んじゃったので短編については完全にダブっていてちょっと残念。
インタビューや映画評は面白かった。 -
屍者の帝国が収録されてる
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まさに記録。
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「The Difference Engine」だけでいいから是非。
「虐殺器官」も「ハーモニー」も素晴らしかったが、上記作品が最も未来予測として、残酷であり正確。