深紅の碑文 (下) (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

著者 :
  • 早川書房
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感想 : 48
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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152094247

感想・レビュー・書評

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  • 「華竜の宮」に続く、陸地がほとんど水没し、陸上民と海上民が分かれて暮らす世界の話。数十年内に地球規模の大爆発が起きることが分かっているのに、人間は争いを止められない。その事実に絶望するのでなく、そういう種だと認め、それぞれのやり方で乗り越えようともがく人々に胸を打たれた。

  • 前作のクライマックスで唐突に登場した感のある人口地生体による大災厄に際し人類の痕跡を残すという深宇宙探索に至るまでのエピソードを深堀する話ではあるが、どちらかというと、そちらは今回でも脇に回り、タイトルに示される深紅の碑文に至る陸と海の闘争が多く描かれる。来るか来ないかわからない災厄ではなく、近い将来に必ず来る災厄に際して人はその業から逃れられない世界を描く。それにしても前作のみならず、リリエンタールのエピソードも拾いながら物語を収束していくのは非常にうまい。ただし、本作でも取りこぼした登場人物とエピソードは多々残っていそうなので、また次回作を期待したい。

  • 著者の本は「華竜の宮」から読み始めたのだが、このシリーズ(オーシャン・クロニクル・シリーズというらしい)は、構成といい、設定といい、アシモフの銀河帝国興亡史を彷彿とさせるといったら言い過ぎだろうか。
    日本のSF小説を語れるほどの知見はないが、本格感とスケールの大きさは有数なのではないか。

  • 前作「華竜の宮」の後日譚。大災厄へのカウントダウンが着実に進む中、人類の種を載せた宇宙船が旅立つまでを描いた、骨太の作品。前作のインパクトが強すぎて、こちらの評価が辛くなったけど、うん、十分に面白かった。

    前作の主役•青澄は、大災厄に備えたパンディオンを設立し、テロ集団ラブカとの和平に力を尽くす。和平の調印を果たしたものの、最期に若いラブカに撃たれることになる。一方、自分が率いるラブカの終焉を見届けたザフィールは、穏やかな終焉の地にたどり着くが、そこで見たのはパンディオンが寄付した建物。積年の夢を果たし、大災厄を見ることなく逝った青澄と、自分が憎んだ陸上民の施しで生き永らえることになったザフィールの対比が、皮肉な余韻。

    これに、宇宙船アキーリ号を飛ばそうというユイの若い熱意が挟み込まれて、清涼剤となる。個人的に「リリエンタールの末裔」のチャム君が再登場したのが嬉しい。

    心に残ったのは、打ち上げで事故が起き、死傷者への補償でアキーリ計画が頓挫しそうになったとき、無名の人々がほんの少しずつ寄付をよこしたくだり。大災厄に備えるため、1円だって惜しい中で、夢のためにわずかな金額を寄付する人々。自分たちは生き延びられないかもしれない。けれど、アキーリ号が飛べば、自分たちの生きた歴史が残せるかもしれない。

    行ってこい。自分たちは、その未来を見ることはかなわないかもしれない。でも、その夢を継ぐ誰かが、いつかきっと素晴らしい世界を実現してくれるだろう。フィクションなのに涙が出た。

    行ってらっしゃい。待っててね、私たちも必ず後から行くわ。そうマキに告げるユイの言葉が、この長大な物語にふさわしいエンディング。さて、続編はあるかな?人類の種を育て始めるマキとか、ルーシーが生き延びた人類と出会う話とか、読みたいぞっ。

  •  SF小説って多かれ少なかれ神話的要素を含んでいると思うけど、これはまさにそのもの。その神話が示唆するものを読者である僕たちは素直に受け止めればよいのだと思う。
     なんて理屈をこねる前に、作者の作り上げた精緻な世界を、登場人物の誰か(僕は断然ザフィール)になりすまして堪能するだけで十分か。

  • ぷはーっ!満足!見事!凄い。
    正直同著者の他作品は幾つか読んだ感じあまりピンとこないのだが、このシリーズだけは別格。あ〜凄い。前作読まないとおそらく理解が難しいのと、視点の置き所故に発生してるであろう市井の悲惨な事柄の細部が不明な分4.5にすべき?とも迷った為上巻を4にしたが、そりゃ贅沢過ぎか?あとタイトルの意味が後半分かって、そのセンスの良さに胸を突かれた。いやあ本当満足。言うこと無しだ。

  • なんとも歯がゆく、沈んでゆく星を見守る。
    それでも言葉が通じる限り叫ぶだろう。

  • 上下巻ですからボリュウミ~ィですが一気読みできる強さが有ります。

    これでこの世界観が終わると思うと寂しい気もします。

    でもアンチエイジングとかこの近未来感ですが本の中では25世紀なんですよね~100年後位にはこうなっているかも?と思ってしまいます。

  • 引き続き下巻。同じく一気読み。
    誰の視点に肩入れするかで、結末の印象が違うかもしれませんね。一人一人が自分の思い描く正義に熱く忠実に生きている。その姿勢に胸打たれます。
    地味ですがイーヴ大好きでした…
    「華竜の宮」からちょっともどかしかったマキと青澄の関係も決着(?)がつくのですが、何度も何度も読み返してじんわりしました…上田さんは男性的で、完膚なきまで冷静な文章を描く人だなあと思うのですが、こういうじんわり来る描写も出来る、多才な方だなあとしみじみ思いました。
    実はまだまだ書ける要素がぽつぽつ残されている気がするので(マリエとユイとアニスとか、省吾とハルトとか)既に書かれているなら読みたい、これから書いて貰えるならすぐ買って読みたい!と思います。素晴らしい物語。

  • 絶望的な状況なのに、みな意思と希望を持ち、それが激しくぶつかり合う壮大なドラマ。数々の名文・名言が心に突き刺さります。整理が付いたらまたきちんと感想を書きたいです。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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