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本 ・本 (264ページ) / ISBN・EAN: 9784152096296
作品紹介・あらすじ
小学六年生、天羽駆たちは、ロケットの発射場がある島の小学校の宇宙遊学生として一年を過ごす。島の豊かな自然を体験しつつ、夏休みのロケット競技会へ参加する模様を描く、少年の成長物語前篇。
感想・レビュー・書評
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【感想】
普段都会で暮らしている私たちは、宇宙の広大さを身近に感じることはない。では都会を離れて田舎で暮らしたとして、宇宙を肌で感じることができるかというと、そうでもないと思う。宇宙の前には広大な空があって、空の下には海と大地がある。海と大地には茫々たる自然と莫大な数の生物が住んでいて、その中に分け入ってやっと、私たち人間の姿が見えてくる。
つまり、宇宙のスケールを感じるためには、まず地球の自然の豊かさを肌に浴びなければならない。人間―生物―自然―地球―宇宙の一連の結びつきを理解してこそ、宇宙の一員としてその広大さが理解できるようになると、私は思うのだ。
本書『青い海の宇宙港』は、小学6年生の主人公・天羽駆が、多くの宇宙関連施設を有する多根島で「宇宙遊学生」として1年を過ごす中で、身近にある材料でロケットを作り宇宙を目指す青春小説である。テーマはSFながらも、文体が非常にやわらかく、小学生ながらの等身大の感情が描かれる一冊となっている。
本書の素晴らしいところは、宇宙「以外」――地球の自然と生物にもフォーカスを当てている点だと思う。子どもたちにとって、宇宙は遠く未知の領域だ。その凄さを説明しようとも、言葉で表現するには難しく、どこか「ピンとこない場所」になってしまう。だが、宇宙に触れる前に、森、川、海や、ウミガメ、鯉くみといった要素を間に交え、人間と自然との関わりを緻密に描くことで、人間と宇宙との間につながりが生まれてくる。今まで遠い世界だったものが急に身近に感じられ、宇宙に興味を抱くきっかけとなっていく。この「宇宙への間口」を丁寧に描く構成が、非常に上手いと感じた。
――大地を支えるカニの爪が指すのは、空だ。宇宙だ。
宇宙でカニというと、星座のかに座、かな。そういえば、図鑑ではかに座回帰線という言葉を見た。
地球から見た太陽は、かに座とやぎ座の間を夏と冬で行き来して、北回帰線とか南回帰線とか言うのだっけ。だとすると、カニが指す先は、かに座回帰線に違いない。回帰線って、周太が好きな軌道と関係あるのかな……。
そんなことを考えていると、駆はふわっと体が浮いて、空に吸い込まれるみたいな感覚を味わった。川の流れから海に出る。その先には水平線があって、もっと遠くには……と先を考えるよりも、なぜか上に意識が向いた。
雲と青空と、もっと上にある宇宙に。駆の頭の中は、急に宇宙のことでいっぱいになった。
――島の形が、本当にタネ(種)みたいだなあと思った。タネの中には宇宙がある。カメの宇宙、カニの宇宙、ムシの宇宙、そして、ヒトの宇宙。宇宙、宇宙、宇宙。宇宙って自然のことで、自然は宇宙のことだ。ほんの数カ月の島での出来事が、頭の中でぐるぐるめぐった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
子どもの目線、大人の目線。
どちらも共感できた
人それぞれの興味、好きなものがある感じ。
それが合わさって、世界がおもしろくなってる感じがいい。 -
感想は秋冬篇で・・・
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都会の小学生がロケット打ち上げ設備がある多根島に宇宙遊学と称して、1年間の宇宙遊学にやってくる。主人公の天羽駆(あもうかける)は宇宙よりも生物に興味があったのだが、宇宙が好きすぎて人工衛星や探査機の軌道計算までしてしまう本郷周太、その他にフランス人の母を持つ藻奈美、地元で生まれ育った希美と行動しているうちに、当然ながら(自然にではあるが)宇宙遊学中のイベントとして、島の特産の黒糖飴を燃料にしたミニロケットを打ち上げたりする。
春夏編では、1年の遊学期間中の前半の物語。少年たちが自然を通して、空を見て宇宙にまで想いを馳せる姿は清々しい。自分も子供ころに宇宙遊学ができたら絶対に参加していたなあ。本作品はSFマガジンで連載されていたので、すでに既読ではあるが何度も読みたい作品である。続編の秋冬編を通して読むと、少年たちが成長していく姿を見守ることができる。宇宙好きならとても気持ちがよくなる作品である。 -
親元を離れ、1年間を南の島でホームステイをしながら生活をする子どもたちの成長の物語。自然あふれる南の島、しかもそこには最先端のロケット発射基地がある。このギャップの中で物語は展開していく。日本のどこかの島がモデルであろうとは推察できる。
自然描写とロケット技術に関する科学的表現が子どもたちの生活を介して融合し面白い物語になっている。「秋冬篇」もあるのでそちらも読んでみたい。 -
あっさりとロケット。図面かイラストがないとイメージが今ひとつ。
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豊かな自然と歴史遺産があり、現在は宇宙センターのある種子島をモデルに、そこに国内留学してきた小学生たちの物語。しかし、自然大好きな主人公駆と、宇宙オタクの周太を中心とし、それをめぐるいろいろな立ち位置のたくさんの大人たちを配したストーリーは、どうしても宇宙ネタ、自然ネタ、歴史・神話ネタとに分離してしまい、各章が別々の登場人物の視点から語られるという構成的問題もあって、全体のばらばら感が否めない。
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No.914
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多根島(たねじま)は不思議なバランスの島だ。古来から遺されてきた豊かな自然や伝承と、最先端を行く科学技術が集結した「宇宙港」が同居している。
1年間の短期留学制度「宇宙遊学生」として都会からやってきた天羽駆(かける)は宇宙より自然を肌に感じることに関心の大半を占めている。同級生の橘ルノートル萌奈美、1学年下の本郷周太、地元の少女 大日向希実(のぞみ)の4人で「宇宙探検隊」を組むことに。
萌奈美が考えたボンボンロケット(島特産の黒糖が原料)を空高く打ち上げたい理由。宇宙少年の周太が宇宙へ、より遠くへロケットを飛ばしたい理由。きっと周太と同じ気持ちを持ったまま大人になったのであろう日本宇宙機関・通称宇宙港の広報担当の加瀬遥遠(はると)が業務にクサクサしている理由。駆が親元を離れた理由。
伝統漁を営む「おやじ」こと里親の茂丸幹太の存在感も素敵だ。温水宙航きょうだい社の、頭脳派宙さんと行動派航さん。出て来る大人たちも魅力的で、子供たちへの礼儀は一本筋が通っている。
河童を始め聖なる地ガオウ、ソラッチ等 神秘が生きている島。真逆の技術進化を続けている島。農業も科学も宇宙だとひとまとめにすとんと納得できる駆の柔らかな感覚に敬意を。
「宇宙に行きたいのはコンピュータではなく、ヒトの方だからな」
加瀬さんのこの台詞が好きだ。
著者プロフィール
川端裕人の作品





