夜のサーカス

  • 早川書房 (2012年4月6日発売)
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本 ・本 (560ページ) / ISBN・EAN: 9784152092854

作品紹介・あらすじ

夜だけ開く、たとえようもなく豪奢で魅惑的な夢のサーカス。そこを舞台に競い合うよう運命づけられた二人の天才魔術師を待つものとは。エイミー・ベンダー激賞の傑作ファンタジー、ついに登場!

感想・レビュー・書評

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  • 十九世紀末から二十世紀初頭にかけて、ロンドンを拠点として世界各地を飛びまわるサーカスがあった。<ル・シルク・デ・レーヴ>は普通のサーカスではない。日没から夜明けまでしか開かない<夜のサーカス>なのだ。まだまだ都市近郊に野原や空き地があった時代。予告もなしに、そのサーカスはいきなりやってくる。昨日まで何もなかったところが鉄柵で囲まれ、柵沿いに伸びる遊歩道の向こうに、白と黒の縞柄で統一された高さも広さも様々なテントの群れが忽然と姿を現す。

    シーリアは魔術師プロスぺロことヘクター・ボーウェンの娘。はじめて会った五歳の時以来、父から厳しいレッスンを受けて大きくなった。ヘクターとその師アレキサンダーは長年にわたり「挑戦」と称するゲームを行ってきた。弟子同士を駒(プレイヤー)として用い、技を競い合うのだ。娘に自分の血が流れていることを知ったヘクターは、シーリアを「挑戦」の駒に使うことを決める。受けて立つアレキサンダーは孤児院から、後にマルコと名乗るようになる一人の少年を譲り受ける。

    修行を終えた二人の弟子の闘いの場に選ばれたのが<ル・シルク・デ・レーヴ>だ。魔術師プロスぺロを高く買う、金持ちの興行師チャンドレッシュ・ルフェーブルが持てる資金とプライドをかけ、超一流の人材をかき集め、金に糸目をつけずにつくり上げた<夢のサ-カス>。十七歳になったシーリアはそのオーディションに合格し、奇術師として採用される。マルコはアレキサンダーの紹介でルフェーブルの秘書を務めることになる。

    プロスぺロとアレキサンダーは奇術師ではなく本物の魔法使いだった。魔法使いの血を引くシーリアは、幼いころからカッとなると手も触れずに周りの家具や茶碗をよく壊し、母に「悪魔の子」と呼ばれていた。シーリアは衝動を制御することと、壊したものを元に戻す技法を学ぶ必要があった。ヘクターは娘の才能を磨くため、父というより指導者として娘に厳しく接した。その甲斐あってシーリアはどんな場所でも即座に観客を驚かせる奇術を見せることができた。

    オーディションで初めてシーリアの奇術を見たマルコは、彼女が自分の相手だと知り、その技術の高さに打ちのめされる。マルコには魔法使いの血は流れていない。アレキサンダーは昔気質の魔法使いで、教えることができなければ、どんな手法も価値はない、と考えていた。彼は弟子に多くの本を読ませ、世界各地を連れ回して本物の美術や建築物に触れさせ、世界のありようを学ばせた。マルコは身につけた技法を記号や護符という形で常に革綴じの本に書きつけることで魔法を構成する。マルコは他人の頭や心の中に入り込み、それを操るのも得意だった。

    シーリアは自分の相手を知らない。その点ではマルコが有利だが、興行師の秘書としてロンドンに住んでいたので、サーカスとともに移動することができない。サーカスがどこにいてもつながっていられる工夫が必要だった。マルコと暮らしていたイゾベルが占い師としてサーカスに入り、中の様子を手紙で知らせることにした。マルコはサーカスの中庭の中央でいつも燃えている篝火に魔法をかけ、サーカスを遠くから操作できるようにした。

    こうして始まった二人の「挑戦」だが、自分とは異なる技法を使う相手の繰り出す魔法のかかった出し物に、二人とも激しく魅せられ、ついには合作にまで手を出す始末。ふたりの指導者にとってはこれは誤算だった。ある激しい雨の夜、シーリアは傘の下にいる自分が全然濡れていないことに気づく。追いかけてきたマルコに、それは僕の傘だと告げられ、初めて自分の相手が誰かを知る。サーカスがロンドンにいるとき、ルフェーブルは親しい人々を<真夜中の晩餐>に招待する。サーカスでは好敵手だが、サーカスを離れればただの男と女。二人が惹かれあうのに時間はかからなかった。

    問題は、どちらかがこれ以上続けられなくなった時点で勝負がつくというゲームのルールにふたりが縛られていることだ。相手が死ぬまで勝負は続く。ふたりとも、何も知らない子ども時代に指導者の指環で呪縛をかけられていて勝手にゲームを降りることはできない。師の意向に逆らうと途端に全身に激痛が走るのだ。シーリアは魔法を使ってサーカス全体を支え、動かしていたが、もう限界だった。また、マルコが篝火にかけた魔法が関係者の人生に影響を与え、サーカスには綻びが生じてきていた。ふたりはどうやってサーカスとそこで生きる人々を守ることができるのか。

    シェイクスピアの『テンペスト』、『ハムレット』、『ロミオとジュリエット』を下敷きにし、サーカスを舞台に、魔法使いの弟子たちが命がけの愛を紡ぐ物語。魔法でできた摩訶不思議な出し物が細部に至るまで詳細に描かれており、読んでいてわくわくする。また、サーカス内に漂うキャラメルの香りにはじまり、晩餐で供される凝りに凝ったコース料理に至るまで、五感を刺戟してやまない多彩な表現に魅了された。まるで魔法にかけられたような読み心地だ。新作の『地下図書館の海』も図書館好きにはたまらないが、どちらか選べと言われたら、個人的にはレトロスペクティヴなデビュー作のほうを選ぶ。

    この物語は、シーリアを軸とした魔法のかかったサーカスの物語と、マサチューセッツ州コンコードに住む少年ベイリーの成長物語という二つの物語で構成されている。主軸はシーリアの物語であり、ベイリーは偶然その物語に入り込んでしまう闖入者という格好になっている。事を分かりにくくしているのは、シーリアの物語の流れに割り込むように挿まれるベイリーの物語が少し先の未来になっていることだ。よく練られたプロットだが、読者は混乱するかもしれない。そのために章のタイトルに続いて、シーリアとベイリーの物語にはそれぞれの時間と場所が記されている。そこさえ気をつければ問題はない。

  • あらすじだけざっと読んで、作者のことも知らず本のレビューもまったく読まず読み始めた作品。
    サーカスというテーマは、作者次第で凄惨なホラー、ダークな作品に仕上げることもできるだろうけど、これは「魔法」を主軸にしたファンタジーらしいファンタジー。夜のシーンが多いながら、重くネガティブな要素はなし。むしろ描写の美しさが随一。
    「近くにいる人の服装に応じて色が変わるドレス」はぜひ最新のCGを駆使して映像にしてほしい。原作者はもとより、訳者の感性も素晴らしいのだよね……翻訳中の苦悩を書いたエッセイが出たら買うのに。
    ラストは、煙に巻かれた風もたしかにあるんだけど、読み切った、という気持ちと、もう残酷な結末にならなければいいよ、という気持ちで相殺、補填されたような(丸め込まれた…?)。とはいえ不完全燃焼ということでもなく、花火の終わりのように、余韻がキラキラと残る感じ。

    ファンタジーものは、独自の国名や体制を把握しておく、というところがどうにも苦痛で、指輪物語とかナルニア国とかもう面白いとわかっていても避け続けていてそれでもハリーポッターシリーズだけは唯一ドカンとハマったので食わず嫌いなのかな。ああいう世界観が好きで、かつベタめな恋愛ものも嫌いではないならば今作は楽しめると思う。ポッターが少年漫画なら、こっちは少女漫画かも。あくまでも「競争」に重心は置きつつもダラダラせず、ゼロから作り出される表現が非常に分かりやすい。

  • 題名と表紙に惹かれて読んでみたけど、点数付けが難しい…決して面白くないわけではないけど、正直めちゃくちゃ面白いわけでもない。
    サーカスとあるので最初は手品師のような人たちの話かと思いきや、中世のサーカスで働く人たちは実は本当の魔法使いだったという感じ。どこからどこまでが魔法でどこからどこまでがそうでないのか読みながら分からなくて、このアンニュイな感じが幻想的なんだろうけど、掴み所がなくて話がどこのに進んでるのか、登場人物たちが何を話してるのか全く分からないことも多かった笑。そしてそんな感じだから登場人物たちにいまいち感情移入できないのが非常に残念ポイント。
    アメリカ本国で発売された2011年には既に映画化の契約があったらしいけど、調べてみたら2024年今現在にも映画化は完了されてないみたい。多分掴み所が無さすぎてポシャったんだろうな。。。

  • 幻想的なサーカスを舞台に仕組まれた魔法使いの戦い。とは言え、バトルがあるわけではなく…。オリジナリティに溢れた美しい世界だが、どこかブラッドベリに通じるものを感じる。とても好きな世界だけれども、日本人?のツキコに興醒め。ずっと自分とは違う欧米的な世界であって欲しかった。

  • 突然どこかからやってきて、夜にだけ開幕する魔法のサーカス。白と黒が混じり合う幻想的な世界。
    そこで繰り広げられるのは、魔法の対決と愛の物語。

    一章が短いので、ペースよくどんどん読めて物語に引き込まれていく。
    幻想的な場面を細部まで想像させる文章は、難解な表現を使わず身近な言葉で紡がれ、章の短さと相まってスピード感を損なわずに没入できる。

    対決は、魔法を魔法と気付かせずに人々を魅了させ、消耗するなか、最後まで立っていられた者が勝つ、という内容だったと思う。
    というのも、物語の中では対決については濁され、はっきりとは語られていない。(本人たちにも詳細は知らされていない)
    物語の核は、魔法に彩られた不思議なサーカス。
    対決者同士の愛や、そのほかの人間模様はあくまでもサーカスの飾りみたいに感じる。
    そのため、2人が愛し合うようになる過程や、対決に阻まれ自由に愛し合えない哀しさや、それに係る周りの人たちの想いも、ちょっとあっさりと薄く感じられる。

    けれど、幻想的な描写と夜のサーカスというコンセプトは素敵なので、映像化されたらぜひ見たい。

  • 最初はサクサク読めて面白いかもと思ったが途中から誰だか分からなくなりサーカス?超能力?と意味もわからなく放棄。残るものがなく終了。
    タイトルがよかった。

  • 地下図書館の海を読んで面白かったのでこちらも読んでみたら、少しテイストが違って戸惑う。こちらは話がややこしくない、恋愛のお話。
    結局勝負とは何だったのか、2人はどうなったのか、その後のサーカスは?など明かされないことが多く、結末はちょっとモヤモヤした。
    とにかくサーカスの幻想的な雰囲気が素敵。2人がお互いに惹かれあっていくのもすごく良い。
    映画化するんですね、楽しみ…!!!!

  • とても面白かったです。地下図書館の海を読んだ時も思ったけれど、使う言語は同じなのにどうしてこんなにも幻想や空想に迷い込めるような言葉を紡げるのか、私にも言葉はあるはずなのにこんな情景を人々の心に描けるこの人は何者なのかと作者に畏敬を感じずにいられない。(ここでいう言語とは英語とか国語とかではなく、人間として発する言葉が存在するぐらいの意味)。
    地下図書館の海では後半世界は全てファンタジーだったけれど、夜のサーカスは深まっていきつつも現実に触れている状態だったのがまた良かった。私達は現実に帰ることが出来るから。二作品ともにそうなんだけど、小説を円環させているのも良い。読み手は始まりへと帰ってくる。そしてその始まりは同じ始まりではない、その感じ。
    螺旋を描くその感じ。
    素晴らしく美しい。
    感動の星5。

  • ー そのサーカスはいきなりやってくる ー
    前触れもなく、郊外の野原に忽然とあらわれるサーカス。無彩色、白と黒のストライプのテント、奇抜で斬新な演出と出し物を心ゆくまで楽しめる、ただし興行時間は日没から夜明けまで。
    19世紀末から20世紀初めの時代背景、信じられないような目眩く世界観、その裏で魔法をめぐる長い戦い…すっかり夢中になって読んだ。出来事が前後して書かれたり、人物関係の把握に少し難儀したけど読後感がとてもよかった。ちなみにこの本、読むのは夜がいちばんあってる気がする。


  • とってもわくわくした

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