- Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152093127
感想・レビュー・書評
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「クルーグマン教授の<ニッポン>経済入門」が金融政策を全面に出した著作だとしたら、本書は財政政策を全面に出している。一応金融政策についても書かれている。
タイトルや内容から現状の緊縮に走る世界各国の政府、それを賛美する経済学者、評論家、金融関係者に対するクルーグマンの怒りを感じる。
日本の政治家や経済学者に愚か者がいるように、どうやらアメリカ、EUにもとんでもない政治家や経済学者はいるようだ。
クルーグマン自身の変化も見れて、結構面白い。
日本、アメリカ、イギリスなどの自国通貨・自国通貨建て国債を発行している国は金融緩和と財政出動をフル活用することによって現在の不況を解決できる。
あまり、専門用語、複雑なモデルを利用せず、経済学を知らない人でも本書を読めば不況下での緊縮財政が経済に悪影響をもたらすことを理解できるだろう。個人的に一人でも多くに人に本書を読んでもらい、それが政治家を動かすことを願う。 -
ここの所、続けざまに経済関係の書が出版されており目に付くままに買っているが最初に読み終わったのが Paul Krugmanによる本書。
ノーベル経済学賞受賞者にして最近はNew York Timesでも毎週経済政策に関する皮肉の効いたコラムを執筆している著者の最新作。そのコラムもまあちょっとばかり皮肉が効きすぎる内容(例えば共和党に対してとか)を連発するので最近はちょっとばかり「色物」扱いされることも多々あるのだがそれはご愛嬌。
で、本書はリーマンショックに端を発する不況の原因分析・犯人探しをするよりも不況を早く終わらせる処方箋に焦点を当てるべし、という至極真っ当なもの。端的に言えば米国の不況脱出には政府による大規模かつ継続的な財政出動とFRBによる更なる金融拡大の両輪が必要であるというNew York Timesコラムでもお馴染みの論だ。
しかもお約束の皮肉やユーモアも満載でサービス満点と言える。主義主張が相対する経済学派を淡水派と塩水派(つまり内陸のシカゴ学派(=極端な自由主義派)と東部海岸を中心とするケインズ学派のことだが)とする比喩には思わずニンマリさせられてしまう。
そしてその文体は訳者・山形浩生がいみじくも後書きで述べるように「クルーグマンはいまだに冗談まみれの(そして直情的な私情まみれの)文を書く。特に最近ではリベラル派として、不景気に苦しむ一般のアメリカ国民に対する同情と、その事態改善を阻む一部の富裕層に対する怒りを込めた文章を書く。それを反映した原著の、重厚な学者文とはほど遠いユーモアと怒りの共存した文を、この役所が再現できていることを祈りたい」という狙い通りに、非常に読みやすく仕上がっている。
実はクルーグマンのNYC Timesコラムなどは時どきは原文で読んでいるのだが、口語体かつスラングが多いのでかなり読み難く、多くはブログ「道草」(http://econdays.net/)を読んでいる。このブログは多数のボランティアがクルーグマンの新聞コラムや投稿そして彼自身のブログから記事を訳しているのだが、その訳語口調はまさに本書のものでありその一致加減には多少の驚きを覚えるし、何となくこの共通する訳文こそがクルーグマンの語調だと納得させられる。