ひかげ旅館へいらっしゃい

  • 早川書房 (2014年6月20日発売)
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本 ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784152094629

作品紹介・あらすじ

母と別れた父が亡くなったとのしらせを聞いたなるみ。父が経営していた旅館を訪ねるが、そこにいたのは傷心も忘れてしまうほど個性的な従業員とお客で……どこか優しく温かい出逢いの旅館物語。

感想・レビュー・書評

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  • 結婚生活が上手くいかず、もやもやとしていたなるみは、母と別れたあとも父とは手紙で相談していたのだが、病気で父は亡くなった。
    頼る父もいないが、父が経営していた旅館へ行ってみることに…。

    そのひかげ旅館は、ユニークな外観にお風呂場、そして時代劇言葉を喋る小学男子に無表情の料理人がいて…とそして何より驚いたのはそこの女将さんが父だったということ。

    父の本当の姿を知ったなるみだったが、それ以上に周りの人たちの相談相手になり、自然と人が寄ってくるようなそんな人柄の父を想い、自分もすっきりさせて「つらいことがあるならいらっしゃい」と言えるようになろうと思ったのだろう。



  • 加藤元さんの作品を読んだのは、本書『ひかげ旅館へいらっしゃい』で6冊目となりました。
    『嫁の遺言』☆5
    『金猫座の男たち』☆4
    『ごめん。』☆5
    『四百三十円の神様』☆4
    『もりのかいぶつ』☆4
    『ひかげ旅館へいらっしゃい』☆4
    いずれも読んで楽しめた作品ばかりで、期待を裏切られたことは一度もありません。
    また、今では最も作品を読みたい作家さんのお一人となり、積読6冊と併せて計12冊が私の本棚に揃っています。

    さて、物語は、主人公のなるみが夫と破局寸前となり、亡くなった父親が経営していた「ひかげ旅館」を訪れるところから始まります。
    亡くなった父親は、なるみがまだ小さい子供の頃に妻と別れ、自分の実家である「ひかげ旅館」に戻り、亡くなった母親(なるみの祖母)から引き継ぐ形で経営していました。それから四半世紀以上の間、離れ離れに暮らしていた父親と娘(なるみ)ですが、なるみが辛いとき(学生時代の失恋、母親との喧嘩、夫との不仲)に相談する相手は、決まって父親だったのです。
    なるみが「ひかげ旅館」に到着すると、お化け屋敷かと思えるほどの建物と、かなり訳ありそうな人物達に不安を覚えますが、それ以上になるみを驚かせたのは、(なるみが知らなかった)生前の父親の本当の姿でした。
    ・・・
    そこから、「ひかげ旅館」で働く面々と客(とその家族)、更に父親の古くからの親友などが絡んだ、心温まる物語が進んでいきます。

    本書のメインテーマ(勿論、ズバリは書きません、というか書けません。そもそも私の勝手な解釈ですから)は、父親が「ひかげ旅館」を引き継いだのは何故か?に凝縮されていると思いました。
    つまり、(小説なので当たり前なのでしょうが)書きたいテーマを表現するために「ひかげ旅館」という舞台と、父親の人物設定が必要であったということなのでしょう。

    本書には数多くの心に響く文章がありますが、とりわけ終盤に出てくるなるみの言葉は最高でした‼️

    そう、お父さんはきっと、お客さんたちみんなに言っていたにちがいないんだもの
    -つらいことがあるのなら、いつでもひかげ旅館へいらっしゃい、って。

    最後に、続編が是非読みたいのですが、何とかならないですかね?
    出版社の皆さん、加藤さんよろしくお願いします。

  •  家族や家庭に恵まれてこなかった女性が鄙びた温泉地の寂れた旅館に居場所を見つけ、精神的に自立していくまでをコミカルに描いたハートウォーミングストーリー。

     全4話で、各話のタイトルに旅館にある4部屋の名前がつけられている。
              ◇
     なるみが幼児の頃に両親が離婚。

     なるみを引き取った母親は常に世間体第一で、いつも正しいのは自分であり、可哀そうなのも自分だと主張する独善的な人だった。
     だからなるみが悩みや愚痴を話そうにも斬って捨てるように自分の考えを一方的に押しつけるだけ。傍にいてくれるが娘に寄り添おうとしないのがなるみの母である。

     一方、故郷で小さな旅館を営む父親は常にフラットな目線で娘の気持ちを察してくれる人だった。
     だから手紙の遣り取りながら、どんな些細な悩みにもユーモアを交えつつきちんと相談に乗ってくれる。離れて暮らしているが優しく見守ってくれるのがなるみの父である。

     父だけが自分の味方だ。そう思ってなるみは成長した。ある日、その父が死んだという報せが、なるみのもとに届く。
     夫との間がうまくいかなくなっていたこともあって、なるみは父の旅館を訪ねることにした。

     以上が、なるみが父の故郷に下り立つまでの話である。父の思い出に浸って心を癒そうとしたなるみだったが……。

          * * * * *

     この作品のおもしろいところは、登場人物みんなにクセがあり、すごい善人でもないかわりにとことん悪人でもない。いいこともしたいようだけど小狡くセコいところも隠せない。そんな実際にいそうな人たちであるところです。

     だから読んでいても、爽快さとは無縁でありもやもやした気持ちにもなるけれど、加藤元さんの独特なタッチで苦笑混じりに読まされてしまいます。また、読みながらいろいろ考えさせられてしまう作品でもありました。

     ただラストは希望を漂わせて締めくくるので、読後感は悪くありません。
     初読みの作家さんですが妙に印象に残る作風で、他作品も読んでみたくなりました。

  • 辛い時、悲しい時、いつも手紙で相談にのってくれたのは、別れた父。その父が亡くなり、主人公は父が経営していた旅館へ行ってみる事に。
    そして初めて知る。そこで父は女装し「おかみ」をしていたということを―。

    金色に黒の横縞の壁に、イルミネーションのコードが巻きついた手すり。極めつけにどこか卑猥な内風呂。外から見ても、中から見ても、下品で悪趣味なひかげ旅館。でもそのごちゃごちゃとした猥雑なところが、女装癖のあるおかみに合っているという気がしなくもない。

    父の死をきっかけに、その旅館の手伝いをする事になった主人公・なるみ。
    そこから見えてくる父であるおかみの姿。
    なるみやひかげ旅館の人達の悩みにうまい具合に寄り添うような言葉選びだとか、妙な例え話だとか。そういうのが説得力があるというよりは、胸にすとんと落ちてくるような感じ。なんか良い。
    なんだかんだで一風変わったおかみは、周囲から慕われてたんだよなぁ。

    ストーリー的には結構好み。何が良いって、もちろんおかみの魅力にかぎる。彼女(彼?)が話す拡大解釈された一寸法師の物語が、今の世を皮肉った感じでなかなか面白い。
    ただなるみの、父親が女装していたという事実を、割とすんなり受け入れてしまったのに違和感が。もっとこう娘として複雑な感情があったりするでしょうよ。天藤とか源五郎の人となりも、もっと掘り下げて欲しかったな。

    綺麗に終わったと見せかけて、これからなるみが最低な夫(読んでいて胸糞が悪い)とどう決着をつけるのか心配にもなる。

  • 読みやすかった。続き(ひかげ旅館のそれぞれの物語)をもっともっと読みたいとおもった。それくらい自分がこの本に溶け込めた。キャラクターの気持ちの移ろい、笑い話、泣き話、サクサク読めて内容もおもしろかった。終わりかたもさっぱり。よかった。

  • 面白かったです。
    お父さん、好き。

  • 楽しめた

  • 旅館系の本は、人生論を学べる感じがする。
    その人には、その人の生き方があるんだよね。
    2023/10/13

  • おかみさん、会ってみたい。
    たぶん、すぐには理解できなくても、
    後から後からジワジワとおかみさんの言葉が沁みてくるんだろうな。
    いずれはそんなおばあちゃんになりたい。
    いや、経験が浅すぎるか…

  • とっても好きな設定だったんだけど。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ、東京育ち。日本大学芸術学部文芸学科中退。日本推理作家協会会員。2009年、『山姫抄』(講談社)で第4回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。『泣きながら、呼んだ人』(小学館)が盛岡のさわや書店が主催する「さわベス」1位を獲得。2011年に刊行した『嫁の遺言』(講談社)が多くの書店員の熱い支持を受けベストセラーに。その他に『蛇の道行』(講談社)、『四月一日亭ものがたり』(ポプラ社)、『ひかげ旅館へいらっしゃい』(早川書房)、『ごめん。』(集英社)など。昨年刊行した『カスタード』(実業之日本社)は奇跡と癒しの物語として多くの読者を勇気づけ、本作はその続編にあたる。不器用だけど温かな人情あふれる物語には、幅広い世代にファンが多い。

「2022年 『ロータス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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