高い窓

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152095060

作品紹介・あらすじ

村上春樹によるチャンドラー新訳シリーズ、第五弾! 私立探偵フィリップ・マーロウは大邸宅に住む老女主人から呼び出される。貴重な金貨を持ち逃げした息子の嫁を探して欲しいと言うのだが……

感想・レビュー・書評

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  • 息子の嫁が希少コインを盗んでいなくなったと話す、ポートワイン狂のミセス・マードックの依頼を受けた私立探偵のフィリップ・マーロウ。
    マーロウは駆け出し探偵が死体になっているのを発見し、古銭商が死体になっているのも発見する。誰も本当のことを語らないが、マーロウは8年前に何があったのかも推理する。ゆすり屋も死んで、一件落着。

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    終盤、会話のなかですべての謎を説明してくれるあたりは『渡る世間は鬼ばかり』のようだった。笑ってしまうくらいの勢いの説明だったが、ここまで説明してもらえるなら自分も納得して読める。
    ミセス・マードックのマールに対する嘘がいちばん酷い気がしたな。何もやっていないひとに罪の意識を植え付ける嘘。

    今作もマーロウの粋な台詞があったので引用しておく。

    ”私が知らないことを質問しないでもらいたい。答えることができないからね。そしてまた私が知っていることも質問しないでもらいたい。答えるつもりはないから。”(P37より引用)

    マーロウの言い回しは話している相手ほとんどを怒らせる。それこそがタフである証なのかもしれない。
    (タフとはなんなのだろう)

  • 久しぶりのフィリップマーロウ。やっぱ好きだなぁ〜
    松田優作の探偵物語世代の俺は何度も工藤ちゃんを思い浮かべてしまった。
    依頼人を守り、ヒロインを救う。現代版の中世騎士物語。
    ルパンのカリオストロの城を想うのは、やはりこれも世代か...
    なんだか俺が事件を解決したみたいな気になって最高だった。

  • 登場人物がフッとわからなくなりつつ・・・
    劇的なことはないけど、納得させられた

  • いつもながらの原文のニアンスを大切にした丁寧な訳文ですが、『R・チャンドラーの「長いお別れ」をいかに楽しむか』を読んだ後だけに、少々冗長すぎるように感じてしまいました。清水訳の簡略と簡潔さに改めて感心といったところでしょうか。古典だけあって、後から踏襲された作品が多くあり、オリジナルの方が逆にステロタイプ化してみえてしまうきらいはありますが、ハリウッドの怪しくて危険な人間関係の中で、貴重なコインを中心に繰り広げられる物語は、すごく楽しめました。

  • レイモンド・チャンドラーは村上春樹の翻訳で読み始めました。この「高い窓」は今まで読んできた中でもっともしっくりきた作品です。

    マーロウは反省からの帰納的な認識から倫理と遊侠の人として描かれている。帰納的な推理からの認識、それは反省を経なければ可能ではない。マールへの姿勢はそこからある倫理と遊侠の姿勢を明確に示している。これがチャンドラーの真髄かとしっくりきた。村上訳で読んできた今までのチャンドラー作品を再読してみたい衝動に駆られている。

    あとがきにあった疑問点などの一つの答えは認識の蓋然的な性質の示唆だろうと思う。

  • ちょいと説明的すぎるが、残るシーンが其方此方に。

  • 村上春樹の訳すチャンドラーも、これでもう五作目。さすがに、村上版マーロウも板について、今回の作品では全く違和感がない。これからは、このマーロウが定本になっていくのだろうな、などと少し感慨に耽りながら読み終わった。何度も映画化され、他の作家によって続篇まで書かれた『ロング・グッドバイ』や、『さよなら、愛しい人』などと比べると、自作の中短篇から、いいとこ取りして作られていないぶん、シンプルでストレートな仕上がりとなっている。そのぶん、脇筋の印象深い登場人物に引きずりまわされて痛い目にあったり、警察でいたぶられたり、といったチャンドラーらしさが足りないような気がするのは致し方ない。

    いつもと同じように、マーロウが依頼主の住む豪邸を訪ねるところからはじまる。ハチドリが謳い、揚羽蝶が紫陽花に眠ったようにとまる夏のパサデナ。裕福な未亡人エリザベス・マードックの依頼は、義理の娘の行方を捜してほしいというものだった。失踪の陰にはブラッシャー・ダブルーンという稀少な金貨の盗難が絡んでいた。息子は溺愛しているが、他人には傲岸不遜な夫人に好感は持てなかったが、息子に好意を寄せているらしい秘書の不幸そうな様子が気になった。仕事にかかったマーロウを待ち受けていたのは、またもや複数の死体だった。

    一人は落ち合うはずのアパートで頭を撃ち抜かれ、もう一人は店で死んでいた。探偵が動き出すと死人が出るのは、捜査によって何かが明るみに出るのを嫌がる人物がいることを示す。怪しいのは、失踪した妻の友人の夫か。それとも夫の留守に現われる愛人の方か。その愛人が落とした歯科技工士の請求書が意味する物は何か。やたら煙草を吸いたがる男たちの落とす灰や吸殻、燃え残った燐寸の軸は事件を解決する糸口に結びつくのか。ハードボイルドでありながら、読者に犯人を見つけるための手がかりを残す、正統的なミステリの手法を重視した論理的な展開を見せる。

    マーロウが口にする気の利いた科白は相変わらず。老刑事の葉巻を扱う儀式めいた手順から相手の手ごわさを知るところ。エレベーター番の老人の人間観察眼を見くびったことに対する自戒。客の罵声を耐えた若いバーテンダーの抑えた怒りのとばっちりを受けながらも鷹揚に許す度量。金貨の保管先に選んだユダヤ人の質屋の主人との息の合ったやりとり、といつもながらのことではあるが、ほんの少ししか登場しない人々の人間味溢れる傍役ぶりには、チャンドラーが市井の無名の人間に寄せる愛情と信頼が感じられ、味わい深い。

    それにもまして心に残るのは、馬を繋ぐ輪っかを足元につけた着色された乗馬服姿で鞭を持った黒人少年像の扱いだ。ミセス・マードックの屋敷の前にいつも立っている像の頭に手を置き、訪問のたびにマーロウは少年に語りかける。ふだんは、人を見れば減らず口を叩き、相手に腹を立たせてばかりいるマーロウが、このときばかりは親身に話しかけてみせる。まるで生きている人間より、よほど本当に生きていて心許せる相手ででもあるかのように。金持ちの家に雇われているというだけで人を人とも思わぬような応対をする使用人たちの横柄さとの対比が何ともいえず小気味よい。

    清水俊二、田中小実昌両氏の訳と比較していないので、新旧訳の比較は後日を待ちたい。はじめて村上訳のマーロウが登場したとき、賛否が分かれたのを記憶している。旧訳になれたファンには、訳の良し悪しより、逐語訳に対する違和感が強かったのではないか。以前、原文と比較して新旧訳を読み比べ、原文の持つリズムやドライブ感に舌を巻いた覚えがある。会話部分の台詞回しは名調子なのだが、人物の容姿、服装や家具調度、建築様式などを必要以上とも思えるほど丁寧に描写するチャンドラーの文章は、忠実に訳せば訳すほど日本語としては冗漫に感じられ、所謂ハードボイルド調とは異質なものとなる。チャンドラー自身はハードボイルド小説を書いているという意識はなかったのだろうが、ジャンルで本を選ぶ向きにはチャンドラーもまた、その一人と受けとめられていたにちがいない。『高い窓』は、ハードボイルド的要素が比較的少なく感じられる分、村上訳も受け入れられやすいのではないだろうか。ダークブルーの地に建物のシルエット、黒白の文字を効果的に配した装丁は、これまでの村上訳チャンドラーの中で最も作品の雰囲気を伝えている。

  • どうやら、12月に入ったら発売されていたようなんですが。
    ちょっとばたばたしていて、本屋さんの店頭を通りながら、「おや?」と、気が付いたのが、確か12月24日でした。
    ちょうど、自分へのクリスマスプレゼント!
    ご機嫌にちびちび酒を飲むように愉しんで読みました。

    フィリップ・マーロウという中年の私立探偵。
    若い頃は(?)警察なり検察でも働いていたようですが。
    舞台は1930年代~40年代のカリフォルニア、ハリウッド。
    格差社会、消費社会、個人主義、成果主義、といった坩堝に、人種差別と性差別と暴力を流し込んだような町な訳です。
    相棒もいなくて、恋人もいません。
    そして、全てこのマーロウさんの皮肉と警句に満ちた一人称で、物語は語られて行きます。

    大抵が、いけすかないお金持ちからの謎めいた依頼に着手するうちに、次から次へと死体と遭遇。
    複雑な陰謀に巻き込まれながら、特別にスーパーに活躍する訳でもなく、ぶつぶつ言いながら運転したり尾行したり考えたり殴られたり脅されたり。
    そんなこんなをしているうちに、大概はマーロウさんの活躍のお蔭、という訳でもなく、特段ハッピーでもない結末になります。
    一応、犯人は捕まるか、死亡します。
    毎回、それなりに複雑で入り組んだ謎の、ほとんどは解明されます。
    (時折、「あれ?中盤で運転手が死んだけど、あれの犯人は誰なんだ?」みたいなことが起こります)

    なんとなく、高校生から大学生の頃だったか、一通りは清水俊二さんの翻訳で読んでるんですね。
    そして、面白い、と思っていました。
    ただ、上記のような作風なので、内容は一切がっさい覚えていません。

    そこで始まった村上春樹さんの翻訳シリーズは、大変に愉しんでおります。
    村上春樹さんの翻訳文章って大好きなんですね。
    ほんとに、外れなしの素敵さです。個人的に。

    意地悪でけちな初老の女性=未亡人。
    この人に雇われたマーロウ。
    「息子の嫁が、家宝の金貨を盗んだ。証拠は無いが」。
    さて、歩き始めたマーロウさんは、次から次へと死体と出くわし。
    物語は広がりながら、その未亡人の私設秘書のおどおどした女性が話題の中心になってきます。

    そうして、感動的な偶然とご都合で…徐々に、8年前に「高い窓」から突き落とされた男の事件が浮かび上がってきます。
    金貨を探すマーロウの仕事は、一日で2体、翌日にまた1体…と死体が現れ、混迷の中でなんとなく解決します。

    うーん。
    ほんとに粗筋はどうでも良いですね…
    細部、文章。つまりマーロウのキャラクター。気の利いたセリフ。
    一人称というのはその人物の性格付けが強く出ますね。
    もう、そのキャラクターが躍動していれば、満足の行く物語世界になる…そんな強烈なキャラクター。
    映像の世界では、ルパン三世、中村主水、工藤俊作、などなどが思い浮かびますが、文章の世界で言うと。
    シャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、メグレ警視、うーん、好みによっては長谷川平蔵、新宿鮫、というところでしょうか。
    もちろん、フィリップ・マーロウも圧倒的にこの集団に入る訳ですが、
    特筆すべきはその中でも最も、「何が起こってるんだか分からない小説世界」なんですね。
    外側だけのミステリーと言いますか。

    そこの「判りにくいことが短所ではなく長所である魅力」を、翻訳者としての村上春樹さんは、理屈じゃなく体で良く判っているような気がします。
    何が何だかわからないけれど、みんなが嘘をついて、孤独で、お金に惑い、男女関係にだまされ、モラル無き欲望のカオスの中で泣きそうになりながら虚勢を張って生きています。
    そんな中を淡々とけだるそうに彷徨う、実はインテリで繊細だけど、憎まれ口を聞かざるを得ない不思議なモラリスト。フィリップ・マーロウさん。

    今回「高い窓」を読んでいて、レイモンド・チャンドラーさんは、ほんとにしみじみ、もはや面白いことは面白くないんだろうなあ、と思いました。
    私立探偵が死体から死体、美女から美女へと渡り歩くお話なのに、チャンドラーさんは恐らく、すごく判りにくい、そして深い面白さをイメージしていたんだろうなあ、と思いました。
    その孤高の志の高さ、無意識の高潔さが、この小説世界の汚れない美しさの理由なのかなあ、と思いました。

  • あとがきで村上春樹が挙げていた文章、僕も気になってた。

  • 再読

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著者プロフィール

Raymond Chandler
1888年シカゴ生まれの小説家・脚本家。
12歳で英国に渡り帰化。24歳で米国に戻る。作品は多彩なスラングが特徴の一つであるが、彼自身はアメリカン・イングリッシュを外国語のように学んだ、スラングなどを作品に使う場合慎重に吟味なければならなかった、と語っている。なお、米国籍に戻ったのは本作『ザ・ロング・グッドバイ』を発表した後のこと。
1933年にパルプ・マガジン『ブラック・マスク』に「脅迫者は撃たない」を寄稿して作家デビュー。1939年には長編『大いなる眠り』を発表し、私立探偵フィリップ・マーロウを生み出す。翌年には『さらば愛しき女よ』、1942年に『高い窓』、1943年に『湖中の女』、1949年に『かわいい女』、そして、1953年に『ザ・ロング・グッドバイ』を発表する。1958 年刊行の『プレイバック』を含め、長編は全て日本で翻訳されている。1959年、死去。

「2024年 『プレイバック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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