忘れられた巨人

制作 : Kazuo Ishiguro  土屋 政雄 
  • 早川書房
3.60
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本棚登録 : 1447
レビュー : 188
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152095367

感想・レビュー・書評

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  • カズオ・イシグロの新作。なんと10年ぶりの長編らしい。『わたしを離さないで』からもうそんなに経っているのか……。
    その『わたしを離さないで』はSF、『わたしたちが孤児だったころ』はミステリと、ジャンル小説の手法を用いるイシグロだが、今作はファンタジー。『新作は単なるファンタジーではない』という発言でやや物議を醸したらしいが、純粋にファンタジーかと言われるとちょっと首を傾げる。ご本人がおっしゃっている『本質的にはラブストーリー』が一番ぴったりなんじゃないかなぁ……。

  • 忘れられた巨人

  • あのカズオイシグロ氏の長編。
    やはりイギリスにベースを置く作家は、ファンタジーの世界にも造詣が深くなるのだろうか?
    アーサー王が去り、円卓の騎士は年老いてもまだ生きていた時代のイングランドの話。

    イメージ的には、トールキン指輪物語の第一部旅の仲間に非常に近い世界だが、もちろんトールキンの焼き直しではなく、イシグロ氏の設定した世界での完全なオリジナル。

    派手に盛り上がるシーンはないが、情景描写が非常に細やかで、主人公の息遣いまで感じられるようなリアルさ。
    そして深まる謎とその解決、展開。

    じわじわと面白く、最後まで一気に読んでしまった。
    面白かった。

  • 静か。だ。霧が深いところも。霧が晴れてしまった後も。
    忘れるべき記憶とか、思い出さない方が良い過去とか、そういうのがテーマらしい。ある意味政治的ともいえる主題と、それに付随する読者のあーだこーだな五月蠅い解釈を、越え、貫かれる一本のしんとした静謐に、ただただ心を打たれた。

  • とうとう読みましたよ!
    今までのカズオ・イシグロさんの中では、一番読みやすかった。
    みんなで竜退治をしよう!というファンタジー。
    いや、もちろんディストピア小説ではあります。
    希望を持って読み進めていくんだけど、まただんだんいやーーな気持ちに(苦笑)

    「忘れられた巨人」とはなにか、わかったときにどーんとまたいやーーな気持ちに…

    浅いレビューですみません。(あずきこ)

  • ▶︎日本名だが、魂はイギリス人。翻訳物は意訳が難しいためか、人物の関係や話の展開が分かりにくい。いや、全く分からない。
    ▶︎イギリスの気候風土と同じく、話の展開が霧の中
    ▶︎4ヶ月かかって、やっと最終ページ。

  • カズオ イシグロを読むのはこれが初めて。わたしを離さないでのほうが有名だけど。

    アーサー王全く知らないけれど、Wikipedia によると彼の功績(伝説)の一つは、サクソン人の侵略からブリテン島を守ったことらしい。

    少年漫画みたいだなー、というはじまりから、それぞれの謎の解決がわりかし早かった。
    主語述語がきちんとある文章で、読みやすいというかよみにくいというか。くせがある文章のほうがもっと読み続けやすいかも。
    わたしの理解が足りてないのかもだけど、Beatriceは文句ばっかりでどこがいい奴なのかわからなかったし、Axlは徒労の多い人生だな、というかんじで。ドラゴン倒したあとも、これで悲劇が、、、とみんなで言ってたけどそれSir Gawainが散々言ってたやん!何を今更!と。
    知らぬが仏。

  • カズオ・イシグロの話題作…と言っても話題になったのはもうずいぶん前だけれど。忘却の霧に覆われたファンタジー的な世界における老夫婦の冒険と愛情を描いた作品だが、『充たされざる者』ほどの非現実感は無い。『わたしたちが孤児だったころ』の探偵小説的世界、『わたしを離さないで』の SF 的世界と並べてみると、いろいろなスタイルを模索している中での習作とも言えるが、それにしても前二作よりはやや劣る印象。

  • 「わたしを離さないで」のイメージを持って読み始めたので、舞台が古きイングランド、アーサー王の時代から地続きの、竜も妖精も住まう半ば神話の中の物語・・・というのにまず面食らった。

    主人公は互いを労わりあう仲睦まじい老夫婦。
    なぜか、彼らをはじめとしたこの国の人々は健忘症にかかっていて、ほんの数日前のことをすぐに忘れてしまう。
    夫婦は顔も忘れてしまった息子を訪ねるための旅に出る・・・よたよたとした足取り、繰り返されるちょっとまだるっこしいくらいの会話。
    冒険のはずなのに胸が膨らむような期待感はなく、なんともさみし気で、読み続けている間、びょおびょおと強い風の吹き荒れる荒野がずっと続いているのを眺めているような気持ちになった。
    少しずつ解きほぐされていく記憶の果てが悲しくて寂しくなる。
    共に生きていくということは思い出や記憶を共有するということなんだろうけれど、そのことと、いまただ傍にいるということの価値は等価なんだろうか、それともどちらかのほうが価値が高いんだろうか。
    人は、記憶のなかにある人と、目の前にある人と、どちらをより信じ、必要とするんだろう。
    そんなことをふと考えた。

  • カズオ・イシグロの10年振りの長編は、記憶と忘却をテーマにしている。例えば「東京物語」の老夫婦が家族の思い出を語り合うように、そもそも誰かが何かを憶えていなければ物語は始まらないのだが、アクセルとベアトリスは大事なことを忘れてしまっている。自分たちの息子がどこにいるのかも覚束ない。

    大事なことを忘れているところからスタートする。この設定をクリアするために、筆者は「私を離さないで」に続いてファンタジーの採用に踏み切ったのだろう。「人の心には竜が棲んでいる」といえば隠喩にすぎないが、竜を物語の中に登場させればそれも隠喩なのだけどファンタジーになる。そのファンタジーが違和感なく受け止められるための仕掛け、それがアーサー王伝説だろうか。

    ゲルマン系サクソン人がケルト系ブリトン人の土地に侵攻していた時代、侵略者に颯爽と立ち向かったのがアーサー王である。しかしローマ人がブリタニアを放棄した後のことでもあり、残念ながら史書にその記録は残されていない。アーサーはそもそも敗者の側であり忘れられていたのに、後世思い出されて英雄になった。それはキリスト教化していたブリトン人と未改宗のサクソン人という構図、つまり宗教戦争の英雄と位置づけられたからだ。歴史は時に勝者に都合の良いことのみを語り平然としているが、神話であればなおさら恥じる必要はない。アーサーだけでなく当時の西欧各地のローマ側の将軍たちは数に勝るゲルマン人を何度となく包囲殲滅しているが、やがて防御網を分断され敗れていった。ブリトン人もそうだったのだとすると、そこにどのような感情があったのか、神話に書かれていないけれども想像することはできる。

    こうして、「記憶と忘却」「神話の中の宗教戦争」「民族間の憎悪」という道具立てが整った。ボスニア・ヘルツェゴビナの惨事を記憶に留めようとするのであれば、現地を取材してドキュメンタリーとして書き上げることもできたはず。しかしそれでは彼の壮大な想像力は現実の凄惨さの前に色あせてしまうかもしれない。彼が想像力を駆使する舞台に選んだのは、イギリスの古い血塗られた記憶、アーサー王の時代だった。

    そもそも、人間は都合の悪いことを忘れたり、政治的な必要性から記憶を留めようとしたりする動物である。日本人は被爆の記憶を留めようと原爆記念公園を作り、そこに70年の間に記憶の薄れた敵方の大統領が訪問したと喜ぶが、一方で慰安婦像をソウルに建てて忘れまいとする人々には眉を顰める。竜の息は過去を正当化する悪なのか、人々が平和に暮らすための正義なのか。正義と悪だけでなく記憶と忘却も相対化してしまったところに、私は筆者の思考力の凄さを感じた。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

忘れられた巨人のその他の作品

忘れられた巨人 Kindle版 忘れられた巨人 カズオ・イシグロ
忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫) 文庫 忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫) カズオ・イシグロ
忘れられた巨人 Audible版 忘れられた巨人 カズオ・イシグロ

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