- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152094605
作品紹介・あらすじ
東日本大震災で被災した日本製紙・石巻工場。機能は全停止し、従業員でさえ復旧は無理だと考えた。しかし社長は半年での復旧を宣言。その日から彼らの戦いは始まった。紙の本を愛する全ての人へ
感想・レビュー・書評
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「石巻に大きな製紙工場があってね。そこが壊滅状態らしいの。うちの雑誌もページを減らさないといけないかも。佐々さんは東北で紙が作られてるって知ってました?」
ある雑誌で記事を書いていた著者が、その雑誌の編集長にかけられた震災当時の言葉。
これがプロローグだ。
なんという迂闊。私も知らなかった。
本と言えばその書かれた中身ばかりに眼が行っていた。
本そのものを作っている紙のことなど、考えたことさえなかった。
それから二年後のある日、著者は石巻に取材に行く。
東日本大震災で甚大な被害を受けた「日本製紙石巻工場」の、復興にかけた壮絶なノンフィクションが、ここから生まれる。
覚悟は出来ていたが、やはり読むのが辛かった。
特に1章2章の震災当日の描写は正直苦しく、何も知らずにいたという自責の念との闘いだった。
メディアでは触れることのない衝撃的な部分も当然登場する。
「紙をつなぐ」ということはこの国の文化を繋ぐということ。そしてもうひとつの意味は「通紙」という最大の工程を成功させること。
全長111メートルにも及ぶマシンを、紙がスムースに繋がるのは通常でも難しいとされるらしい。
8章ではそれがものの見事に繋がる。
だが、ここまでの道は並大抵の苦労ではない。
被災した工場構内を手作業で清掃する間に、41体もの遺体も発見されている。
社員もまた被災したひとたちだ。
彼らを鼓舞したリーダーの姿勢と、石巻工場を見捨てなかった日本製紙の存在も大きい。
また、これも知らなかったのだが、石巻工場の野球部の存在も。
読む途中何度も、親指と人差し指でこの本の紙の感触を確かめてみたりもした。
紙の色・紙の香りを知ろうと、目を凝らし鼻を近づけてもみた。
そう言えば私は知っていたのかもしれない。
図鑑や写真集はとても重くて持ちにくく不便だったこと。
それがいつの間にか、写真やイラストの色が美しいまま、かつてよりもはるかに軽くなっていること。そして、めくり易くなっていること。
頭では認知していなくても、感触として知っていたのだ。
そうか、作り手たちの名前が刻まれるわけではないけれど、こうした進化が彼らの誇りなのだ。
では私たちのすることは何だろう。
読み終える頃には明確な答えが出る。私もまた、その受け取ったバトンを誰かに手渡したい。
紙の本という文化が、これからも廃れませんように。
巻末に被災当時の写真付き。紙を繋ぐというのは希望を繋いでいくということにもなるのね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
舞台は日本製紙石巻工場…震災により壊滅的な被害を受けもはや再建は不可能ではないか…自身も被災し家族、友人知人を亡くしたり、住居を失った者もいる…そんな中ではあったが、半年後に目標を据えまずは出版社からの要望の強い8号抄紙機を回そう…と職員一丸となって奮闘した記録。
図書館で借りた本、自分で購入した本、雑誌、新聞、広告…すべての紙が愛おしく感じられるようになった作品です。やっぱり、本のページをめくる…私これが好きだから読書してるんだなぁ…そう思ったし、もしこのときに復興を成し遂げていなければ、本を読む機会は減っていたでしょう。8号抄紙機が回った時は、感無量、じーんときました!
あと、この作品のいいところは復興に向かって被災者同士が助け合う場面のみでなく、助けられなかった命のことや被災者が生活に困りモラルに反する行為があったこと…など、苦しい視点なども盛り込まれていること…震災の記録としても優れていると感じました。 -
プロローグの「多崎つくる」の200冊を積み上げたタワーの出現からして、もう私の胸の内から湧き上がるものがある。
完全に本書に引き込まれてしまった。
これは、日本製紙石巻工場が2011年に津波の被害に遭ってから半年復興を目標に希望を捨てずに8号マシンを初稼働するまでの道のり。
本好きには、電子書籍にはないものに魅力を感じるのである。
紙の質感も気になる、触り心地など特に気になる。
そして「めくる」のが良いのである。
読書を体験している痕跡が残るのである。
気になるところに付箋を貼る。
前のページを繰ってみる。
とにかく楽しいのだ。
8号マシンというのは、出版社に知られた存在で数々の文庫を作っている。
みんな色が違っているのにも驚いた。
講談社が若干黄色。角川が赤くて、新潮社がめっちゃ赤。
特に角川の赤は特徴的で、角川オレンジとも言うそうだ。
全く気づかずに読んでいたが、紙についても詳しくなった。
益々、紙に愛着が湧いてくる。
そして困難を極めた復旧に携わった石巻工場の人たちに頭の下がる思いだ。
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本書の副題は「再生・日本製紙石巻工場」だ。2011年3月11日の東北大震災の際の津波により、石巻湾近くに位置していた日本製紙石巻工場は壊滅的と思えるような被害を受ける。本書は、震災直後の工場・工場の人々の様子から、工場の復興までを記録したノンフィクションである。
2011年の東北大震災の時、私はバンコクで勤務していた。出張で行っていた訳ではない。2008年に赴任してから、現地の会社に駐在員として勤務していた。地震が起こったのは、日本時間で14時46分。タイは日本の2時間遅れの時差があり、地震が起きた時にはタイは12時46分、ちょうど昼休みも終わり近くになった時間帯だった。タイの現地のスタッフが、昼休みが終わろうとする頃、日本で大きな地震があったことをネットのニュースで見て私に教えてくれた。私もネットで調べてはみたが、あまり詳しい情報を得ることは出来ずにいた。それからしばらくして、ネット、タイのテレビニュースでとんでもない映像が流れ始めた。津波が東北地方の太平洋岸を襲い始めたのである。とても衝撃的な映像であった。
震災から2年経過した2013年に駐在が終わり、帰国した。帰国してほどなく、石巻にある私の勤務する会社の関係会社の工場を見せてもらいに出張に出かけた。その工場自体は、高台にあり直接津波の被害を受けることはなかったのであるが、お会いした方に震災時の様子を伺い衝撃を受けた。工場視察後、工場の方が市内を案内してくれた。本書にも登場する日和山から石巻湾方面の光景は忘れられない。その後、日本製紙の工場あたりや市街地を案内してもらい、2年経過した時点であったにも関わらずショックを受けた。そういった大変な状況の中で工場復興のために尽力された、本書に登場される方々には本当に頭が下がる思いがした。
本書の話に迫力とリアリティを与えているのは、あまり描かれることのない、震災と津波による被害の悲惨な側面をリアルに書いていることだ。それは、死体・遺体の様子であったり、人が死んでいくのを黙って見ているしかなかった生存者の回想であったり、震災後の治安の悪さであったりというようなことだ。読みながら胸がふさがれる思いを味わった、と同時に、この工場の復興がどのくらいすごいことなのかを感じることが出来た。 -
2011年3月11日に東日本を中心に日本全国に未曾有の被害をもたらした東日本大震災。
宮城県石巻にある日本製紙の石巻工場も津波を受け、多くの被害を受けた。
本書は、その日、石巻工場で何が起きたのか、そして半年間での復活・生産再開を目指した日本製紙の人々の奮闘と、その周りにあまりに身近にあった死を取り上げています。
淡々と語られる津波の被害は石巻工場はその当日は奇跡的に避難が上手くいき、労働者に死者は出なかった。それでも非番の従業員にはなくなった方もいて、工場に出入りする関係会社でも被害に遭った方はいる。
また工場復興の過程で、津波で流されてきたのか、束の間の避難をして息絶えたのか、工場内から41名の方の遺体が発見された。
工場の基幹となる多くの機械も水没し、そこからの復活は多大な困難があった。重機の入れないところの瓦礫や泥を手作業で外し、塩水に使った機械はまさかの”湯煎”したものもあった。
工場の機械を愛でる技術者たちはいかにも職人。未曾有の危機にあって、死を多く見ながら、やれることをやると、覚悟を決めて日常を取り戻すべくはたらく人々はかっこよく、たくましく、背負う孤独を思うと哀しい。
もうひとつ、日本製紙石巻の野球部にも言及される。こんな時でも、野球部は見捨てられず、むしろ人々の希望を託す存在として応援された。
本書では”タスキをつなぐ”という表現が多く使われる。大企業が抱える大きな工場のシステムの中で、各部門、ましてやその部門の中の個人がやれることは少ない。それでも未曾有の危機にあって、紙を届けるため、日本有数の工場を復活させるため、その”タスキをつなぐため”に、生き残った人々が懸命に働いた様が書かれます。
製紙に作る大規模な機械は、本書の中で日本製紙そして石巻の人の「希望の星」であった。
読んでいて、その大規模な機械のイメージがしきれないのは、この本の難しいところでした。
巻末に写真はあるものの、長い生産ラインの端からの写真だとやっぱりスケールを感じにくい。
(ちなみに日本製紙社のホームページにちょっと紹介がありました。https://www.nipponpapergroup.com/recruit/tour.html )
日本製紙という大企業として紙を顧客に届けようとする想い、そして大企業を支える工場に生きる人々のものづくりへの想い、そして紙に自らの言葉を載せる物書きとして、”タスキを受け取った”著者の熱の入った使命感を感じる、一冊です。 -
あの日、液状化で水浸しになってはいたが、子供たちは一緒にいて命の不安もなく、点けたTVをしばらく観ていた。
そのうち「あの車........」 と絶句する次女の声でTVを消し、それからしばらくはTVは点けなかった。
画面を通してさえ、とても直視することができなかった津波被害。
日本製紙石巻工場。
ドーム23個分という巨大プラントの被災から復興までを、淡々と綴る本書。
被害のど真ん中にいた人達の言葉が、この世のものとは思われない悲惨な状況を伝えてくれる。
その日から何を思い、どのようにして、今目の前にある本を構成する紙を生み出すに到ったか。
決断、覚悟、忍耐、我慢、
生きてさえいれば、人はこれほどのことができるのか。
一方で、報道されなかった被災地の治安の悪さも描かれている。人の暗い側面は、人の苦しみを増大させる。
野球部の話もある。
多大な被害を受けた会社が野球部に託す役割は、本というもの出版というものの役目に重なるところがある。
第八章はヤマ場。
タイトルの 紙つなげ!の場面。
無念と悲しみと頑張りと責任感の集積の上に 8号抄紙機が稼働する。紙がつながれる瞬間には 言葉を失う。
著者は第七章の冒頭に、この本が生まれた経緯を挟んでいる。筆者の媒体としての透明な存在感が、この本の厚みを際立たせていると思った。
最後の最後に本書の使用紙が記載されている。
本文;オペラクリームHO四六判Y目58.5kg
口絵;b7バルキーA判T目52kg
カバー:オーロラコートA判T目86.5kg
帯:オーロラコート四六班Y目110kg
ありがとうございました。 -
「紙の本を読める」
それがこんなにもありがたく、尊く感じられたことはありません。
これほど思いを込めて、ページをめくったこともありません。
ただただ『感謝』その気持ちでいっぱいです。-
こんばんは(^-^)/
この本よく見かけます。
評価も高いですよね〜♪
物語なのかな?
どんな本なのかいつも想像しています。
...こんばんは(^-^)/
この本よく見かけます。
評価も高いですよね〜♪
物語なのかな?
どんな本なのかいつも想像しています。
私もいつか読んでみよう!
2015/11/08 -
けいたんさ~ん、コメントありがとう!
この本は東日本大震災で壊滅状態になった製紙工場の再生の実話です。
震災の描写、読むのがキツ...けいたんさ~ん、コメントありがとう!
この本は東日本大震災で壊滅状態になった製紙工場の再生の実話です。
震災の描写、読むのがキツかったです。
子供のころ仙台に住んでいたことがあってね。
(杜のうさこの杜はそこからつけたの)
その頃からの友達の安否がわかるまでのこととか…
いろいろと思い出してしまってね…
でも読んで本当によかったです。
星をつける立場にないというか、
付けることができないくらいの感動でした。
ぜひいつか読んでみて下さいね!2015/11/08
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あの東日本大震災に纏わるノンフィクション、切り口は石巻にある製紙工場の再生劇です。年々じり貧になっていく本の業界だけど、未曾有の大震災被害を被った日本製紙の石巻工場が使命感と出版社や読者の心情に応えるべく懸命の再生を図る活字ドキュメンタリー。当然ながら私生活でも罹災した社員達なので生々しい実態が随所に表れていて、報道で知る綺麗事 ではないエゴや略奪など暴挙も語られている。ちょっと違う切り口の3.11ノンフィクションで興味深く読了した。
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紙不足に直面した身として、当時の裏舞台を知ることができる貴重な一冊。b7バルキーが震災後、石巻工場で作られたのは初めて知った。書籍用紙の落ち込みとともに、日本製紙の経営はうまくいかなくなったが、今後も頑張って欲しい。
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真実の持つ重みを感じながら、倉田工場長の「言葉にしがたいこの感覚を、今後も被災していない人と共有することは決してないのだ」という思いを漠然と感じる。
今、自分が感じているこの感動や驚きはきっと他人事なのだろう。しかし、たとえ他人事であろうとこのような記録を残し、それを読んでいくことは重要なことなのではないだろうか。当事者しか分からない領域があることを感じた上で読み進めることはきっと必要なことなのだと思う。この本を読むことが出来てよかったと思う。
著者プロフィール
佐々涼子の作品





