ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 687
レビュー : 108
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152093783

感想・レビュー・書評

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  •  日本SF大賞を受賞した『盤上の夜』につづく、新鋭SF作家の第2連作短篇集。

     本書も『盤上の夜』に勝るとも劣らない面白さであった。どの短編も、じつに知的でスペキュレイティブ(思弁的)。『盤上の夜』と本書は2作連続で直木賞候補にのぼって落選したが、本書で直木賞を得ていてもおかしくなかったと思う(まあ、SFでは直木賞が取りにくいわけだが)。

     連作の舞台となるのは、近未来の南アフリカ、ニューヨーク、アフガニスタン、イエメン、そして東京――。
     異なる舞台をつなぐバトンとなるのは、日本製のホビーロボット「DX9」、通称「歌姫」。富裕層の道楽品として作られた、人間型の「歌うロボット」。いわば「未来の初音ミク」である。

     無数の「DX9」が、さまざまな形で物語の鍵を握る存在として登場する。
     たとえば、「9・11」テロの犠牲となった1人の青年の意識が転写されて。また、内戦の地ではその堅牢さから自爆テロ用の兵器に改造されて。

     単行本カバーの惹句には、「国境を超えて普及した日本製の玩具人形を媒介に人間の業と本質に迫り、国家・民族・宗教・戦争・言語の意味を問い直す連作5篇」との一節がある。

     まさしく、「国家・民族・宗教・戦争・言語の意味」などという大テーマに正面から挑む志の高さ、スケールの壮大さが、この作者の魅力なのである。それでいて、どの作品も先鋭的で刺激的なエンタテインメントとしても成立しているところがすごい。

     SFという狭い枠にとらわれず、いろんな作品を書いていってほしい。たとえば、青春小説や歴史小説の長編を書かせても、きっといいものを書くに違いない。

  • 廉価で耐久性の高い日本製ホビーロボット・DX9。世界中に普及し、本来の用途とは違う想定外の様々な使われ方をしている。それは5つの都市それぞれの混乱と絶望と少しばかりの希望を映し出すーー。

    かつてのディストピアはあり得ない世界、或いは退廃というファッションでした。しかし昨今のSFのそれは、避けられない衰退と混沌の未来、現在とつながる地平にある。生活水準が下がっても生きていける覚悟をしておこうと思っています。。

  • これってSFなのかなー。この本がSFという超薄い隔離された鋼鉄の壁で囲まれたジャンルに定義されるのは嫌だなー。
    読了後の感想としては、面白い、ただただ面白い。普通のエンターテイメントとして楽しみました。この短篇集の各話の世界を糸でつなぐ役目を持つDX9というロボットですが、DX9という文字を見ると何かしら楽器的な物を感じる世代なためか、どういう形をしたロボットなのかが気になります。
    自分で何を書いているのか分かんなくなりつつありますが、言えるのは、この本はおすすめ、と言うこと。

  • 全編秀逸だけど「ジャララバードの兵士たち」が一番好き。

  • 「シビレた。」いろんな言葉をあてはめてみたけれど、読後の印象としてはこの言葉がいちばんぴったりくる。とにかくシビレた。
    ハードボイルドな文体と乾いた感傷にシビレた。生身の人間と、ロボットでありながらも擬似人間であるDX9の描き分けにシビレた。DX9の背負った宿命にシビレた。虚無でありながらもどこかで希望を捨てられない悲しい人間たちを見つめる優しい眼差しにシビレた。そういった人たちへの静かな応援歌であるとさえ感じた。「盤上の夜」で垣間見えた才能は本物であった。しかもこれはかなりの逸材。そして本作品は、きっと歴史的な名作となるであろう。

  • 第149回直木賞候補作。何故これが候補作に留まるのか不思議でならない。ポスト伊藤計劃の呼び声高い。そして、文体センスがいちいちにして往々恰好良い。末尾に参考文献を記しているのには作者なりの誠意を感じる。今後も読んでいきたい作家。


    内容(「BOOK」データベースより)
    ヨハネスブルグに住む戦災孤児のスティーブとシェリルは、見捨てられた耐久試験場で何年も落下を続ける日本製のホビーロボット・DX9の一体を捕獲しようとするが―泥沼の内戦が続くアフリカの果てで、生き延びる道を模索する少年少女の行く末を描いた表題作、9・11テロの悪夢が甦る「ロワーサイドの幽霊たち」、アフガニスタンを放浪する日本人が“密室殺人”の謎を追う「ジャララバードの兵士たち」など、国境を超えて普及した日本製の玩具人形を媒介に人間の業と本質に迫り、国家・民族・宗教・戦争・言語の意味を問い直す連作5篇。才気煥発の新鋭作家による第2短篇集。

  • 2013年上期の直木賞候補作品

    近未来もの短編集
    国家が崩壊し、どこも内戦で混迷を極める殺伐としたエピソードばかり。
    高性能の日本製ロボットDX9がときに無機質な兵器として、ときに人格のコピーとして全作品を繋ぐ。
    タイトルのヨハネスブルグ、ロワーマンハッタン、アフガニスタン、イエメン、そして高島平を想起させる北東京。
    9.11を描いたものは、あの日に粉々に引き裂かれた痛みがなまなましくそのままに散らばっている。アフガニスタンの旅人やイエメンの将官からは、海外育ちの日本人の 相容れない価値観を内包する孤独が沁みてくる。

    これ、なんて感想を書いたらいいの?
    頭を垂れて祈りを呟く。

  • 初音ミクを元にしたとおぼしきロボット・DX9をめぐる5つの物語。表題作の墜落する大量の歌姫のイメージで一気に物語に引き込まれる。救いのない世界やそのナイーブさなど確かに伊藤計劃的ではあるが、そこには収まり切らないものも……。
    作中の「あんたの国にも掟はあるのか」という問いに対する答えには思わず吹き出した。

著者プロフィール

宮内悠介(みやうち・ゆうすけ)
1979年東京都生まれ。2010年「盤上の夜」で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞してデビュー。12年同名の作品集で第33回日本SF大賞、13年第6回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞をそれぞれ受賞。14年『ヨハネスブルグの天使たち
』で第34回日本SF大賞特別賞。17年『彼女がエスパーだったころ』で第38回吉川英治文学新人賞、『カブールの園』で第30回三島由紀夫賞、18年『あとは野となれ大和撫子』で第49回星雲賞〈日本長編部門〉を受賞。近著に『超動く家にて』『偶然の聖地』『遠い他国でひょんと死ぬるや』など。


「2019年 『宮辻薬東宮』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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