オリーヴ・キタリッジの生活

  • 早川書房 (2010年10月22日発売)
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本 ・本 (408ページ) / ISBN・EAN: 9784152091628

感想・レビュー・書評

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  • 架空の海辺の町クロズビーに暮らすオリーブ。長年、中学の数学教師をし、現在は夫ヘンリーと穏やかに暮らしている。大柄で、周りの人達からは傍若無人と見られているオリーブの60代〜74歳まで、13篇からなる連作短編集。ストラウトの代表作。ピュリッツァー賞(2009)。ゆっくりと読むことを強要される(著者に読むスピードをコントロールされてる?、読解力の問題?)が、最終話に到達した時は感動する。「①始めから順番にお読み下さい。…、②第1篇だけで判断せず、せめて2篇か3篇は…」(訳者あとがき より)
    夫ヘンリーを卒中で亡くし、最愛の息子と仲違いした74歳のオリーブに光がさすエンディングが素晴らしかったです。続編『オリーヴ・キタリッジ ふたたび』を読むのが待ち遠しいです。

  • ピュリッツァー賞受賞作、地区センターにてお借りし、1度期間を延長、それでも読み終えることが出来ずに一旦返却させて頂いた本書。

    途中で返却したのが気になり、地区センターにて再度手にして続きから...

    241Pにて断念しましたm(_ _)m

    まだまだ未熟だなぁσ(゚Д゚*)


    <あらすじ>
    ピュリッツァー賞を受賞した連作短編集です。アメリカ北東部の小さな港町クロズビーを舞台に、一見平凡な町の住人たちの生活が描かれています。物語の中心には、元数学教師であるオリーヴ・キタリッジがいます。彼女は大柄で頑固な性格ですが、時には温かく繊細な一面も見せます。夫のヘンリーは薬局を経営しており、穏やかな性格で町の人々に好かれています。息子のクリストファーは成人して医者になり、二度の結婚を経験します。この短編集は、オリーヴと彼女の家族、友人、町の住人たちの交錯する人生を通じて、人間の複雑さや苦悩、喜び、そして人生の儚さを静かな筆致で描き出しています。

    すべての人生が、いとしく、切ない。ピュリッツァー賞を受賞した珠玉の連作短篇集。

    アメリカ北東部の小さな港町クロズビー。一見静かな町の暮らしだが、そこに生きる人々の心では、まれに嵐も吹き荒れて、生々しい傷跡を残す――。
    穏やかな中年男性が、息苦しい家庭からの救いを若い女性店員に見いだす「薬局」。
    自殺を考える青年と恩師との思いがけない再会を描いた「上げ潮」。
    過去を振り切れない女性がある決断をする「ピアノ弾き」。

    13篇すべてに姿を見せる傍若無人な数学教師オリーヴ・キタリッジは、ときには激しく、ときにはささやかに、周囲を揺りうごかしていく。

    出版社からのコメント

    「陰鬱な短篇にも、人と人との絆から生まれたぬくもりがかすかに光っている……私たち自身の感情のように生々しく、また、いとおしく共感できる密やかな悲しみが描かれているのだ」(ワシントン・ポスト紙)、「読書の純粋な喜びを味わえる」(サンフランシスコ・クロニクル紙)などと高く評価され、ピュリッツァー賞を受賞したほか、全米批評家協会賞候補ともなった作品です。登場人物たちの鮮烈な心情に共感せずにはいられない傑作だと思います。

    著者について

    1956年にメイン州ポートランドで生まれる。第一長篇『目覚めの季節 エイミーとイザベル』(1998)でオレンジ賞とペン/フォークナー賞の候補となり、《ロサンジェルス・タイムズ》新人賞および《シカゴ・トリビューン》ハートランド賞を受賞。第二長篇Abide with Me(2006)を経て、2008年に発表した本作で2009年度ピュリッツァー賞(小説部門)を受賞。《ニューヨーカー》など多数の雑誌で短篇を発表している。現在ノースカロライナ州クイーンズ大学で教鞭を執る。ニューヨーク市在住。

  • オリーヴ・キタリッジはアメリカ北東部の小さな港町クロズビーに住む数学教師。歯に布着せぬ物言いと、ときどき激情に駆られて攻撃性を見せるため、周りからは敬意を持たれつつ怖がられている。もともと大きな図体は老人になってからさらに巨大化した。
    薬局を営むヘンリーは人がよく穏やか、一人息子のクリストファーはたまに精神に不安定さを見せるが医者として独り立ちしようとしている。
    物語はクロズビーの住民たちの日常の一コマや心の動きを通しての人生の機微。
    オリーヴ・キタリッジがすべての短編に出てきて、短編の最初から最後で30年くらい経っている。激情型の中年女は枯れることなく激情型老女になってゆく。人から「よくあんな女を」と言われる面もあれば、生徒たちからは「怖い先生だけれど個性的で強い言葉を言って嫌いではない」と言われる面もある彼女の影響を受けて密かに変わることもある。
    2009年度ピュリッツァー賞(小説部門)を受賞した作品。

     家族を愛しながらも、自分の店の若い女性店員との交流に心の安らぎを見出す男/『薬局』

     自殺するために故郷に戻った青年が、恩師と語り、若い女性が生きようとする姿を見る話。
    「わけのわからない、めちゃくちゃな世の中だ。こんなに彼女は生きようとする。夢中でしがみつくではないか」(P70) /『上げ潮』
     
     バーでピアノを弾く女は町の有力者の愛人だった。ある夜訪れた心の転機。 /『ピアノ弾き』

     新郎の母は、何もかも心得たような新婦の顔に不安を感じる。だから人生のちょっとした刺激になる”小さな破裂”を起こす。
    (※嫁の立場からすれば、嫌な姑と思ってしまうんじゃないか…^^;) /『小さな破裂』

     子供が独立したことと、拒食症の若い娘の転換を見たことにより夫婦のすれ違いに気づいた男 /『飢える』

     乱入した犯人の人質になった夫婦は銃を突きつけられながら言い合いになる。助かったあとも、夫婦の双方から見方が変わってしまうようなわだかまりを残した。 /『別の道』

     二人で穏やかな老後を過ごすはずだった夫婦の前に突きつけられた、夫の過去の女性問題。だがもうどうにもしようがないのだ。
    「いまとなっては二人そろっているほかに何があるだろう。そうでさえなかったとしたら、どうすればよいのだろう」(P206) /『冬のコンサート』

     息子が問題を起こしたため密かに暮らしている夫婦。その姿を見て自分自身を突きつけられる友人。 /『チューリップ』

     病気で死んだ夫は旅のバスケットを用意して希望としていたのに。
    どちらに傷ついたのだろう。葬儀の日に過去の浮気を告げられるのと、叶わなかった希望を目の当たりにするのと。 /『旅のバスケット』

     二人の娘の男性問題に怒りをぶつける母/『瓶の中の船』

     「妻と子供たちの面倒を見てほしい」と息子に言われた母親は喜んで訪ねてゆくが、哀れな老人扱いされていることに怒りをぶつける。だが今度は息子も黙ってはいない。 /『セキュリティ』

     「お前には黙秘する権利がある」権利がある。そんなことを言ってもらえるのなら、逮捕されてみるのも悪くないだろう。 /『犯人』

     夫を亡くした老女と、妻を亡くした老人。人間との暖かい交流を求めていることによってこの年でどんな関係になってゆくのか。
    「よくわからない。この世界は何なのだ。まだオリーヴは世を去ろうとは思っていない」(P400) /『川』

  • 静かな暮らしであるような田舎にあっても当然のごとく人々はそれぞれ心に嵐を飼っている。ひとくちに人生といっても、肩書き、年収といった目に見えるものと、信条、折り合いをつける心といった見えないものの変遷があり、晩年に支配されるのは目に見えないものによってのことが多い。中高年は、前に延びる道に目をこらすよりも、来た道に落し物がなかったか振り返るような年代。なぜ今この場所にいるのか、過去に理由を探してしまうステージでもある。いつ死んでも構わないと考えるほどの単調な日常においても、季節の移ろう様をみて心動かされまだまだ生きたいという情熱に簡単に覆ってしまう、境遇の安定とはまた別個の不安定さがある。オリーヴ・キタリッジといういかめしく頑固でありながらも繊細で実直な大柄の数学教師、彼女の肖像が、他の短編との数珠つながりによって、あらゆる角度から描かれていく。だれもがこの世をふるさとにしている。せつない。

  • こんな作品との出会いを待ち望んでいた、と読んでいる最中から強く感じた。

    メイン州の架空の田舎街グロスビーに住む、元数学教師が主人公の短篇連作集。短篇集にはありがちなのだが、短いストーリーの中で新たな登場人物がひょこっと現れたり、そこから話が展開するので、注意深く読まないと、すぐに読み落としてしまいがち。だから短篇集は苦手なのだけど、この作品集には最初の作品から何というか、良い意味で引っ掛かった。

    主人公オリーブの性格は、時に破天荒で周りの人をヒヤヒヤさせるが、正義感のつよさもある。短篇によってメインの登場人物は異なり、彼女がメインを引き立てる対比役となることもある。

    登場人物はいずれも年齢に関係なく、何らかの人生経験を重ねた人物像として描かれている。例えばオリーブの息子クリストファーも離婚、再婚を経て母親と対等に対峙できるようになって、ようやくチョイ役から主要人物として描かれる。いずれの作品も、一人では生きていけない、どこかで人と繋がっていたいという人間の弱さ、哀しみ、人生の機微を、情景描写と共に巧み表現している。作者の構築した世界に居心地の良さを感じながら読者する愉しみ、これぞ小説の醍醐味。ただこの小説の世界は、分断化が進む広大な米国にあって、かなりリベラルな地域なんだろうと推測する。続篇『オリーブ・キタリッジふたたび』で、そのあたりどのように描かれているか楽しみだ。

    自分の知らない世界や考えを見せてくれるというより、あー人生なんてこんなものだよね、ここわかるわーと共感できる、そして傍に置いて折りにふれ何度も読み返したい本。
    人生に夢や希望を持つ、あまり人生経験を積んでない人にはちょっと刺激が強いかも。

  • 作家デビューが遅く、作品数が限られている。これは第三作目の短篇集だが、すでに自分の世界というものを持っていることが分かる。そして、その世界には確固としたリアリティがある。合衆国最北東端メイン州にある海辺の小さな町クロズビーが主な舞台。小さなといっても、そこはアメリカだ。車がなければどうにもならない広さがある。小さいのはコミュニティの規模だ。誰もがほぼ顔見知りで、家族の抱える弱みや泣き所は皆の知るところである。

    十三の短篇は、各話独立しているものの、最初の「薬局」から最後の「川」まで、十三篇を通して読む連作短篇集として編まれている。表題のオリーヴ・キタリッジは、「薬局」では、主人公ヘンリー・キタリッジの妻で、七年生の数学を受け持つ教師で、クリストファーという一人息子がいる。このオリーヴという個性的な女性が、時には主役、時に脇役、あるいはちらっと顔を見せたらすぐに消えてしまう端役をこなし、小説を一つの世界につなぎとめる役割を果たす。

    架空のスモールタウンに暮らす住民の家を次々と覗き込みながら、ありふれた市井の人々の抱える悩みや、生きることの苦しさ、中年の危機、親との確執、妻に隠れた恋愛事情、といったどこにでもあるテーマを、中心になる人物の組み合わせを次々と切り替えて描く。話が変わるたびに視点は主人公を演じる人物に寄り添う。そうすることで、オリーヴという女性の性格や言動も、よくある小説のように、ただただ善人であったり、一方的に悪人にされたりはしない。

    熱血教師で、それを怖いと感じる生徒もいれば、困っている子に目と心を向けるオリーヴを好ましいと思っている子もいる。若い頃は背が高いだけだったが近頃では肩も腰も張り出して大型化している。手など男のようだ。相手がたとえ誰であっても傍若無人、思ったことを言い、行動する。大学は優秀な成績で卒業した。考え方がリベラルで同性愛者にも理解がある。つっけんどんな物言いは口癖のようなもので悪意はないが、人によってはそれを快く思わない。だから、あまり人と顔を合わせてしゃべるのは好きではない。庭に球根を植えたり、夫と二人で家を建てたりするのが好きだ。

    夫のヘンリーはといえば、人の世話を焼きたくて仕方のない善人を絵に描いたような男。妻の言いたい放題を柔らかく受け止めて、周りに波風が立たないよう、うまく収めている。「薬局」では、このヘンリーの店に勤める女店員デニースとの出会いと別れが描かれる。結婚したばかりの夫に死別され、他郷で独り暮らしを余儀なくされる若い娘に対する同情が、俗にいう「可哀そうなは好きだってことよ」そのまま、愛へと変わる。いわばプラトニックな不倫である。オリーヴと別れる気もないくせに、デニースに別の男の影を見ると腹を立ててしまう。中年男の妄想を描いた話は他にもう一篇。どちらも切ない。

    十三歳の時町を出たケヴィンが医師の資格を得て久しぶりに町に帰ってくる。銃で自殺した母を目撃した過去を持つケヴィンは自分に精神病質があるのを知り、自殺する前に家を一目見ておこうと帰郷する。ところが、海辺のレストランの前に車を停め、思案に耽っているところをオリーヴに見つかってしまう。図々しく助手席の乗り込んだオリーヴは自分の父が自殺した時の話を始める。そんな時、二人がよく知るパティが花を摘みに出た岩場で足を滑らす。

    親に死なれた子である教師と、死に場所を求めて帰郷したかつての教え子。そんな二人の目の前で、早産の癖のついた新妻が波にのまれて溺れかけている。荒々しいメインの海を舞台に、生と死の拮抗を描く「上げ潮」は、比較的劇的な話の少ない短篇集の中で異彩を放つ。十代遡れるスコットランド系の先祖を持つ女性オリーヴは、一見すると傍迷惑な存在だが、人生から滑り落ちようとしている人間にとっては救いの神となることが多々ある。これもその一つ。捨てる神があれば拾う神もあるのだ。

    この調子で、町の住人が繰り広げる、何気ない人生の一コマ、一コマを、丁寧にすくい上げて、よく練られたプロットを駆使し、絶妙な展開を見せる。どんな平凡な人間であっても、その人生の中で、たった一日くらいは、小説よりも奇なる出来事に出会うことがあるものだ。この短篇集は、オリーヴが中年の頃から七十四歳になるまでの間を扱う。長い時間をかけて見聞きしてきた各人の話を、語り出すときには当人の視点で語るのだ。

    「小説よりも奇」と書いたが、怪異な事件が起きるという意味ではない。どこまで行っても人間の話である。人と人との間に起きる。しかし普通は、あってはならないことが起きる。例えば、昔の恋人が別れて何年も経ったある夜突然現れ、実は別れた後で母親が男の前に現れて服を脱ぎだしたことがある、と告げにくる話がある。また、夫の葬式の日に、家に同居していた従妹から、夫と一度だけ寝たことがあると告げられた寡婦の話がある。晩年の人生を「賜物」と感じていた妻が、コンサートの晩、知人夫妻の話から、夫の過去を知らされる傷ましい話もある。

    何篇かを除いてほぼ田舎町の老人に起きる人間関係のもつれを扱っている。そんな話どこが面白いのだと言いたくなる若い読者もおられよう。しかし、もしこの国の政治が今よりもう少しましな人たちの手で執り行われるようなことになったら、今の若者も長生きできるかもしれない。そうなったら、この短篇集の凄さもわかることだろう。よく「珠玉の」という修飾語が短篇集に使われるが、そんな生易しいものではない。人が長く生きていれば、昔は美しかったものも醜くなるし、可愛かった子も他人になってしまう。

    そのなかで、生き続けていかなければならないのだ。綺麗ごとなど言ってはいられない。自分の辛さや苦しさを、何とかするためには人の不幸さえ利用する。葬式には顔を出し、悲しみに沈む人の顔を見れば、少しは自分の悲哀も薄れるかもしれない。息子の起こした事件が原因で世間に隠れて暮らす夫婦の話を聞いたら、つれない息子のことも、あそこよりはましだと思えるかもしれない。そんなオリーヴの目論見は次々外れ、人生のもっと過酷な相に出遭うことになる。

    一篇、一篇がどれも重い。が、中には悲哀の底に輝石のように光るものが沈んでいることもあり、救いが一切ないというのではない。『私の名前はルーシー・バートン』を読んで、他の作品も読んでみたいと思い、リストアップした中の一冊である。思った通り、他の作家にはない独特の小説世界を持ち、小説を読む愉しさを堪能させてくれる。読んでいると、アンドリュー・ワイエスの描くメインの海辺や針葉樹の姿が何度も目に浮かんできた。あの何とはいえず怖ろしさを秘めた静謐な風景はこの作家の世界にどこか繋がるものを感じる。

  • 心にしまい込んだ苦い記憶、口にすべきではなかった言葉。知りたくなかった真実。耐えがたい己の自意識。様々なきっかけで、語り手達の心は何度も過ぎ去った過去へ流れ出していく。
    そして「心の奥の蛇口が漏れるように泣いて」いても、時間が少しづつ傷口を覆い隠して、暮らしは続いていく。
    でもそれは決して絶望ではない。暗く吹雪の冬が過ぎれば、秋に植えた球根が咲く季節がまた巡ってくるのだから。
    翻訳者の後書きから「使用上の注意」を引く。
    『初めから順にお読みください。順序を乱すと効き目が薄れることがあります。』
    『第一篇だけで判断せず、せめて二篇か三篇は服用して、しばらく様子を見てください。』
    これは冒頭に書くべきだろう。
    僕は五篇目から完全に没頭してしまった。とても感情移入できないと思ったオリーブだが、最後には気持ちが移り悲しみに寄り添っていた。感情を揺さぶる優れた小説だと思う。
    最後に、翻訳者を真似てもう一つ注意を。
    『読了後の効き目が薄れる前に、第一篇を再度服用してください。』
    キタリッジ夫妻の生活は心に深く刻まれ、忘れられなくなるでしょう。

  • 小川高義氏の翻訳をたのしみに、読み始めることすら惜しくてしばらく書棚に置いておいた本書をゆっくり堪能し、ようやく読了。期待にたがわず素晴らしい短編集だった。
    勝気で無愛想なオリーヴ・キタリッジ。13篇の短編では脇役としても主役としても登場する。気難しく、物言いがきついオリーヴは、万人に愛されるとは到底言い難い。
    けれど、彼女が主役として登場する物語ではその圧倒的な孤独と人生観を知り、共感せずにはいられなくなる。だれにもオリーヴ的な部分はあるはずだから。
    近隣の人間を主人公に据えた作品では、オリーヴの登場がわずか数行の場合もある。けれども、彼女の人間性が直球で描写されていて、その数行すら忘れがたい。訳者あとがきの通り、どんな「田舎町の日常にも、人の心の中まで見れば作家が書くべきものはある」ということ。
    小川さんの翻訳は、いつもながら素晴らしい。職人芸。原作者は、邦訳がこんなに素晴らしいことを誰かに教えてもらっているのだろうか。

  • 古き良きアメリカの名残ある小さな町が舞台。オリーブ・キタリッジという大柄な女性のむき出しの人生。率直がとりえの一生懸命で自分に忠実な彼女は時に滑稽で愛らしい。老いへの内心をきれいごとなくさらけ出していて圧倒された。人間を描ききっているので、普遍性がある。登場人物はすべて厄介な人しかいない(厄介でない人間なんて存在しない、ということを突きつけてきて面白い)し、鬱々とした話ばかりなのだが、オリーブ自身もさっぱりした性格で、最後はなんか清々しい気持ちになった。
    夫のヘンリーが愛すべき人物で、彼がメインの1話目の「薬局」が特によかった。

  • 架空の街を舞台にした群像劇。全ての話に重要であれ端役であれオリーヴ・キタリッジが関わってくる。

    こういう語り口はすごく好きだ。話ごとに少しずつ時間は進み、他人の口から、または本人の口からオリーヴがどのような生活をしているのか知ることができる。
    架空の街のピーピング・トムになった気分。あるいはやたら近所の事情に詳しいおばちゃん。

    一篇一篇は独立した物語で、主人公も、それぞれ抱えている悩みも違うが、寂れた港町ではどうしても恋愛スキャンダルや死が話題に上りがちになる。オリーヴが生命力に溢れた女性なのに対し、周囲は死の話が多い。最後にはオリーヴすらその死に巻き込まれそうになってしまっていた。
    それでも、信仰が薄れ、死が決して救いではなくなった世界で作者が描きたかったものは生への讃歌かと、勝手に思う。

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