これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152091314

感想・レビュー・書評

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  • 正義について書いてある本書を手に取り読み進めていった。

    功利主義、リバタリアニズム、市場と倫理、イマヌエルカントの見方、ジョンロールズの平等をめぐる議論などずっと読み進んで最後まで辿り着き、その都度、なるほどなるほどと納得したつもりで読み終えたが、改めてさて著者は正義について何をどう言っているのかを考えてみたら、よくわかつていなかつた。

    そこでまず最初に立ち戻って読んでみた。
    そうすると次のようなことが書いてあった。

    まず、便乗値上げの是非、パープルハート勲章の受章資格をめぐる対立、企業救済等についての議論を考察しいる。

    その議論の中で、
    「我々の議論のいくつかは、幸福の最大化、自由の尊重、美徳の寛容といったことが何を意味するかについて見解の相違が現れている。

    また別の議論には、これらの理念同士が衝突する場合にどうすべきかについて意見の対立が含まれている。
    政治哲学がこうした不一致をすっきりと解消する事はありえない。

    だが、議論に具体的な形を与え、我々が民主的市民として直面する様々な選択肢の道徳的意味をはっきりさせることができる。」とし、

    更に
    「この本では、正義に関するこれら3つのアプローチの強みと弱みを探っていく。」と述べ

    その3つ
    1 幸福の最大化
    2 自由の尊重
    3 美德の涵養
    を教えてくれる。

    このようなことを最初に良く頭に入れておけば理解が深まったな〜と深く反省し、再び読み始めた。

  • 読み終わるのに3ヶ月くらいの時間を要した。
    年越す前に読み終わりたかったけど、年越しちゃった…

    どうだろう。読み終わったあとの感触としては。
    正義って…とふんわりとした違和感のようなものが残ってる感じ?なのだろうか。

    絶対に読み返さなくてはいけない。分かっているのはそれだけな気がする。難解で、情報量が膨大な為に、時間はかかるし、理解もできない。けど、今の自分の力量で感じたことを、下に書いていこうと思う。

    人はみんな、自分の中に正義がある。その正義は本当に千差万別で、そして似通った正義同士が固まっていく。そして、違った正義とぶつかり合っていく。
    その手段は時代によって違うけど、最近はその正義自体が曖昧な人が増えたんじゃないかと、本書を読んで思った。

    人を傷つける事は悪いこと。分かっていながら、見知らぬ人をこき下ろす。
    違法サイトで漫画を読む。就職活動や受験活動を代行してもらう。転売のために商品を買い占める。
    他にも諸々。

    よく、「その人にはその人なりの正義があったんだよ」という言葉があるけど、多分上の行動には正義は無い。かくいう僕だって、よく分からない芸能人の事を、知人や友人と一緒に食事の場でバカにする。漫画村で漫画を読んだこともある。大学のレポートで、友達のをほぼパクったこともある。

    正義のない行動だ。それらの行動を行う時に、僕の心の中は何も考えていなかった。正義を、その先にいる他者の存在を。

    正義って、難しい。こうやって書いてる時も、何が何だかわかんなくなる。そもそも僕が持ってる正義が、これで正しいのか分からない。だけど、確固たる正義を持たないといけないと、そう思った。

    自分が今後何かしらの行動をした時に、その行動が「自分の正義」に乗っ取っていたと、胸を張って言えるように。自分にとって、何が正義なのか、それを見極めたい。

    冒頭に書いてあったトロッコ問題や、その他もろもろでもそうだが、人生には「正解のない難題」が数多く立ちはだかってくるだろう。その時、その難題を解く鍵となるのが、正義であるはずだ。

    その正義を、見つける。その正義を、深める。その正義を、確かめるために、この本書は大きな役割を果たしてくれると思う。

    あと何周するか分からないけど、じっくりじっくり正義について考えていこうと思う。

    最後にこの本を訳された鬼澤 忍さんにも触れたい。
    これからの「正義」の話をしよう。このタイトルは、見事だ。この話を通して、まるでマイケル・サンデルと対話しているような気持ちになった。本当に、自分とサンデルで、正義について会話しているような気持ちになった。
    大切なのは、対話だと思う。対話を通すことで、自分の考えを深めていける。
    ちっぽけな考えしか持てない僕だけど、この本書や日常の友人・恋人、そんな人たちと対話を深めて、薄っぺらい自分の考えを積み重ねていきたいと思う。



  • ハーバード大学の人気講義「Justice」(正義)をもとにした邦訳版。
    いやー、おもしろかった。とにかくスリリング。一気に読んでしまった。まるで講義を受けている気になる。

    サンデル教授は、具体例を引用しながら古今の哲学者たちの正義にまつわる議論を紹介していく。
    そしてそれをもとに自由至上主義、自由主義、共同体主義の思想を紹介し、これら此処の思想は正義をどのように捉えているか論じていく。
    その手法は分かりやすく、読んでいておもしろい。学生に受けているのはこの点が優れてるからかな。
    サンデル教授は共同体主義者(コミュニタリアン)だ。本の最後で教授は自分の立場を言明し正義についての見解を述べている。
    コミュニタリアンの主張は「価値に対して中立な正義は存在しない」。
    簡単に言えば「政治は道徳にもっと関われ」ということ。政治が道徳に関わる危険性を分かった上で教授はそう主張する。
    本のなかでは「共通善に基づく政治」という言葉を使っているがその具体的内容は分からない。

    社会の問題を理解し解決していく上で価値観やモラルにもっと政治は関与しないと正しい行いは達成できない、という。
    賛同するかどうかは別として、サンデル教授の正義についての見解は示唆に富む。とくにこれからの複雑化する社会を生き延びるためには一考に価すると思うが。

  • 伝説の大学講義「正義」を書籍化。

    超超入門から学んでおきたい場合は、『正義の教室』を一読し、功利主義、自由主義を理解してからの方が読みやすそつ。

  • 数年前に日本メディアでも話題となったマイケル・サンデルの一冊。哲学の入門として一般書を購入した。メディアでは具体例ばかりが取り上げられていたが、この本はそういった具体例を根拠に”「正義」とはなにか?”という問いに対する研究がなされている。
    本文では、正義に対するアプローチが3つ取り上げられている。
    1.功利主義(ベンサム)
    2.リバタリアニズム(カント、ロールズ)
    3.共通善(アリストテレス、筆者)
    どのアプローチが正義について考える際に有効なのか。
    功利主義は本文中で早々に切り捨てられている。というのも、功利主義は正義を計算上で扱っている点及び個人について深く考えないという全体主義的な面で、明らかに他の2つより劣っているというのだ。
    さて、リバタリアニズムと共通善について考えた際、最も大きな対立項は「正義は道徳的立場によるものか」という点である。各主張の要点をまとめてみると、
    カント…正義は定言命法(普遍的、人格の尊重)・義務・自律によるもの
    ロールズ…正義は各人の立場を捨てて決定されるべき仮説的なもの
    リバタリアニズム的観点からすれば、道徳的立場を正義の議論に含むことは、価値観の押し付け、自由の剥奪に繋がる可能性を懸念する
    アリストテレス…正義は善き生(個人の長所を活かすこと、国家の最終目標)を基礎とすべき
    筆者…種々の問題は道徳的立場の議論を要する(リバタリアニズムは道徳的立場の不一致を理由にその議論から逃げている)ため、正義は各人の物語的立場を踏まえるべき
    私考…この本にある様々な”容易に答えられない問い”の例を見る限りは、正義には柔軟性を持たせるべきなのかなと感じた。(まんまとサンデルに嵌められている気がして癪だが)
    メディアの取り上げ方からこの本で彼の言わんとすることにたどり着くことは無理だろう。彼の提示する具体例は哲学的思考のために用意された主張者にとって「都合のいい例」であり、それについて考えさせて視聴者を分かった気にさせるメディアは、論点のすり替えという名の情報操作とでも言えるのではなかろうか。

  • 本書は自己啓発本やノウハウ本のように気持ちを奮い立たせたり、何かを明確にアドバイスしれくれる本ではない。この点であらぬ期待を持って読んだ場合は、ギャップを感じ面白さを読み取れない可能性が高いので注意が必要。

    本書が読者に唯一教えてくれることは、「社会は相反する考え方を持つ者どうしで形成されている」ということのみである。そして、自身が考えるべきことは「そんな社会で自分が生きるために必要な正義とは何か」であり、自身が考える際に必要な事例が高い質で書かれている本である。

    一部繰り返しとなるところもあるが、哲学者とは「自らが何らかの解を出すのではなく、解を出すための道筋をわかりやすく示し相手に深く考えさせる手段だけを述べる」ことだと私は思っているので、その観点から著者は立派な哲学者の一人と考える。

  • ネットで過去が記録され続けるいまだからこそ、言動と行動のベースとして本書にある「正義」をいつでも思い出せる状況を作った。

    <ポイント>
    正義の意味を探るアプローチには、①幸福の最大化②自由の尊重③美徳の促進、の三つの観点が存在する。
    功利主義の道徳原理は幸福、すなわち苦痛に対する快楽の割合を最大化すること。この考え方の弱みは、満足の総和だけを追求するため、個人を踏みつけてしまう場合があることだ。
    リバタリアンが主張する自己所有権が認められれば、臓器売買や自殺幇助などの非道徳的行為もすべて容認されることになってしまう。
    自分の善について考えるには、自分のアイデンティティが結びついた「コミュニティの善」について考える必要がある。僕たちは道徳的・宗教的信念を避けるのではなく、もっと直接的にそれらに注意を向けるべきだ。

  • 教育テレビでの放送が好評で、ベストセラーにも
    なっている一冊。

    正義へのアプローチには「幸福」、「自由」、
    「美徳」の三つがある。その一つ一つを解説した
    うえで、道徳的・宗教的論争を招く危険性をはらむ
    ものの「美徳」からのアプローチは可能であり、
    それを支持する、というのが著者のスタンス。

    …と、分かり切ったように書いたが、このベスト
    セラーを一体どのくらいの人が読みこなせたんだろう。

    自分のインテリジェンスの貧弱さを露呈するようだが、
    正直言ってワタシは読みこなせなかった。
    アマゾンでもmixiでもレビューの評価がかなり高いが、
    それは読みこなせた人だけがレビューを書けるからじゃ
    ないか、と思う。

    ワタシは本を読んでからテレビを見て、その分かり
    やすさに驚いたが、逆にテレビを見て本書を手にした
    人の中にはギブアップした人も決して少なくないんでは。


    今回はなんとも消化不良気味なレビュー…。

  • 評判に違わず面白かった。自由とはなにか。正義とはなにか。「正義の反対はもう一つの正義さ」というシニカルな言葉も世にあるが、そうした思考停止を許さない徹底した姿勢。こうした姿勢こそ上に立ち世を動かすエリートに必要な姿勢であり、エリートに対しこういう授業が施されていることは素晴らしいと思う。古今の哲学者の考察を整理して平易に例示してくれているのも勉強になる。

    <blockquote>P286 人生を生きるのは、ある程度のまとまりと首尾一貫性を志向する探求の物語を演じることだ。分かれ道に差し掛かれば、どちらの道が自分の人生全体と自分の関心ごとにとって意味があるか見極めようとする。道徳的熟考とは、自らの意思を実現することではなく、自らの人生の物語を解釈することだ。

    P343 功利や合意に及ぼす影響とは全く別に、不平等は市民道徳をむしばむ恐れがある。市場を愛してやまない保守派と、再分配に執心するリベラル派は、この損失を見過ごしている。(中略)我々の世代は(州間自動車道計画と)同じくらい大きな投資を公民的刷新の基盤作りに捧げてもいいはずだ。

    P344 政治と法律は道徳的・宗教的論争に巻き込まれるべきではないと我々は考えがちだ。そうした論争に巻き込まれれば、強制と不寛容への道を開くことになるからだ。そうした懸念が生じるのも無理はない。多元的社会の市民は、道徳と宗教に関して意見が一致しないものだ。
    行政府がそうした不一致に対して中立性を保つのは不可能だとしても、それでもなお、相互的尊重に基づいた政治をおこなうことは可能だろうか?可能だと私は思う。だがそのためには、これまで我々が慣れてきた生き方と比べ、もっと活発で積極的な市民生活が必要だ。この数十年でわれわれは、同胞の道徳的・宗教的信念を尊重することは、それらを無視し、それらを邪魔せず、それらに関わらずに公共の性を営むことだと思い込むようになった。だが、そうした会費の姿勢からは、偽りの経緯が生まれかねない。偽りの経緯は、現実には道徳的不一致の回避ではなく抑制を意味することが少なくない。そこから反発と反感が生じかねないし、公共の言説の貧困化を招く恐れもある。
    (中略)道徳的不一致に対する公的な関与が活発になれば、相互的尊敬の基盤は弱まるどころか、強まるはずだ。</blockquote>

  • 哲学という分野に興味を持ったときにたまたまこの本をもらった。必要なときに必要な本にめぐり会えるのはおもしろいなあと思う。
    内容も重いし物理的にもわりと重いし、読み込むにも咀嚼するにもかなり時間がかかったけど、それだけの価値があった。これまで考えたことがなかったこと、考えたことはあっても漠然としていたことがどんどん浮き彫りになって、その形がみるみる鮮明になっていくのがおもしろくて、ちょっとつらかった。正しいとは何か。公平とは。美徳とは。正義とは。自由とは。そんなことわかってるつもりだし、辞書を引けば意味なんていくらでも出てくるけど、それだけじゃあ全然わかっていない。わからなくても生きていけるんだよ。それでもそういう、「わからなくても生きていけるけど、わかると世界のことがいつもよりはっきり見えるし、自分の痛いところも鮮明に見えてしまう」みたいなものが哲学なのかなと思った。
    あと246Pのクマのプーさんからの引用がめっちゃ好き。

    【読んだ目的・理由】哲学のことを知りたかったから
    【入手経路】もらった
    【詳細評価】☆4.3
    【一番好きな表現】トマス・ホッブスは理性を「欲望の偵察者」、デイヴィッド・ヒュームは「情熱の奴隷」と呼んだ。(本文より引用)

著者プロフィール

1953年、アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス生まれ。アメリカ合衆国の哲学者、政治学者、倫理学者。ハーバード大学教授。

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