ダイナミックフィギュア〈下〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

著者 :
  • 早川書房
3.48
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152091963

作品紹介・あらすじ

香川県善通寺市に本拠地を置く対キッカイ要撃組織・フタナワーフの部隊は、身近な者たちの死を乗り越えた栂遊星の驚異的な活躍もあり、第一次要撃戦にかろうじて勝利する。だがその代償はあまりに大きく、フタナワーフは精神的支柱たる全権司令官を失っていた。また、遊星のガールフレンド・公文土筆は、日本政府に軍事技術の放棄を迫る思想集団と行動を共にするようになる。その裏切りとも取れる活動と逃亡の事実に、遊星は計り知れない無力感を覚えた。だがそんな最中にも、対キッカイ第二次要撃戦の予定日は刻々と近づいていた…。進化を繰り返し、さらに強大になっていくキッカイを倒すことは可能なのか。地球に現われた渡来体の真の目的は何なのか。異星生命体と二足歩行兵器との、誰も見たことのない驚愕の総力戦が待ち受ける。

感想・レビュー・書評

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  •  上巻ではキッカイを四国内に留め、ゆくゆくは殲滅するという目標を軸に、ダイナミックフィギュアの活動開始とその活躍があたかも中心的な主題のように語られてきた。つまり「巨大ロボットもの」。
     しかしこの巨大ロボットは一人で動かせるわけではなく、司令船パノプティコンのクルーはじめ多くの人が関わる。本書の人間ドラマはそこがひとつの焦点。とりわけ、下巻では、手痛い打撃を食らったこのチームが再生していく様はまるで梁山泊の躍動感がある。
     また、本書が「巨大ロボットもの」に留まらないのは、巨大ロボットを出現させるための設定と思われたものが、それ自身を語り始めるからである。物言わぬ背景的状況かと思われた飛来体「カラス」と「クラマ」も動きを見せ始める。

     渡来体「カラス」の建造物の放つ究極的忌避感という設定は、人間のあり方にも立ち入って、本作の重要なテーマとなっている。「カラス」の建造物になぜ忌避感を感ずるかという点については、あまりに高度に人工的なものだからという仮説が述べられる。そしてそのような忌避感というのは、例えば誰かを生理的に好きになれないといった日常的な忌避感と地続きなのだ。他方、究極的忌避感に鈍いダルタイプは人間関係においても相手の心理を慮れない鈍さを呈すると描かれる。そうした視点が、人間関係一般から、さらには集団としての人間、社会、政治といった視野に広がっていく。
     2人の主系パイロットはダルタイプだが、遠隔操作の副系オペレーターの栂遊星はナーバスで、何より人々の間の平和を愛する人物として描かれる。キッカイの処理部隊フタナワーフの佐々史也はそもそもダルタイプだったが、化外の地で20日間置き去りにして生き延びたあと、究極的忌避感をまったく感じなくなってしまう。それゆえ彼は重要な任務を担わされるようになる。

     巨大ロボットを国際政治の状況に置くのも、先例はあるが、ある国が巨大ロボットを持つと隣国の戦略的脅威とみなされるというのはリアリティがある。それゆえ、ダイナミックフィギュアの起動にはその都度、五加一、すなわち5カ国プラス1地域(アメリカ、ロシア、中国、北朝鮮、韓国、台湾)の承認を要する。ダイナミックフィギュアの頭部に操縦席が着脱されるという形態も、そこに弱点を作っておくという隣国の保険である。遠隔操縦のみの運用なら頭部は不要で、だから加藤直之の表紙イラストには首のないダイナミックフィギュアも描かれているのだ。
     しかし、そのようなダイナミックフィギュアを核に勝る兵器として保持することで、日本の覇権をめざす政治家集団セグエンテが政府の一角に勢力を持っている。ダイナミックフィギュアには核兵器をも無効にする渡来体の技術が使われているからである。セグエンテは何も世界征服を目論んでいるわけではなく、日本の覇権下で、力による世界平和を実現したいのだ。この飛来体を神とみなす国際的思想集団インバネスの日本組織はこのセグエンテの野望を挫こうとしているが、栂遊星のガールフレンド公文土筆はこの組織に加わり、「クラマ」との意志疎通に成功する。実は「クラマ」もキッカイのように概念を求めていたのだ。

     ダイナミックフィギュアは道具にすぎず、物語は飛来体の事情とそれに対峙する人間の行状が主題となる。話は極めてモラールな問題意識とともに進んでいく。しかし、最後決戦はお約束のように、ダイナミックフィギュアによって戦われ、巨大ロボットものの快感を満足させてくれるので安心されたい。ただし、最終決戦の敵が、誰なのか何なのか、なかなか話が読めない展開なのである。
     登場人物たちはみな魅力的だ。また固有名詞も味がある。キッカイ対策の国連機関ソリッドコクーン、キッカイと飛来体の研究施設ボルヴェルク(防波堤)、キッカイ要撃隊フタナワーフ(四国の古名・二名島+波止場)、究極的忌避感に見舞われる弧介時間、国際的管理の下、鎖でつながれているダイナミックフィギュアの出動は「出獄」、キッカイが封じ込められていることを確認する飛行船団はプリズンガード、エネルギーの直接変換を可能にする飛来体の技術は、アインシュタインの綴りを逆から読んで、ニーツーニー、などなど。
     しばしこの術語の世界に遊び、物語の終結によってそこから切り離されることには相当の苦痛を感じた。

  • 2011年2月25日、初、並、帯無
    2015年8月1日伊勢BF

  • 香川県善通寺市に本拠地を置く対キッカイ要撃組織・フタナワーフ部隊は、司令官を失いながらもキッカイの第一次要撃戦にかろうじて勝利するが、その戦いの最中、遊星のガールフレンド・土筆は、日本政府に軍事技術の放棄を迫る思想集団と共に行方をくらます。
    更にキッカイ第二次要撃戦の予定日は刻々と近づいていた…。
    進化を繰り返し、さらに強大になっていくキッカイを倒すことは可能なのか。
    地球に現われた渡来体の目的は何なのか。
    異星生命体と二足歩行兵器との、誰も見たことのない驚愕の総力戦がはじまる――。

  •  巨大な人型兵器…つまりロボットに搭乗して異星人から日本を守る戦いを描いた物語。
     異星人やキッカイという斬新な世界設定、政治力学の延長線上に存在する軍事力と戦闘行為の表現、青春ただなかの少年少女パイロット達の葛藤、異星人との戦いの最前線となってしまった日本の日常生活が細かく書かれている。
     世界設定の特殊性を理解するのに少し時間がかかりました。
     文体は少し読みにくいものの、登場人物達を通して強いメッセージを感じます。
     クライマックスは大変盛り上がりますが、勢いで読んでしまわないと分かりにくい箇所もあるように感じました。

  • 世界設定はすごく面白いと思うのですが、そこに生きる人々はなんの変革もなくまさに現在の我々・・・というところが凄いSFになり損ねている理由でしょうか。TVアニメにしたら面白いんだろうな。

    執拗に戦闘シーンが描かれていますが、上下巻必要だったのでしょうか。

    長い。

  • ちょっと下巻で駆け足になってしまった感じ。頑張って映像化してほしいなぁ…

  • 下巻となり、物語が収束していくにつれ、主人公・栂遊星の個人的な物語へと傾いていくのは仕方がないのかなあ…と思いつつも、やはり上巻の稀有な流れをキープできぬまま終わっていったのは残念である。

    とはいえ、中盤の安並風歌パノプティコン初陣は圧巻! 物語全体を貫く堅牢な文体が、場面ここに至りて高揚感を加え、さらに独特なテンションを生み出しているように思う。

  • 何度も前を読み返しながら進めた上巻と違って、人間関係も世界観も頭に入ってきたので、ずいぶん読みやすくなった。

    このままキッカイと戦い続けるのかと思ったら、下巻に入って大きく話が展開してきた。
    “えーっ?クラマに勝てちゃうの?”という感じでしたが。

    是沢チルドレンとか是沢魂とか、アツいなぁ。

    上巻のレビューに書き忘れたけど、各章で視点が変わるんだけど、誰の視点で書かれているのかがわかりづらくて、そこだけはちょっとマイナスポイントです。

  • 本書はハヤカワから出版されたロボット物のSF上下巻です。

    #そう言えば、上下巻の表紙を合わせると1枚の絵になりますね。

    文章は1ページが上下2段に別れ、比較的細かな字でびっしりと書かれています。
    それが上下巻ですから文量としては多い方になります。

    読み始めて最初の方は、作品世界の把握と色々と立場が変わったり、あるいは新しく出てくる登場人物の把握が手間で、冒頭の人物紹介一覧を2,3回見直すハメに陥りました。

    #登場人物の名前が耳なじみが無い物が多いと言う事も影響しています・・・
    #なんで、変な名前を使いたがるのか・・・

    おまけに読んでいて意味は分かるが、日本語としておかしな感じがする文章を何度か目にするなど、あまりの文量の多さに編集者もきちんと目を通せなかったのかと勘ぐってしまうことも。


    この様に若干難有りな感じの本書ですが、上巻の途中から人物と状況が大体固定され、また作品世界の把握も出来る様になったので、以降スムーズに読み進めることが出来ました。


    色々と書きましたが・・・・

    あらすじの方を簡単にご紹介。


    地球に突如飛来した"カラス"と名付けられた"異星人"。

    彼らは地球に対する侵略行為と取られる行動を起こしますが、"カラス"を追って飛来した"クラマ"の手によってその行動が阻まれます。

    以降、"カラス"、"クラマ"、双方共に地球に居続けることになりますが、"カラス"によって引き起こされる"弧介時間"と言う災害が人類を苦しめます。

    その様な中、弧介時間に耐性を持つダル・タイプと耐性を持たないナーバスに二分化された人類同士の確執や"カラス"に勝った"クラマ"を神と崇め奉る"インバルス"と言う新興団体の振興など、人類社会に様々な変化が起こります。

    この状況下で"カラス"が生み出した"キッカイ"と言う存在を打ち破るために選ばれた若きエースパイロット・栂遊星(トガユウセイ)と彼の恋人で後に彼を裏切りインバルスの活動家になった公文土筆(クモンツクシ)、そして彼らの周囲の人々が苦しみながらもそれぞれの敵と戦っていくお話です。


    文量はとても多いですし作品世界の構想などは商業作品のレベルには達しているとは思うのですが・・・・

    上記しましたが、何というか、文章自体におかしな表現が散見し、その為、時々、文章を書く事に慣れている一般人が趣味で書いた文章から感じられる荒削りな感じがすると言うか・・・

    あるいは・・・編集の手が入っていないと言うか・・・

    そこが気になって、商業作品としてはどうなの?と言う疑問が最後までつきなかった感じでした。

    #決して読めない感じではありませんし、気にならないという方は気にならないでしょうが。。。

    #それでもね・・・

    #まあ、自分もあまり他人のことは言えませんが・・・


    まとめてると、SFライトノベルのテイストを残しつつ、若干それのハード版と言った感じでしょうか?

    いつもライトノベルを読んでいるという方が、頑張って読むといいかも。

  • ラストは、「う~ん。そうなるか~」という感じでした。なんというかアニメっぽいお話という感じがしました。

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著者プロフィール

1969年生まれ。関西大学工学部電子工学科卒業。『ルナOrphan'sTrouble』で第4回日本SF新人賞を受賞し、2003年にデビュー。その他の著書に、『ダイナミックフィギュア』『シオンシステム[完全版]』『ガーメント』『ウルトラマンデュアル』などがある。

「2021年 『クレインファクトリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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