それをお金で買いますか――市場主義の限界

制作 : 鬼澤 忍 
  • 早川書房
3.82
  • (99)
  • (227)
  • (131)
  • (20)
  • (5)
本棚登録 : 1802
レビュー : 226
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152092847

作品紹介・あらすじ

あるものが「商品」に変わるとき、何か大事なものが失われることがある。これまで議論されてこなかった、その「何か」こそ、実は私たちがよりよい社会を築くうえで欠かせないものなのでは――?
私たちの生活と密接にかかわる、「市場主義」をめぐる問題。この現代最重要テーマに、国民的ベストセラー『これからの「正義」の話をしよう』のサンデル教授が鋭く切りこむ、待望の最新刊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 市場が社会の公的な領域あるいは道徳的規範の領域に侵入したときに何がおきるか?

    ひとつめは、公平性にかかわる問題、ふたつめには、腐敗にかかわる問題が発生する。

    お金をより多く持つ人間が公的なサービスを受けやすくなるということは、公的サービスの公平性を損なうことになる。

    また、道徳的規範の領域に市場が入り込むと、道徳的規範そのものが損なわれる。

    経済学者はこう主張する。市場が問題とするのは効率性である。市場により財の分配が効率的に行われることにより、人々が享受する効用が最大化するのだ。

    市場主義の限界は、功利主義の限界である。市場主義は効用の「量」だけを問題とし、その「質」は問わない。これが、経済学者が市場を価値中立的とみなす理由である。

    経済学は自然科学、特に物理学を模範としてきた。自然科学であるからには、道徳的価値とは無縁だというのが、その発想の大元にある。

    市場が価値中立的だというのは誤りである。
    市場が侵入することによって、道徳的規範の「質」が変化してしまうことがありえる。それは単に「量」の問題ではない。

    効率性の増大のみを至上原理とし、人間生活のあらゆる領域に浸透してゆく市場主義が、社会を成立させる上で重要な道徳的価値を腐敗させている。

    だから私たちは、市場主義が浸透していく領域の限界を定め、それをコントロールしていかなければならない。

    また経済学者は、自分たちの仕事が単に計量化できる事象にだけ影響力を及ぼしているのだけではないということに自覚的になる必要がある。

    自然科学も、経済学も、それが取り扱う領域が複雑かつ膨大になるにつれて、人為的なコントロールの及ばない領域に突入してきている。

    それは現代文明が直面している危機である。

  • アメリカって恐ろしい。(好きな国だけど)需要と供給さえあればなんでもビジネスにするのか。いや、アメリカに限った話じゃないか、人間ってそういう性質があるのか。アメリカ人のほうが発想が柔軟だからいろんなことを思いつく。だからいろんなビジネスが生まれてる。サンデル先生は危機感を感じてこれを書いたんだろうな。考え方より多様な発想に驚かされた。

  • お金で何でも買えてしまうのだろうか?

    先日読書会に参加してきました。サンデル教授の本は「Justice」も読んで
    非常に勉強になっていましたが、今回も実に考えさせられる本でした。

    お金で買えないものは当然あるんですけど、その領域がどんどん狭まっていると感じる。
    例えば、愛や信頼というものは絶対に買うことができないけれども、
    臓器しかり、狩猟禁止領域の動物のハンティング権しかり、
    何でもお金さえ払えば入手できる世の中になりつつある。

    経済学的に双方が望んでいるのであれば、良い取引になるんだけれども、
    例えば臓器を売るという事が倫理上許されることなのか?
    そんな経済学の分野に政治哲学を持ち込もうとしたサンデル教授は本当にすばらしい。

    市場原理があらゆる取引に介入すると、2つの問題が起こるとサンデル教授は言っている。
    一つは公平性の問題、もう一つは腐敗が起きることだ。
    後者の例はイスラエルの幼稚園で起きた罰金 vs 延滞料金のだろう
    (ここではこの話を省略します。本に書かれていることなので)。
    いったんお金で解決しようとするとその人の行動の価値観を変えてしまい
    二度と戻ることがないのだ。

    この本を読んで恐ろしいと感じたのは「生と死を扱う市場」という第4章だ。
    アメリカではバイアティカルというものがあり、これは余命いくばくかという
    人の生命保険を投資家が購入して、保険料を支払いそしてその人が
    仮に死んだ場合は死亡保険を受け取るというのだ。
    考えてみてください、このシステムがうまく機能するのは余命1年と宣言された人が、
    予測通りなくなることが条件なのだ。
    人の死を願ってしまうインセンティブが働くことになる。
    信じられますか?このようなシステムがアメリカではすでに事実としてあるということを。

    ではどうすれば、この市場主義を止めることができるのか?
    それは我々が対話を通して市場の役割は何かという事を考え、
    市場が侵入してきてはいけない領域というものを作ることだ。
    ひいてはサンデル教授のいう共通善とは何かという事につながるのではないか。

    こういう機会を作ってくれた友人のYさんに感謝です。

  • アメリカと日本の市場の違いは勿論あるが、こういった市場の流れは確実に日本に侵食してくるであろうと考えられる。
    最後の章を読んでみると、昨日たまたま参加したカンファレンスにて発言されていた「広告の未来は広告ではない」という言葉と合致する部分を感じた。

    とはいえ、これから様々な面で、意味で、信用という言葉が重要になってくると感じた。本書ではその信用が市場主義の面で出てきただけである気がする。

  • 臓器売買や人身売買が「してはいけないこと」だというのははっきりしている。それは売り買いすべきものではないと圧倒的多数の人が思うだろう。じゃあ、お金を払って行列の先頭に行かせてもらうのはどうか?病院で優先的に診察してもらうのは?高速道路でスピード違反する権利を買うのはどうなのか?これらはいずれも他国で実際に売買されているのだそうだ。もしかしたらもう日本でもあるのかも。

    本書はこのような実例を次々と挙げて、何が問題なのかを考えていこうとしている。結論から言うと、市場主義が入り込むべきでないところに進出していくと、それ自身やそれを支える社会的な規範の価値を、低級な基準で査定することによって貶め、尊厳を傷つける、ということになるのだろうか。

    あげられる例が豊富で驚かされるものもあり、その点では面白いのだが、繰り返しが多くくどい感じのするのが残念。もっとコンパクトにまとめてあったらなと思う。

    世の中のあらゆるものが市場の商品として取引される社会に私たちは生きている。市場を本来あるべき所に押し戻すことはかなり難しいことのように思われる。それでも「それはお金で買うものではないでしょう」という声はあげていかなくちゃ、と思う。「命名権」というものを初めて聞いたときのなんとも言えない違和感を忘れないようにしたい。

  • 長々しい直感が続き、いつまでもSo What?感が拭えない

  • ハーバードのサンデル教授による経済と倫理観について述べられた本。市場至上主義により何もかもがビジネスの対象となり、不公平と腐敗を招いていることを説いている。白熱教室で学生と討論した時と同じく、数多くのことをケーススタディ的に取り上げており、わかりやすく、かつ興味深く読めた。
    「絶滅の危機に瀕したクロサイを撃つ権利:15万ドル、主治医の携帯電話の番号:1500~2万5000ドル/年、製薬会社の安全性臨床試験で人間モルモットになる:7500ドル、連邦議会議事堂前の行列に並ぶ:15~20ドル/時間、成績不振校で本を1冊読む:2ドル」p12
    「あらゆるものが商品となってしまったせいで、お金の重要性が増し、不平等の刺すような痛みがいっそうひどくなった」p20
    「「早い者勝ち」という行列の倫理には、平等主義的な魅力がある。それはわれわれに、特権、権力、富といったものを無視するよう命じる。われわれは子供の時分「順番を待ちなさい。割り込んでは駄目だよ」と言い聞かされたものだ」p60
    「(保育所で、親が迎えに来るのが遅れることについて)この問題を解決するため、保育所は迎えが遅れた場合に罰金をとることにした。すると、何が起きたと思うだろうか。予想に反して、親が迎えに遅れるケースが増えてしまったのである。以前であれば、遅刻する親は後ろめたさを感じていた。保育士に迷惑をかけていたからだ。今では迎えに遅れることを、そのために進んでお金を払うサービスだと考えていた」p96
    「われわれは贈り物として受け取る品物の価値を、費やされた1ドルにつき、自分で買う品物より20%低く評価する」p144
    「全米退職者協会はある弁護士団体に、1時間あたり30ドルという割引料金で、貧しい退職者の法律相談に乗ってくれるかどうかをたずねてみた。弁護士団体は断った。そこで退職者協会は、貧しい退職者の法律相談に無料で乗ってくれるかどうかをたずねた。今度は弁護士団体も承諾した。市場取引ではなく慈善活動への取組を要請されていることがはっきりすると、弁護士たちは思いやりをもって対応したのである」p172
    「(献血を有料化したことによって献血者が減少したことについて)「献血を商品にして利益を得ることによって、自発的な献血者を追い払ってきたのだ」人々が血液を普通に売買される商品とみなしはじめると、献血に対する道徳的責任を感じにくくなる」p175

  • 生命保険に携わる人は、第四章は必読。保険の歴史、従業員保険、バイアティカル、保険の証券化商品などをモラルの観点から考えることができる。

  • この世の中はお金で買えるものばかり

  • 完全に学問の本。市場と経済、倫理観、価値と腐敗、そういう話。

    売れるけど、売るべきではないもの。
    何が正しくて、何が正しくないのか。
    この本では正解を出しているわけではない。あくまでサンデル自身の見解を述べているだけ。

    インセンティブの効果は興味深かった。お金だけじゃないよ、と。

    罰金の料金化という視点も面白い。本来は罰という道徳的見地から考えるものが、お金を払えばそれをしていいんだ、という料金化の考えを生むというのは確かにそうだなと。

    レンタルビデオなんて、完全に料金だもんね。

    正しいようで、実は本末転倒とか、道徳的見解にはそういうものが多い。

    いかにして市場は道徳を締め出すか。この章が一番面白かった。

    買えるもの買えないもの。買えるけど「そうすべきではないもの」。人の生死や肉体の部品化の話などは本当に考えさせられる。

    広告の進化は、時として人々の感覚を鈍くさせるものなんだなとも思う。でもこれもお金を払う人がいて、対価を受け取る人がいる限りは、そこに倫理観や価値や腐敗の話は必ず議論として起こりえるんでしょうね。

    人は高尚な生き物であり、強く持っている倫理観や、道徳心、腐敗を嫌う心、本当にそういう生き物であるべきなんだなと思うんだけど、あくまでそれは「個人」や「個人が考える一般論」であって、ニーズに応える市場がある限りは、議論は起こり続けるんだなと。

    なかなか考えさせられる本でしたよ。

全226件中 1 - 10件を表示

それをお金で買いますか――市場主義の限界のその他の作品

それをお金で買いますか 市場主義の限界 Kindle版 それをお金で買いますか 市場主義の限界 マイケル・サンデル

マイケル・サンデルの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
エリック・リース
ジャレド・ダイア...
シーナ・アイエン...
高野 和明
ウォルター・アイ...
三浦 しをん
池井戸 潤
クリス・アンダー...
有効な右矢印 無効な右矢印

それをお金で買いますか――市場主義の限界を本棚に登録しているひと

ツイートする