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本 ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784152092021
作品紹介・あらすじ
人間の脳は知的能力をいかに発達させたのか? 知能検査の意外な効用、人工知能と心の関係、脳損傷後の行動変化、極限状態の人間観察など、ベテラン脳科学者が先端諸学の成果から知の源に迫る。
感想・レビュー・書評
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脳科学は急速に進歩をとげており、本書は2011年時点で恐らく最前線の本ということになるのだろう。裏表紙をめくると、「先端科学で『知』の源に迫る!」とあった。たしかにそのとおりだった。しかし、専門用語を多用しており、理解するのが極めて困難だった。本書は医学生であれば読みこなすことができても、それ以外の人が読むには少し困難だと思った。
4月20日読書開始4月25日読了。
目次
プロローグ 混沌から秩序へ
第一章 「知」は力なり
第二章 能力差はどこで生じる?
第三章 モジュール性の脳と心
第四章 知識と行動を結ぶもの
第五章 人工知能から「思考」を探る
第六章 前頭葉で起きていることーサルの食事から戦闘指揮まで
第七章 「理性」は何でも合理化する
第八章 「知」の生物学的限界
訳者あとがき詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いわゆる「知性」とは何を意味するのか、というお話。
心理的なメカニズムと、生物学的な機構の両方からアプローチしていく。
とりたててわかりやすいという印象はないが、ざっくりと理解することはできる。
「知性」の要点は、「統合」であろう。入力器官から入ってくる情報を、いかに統合し、適切な行動へと結びつけているのか。じっくり考えてみると、人間というのはなかなかスゴイ生物である。
本書の最後では、真理というものにどこまで迫れるのかについて否定的な意見が述べられている。脳は自身の神経系を超えたものを理解することができない、と。
私自身は、もう一段階上までは上れると考えている。ただし、それはもう「人間」ではないかもしれないが。 -
今から100年ほど前実験心理学者のチャールズ・スピアマンは複数の教科の成績が一般的な学力の高さを測る複数の結果と見なせるかも知れないと考えた。同様に、複数の種類の感覚の弁別の正確さ(例えば色の違いや音の違い、匂いなどの違いを正確に区別できるか)は、一般的な弁別能力を測る複数の結果と見なせるかも知れない。彼の方法で測定すると(補正はしているが)学力と感覚能力は約1の相関を示した。つまり学校のテストと感覚実験の”一般的な”能力を比較すると二つの能力が同じもののように見えたのだ。簡単に言うとこうなる。感覚が優れている人は頭が良い。
スピアマンは更に飛躍し学力や感覚能力だけでなくいかなる心的能力あるいは心的成績(決定の早さや記憶力、技術的な解決能力、音楽的そして芸術的な能力など)も測定するとした場合一般因子gと特殊因子sからなると考えた。どんなことをやらしてもうまくやる能力をgが代表し、何か一つのことだけが得意なのをsが代表すると考えても良いだろう。感覚的にこの説明は受け入れやすい。スピアマンの研究では例えば外国語の習得などはgが主になり、音楽などはsが主になる。このgに対する測定の研究は発展し良く知られるIQテストが生まれた。
gの測定については「どういう質問が適当か」ということは実はあまり重要ではない。多様な質問が集まっていればどんなものでもgの測定に役立つ。そしてその質問の数が十分たくさんあれば平均値が一般的には一人一人のgを十分表すと言える。質問の種類を変えても量と多様性が一定であればgの値は強い相関性を示すことがわかっている。IQが高い=頭が良いというのが普通の使い方だろうが、Wikiをみる限り同年齢間で同じ試験を受けた場合に標準偏差のどの位置にいるかを示している指標であり、必ずしも一般的な頭の良さそのものではないようだ。「知能」の定義自体があやふやなのだがIQといろんなことをうまくできることの相関の高さが実験的にわかっているので実用上問題なく使われていると言うことだろう。
知能には「結晶性」のものと「流動性」のものがあると言う説もまた納得できる。流動性の知能と言うのは新しい問題を解く現在の能力で一般的には年齢とともに低下していく。囲碁や将棋あるいは外国語でも一般的に子供の方が上達が早い。「子供の方が頭が柔らかい」などと言ったりするが学習能力は子供の方が高いのだろう。賢人と言われる様な年寄りでも流動性の知能に関しては普通の子供にめったにかなわない。一方で結晶性の知能は学習によって高まる。流動性知能が高くても学習していないことについては結晶性知能は高まらない。当たり前ですが。おっさんは積み重ねでしか若者に対抗できないということだ。だから今頃の若いやつはと説教を始めることぐらいは許してもらおう。そう言っていられるうちはまだ幸せな様なのだから。
脳に障害を負った患者にIQテストをやらせてみると、テストの結果からおもしろいことがわかった。「結晶性」知能を多く含むIQテストでは変わらず高い値を示したのに、流動性知能だけが必要なテストでは明らかに大きく低下していた。障害の部位によっては例えば買い物をしようとしても注意力が続かず他のことをしてしまうなどの例や脳にパイプが刺さった患者は非常に怒りっぽく性格が変わってしまった。
結局この本を読んでも知能が何かと言うことはよく分からないままだった。別の本では脳を鍛えるのは運動しかないという脳科学者もいるし、楽器の演奏が良いという説もある。例えば釘を真直ぐに打つだけでもびっくりするほど複雑な計算を無意識にしているのだと思えば、両手をばらばらに統一させて動かすための脳の働きはどれだけすごいことをやってるかと言うことだ。著者も結論を出していないが流動性の知能が高い方が学習効果も高いとすれば子供に勉強させたがる親は常識的な判断をしていることにはなるのだろう。 -
英国の認知神経科学者ダンカンによる
人間(と生物全般にも話は及ぶが)の脳で
いかなることが起きていて、
それがどう知性の発現と関わってくるかを
豊富な科学知見に基づいて興味深く仕上げた
ポピュラー・サイエンスの一冊。
原題は「How Intelligence Happens」。
まぁ原題からすると、邦題はちょっと
副題に凝りすぎている気がしないでもないが(笑)。
本書が他の脳科学系(?)ポピュラーサイエンスと
一線を画するユニークさを発揮しているのは、
100年前の心理学者スピアマンが考案した
「g」(一般因子)と「s」(特殊因子)という
知性発現の尺度と、
近年のfMRI等の装置によって急激に色々なことが
解明できるようになってきた神経科学の最先端知見の
組み合わせからの
「知性の正体」と言うべきポイントへの
鋭い踏み込みにある。
つまり、
心的プログラムでは
「認知上の囲い地」と呼べるものが高速、連続的に
生じていることで、高度な計画の立案や
身体操作による実行などを成し遂げているという
見解に立った時に、
実際に実験データによって、
前頭葉のニューロンの分散的・連携的な動きによって
脳の箇所が活性化し、用件が終わると静かになって、
ということが続いているということが分かってきた、
という点だ。
コンピュータの発達とともに概念的に進歩を遂げた
認知科学の見方が、まさしく脳で当てはまっている
ことが見えてきた、という
これは100年、50年がかりの科学の進歩的成果だと
話である。
とはいえ著者はそれを証明されたものだと言っている
わけではないし、まだこれからどう科学知見が
変化していくかは分からないとも冷静に見ている。
D.カーネマン、E.トヴェルスキーの
心理経済学の知見から、私たちの脳が合理化が
大好きで、理性はそれを導くものだということにも
触れている。
終章では、私達の認知上の限界について語られる。
おそらくは、脳のニューロンがつくりだす世界以上の
認知には到達しないであろう、という
別に悲観でもない、これまたクールな立場が
僕は好きだ(笑)。
本書を読むと、
「頭がいい」(これは日本語で、日本的文脈での
考察になってしまうが、それはおいといて)
という概念を、
いかに普段自分は適当に用いているかを
考えさせられた。
たとえば、日本では
「東大生は頭がいい」
という分かりやすい概念が好まれる(と思う)。
しかし、そこでいう「頭がいい」の定義や意味を
掘り下げることはほとんどない。
たとえばそれは、東大の入試試験の合格難易度が、
偏差値システムが表す分布でいうと、
2シグマを超えるあたりにあるから、
それを突破できる人は少数者であり、相対的に
希少である、というだけのことなのだろうか。
それとも、東大の入試問題は難しいから、
それを一定割合以上解けるということは、
絶対的に頭がいいという話なのか。
いやそれとも、東大卒業生の学術界などでの
華々しい活躍があるから、敷衍して、東大生は
みなおおよそ頭がいいだろうという通念の問題なのか。
まぁ、このたとえにしてもある程度ごっちゃで、
適切かどうかは怪しいけど、でもそれくらい、
こんな1フレーズだけ取ってみても、
社会的文脈を含めて混迷の度合いは深い。
たぶんその理由は、知性を議題にあげたときに、
それは本書の著者も
「アメリカ中を敵に回すぞ」と友人から警告を
受けたということからも分かるように、
強い人間間の相互感情と、社会道徳論のような
ものが必ずといっていいほど
付与されてしまうからではないだろうか。
本書を読めば分かるが、
別に社会の話は一切していない。
あくまで脳・神経系における知性とは何かを
科学的に探究しているだけのことだ。
だが、情報を受け取る側は、それが人である限り
必ずそこには感情が存在し、
好みのバイアス/フィルターをかけて認知してしまう。
だから、人らしいのだ、といえば、それもそうなのだが。 -
知性・脳のお話。
スピアマンの提唱したg。gはどんな作業をするときにも共通して働く知能で、gは前頭葉の働きと密接に関係しているという。
現在進行中で研究が進む脳科学の一端に触れられる一冊。 -
現在の最新技術を使うと、結構なところまで脳の働きを観測することができる。というのが後半の議論。前半は、知能指数についての話。政治的に慎重に議論する必要があるが、知能指数は確かに人間のある種の能力を反映する。ということ。前半の話は初めて読むものが多く新鮮。後半は、ミンスキーのsociety of mindのほうがいいかも。でも、[囲い地]という聞きなれない訳語とかで読書リズムが崩されているのがいけないのかも。最近の行動経済学といい、人間を操る科学がどんどん発達するよねえ。怖いけど止まらない。
田淵健太の作品





