- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152094629
感想・レビュー・書評
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家族や家庭に恵まれてこなかった女性が鄙びた温泉地の寂れた旅館に居場所を見つけ、精神的に自立していくまでをコミカルに描いたハートウォーミングストーリー。
全4話で、各話のタイトルに旅館にある4部屋の名前がつけられている。
◇
なるみが幼児の頃に両親が離婚。
なるみを引き取った母親は常に世間体第一で、いつも正しいのは自分であり、可哀そうなのも自分だと主張する独善的な人だった。
だからなるみが悩みや愚痴を話そうにも斬って捨てるように自分の考えを一方的に押しつけるだけ。傍にいてくれるが娘に寄り添おうとしないのがなるみの母である。
一方、故郷で小さな旅館を営む父親は常にフラットな目線で娘の気持ちを察してくれる人だった。
だから手紙の遣り取りながら、どんな些細な悩みにもユーモアを交えつつきちんと相談に乗ってくれる。離れて暮らしているが優しく見守ってくれるのがなるみの父である。
父だけが自分の味方だ。そう思ってなるみは成長した。ある日、その父が死んだという報せが、なるみのもとに届く。
夫との間がうまくいかなくなっていたこともあり、なるみは父の旅館を訪ねることにした。
以上が、なるみが父の故郷に下り立つまでの話である。父の思い出に浸って心を癒そうとしたなるみだったが……。
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この作品のおもしろいところは、登場人物みんなにクセがあり、すごい善人でもないかわりにとことん悪人でもない。いいこともしたいようだけど小狡くセコいところも隠せない。実際にいそうな人たちであるところです。
だから読んでいても、爽快さとは無縁でありもやもやした気持ちにもなるけれど、加藤元さんの独特なタッチで苦笑混じりに読まされてしまいます。また、読みながらいろいろ考えさせられてしまう作品でもありました。
ただラストは希望を漂わせて締めくくるので、読後感は悪くありません。初読みの作家さんですが妙に印象に残る作風で、他作品も読んでみたくなりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
旅館系の本は、人生論を学べる感じがする。
その人には、その人の生き方があるんだよね。
2023/10/13 -
ひかげ食堂、インテリアセンス良さそうなのに、良くないのが不思議。ここが少し違和感があった。
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風変わりな、ややこしい人たちの出てくる物語。「おかみさん」の言葉が、いろいろ・・・超越してる感じで、それがいいですねw
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亡くなったお父さんが経営していた旅館を訪ねると、お父さんはそこの「おかみさん」だった。外観はボロボロで、お風呂は特殊浴場っぽい作り。
そこに無口な料理人と時代劇言葉を喋る小学生が暮らしている。
そんな変な環境を舞台に、その宿を訪れる訳有りな客との人情劇。結婚とは、離婚とは。それも考えさせられます。 -
子供の頃に離婚した両親。幼心に育ててくれている母親に捨てられないよう、都合の良い子供を演じることしか出来なかったなるみにとって、父親と文通するのが生き甲斐で逃げ場所だった。
折しも夫の不倫疑惑・ほぼ確定を知ってしまった時に父親の訃報が届く。なるみは父親の住んでいた町に赴くのだがそこには思いもよらない真実が隠されていたから、もう。
ひかげ旅館に引き寄せられる人々には特徴がある。やってくる彼・彼女らが磁場を感じる理由を本人たちは気付いていないのかもしれない。けれどおかみさんは全てを理解してる。理解した上で、この旅館の存在している意義を押し付けたりはしないのだ。
加藤元という作家の文章とか目線はレーザービームの如く読む人に突き刺す。なのに読後ほへらっ、と微笑を浮かべてしまうのは所々に差し込まれる笑いがあるから。
『自分探し』なんつってる奴に探せる『自分』なんか屁、だと思う。自分は探すものじゃなくていつもあるもの。本当の自分を探してくれるのは案外自分自身じゃなくて、関わりゆくヒトなんじゃないかな、と思ったんでした。