黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実

  • 早川書房 (2015年4月22日発売)
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本 ・本 (528ページ) / ISBN・EAN: 9784152095343

作品紹介・あらすじ

世界を震撼させたホステス失踪事件の真相に、在日20年のザ・タイムズ東京支局長が日英豪関係者への10年越しの取材で迫る執念のルポ。デイヴィッド・ピースら著名作家が絶賛。日本版あとがき収録

感想・レビュー・書評

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  • 英国人ジャーナリストの渾身の取材による2000年に起こった英国航空元CA女性の失踪・殺人事件に関するノンフィクション翻訳版。私の知らない日本が炙り出された名著だと思う。比較文化社会論としても興味深い。

    原題は"People who eat darkness"。推して知るべし。

    なぜ元CAが六本木で水商売を? 欧米とアジアにおける客室乗務員の社会的階級の決定的な差が存在する。殊に英国ではブルーカラーの収入で彼女は借金を重ね、日本で稼ぐ必要と興味があった。

    東京における水商売・風俗産業のすみ分け、執筆当時から多少の変化はあるものの、高級銀座エリア、猥雑極まる歌舞伎町エリア、そして事件の舞台となった外国人を中心に据える六本木エリア。なぜ、外国人が六本木なのか、或いはなぜそれを目当てにする日本人が六本木に群れるのか。私は六本木に無縁だったな。知らなかった…。

    日本人ならば、ああそうねと留めるところを英国人からみた内実が曝され、むしろそうだったのかという驚き。

    今や訪日外国人観光客が街に溢れるのは自明だが、就労ビザではなく、タイから流れてきた白人女性バックパッカーの類の彼女たちがドラッグやアルコールに身を沈め、資金に行き詰まると、東京の風俗で働き、少々の蓄財でまたタイとの間を往復するケースがあるというのも驚きだった。タイは確かに白人が多いからなあ。

    また、その背景には彼女たちが母国の家族に問題を抱え、親による性虐待の傷を持つケースも散見されるとのこと。
    女性たちが自分に自信が持てず、心理的にも物理的にも親から離れた東京で風俗に身を沈めるというのも理解できる。

    「母性が女性に備わった”本能”という意識が強い日本文化」という表現にも、溜飲が下がる。

    英国人から見た日本である。親ならば、女性ならば、本能で子どもを慈しみ、育むことが当然。日本人の頭と心に刻み込まれている意識だが、本能ではなく、個人差があるものだ。

    犯罪被害者家族の振舞いという視点において、日本では不文律のように自分の感情を抑制し、カメラの前で言葉少なに…という紋切り型がある一方で、英国では個人の怒りや憤りはもう少し表現しても許されるとのこと。

    だが、被害者の父親の振舞いはその英国の不文律の一線を越える異様なものであり、本著によってはじめて内実を知った。彼は、行方不明の娘が働いていた六本木の風俗で遊んでいた。違和感を禁じ得ない。

    人がどのようにして、弱者や被害者に憐れみを感じ、手を差し伸べようとするのかということについても、私は殊更言語化して考えたことがなかった。
    昨今、企業や組織が何かと早め早めに記者会見を開き、幹部が大仰に頭を垂れるのもその表れかもしれない。
    「謝っているなら、困っているなら、許してやるか」と。どう思うか、考えるかよりも、どう見られるかを優先する日本文化が背景にあるかもしれない。

    最高裁まで争い、終身刑となった男性についても、おぼろげな記憶しか残っていなかったが、民族的出自や生い立ちにとどまらず、戦後復興時や彼の父親の代に遡って、民族的な出自の問題にタブーなしに切り込んでいる。

    日本人ジャーナリストでは難しい技だが、英国人の視点だからこそ、一族の豊かな資産やそれ故の偏狭さ等にも遠慮ない筆致だ。
    宮本輝さんの「流転の海」シリーズの尼崎の半島問題を抱えたアパート「蘭月ビル」を思い起こした。

    多分日本人ジャーナリストの取材ひな形というものが目に見えない形であって、それは暗黙の了解でしょうと、やり過ごす部分について、英国人が飲み込めなかった数多くの視点を、相当の取材と頁をかけて記した貴重な犯罪ノンフィクションである。
    ああ、そうだったね、というより、えっ?!そうだったの???ぐらいの驚き。

    知ることは豊かだなと感じられた一冊でした。

  • この事件の事をほとんど知らなかったので、興味深く読んだ。事件や被害者のことだけでなく、遺族たちの事件への反応、その後の人生などをじっくり書いていて読み応えがあった。ただ、犯人については不可解で分からない事だらけで、不気味さしか伝わってこずモヤモヤとした。

  • 犯人から事実を聞きたい気分。

    15年かけて作られた本って考えるとすごい。
    周りの人のいろんな目線もわかるし、外人目線の日本も知れて面白い。

  • HONZ

  • 326.2

  • 事件ノンフィクションには、しばしば下世話なのぞき見趣味を刺激するものがあって、読んでる自分が嫌になってくることもしばしばだが、これは違っていた。被害者と加害者の双方、本人はもちろん家族や関係者のプライバシーにかなり踏み込んでいるけれど、興味本位に暴き立てる感じがなく、こういうのって非常に珍しいと思う。

    著者は、英国「ザ・タイムズ」紙アジア編集長および東京支局長で、滞日20年だそうだ。さすがに日本のことをよく知っているなあと思わされる。繰り返し言及されている、日本の「水商売」のありようとか、警察の捜査や司法制度についての疑問・批判には、若干西欧中心的な感じがあるものの、なるほど「外」からはそう見えるのかと納得するところもある。事件について、「特異な犯人の冷酷な犯罪」という側面にとどまらず、日本社会の一面をあぶり出していく書き方になっていて、そこが優れていると思った。

    これはかなり騒がれた事件だったと思うが、詳しいことは知らなかったので、まずそのドラマティックな展開に驚かされた。犯罪小説そこのけ。でも、ここに登場する人たちは誰一人型どおりではない。特に被害者の父親が、「期待される被害者遺族像」からかけ離れていて、そういえば当時もバッシングの対象となっていた記憶がある。このティム・ブラックマンがもっとも印象的だが、どの人にも、どの家族にも、傍目には窺い知ることのできないそれぞれの「生」がある。多くの人に知られるはずもなかったその姿が、非道な犯罪によってさらけ出されてしまう。二重の恐ろしさを感じた。

  • Netflix「警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件」
    を見た人は必読の一冊。

    外国人女性だけでなく、日本人女性も被害に遭っていたのに
    長年犯行が露呈しなかったのは何故か。

    弁護団や出版社を巻き込んで自費で反論本まで出したのは何故か。

    自分の糞を咥えて死んだ大企業役員の存在は何を意味するのか。
    闇が深すぎる。

  • 圧倒的熱量。
    本書を読み終えて呆然としている。
    一人の英国人女性の失踪と、その顛末が徹底的に描かれていて目眩がしそうだ。
    犯人と被害者、その間に何があったのか。
    これをルポ、しかも小説風にして出す力量に恐れ入った。

  • すごい取材力

  • リンゼイさんの事件と大分混同していた。あれ、犯人は逃げてた人じゃなかったっけ、みたいな。
    でも、ずっと恐ろしい事件だった。

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著者プロフィール

(はまの・ひろみち)
翻訳家。ロンドン大学・東洋アフリカ学院(SOAS)卒業、同大学院修了。訳書にロイド・パリー『狂気の時代』(みすず書房、2021 年)、ケイン『AI監獄ウイグル』(2022年)、レビツキー & ジブラット『民主主義の死に方』(2018年)、ヒル & ガディ『プーチンの世界』(共訳、2016年。以上新潮社)、フリードマン『2020-2030 アメリカ大分断』(早川書房、2020年)など多数。

「2022年 『中国の「よい戦争」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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