病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 下

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152093967

感想・レビュー・書評

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  • 現代に生きていて、"発がん性物質"という言葉を聞かずに一生を終えることは難しい。
    『原因不明の不治の病を生じさせる』という空恐ろしい事実は、しかしその構造の不理解ゆえ、長らく見過ごされ、なんの対策もなされなかったどころか、明確な隠蔽にさえあった。
    タバコのパッケージに警告文「喫煙は健康に害を及ぼします。」と記載されるようになったのはつい最近の出来事だと思いがちだが、ガンへの影響が初めて論文になったのが1761年、警告文の提案がなされたのは1964年、日本で記載されたのが2005年だ。
    とはいえ、その因果関係を説明できないうえに、統計学すら発展途上であった時代の出来事とあっては、単純にその産業主義を責めることは難しい。

    1976年に人間に備わったがんのもととも言える現がん遺伝子が特定され、この時ようやく喫煙者と非喫煙者に同じがんが生じる理由が明らかになる。
    1983から次々とがん遺伝子やがん抑制遺伝子が同定され、遺伝子組み換えマウスでがんを人為的に発生させることに成功。
    1986年には研究結果をもとに初のがん遺伝子標的薬剤が発見され、
    1994年の病院は治験を待てずに新薬を求める人たちであふれかえった。
    そして2005年、がんの死亡率は1990年と比較して15%近く減少した。
    だが、同じ年に50万以上のアメリカ人ががんで亡くなっている。

    上巻ががんの治療の物語だとしたら、本書はがんの研究の物語。
    ひらめきと偶然と人の意志により、研究と治療がようやく結びついたがんと人との物語の終わりは、まだまだ見えそうにない。
    治るがん、治らないが薬で抑制できるがん、未解明のがん、治療薬耐性がん、末期がん。
    転移との戦い、副作用との戦い、治療費との戦い、そして代替医療との戦い。

    がんの物語とは、医者と研究者と患者とその関係者。すなわち人類の物語と言っても過言ではないだろう。

  • 癌と人間の壮大な歴史。上下700㌻と大部だが様々なエピソードを織り交ぜて退屈しないし,しっかりした通史として学べるので時間をつくっても読む価値がある。
    下巻では癌の予防の発見,癌のメカニズムの解明,そして分子生物学の進展による分子標的薬の獲得を扱う。
    医療といっても科学や技術一辺倒でないのは,人々の高い関心やどろどろした既得権益を反映していて,上巻同様政治運動の側面も見逃せない。強い発癌性が発覚した煙草をめぐる論争や,新薬を切望する末期患者たちによる「悠長な」臨床試験への批判,目覚ましい効果を挙げた化学療法が幻と消えた論文捏造事件などが読みどころ。
    高齢化が進みより癌への関心が深まる中で,これからも様々な物語が語られるだろう。中にはこれまでの癌研究の流れや基本的な事実をねじ曲げるようなものもあるだろうが,そういったものへの免疫をつける上でも本書は役立つに違いない。

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=24002

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB13310216

  • 上巻同様の感想になりますが、患者さんや医師や研究者を交えたドラマとしても、科学医学の進化の歴史という話としてもとても興味深いものでした。やや難解さを伴うと感じることがあったので星3にしましたがほとんど星4の素晴らしい作品です。ゆっくりなようでやはりこの百年くらいの医学の進歩は凄いのだと気づかされます。一方でここに来て、他の科学もそうですが、本当の難題にぶち当たっていることは気がかりなことです。

  • がんの分子標的薬は、がん遺伝子を直せく不活性化するものと、がん遺伝子によって活性化されるシグナル経路を標的とするものがある。

    現在は、がんゲノム解析プロジェクトが進んでいる。
    がんゲノムの変異には、ドライバー変異とパッセンジャー変異がある。ドライバー変異はがんの増殖を直接誘発しており、当該がんの標本上で繰り返し起きている。パッセンジャー変異はランダムで無害だ。
    また、これらの変異による繋がりを「がん細胞の活性化経路」として分類し直すと、11~15(平均13)種類の経路となる。

    今後がんのメカニズムが明らかになると、がん医療には三つの大きな方向性がもたらされる。
    一つめは治療の方向性で、13種類の経路のうちいくつかを標的とした阻害剤は既に臨床で利用されている。
    二つめはがん予防の新たな方向性で、活性化経路への影響を調べることで新たな発がん物質の検出方法が発見される可能性がある。
    三つめはがんの挙動全体の説明で、異常遺伝子と経路に関する知識を統合することで新たな知識と発見ひいては治療的介入のサイクルを一新させる可能性がある。具体的には、がんの不死性は造血幹細胞のような正常な生体の再生を真似ているという説がある。

  • 一通り読むことでがんの歴史の概要がつかめる良書である。医師である著者の個人的な体験とからめながら書かれており、現実味が増している。翻訳も素晴らしく、医学系の本にありがちな不自然な訳語は見られなかった。翻訳家は現役の医師とのことであり、納得した。繰り返し読んで知識を定着させたい。

  • エジプト時代から書かれているが、長くて退屈。

  • ・患者相手のトライアル&エラーがすさまじい。しかし著者は患者を埋もれさせず、臨床医として関わったがん患者の話を何度も織り交ぜていてすばらしかった。特に最終節。著者の温かい人柄が伝わった。
     
    ・個々の科学者も敗北し続けながらも、全体としては少しずつ謎が解明されていくのが壮大で感動した。ひとりの成果は小さくても、そのおかげで前進していると見なせる。まさに「何一つ、無駄な努力はなかった」。
     
    ・葉酸類似体や化学兵器マスタードガスやX線やラウス肉腫のように、別分野のことを端緒に新しい攻め方が開発されていくのもおもしろい。
     
    ・米国の科学政策も興味深かった。基礎研究が無いのにマンハッタン計画やアポロ計画のような目的指向型はだめだな。

  • 現役の腫瘍医であるムカジーによるがんの治療と研究の歴史を描いた本。古代エジプトのパピルスに「この病の治療法は無い」とかかれてあったという。それほど昔から人類はがんと隣り合わせに生きてきた。がんは遺伝子の病と言われるようになった。がん遺伝子とがん抑制遺伝子の存在が明らかになり、それらの遺伝子が損傷して活性化、あるいは抑制遺伝子の場合は非活性化するとがんが発現するらしいという。それぞれの遺伝子を標的にした分子治療薬の開発が続けられている。がんはゲノムによるのであれば人類はがんからは逃れられない運命にある。

  • ひさびさに当たり。

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著者プロフィール

シッダールタ・ムカジー(Siddhartha Mukherjee)
がん専門の内科医、研究者。著書は本書のほかに『病の皇帝「がん」に挑む——人類4000年の苦闘』(田中文訳、早川書房)がある。同書は2011年にピュリツァー賞一般ノンフィクション部門を受賞。
コロンビア大学助教授(医学)で、同メディカルセンターにがん専門内科医として勤務している。
ローズ奨学金を得て、スタンフォード大学、オックスフォード大学、ハーバード・メディカルスクールを卒業・修了。
『ネイチャー』『Cell』『The New England Journal of Medicine』『ニューヨーク・タイムズ』などに論文や記事を発表している。
2015年にはケン・バーンズと協力して、がんのこれまでの歴史と将来の見通しをテーマに、アメリカPBSで全3回6時間にわたるドキュメンタリーを制作した。
ムカジーの研究はがんと幹細胞に関するもので、彼の研究室は幹細胞研究の新局面を開く発見(骨や軟骨を形成する幹細胞の分離など)で知られている。
ニューヨークで妻と2人の娘とともに暮らしている。

「2018年 『不確かな医学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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