人体600万年史(上):科学が明かす進化・健康・疾病

  • 早川書房
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感想 : 44
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152095657

作品紹介・あらすじ

「裸足への回帰」という趨勢の生みの親として著名な進化生物学者が、現代人の病という視座を通すことで600万年の人類進化史をエキサイティングな、現在進行形の物語に変えた、骨太な知のサーガ。

感想・レビュー・書評

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  • ・人間の身体の進化の物語であり、人は何に適応しているのかを問う
    ・その問いに対して明快で単一な答えは見いだせないことが人体の神秘的な結論
    ・人類の身体は現代の食事や運動不足にうまく対応できるように適応できていない
    ・これまでの人類の生物学的進化に対して、文化的進化により私たちの身体は現代の環境に適応できず、ミスマッチとなる病気が起きる
    ・「食べたものが人をつくる」というが、進化の論理では、場合によっては「普通なら食べないものが人をつくる」
    ・チンパンジーは果実中心の食生活だが、アウストラロピテクスは果実の依存をなくし、土を掘って茎を摂取するなど食生活を多様化にした
    ・なぜ人類は他の動物よりも脳が大きく進化したか? 大きな脳にはそれだけ多くのエネルギーが必要となるが、人類は狩猟採取により多くのエネルギーを獲得できたことでコストを補うことができた
    ・遺伝的には常に自然選択により進化してきたが、加速度的に進化した文化的進化が遺伝的に適応できていないために現代のミスマッチ病(糖尿病やがん、うつ病などの現代病)がおきた
    ・ミスマッチ病を予防するには、昔ながらの食事や運動をし、タバコや炭酸飲料、ジャンクフードをやめること

  • 上巻の、そして本書の核心となる疑問は、人間の身体は何に対して適応しているのか?であり、もっと言えば、われわれの身体に適応的なライフスタイルとは何か?ということだ。著者の答えは、人間が何に適応しているかなんて簡単に言えないということだろう。確かにわれわれの体には何千もの適応的な特徴があるが、すべてが適応的なわけでもなく「多くの適応にはトレードオフが関わっていて、人体のさまざまな適応の寄せ集めは、時として互いの衝突を生む」。ゆえに現代生活があまりに進化上逸脱しているわけでも、旧石器時代が健康的なわけでもない。

  • 上下巻からなるこの本、上巻では主に現生人類と類人猿やチンパンジーやゴリラなどの他の霊長類との比較がメインになっている。化石などの骨格標本から、頭蓋骨、骨盤の違いを見て、直立歩行の影響を論じている。

    人類は他の生物と同じく環境に合わせて進化をしてきたが、適応が最も強力に進化するのは形勢が不利なときであるため、必ずしも現代の環境に適したものではない。そのことから多くの問題が引き起こされるのだが、それを人類の歴史から紐解くのが本書の目的となる。

    著者は、二足歩行が人類が他の類人猿とは別の進化の道を進ませる最初の決定的な適応だという。そのことで骨格にもいろいろな特徴が見て取れる。

    また、食料加工により食べたものの消化に費やすエネルギーを大幅に節約できるようになったことも大きいという。そのために余ったエネルギーを脳の成長と維持に回すことができたという。脳はエネルギーを消費するため、脳を大きくすることが進化上の利点があることは必ずしも自明ではないのである。一方、旧人類において脳が大きくなり続けたということは、賢くなることの繁殖上の便益が費用を上回っていたということができる。そして、このとき脳の拡大に伴って新たに獲得した能力のひとつが協力する能力であっただろうとも説明する。

    さらに旧人類と現生人類との差として、頭蓋の特徴から明瞭で聞き取りやすい言語音を非常に速いペースで発することにたけていたことを挙げる。そのことからわれわれは新しい発想を生み出したり伝え合ったりする素質に優れていると結論づける。われわれの成功の本質はわれわれが優れて文化的な種であるというのが著者の説明だ。

    しかし、この本は上下二巻にする必要があったのか。この長さにするためには、その必然性がなければならないと思う。長い参考文献と索引が付いていて真面目な内容の本だが、単巻にすることもできたはずだ。特にページ数に本来制約のない電子書籍まで二巻組にするのは怠慢であるように思うのだが。

    かつ、内容に大きな「驚き」がないのが残念。この点は読者次第でもあるかと思うが、同じく上下二巻の『病の皇帝がん』や『銃・病原菌・鉄』には驚きと発見があったのだが。

    やはり一巻にまとめるべき内容であるように思うのだが、どうだろうか。

    ということで下巻に続く。

    『人体600万年史(下):科学が明かす進化・健康・疾病』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152095660

  • すんごい面白い。

  • ヒトがどの様な経緯で現在のようになったのか、そしてその流れから現在ヒトが何故様々な肉体的不具合と遭遇しているのかを分かり易く記述している。良書。

    まず、ヒトという自然界の中で異質に見える存在が出来た流れが主に上巻で説明される。
    これが特に面白かった。
    多くの人は、他の生物と比べてヒトは肉体的な能力があまりにも劣っている、と考えているが、実は他の生物と比べてヒトが優っている肉体的な能力が2つあると説く。
    「長距離走」と「投擲」がそれだ。
    これらはどちらも、二足歩行を起点として発達した特殊技能だ(二足歩行自体が何の適応なのかは、読んでみるといい)。

    前者は、直射日光を浴びる面積が小さくなり、全身の毛を失うことができたことが要因のひとつにある。これにより皮膚から体温を下げることが可能だ。もちろん、二足歩行に適応した骨盤や下腿、その他様々な肉体変化もある。
    この能力のお陰で、ヒトは野生の草食獣を武器が乏しかった時代でも狩れた。何故なら、ウマの様な生物は走りながらの体温調節ができず(舌を出すアレだ)、かつ長距離走をするヒトよりも速く走るには、トロットでは遅く、体温上昇の激しいギャロップが必要だからだ。ある程度逃げて体温を下げても、下がりきる前にヒトが追いつき、やがて体温が上がりすぎて追い付かれるからだ。

    後者も両手が空き、上肢が歩行以外の能力を発達させたことによる。
    弓矢が戦争革命の第一の技術として知られている様に、投擲は殺すことにおいて劇的な飛躍である。これによりヒトの狩猟技能は格段に向上した。

    と、まぁ、人はそんなに肉体的に脆弱だと卑下しなくてもいいということが分かり、ちょっと面白かったので書きすぎた。

    この様にどういう適応が働きどういう能力を発達させたのかという話題から、次第に今人々を苦しめる病――ガン、糖尿病、心臓疾患というもの――がヒトに発生する原因を説いていく。
    結局最終的には「食生活を見直して運動しろ」になるので(とても大事ではあるが)大して面白くないのだが、ヒトが何に適応していて何に適応していないのか、ほんの親や祖父母の世代と比べて肉体的特徴がこんなにも変化してきている現代人(背は伸びているし、顔は小さくなっているだろう)には何が起きているのかがとても理解しやすく記述されている。

    よく考えたら、このタイトルの通り、ヒトがヒトとして分化したのは600万年前。一方、生活が大きく変わる契機となった農耕生活に移ってからはまだ数万年すら経っていない。
    600万年掛けて少しずつ変わってきた肉体的特徴が、このたった数千年の全く新しい生活に馴染めている訳が無いじゃないか。
    農耕デビューはまだまだ中途だ。

  • 人間の祖先がどのような進化をして、ホモ・サピエンスになったかまでの話。
    進化といっても、生き残り戦略の色合い強し。

  • 上下巻読んで評価が難しい。上巻は面白かったと思う。類人猿からホモ・サピエンスまでの進化を時系列でまとめつつ、それぞれの特徴がわかりやすく解説している。ホモ・サピエンスとはなんなのか。狩猟時代から農耕時代への移管など、忘れかけているが、ジャレド・ダイアモンド「サピエンス全史」に近いのかもしれないが、サピエンス全史の方が新しかった。しかし下巻になると主にディスエボリューション、ミスマッチといった言葉で、糖尿病などの病気に焦点がうつる。人類は現代社会に主としてまだ適合できていないため現代病にかかってしまう。そうなのかもしれないが、私の興味フレームからは飛び出てしまい、飛ばし読みしてしまった。

  • 科学の道100冊 2020

  • 前半はひたすら長々と続くヒトの進化の説明で、聞きなれない名称やイメージしにくい動きの話に読むのを止めるか続けるか少し迷ったが、後半になり、前半で眠たいと思っていた長い話が途端に色を変え始める。前ふりが長すぎたのではと思ってしまうが、おそらく必要な前提情報だった。進化的ミスマッチ仮説が興味深い。下巻を読もうと思う。

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