天国でまた会おう

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (584ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152095718

作品紹介・あらすじ

〈ゴンクール賞受賞〉第一次世界大戦から生還した青年兵士、アルベールとエドゥアール。やがて世間に絶望した二人は犯罪に手を染める――『その女アレックス』の著者が放つ一気読み必至の傑作!

感想・レビュー・書評

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  • 第一次大戦終結間近、最前線で戦っていた元銀行員のアルベールは、上官プラデルの悪略に巻き込まれ、爆弾の粉塵で生き埋めにされてしまう。アルベールの受難に気がついたエドゥアールは、彼をどうにか救い出すが、その瞬間、砲弾の破片により顔の下半分を吹き飛ばされる。
    戦後、共同生活を始める2人は、働き口もなく、苦しい生活を余儀なくされる。そして、戦没者のモニュメント建設に絡んだ大規模な詐欺を計画し始める…。

    主人公の2人は強い人間ではない。アルベールは、どちらかというと愚鈍で、気の小さい男である。機知に富んだ若者だったエドゥアールもまた、部屋に籠り、薬に溺れる生活を送る。死を偽装して、実家との関係は断ってしまう。顔の半分を失い、口がきけない彼の内面が語られることはほとんどない。2人は互いに依存しつつ、心を通わせることができないでいるのだ。

    折り重なる関係性が物語に深みを与える。エドゥアールの姉は、2人を過酷な運命へと誘ったプレデルと、そうとは知らずに結婚する。2人が詐欺を計画するモニュメント建設には、そのプラデルと、大富豪であるエドゥアールの父が関係している。そして最後に悲劇が訪れる。

    形成外科手術を拒んだエドゥアールは、下宿先の女の子と一緒に作った仮面を被り、作っては替えを繰り返す。旅立ちにあたり、彼が作った仮面は負傷前の己の顔であった。

    主人公が軍人ではなく市民であること、これが重要だと思う。近代戦争は、傭兵や職業軍人だけでなく、国民全員の参加を求める。そこに過酷な運命が待ち受ける。ウクライナ戦争を思いつつ読了。

  • 最近公開された同名映画がものすごくよかった(私好みだった)ので手にした原作本。

    第一次世界大戦後にフランス人復員兵二人が巻き起こした記念碑詐欺事件を描いている。

    原作と映画で基本設定は同じなのに、再構成のため一部異なる中盤の展開、そして決定的に異なるラストシーンには、期待外れどころか、むしろその翻案力の高さに脱帽してしまう。

    映画化にあたり、原作者のピエール・ルメートルは監督兼主演の一人を務めたアルベール・デュポンデルと共に脚本をつとめたそうだけど、彼らは文章と映画の文法の違い、効果的な魅せ方の極意をよくわかっているんだな、としみじみ感激。

    原作は、いっそ突き放したほど俯瞰的な視点で冷静かつ緻密に、人々の心の動きと行動を滔々と描写している。
    けれど、映画は、大胆な編成と、原作にはない時間構成と伏線の盛り込み、視覚的な鮮やかさで、二時間の枠の中で飽きずに一気に魅せてくれる。

    原作から感じる色彩イメージはどこまでも冷たく陰鬱なグレーカラーなのに対し、映画はポップでレトロ極彩色。

    原作の悲劇は文章だからこその心理描写の厚さも相まって見事だけど、これをそのまま映像にしたら、たしかに見所ではなくなりそう。
    映画ではあのラストだったからこそ、素晴らしく印象に残ったのだと思う。

    原作と映画両方手に取り比べることをお勧めできる稀有な作品。

  • 人生、世界に散りばめられている様々な出来事や、その中で生きている人々の全てを、悲観的になりそうな困難の数々も滑稽さを混えて作られた物語。未だ終わりの見えない紛争や差別。社会への挑戦状とも思える作者の思索が見える。暗くなるかと思われた終わりも爽快さすら感じる締め方に脱帽。

  • 読みにくいと言うほどではありませんが、話の展開がおそくて、結構手こずります

    シリアスな話ならば、なかなかキツイ内容です、だからこそのコメディ仕立てなのかもしれません

    男女関係の描写は、おフランスの匂いがしました

    映画化されていますが、かなりラストが違っていて、映画の方が良い印象を持ちました

  •  第一次世界大戦で上巻の不条理な行動により重い後遺症を背負わされてしまった青年たちが、戦後の世界で苦労をしながら、這い上がるために様々な努力を行ってゆく物語。非常に評価された作品のようだが、私にはすこし読みづらくて、それほど評価される理由があまりよくわからなかった。

  • 戦争で顔の半分を失ったエドゥアールそして彼に命を救われ国を揺るがす詐欺事件のかたぼうを担がされることになるアルベール。ミステリではないが最後までハラハラさせられ、読了感ハンパない!エドゥアールは天国でアルベールを待っているのだろうか?

  • 第一次世界大戦後間もない頃の話。戦地で埋められた死体を掘り起こし、遺族の待つ地方の墓地に葬るという施策が立てられた。ところが、それを請け負った業者が、死体が物言わぬのをいいことに、杜撰きわまりないやり方でそれを行なったことが発覚し世間を騒がせたことがあったという。小説の中では、棺桶の料金を値切ったために、棺の寸法をどれも一メートル三十センチにしたことで、死体が折り曲げられたり、寸断されたりした例が挙げられている。もっと酷いのは、ドイツ兵の死体が混じっていたり、中が土だけの棺があったり、と死者を冒涜するにもほどがある。

    これをやらせたのは没落した地方貴族の末裔プラデルで、屋敷の修復にかかる金を、この不正によってまかなおうというのだ。この男がやった悪事はそれだけではない。終戦間際、厭戦気分に陥った自軍の兵士を奮い立たせるため、プラデル中尉はドイツ軍の仕業に見せかけ、斥候に出した兵士を後ろから撃ったのだ。たまたまそれを目撃した主人公アルベールは、プラデルに砲撃でできた穴に落とされ、生き埋めになるところをエドゥアールによって助けられる。しかし、エドゥアールは、砲弾の破片によって顔の下半分を抉り取られてしまう。

    生き残った二人はパリに帰り、復讐を誓う、というのが考えられるだいたいの筋だろうが、話は『巌窟王』のようには展開しない。それというのも、アルベールはいつも泣いているような顔をした意気地なしで、プラデルに面と向かって反抗などできないし、エドゥアールは、大金持ちの息子のくせに父に反抗して家に帰りたがらない。生活に困った二人は戦死者の記念碑造りを請け負う詐欺を計画する。

    戦地に向かった若者が戦争が終わって帰ってみれば、職はもとより、恋人まで他の者に奪われていた。戦友を窮地から救い出した英雄は、顔を失くし、声を奪われ鎮痛薬であるモルヒネのせいで麻薬中毒者に成り果てていた。善人たちは非力で不幸に追いやられ、対する悪人は外見の良さを武器に金持ちの娘と結婚し、財産を手にしてやりたい放題。この不合理に対し、どういう結末をつけるのだろう、という興味で読者は読みすすめる。それしかないからだ。というのも、どの人物も人間としてどこかバランスを欠いており、感情移入してみたくなるような美しさや強さをそなえていない。唯一快哉を叫べそうなのが小役人のメルランだが、風采が上がらない上に臭いときている。

    「彼は最初に訪れた墓地で打ちのめされた。年季の入った人間嫌いも、ぐらつくほどに。大量殺戮そのものが、衝撃だったのではない。地球上ではいつだって、災害や疫病でたくさんの人が死んでいる。戦争はその二つが合わさった程度のものだ。メルランの胸を打ったのは、死者たちの年齢だった。災害で死ぬのは誰でも同じだ。疫病でまず死ぬのは、子供や老人だろう。けれども、若者をこんなに大量に殺すのは戦争だけだ。」

    メルランの心中を語った部分である。大量の若者の命を奪い、生き残った者の心身にさえ深い傷を負わせる戦争に対する批判、という作品の主題を強く反映している。ただ、違和感を感じるのは、敵役の犯罪を告発する証人ではあるとしても、主人公でも、副主人公でもない人物の心の中まで話者が語ってしまう話法についてである。ふだんあまり読まないのでよく分からないのだが、「冒険小説」(訳者あとがきに、そうある)のようなジャンルでは、話者は傍役の一人に至るまで内部に入りこみ、その心理を語るものなのだろうか。たしかに、そうしてくれれば、限定視点で書かれた作品を読むときのように、視点人物でない人物の心中を読者があれこれと想像したり、斟酌しないですむが、神様じゃあるまいし、そうそう他人の心の中まで分かるというのは、現代小説としてどんなものだろうか。読んでいて、昔の小説のように感じられたのは多分にその辺が作用しているのだと思う。
    雨のそぼ降る墓地でメルランが死体を掘り起こすところや、人骨をくわえた犬が出てくる場面、破壊された顔をエドゥアールが次々と繰り出す仮面で仮装するといったあたりにグラン・ギニョールや鶴屋南北に通じる頽廃と酸鼻の気配が濃厚で、強引な結末のつけ方といい、フランス人によって演じられる歌舞伎を見せられたような気がした。

  • これは面白い
    人間の優しさ、憎さ、愚かさ、純粋さ、慈悲深さ、強さ、賢さ
    いろんな側面が描かれている
    それでいて終始ハラハラさせてくれる
    戦争がベースにあるから死生観を考えさせられる
    エドゥアールの気持ちを思うたびに苦しくもなる
    それでも結末を知りたいと思わせてくれる物語だった

  • 原題もこうなの?
    どうにももやもやします

    百年も前の話なのに
    ちっとも時代を感じさせない
    思いっきり悪いやつ
    もどかしいほど下手な彼
    なんて話なんでしょ!!

  • 強大な父親がひとりだけでその息子の座に二人の男が入れ違いに参加する。ひとりは実の息子であるが、父親は彼の芸術家気質と同性愛傾向を受け入れられない。二人目は娘婿で、同様にこの男の粗野で貴族じみた鼻持ちならないところを彼は拒絶する。一人目の息子が顔を失い破滅していくのに対して、二人目の息子は「ハンサムだから」という理由で一時的な成功の鍵を掴むという対比がなされている。(考えてみれば本作には容姿の描写が満ちている)
    顔を失った男は父親なるもの、つまり国家や愛国心やそれらが抱かせた漠然とした物語に復讐をしかけるわけだが、それが彼の父親と彼の不幸の直接的原因となった彼の義兄とのつながりを取り持つことになるというのも皮肉が効いている。義兄であり本作の悪役といったところを演じる男はこれもまた家の名や屋敷に固執しており、家父長制にべったりといった価値観である。彼にとって父親ははっきりと倒すべき存在でしかなく、だからこそ途中までは目もくらむような成功を収めるのだしアルベールのような父をあらかじめ失った男性やエドゥアールのような父からの承認にいまだ飢えている男性とことさら敵対するようにつくられているのだ。
    それぞれがそれぞれの物語にとらわれていて、結局対話が成立していないという点においてこの作品は一貫しているようにおもう。声帯を失ったエドゥアールはもとより、絶えず怯えて口下手なアルベールは己のウソから誰ともマトモに会話することができない。強固な絆で結ばれた二人だがしかしお互いはそれぞれに抱いているわだかまりのようなものも確実に存在している。義兄はお家復興というひそかな野望をひとり胸にいだき続けているし、姉はまだ見ぬ赤ん坊と声にならぬ言葉を交わしている。父親の「ひきこもり」ぶりも顕著で、息子を喪った悲しみを誰にも告白することなく金で記念碑を買うことで日常を補完しようとしている。息子との日付も思い出せないような在りし日の思い出に耽溺する様もそうだが、そうとは知らず息子の描いた記念碑のスケッチとだけ会話する様も彼の都合の良い内向さを表している。未完成のまま終わったスケッチの題名「感謝」を息子の最期の言葉と解釈するところはこの殻の分厚さを示しており、それぞれが自分に心地よい物語にこもって出てこようとしない人々のグロテスクさがでているといえるのではないか。

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