ぼくは上陸している 進化をめぐる旅の始まりの終わり (下)

  • 早川書房 (2011年8月10日発売)
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  • 本 ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152092328

感想・レビュー・書評

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  • 上巻に引き続きの科学エッセイである。

    頭に残ったのはこのエッセイに通底する科学が作り出した通説の否定。さすがダーウィンの進化論に対し直線的な高次進化への疑問を呈した著者グールドであり、ここでは、ヘッケルの発生反復説への誤りも指摘する。

    人間が発生初期の胚の段階においては、魚類や鳥類などの進化の過程と同形態を経て、最終的に人類の形を成していくというもので、これは写真を見たことがある人も多いはず。しかし、あまり疑問に思わず、そんなものかと信じていたが、あれは不正論文で誤りであった事は公知らしい。

    ー ヘッケルは理想化と省略によって類似性を誇張したということになる。しかもヘッケルは、詐欺行為としか言いようのないやり方で、同じ図を単純に何度も複製して使用したりもしていた。たしかに、発生初期のある段階においては、カメ、ニワトリ、ウシ、ヒトの胚は、それらが成長して成体となった段階よりも、見た目にも明らかに、少なくとも目立つ特徴において互いによく似ている。しかしそうした初期胚にも、ヘッケルの図版に見られるよりもはるかに大きな相違点がある。しかもヘッケルの図版は、発生学の専門家の目を欺くことはできなかった。専門家はヘッケルの不正に当初から気づいていたのだ。

    似てはいるが、寄せた。痕跡器官とは証明できないのが真実であり、我々は、印象だけで捉えてしまった。だって魚の胚と人間の胚が似ていんだもん、である。我々の認知は常に騙されやすい。

    ー 興味深い物語は、たまたまか誤解と思われる名称で記号化されている場合が多い。たとえば政治的に過数な側は”左翼”と呼ばれ、それと敵対する保守が“右翼”と呼ばれるのはなぜなのだろう。ヨーロッパのたいがいの議会では、大半の人の利き手を優先する偏見と同じくらい古い慣習に従い、有力議員は議長の右側に座っている(こうした偏向は、缶切りや事務机から言語そのものまでを超えて広く深く浸透している。英語の“器用(dextrous)”という単語はラテン語の”右”が語源だし、不吉(sinister)”という単語はラテン語の“左側”が語源なのである)。名だたる貴族や大立て者の議員は保守的な見解を支持する傾向があるため、議会の右翼と左翼が政治的見解の構図を定義することになったのだ。私の専門である生物学や進化学の分野にも、そうしたたまたまによる名称がある。

    人類の認知は脆く危うい。我々は、ギリギリ、各々が信じるメタバースを生きるが、設定されたストーリー性は、恣意的なのである。

  • サイエンス

  • ここまで読んできたファンであれば締めとして、そうでなければ、ちょっと、とっつきにくい題材が多い。

  • 第4部 思想の古生物学におけるエッセイ
    第5部 賽を投げる―進化の縮図六題
    第6部 エヴォリューションの意味と描画
    第7部 本来の自然な価値
    第8部 「ぼくは上陸している」からちょうど100年の2001年9月11日の勝利と悲劇

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著者プロフィール

スティーヴン・ジェイ・グールド[Stephen Jay Gould]
1942年ニューヨーク市生まれ、2002年没。アンティオック・カレッジ卒業。コロンビア大学大学院修了。ハーヴァード大学教授。専攻は古生物学、進化生物学、科学史。著書は、ニューヨーク自然史博物館発行の『ナチュラル・ヒストリー』誌に1974年から20年間、300回にわたって連載したエッセイを中心にまとめた『ダーウィン以来』から『ぼくは上陸している』までの10冊の科学エッセイ集、世界的なベストセラーとなったカンブリア紀の奇妙な化石動物をめぐる『ワンダフル・ライフ』(以上早川書房)、進化発生学という新領域を準備した『個体発生と系統発生』、地質学的時間をテーマにした『時間の矢・時間の環』(以上工作舎)、科学の名のもとに行われてきた知能測定や優生主義を徹底的に批判した『人間の測りまちがい』(河出書房新社)など多岐にわたる。2002年、20年をかけて執筆した『進化理論の構造』(本書)刊行直後に逝去。

「2021年 『進化理論の構造』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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