これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152091314

感想・レビュー・書評

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  • 倫理学のカタログとして利用。本棚に置いておきたい1冊

  • 「1人を殺すことで5人を救えるとして、その1人を殺すべきか、と?」
    葉月の言葉に、蛹は頷いた。
    「つまり、正義という観点で?」
    蛹がもう一度頷く。
    「例えば」
    と、言う。
    「君は電車の運転士だ」
    「私はコピー機の修理屋ですが」
    例えばだよ、と蛹は言う。
    「ブレーキがきかない。前を見ると、線路の上では5人の作業員が作業中だ」
    「はあ。まっすぐ進めば5人死ぬってことですね」
    「そう。ところがその手前に待避線がある。待避線の先には、作業員が1人だけだ。そこで待避線に入るべきか?」
    「あー、私なら待避線に入りますね。5人より1人のほうが、気づきませんでした、っていう言い訳が通りそうですし」
    「ああ、まあ、そうかもね。君は目が悪いし……」
    ため息をつく。
    「じゃあもうひとつ。今度は、君は駅のホームで電車を待つ乗客だ。電車がホームを通りすぎていく。ブレーキがきかないからね。電車の進む先には、やっぱり5人の作業員がいる。1人を電車の前に突き落とせば、電車は止まるとすると―――」
    「いや、止まらないし」
    「仮定だよ」
    「つまり、飛び込めってこと?」
    「いや、君のとなりに立っている見知らぬ誰かさんを、突き落とすかどうか、ってことなんだけど―――さっきの君のツッコミは、本質に近いような気がするね。このたとえ話はどちらも本文にあるけれど、いずれも、犠牲になる1人は自分ではない」
    「それはつまり、自分が死ぬ、という正義は、ない、と?」
    「うん」
    「だから、気に食わないって顔してるんですね。珍しく途中で投げ出したと思ったら」
    「結局のところ、安全圏から正義を論じるのは、神の視点だろ。高みから見下ろして、善悪を判断する」
    葉月はそれを聞いて、思わず苦笑した。
    「で、序盤でそんな具合だったもんだから、最後まで読めるわけねえだろ、と?」
    葉月の言葉に、蛹は笑った。
    「何だか、面倒臭くなってしまってね」
    そして、その本を放り出すと、ごろんとソファに横になって、目を閉じてしまった。

  • 一つ前に読んだ「感性の限界」シリーズが哲学入門書だとすれば、本書は哲学初級書として位置づけられるだろう。そして哲学初級書としてはとても優れた一冊であるという事も付け加えたい。
    内容について簡単に行ってしまうと、マイケル・サンデルというハーバードでも大人気の教授が身近な問題から哲学や社会学の理論を分かりやすく紐とく構成になっている。ベンサムの理論等はまだとっつき易いかと思うが、カントやアリストテレスのレベルになってくるとかなりメタな思考を巡らせないと理解に苦しむ。サンデル教授はそこについて非常に上手な思考展開を巡らせており、哲学初級者にとっても非常に分かりやすく話が進んでいく。
    本書はNHKの放送をきっかけ?としてベストセラーになった本でもある。ただ、内容は完全に哲学・社会学分野に振り切っているので「こんな本を大勢の人が好き好んで読むのだろうか?」という感想が正直なところである。哲学?社会学?何それ?という人はいきなり本書から読み始めるのではなく、先に挙げた限界シリーズ等で様子を伺うのが無難であろう。
    ただ、限界シリーズの後に「哲学って面白いな。よし、ファイヤアーベントの原著を読んでみよう!」と考えた際には一歩踏みとどまって本書のような初級本をあたるのが良いだろう。そういう意味で本書は哲学、社会学分野で大事な位置づけをしていると言える。このような授業を大学基礎教育で受けられるハーバードはやはり優れているのだろうと思わせる。

  • とっても考えさせられる本。実際の事件や例を挙げてくれているのでとても親切。是非色々な人に読んでもらいたい本だと思いました。

    ただ一回だけだとなんとなくしか理解できず。少ししたらもう一回読みたい。

    自分はけっこう功利主義的な考え方をしてると思う。"最大多数の最大幸福"みたいに考えてしまう。でもそれだけじゃ上手く考えられない状況もあることをはっきり認識させてくれました。

  • 正義の根拠には、幸福と、自由と、美徳がある。
    何を正義とするか考えたとき、自分はどの立場で考えているのかを自覚していることは重要だと思う。
    善に関する価値判断を政治に持ちこむという立場には抵抗感があるのだけれど、そういう視点で考えてみることも必要なのかもしれない。
    再読したい本。

  • 特に難しい作品だと思います。
    正義に哲学などがまじり、途中からやっとついていけた感じです。
    日本語タイトルと外国語タイトルが合わないような考えです。
    元々は大学の講義だからわかりにくいのか、今の私の理解不足かはおいといて、本当に苦痛だった。
    ただ、分かる方には分かるのでしょう。

    特徴
    これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学

  • 三葛館一般 311.1||SA

    和医大図書館ではココ → http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=57842

  • 途中で挫折。

  • 共同体主義がなんか思てたんと違う。。
    自分が社会や歴史の流れから完全に独立していないのはわかる。効用や自由の尊重からだけでは何が正しい選択か判断できない、美徳や宗教観の問題がついてまわるというのもわかる。そういった諸々を考慮して、善良な生活とはなにか、みんなで考えていこう、というのもわかる。
    ここまではいいけど、家族愛や愛国心を賛美して小さなコミュニティ内の結びつきを強めようとしているのがよくわからない。

    "コミュニティへの愛着とアイデンティティはわれわれの持つ普遍的な人類愛を補完するのに必要なものだ"というのがしっくりこないんだ。
    人類愛は地球全体に広げると薄まってしまうと言っている。宇宙船地球号では駄目だと。そこ諦めるの早すぎでは?
    小さなコミュニティをいくつもつくって、それぞれのコミュニティでアイデンティティ濃縮して、他のコミュニティとの対立の中から妥協点を見つけるってやりかたが本当に最善なんだろうか?
    身内を贔屓することは好ましくないが、そうしてしまう人がいても無理もない、理解を示そうじゃないか、というのならまだわかるけど、積極的に贔屓することを勧めているのは何故なのか?
    連帯の責務は内向きであると同時に外向きでもあるから良いのだ、と言っているけど、そういった偏った愛情は判断を誤らせることのほうが多いのでは?コミュニティへの愛(偏見)は、関心の高さ、価値観の正しい理解と必ずしもイコールではないのでは?
    僕は兄弟が殺人犯なら躊躇なく警察に突き出すし、より困っている人がいるなら移民を受け入れてあげればいいじゃないかと思う。移民規制なんか功利主義の例で取り上げた「幸福の町」そのものでは?



    一人で考えていてもわからん。誰かと議論しなければ。

    ほかにもカントについて、人以外の生物はどういう扱いになるの?理性がないなら物側に属するのか?怪我や病気で理性を失った人は人に非ず(尊敬するに能わず)ってことになるのか?”どんな高度な認知神経科学を用いても自由意志を反証できない”と何故言い切れるのか?とか、疑問は残る。

    徴兵制の考え方(格差が大きい社会での志願兵制は不公平と強制をもたらす。陪審員などと同様、兵役が市民の義務であるという見解をとるなら、全国民は自分の国に奉仕する義務がある)が広がったりしたのは良かった。

    考える機会を与えてくれたという意味では読んで良かったけれどこれ一冊ではあまりに不十分、そんな感じ。





    以下はただのメモ

    道徳についての考察(=自分の下す判断と支持する原則の一致を追求すること)
    道徳的難問があらわれた!
    ①直感で正しい行動が浮かぶ
    ②そう思う理由を考える(その根底にある原則を探す)
    原則にそぐわない状況があらわれた!
    ③混乱
    ④①or②に戻る(行動or原則の修正)

    功利主義(ベンサムver.)
    ・最大多数の最大幸福
    ・人々の現実に望むことが望ましい(快楽の質は問わない)
    問題:個人の権利を尊重しない。
       あらゆる価値を単一尺度で測るの無理がある。
    必要性や欲望は道徳の基準になりえない

    功利主義(ミル改訂ver.)
    ・個人の権利を尊重(長期的には効用を最大化することになるという、あくまで功利主義的観点から)。
    ・快楽に質があるとする(人間の尊厳など別の理念に頼らざるをえない、功利主義から逸脱)

    リバタリアニズム(自由市場主義)
    ・自由を尊重
    ・自己所有権:自分の体も命も労働も才能も自分の所有物でどうするかは自分が決める

    純粋実践理性(カント)
    ・義務によって(そうすべきだからそう)行動する
    ・理性的な存在である人格を究極目的として扱う(人をモノ扱いしないで!)
     ちなみに自殺は苦しみから逃れる手段として自分を利用することなので不可

    仮説的社会契約(ジョン・ロールズ)
    ・自分が何者かわからなくなる「無知のベール」を被って原理原則を決めれば公正なものになる
    ・基本的自由を全ての人に平等に与え、最も不遇な立場の人を救う社会的・経済的不平等を認める。
    ・格差原理:生まれ持った才能、社会がその時に重視する資質による不平等を是正。才能を全体の資産とみなし、それらが生み出した利益を分かち合う。努力の才能すら運。成功は自分の手柄ではない。


    現代の(カントやロールズの)正義論
    ・正しさが善に先行
    ・正義を名誉や美徳から切り離して考える。そうすることで人々が自由に価値観を選べる。
    ・政治は特定の目的を持たず、市民が支持できる様々な目的に開かれている。
    実際は名誉や美徳を巡る論争になることが多い。完全に中立ではいられない?

    アリストテレスの正義論
    ・善が正しさに先行する(目的論的)
    ・正義=人間とその本性にふさわしい目的や善との一致
    ・政治=善き市民を育成し、善き人格を養成すること。


    道徳的個人主義
    ・自由で独立した負荷なき自己
    ・自分がすることにのみ責任を負う(契約論的)
    ・正義の原理は特定の道徳や宗教観などに対して中立(カント、ロールズらはこの立場)

    コミュニタリアニズム
    ・人は物語る存在:人生を生きるのは、ある程度のまとまりと首尾一貫性を指向する探求の物語を演じること。私の人生の物語は他人の物語とかかわりがある。
    ・自己は社会的・歴史的役割や立場から切り離せない
    ・自然的義務でも自発的責務でもない第三の責務、連帯の責務がある
      自然的義務:普遍的、合意不要
      自発的責務:個別的、合意必要
      連帯の責務:個別的、合意不要

  • 「正義」は、誰にとってのものか。「自由」は、どこまで認められるのか。

    テレビで話題になっていた(過去形)マイケル・サンデル教授の講義。ようやく読みました。難しい。しかし、簡単に読みこなせなかったのは、自分の中にひっかかりがいっぱいあったからだ、と自分を慰める。

    正義、平等、自由。誰かに痛みを背負わせるのは、簡単。自ら痛みを背負う人はいい、背負わされる人はどうするんだ。政治家だけが考える問題じゃない。間接民主主義というのは、誰かにすべてお任せして自分は何もしない、ことじゃない。お任せするに値する人物を選んで、自分の代わりにしていただくこと、なんだぞ、と肝に銘じる。

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著者プロフィール

1953年、アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス生まれ。アメリカ合衆国の哲学者、政治学者、倫理学者。ハーバード大学教授。

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