ゲームの王国 下

著者 :
制作 : mieze 
  • 早川書房
3.77
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本棚登録 : 347
レビュー : 59
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152097019

作品紹介・あらすじ

「君を殺す」。虐殺の季節と復讐の誓いと訣別から半世紀が経った。ソリヤは理想とする〈ゲームの王国〉を実現すべく、権力の頂点を目指す。一方でムイタックは自身の渇望を完遂するため、脳波振動を利用したゲームの開発を早熟な少年アルンと共に進めていた――。

感想・レビュー・書評

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  • むしゃくしゃすると本屋で散財する癖がある。普段はわりとじっくり立ち読みをするのだが、そういう時に買う本というのはほとんど中身を見ない。せいぜい帯と、最初の数ページ。装丁と文体がなんとなく好みだったら、それ以上考えることはせずに購入を決める。

    この作品もそうして出会ったものだ。ハードカバーはどうしても文庫ほど気軽に買えないから、ちょっぴり冒険だった。
    結論から言うなら、ここ最近で読んだものの中ではダントツの大正解だった。週末の楽しみにとっておこうと思ったのに、結局翌日の夜中3時までかけて上下巻を一気に読破してしまった。一旦上巻だけを買って、読んでから下巻を買うか判断しようかとも一瞬考えたのだが、思い切っていっぺんに購入して正解だった。自分の野生の勘を褒めたい気分だ。

    上巻と下巻で、表紙の印象が統一されていないことにまず興味を惹かれた。上巻は赤い円で縁取られた、歳を重ねた男女のモノクロ写真なのに対し、下巻は青い枠に水彩画のように無秩序な色たち。その水彩画が実は上巻の写真を加工したものであったことは、購入後帰宅してから気が付いた。統一感がない、というのはぱっと見の印象だけの話で、実は同じものだったのだ。この時点でまずやられた、と思った。そしてこの印象の違いは、上下巻の内容そのものと重なるところもあるように思う。

    装丁もさることながら、帯にポル・ポトとSFという単語が並んでいる時点で、もう購入することは決まっていたようなものだった。伊藤計劃の『虐殺器官』然り、現実とフィクションの境目が曖昧な作品に目がないのだ。とはいえ、学生時代から歴史はからきしの私には、ポル・ポトが過激な共産主義者だという朧げな記憶こそあれど、その舞台がカンボジアであったことすら、恥ずかしながら知らなかった。
    それだけに、史実をみっちりと細部まで描きこんだ緻密な筆致に、自分の無知をこれでもかと突きつけられ、知識でたこ殴りされているかのような快感に、ただ息を飲んだ。

    嗜好のストライクゾーンど真ん中の作品というのは、一文、いや一文字読み進めるごとに、さながら真夏に飲むビールのごとく「くう〜、これだよ!」などと叫びたくなるものだが、この作品はまさにこれだった。カンボジアに生きる人々を描きつつ、その範囲は歴史、政治に留まらない。細かい描写まで含めるならば、性的マイノリティに関する記述や科学、貧困、メディアなどなどなど、おそらく筆者がこれまでに感じてきた社会に対する違和感がこの作品にこれでもかというほどに詰め込まれている。それでいて、嫌味ではないし、説教くさくもない。ただ淡々と、「そういう人もいる/いた」という観点で描き出されていて、それらは物語を進めるための要素という以上の意味を持たない。だから重いテーマを扱ってはいるけれど、胸焼けはしない。それってたぶん凄いことだ。

    多くの小説にありがちな、エンディングにむけて急加速する展開はこの作品にもやはり感じてしまったけれど、とにかく読んでいる間の幸福感をこれほどに感じたのはいつ以来だろうかと思う。

    余談だけど、帯に「カンボジアもポル・ポトも関係ない。これは少年と少女の物語だ」とあったのは、個人的には違和感を覚えた。むろん、私は筆者ではないから、彼が何にかきたてられてこれを書いたのか、正解などわかりようもない。でもこれは、紛れもなくカンボジアの物語だと。そうでなければ、上巻をめいっぱい使ってあそこまで書くことはしなかったと思う。ただの少年と少女の物語なんかじゃない。

    これはフィクションだ。フィクションだけど、まぎれもなく過去に実在した人間たちが、鮮やかに息を吹き込まれて生きている。すごい作品に出会ってしまった。『ユートロニカのこちらがわ』も近いうちに手に入れようと心に決めている。

  • 正しいルールが機能する幸せな世界「ゲームの王国」を実現するために、正しいルールを制定し守らせることができる力を得ようとするソリヤが、そのためにやむなく悪いこともし、人の命も奪い見殺しにする。ここはすごく、読んでいて確かにわかるのだけれど、つらい。でもわかる。そもそも上に立つ人間は、何かを守るために、何かを切り捨てる決断もするものだから。100人を救うためには1人を見殺しにし、あきらめ、殺す、のは実際ある選択だろう。ただ非常に大きな国レベルの将来の国民を守るために、あまりに多くの人の死の上に立ってしまったソリヤは、たとえ別の結末を迎えトップに立ったとしても、耐えていけるのか?。
    一方ムイタックは「人生や世界をゲームだと考えるのはゲームの価値を落とす行為」と考え、勝っても負けても楽しめるゲームを考えるが。自分と相いれないソリヤの考え、自分の家族を奪ったソリヤの許せない行動を憎みながらも、ソリヤの行動の理由を考え続ける。「どうして」との問いが、心理学への興味であり、脳波測定の研究になったのだろう。そして(彼女は)「絶望を糧に、国家を変えようと努力していたのかもしれない」「自分にも嘘をついて」「(理想を実現することは)可能だろうか」(自分は)「不可能だとだと思っていたので、逃げ出すことにした」「世界のことなど気にかけず、自分の世界を作ることに集中そればいい」と考えていたムイタックは、ゲームを通じてもう一度自分の人生の記憶を強く追体験し、人生の意味を問い直したのではないか。
    この話の中では「記憶」の重要性が非常に高い。私を形作っているものは「記憶」だと思う。今現在の私の心や意思や気持ちは過去の膨大な「記憶」の積み重ねで作られる。だから「記憶」を失うことはとても恐ろしい。自分が確かだと思っている記憶が改ざんされていたら?自分が自分の意思だと思っていることが介入によるもので、それに全く気が付けないとしたら?人は何をもって自分を規定するのか?
    「ゲームの王国」の脳波ゲームでも、人の記憶を誘導し修正し上書きさせられるようでもあったので(それは強制ではなく、自分の意思下でとはなっているけれど)、その機能は人の考えを読み取れること以上に、恐ろしい外には出せない、大変な機能なと思ったのだが、あまりそういう方向には進まず、記憶の追体験がメインであった。そういう意味では、この小説はムイタックとソリヤの恋愛小説であったのかもしれない。

  • ツイッターコピペ

    上巻まではSF要素は正直皆無なんだが下巻からムイタックが開発した『ゲーム』がじわじわその要素出してくる。脳波で戦うアクションゲーム。脳波で戦うアクションゲームがなんで現実に関係するねん?というのは本編のキモなのでネタバレは避けるが、つまりは発想の転換なんだよね。

    ムイタックの『君を殺す』という訣別の一言で終えた上巻からあの下巻読むと正直肩透かし食らうところはあるよ。SFがどうとかではなくて読者の感情の持っていき方というか。上巻まるまる前フリに『君を殺す』ってワードを出させたわけでさあ、そっからムイタックさん丸くなりすぎじゃね?

    レビュー記事をいくつか読んでみたけど「上巻の盛り上がりは最高だし、下巻も下巻でムイタックのゲームの発想とか面白かったりするんだけど、やはり上巻→下巻とつなげて読むとスピード感というかエンタメ度はさがるよね」という意見が大勢だった。ぼくも同意します。

    キャラもめちゃくちゃ魅力的なんだよ。ポルポトの隠し子であるソリヤ、神童ムイタック、輪ゴムを信仰して輪ゴムで未来を占う少年、泥を食べることで大地の声が聞けるオッサン、彼らが70年中盤の独裁虐殺真っ盛りのカンボジアで繰り広げる人間模様、それがぎゅっと詰まってたのが上巻。

    下巻はそこから50年後が舞台なんだけど、かたやカンボジアのトップに昇り詰めようとするソリヤと脳波研究に没頭するムイタック。で、ムイタックはこの研究によって他人の人生を改変しうる技術を生み出してしまうわけなんだけど、こっからの展開がアレって感じでエンタメとしては不満だったかなあ

  • すごい。これは文学にしかできない感動だ。上巻がマジックレアリスムで下巻がメタフィクションだった。ったく私好みじゃないか。

  • 別の話を読んでいるような気がした。

  • 「君とゲームをもう一度やりたい。それが人生で1番楽しい時だった。」
    そんなムイタックとソリヤの想いが伝わってきた終わり方だった。あっけなさを感じる人もいると思うが、僕はあれで良かったんだと思う。
    複雑な関係性ながらも、それを乗り越える読み応え。
    現実をゲームのように変えようとするソリヤと、ゲームで現実を変えようとするムイタック。2人の天才の純な想いを国家という歴史を動かすスケール感がたまらない。
    伊藤計劃以後、やっと出てきた期待の作者だと思います。

  • とりあえず、作者が天才だということだけはわかった。

  • 下巻では未来を舞台に、新たな登場人物を加え、大人になった2人の運命が語られます。かたや政治の世界で成り上がり、かたや、脳波の研究者となります。2人の運命は重なっていき、最後には終結を迎えます。下巻の内容の全てを理解できたわけではないと思うのですが、上巻で濃厚であったスーパーナチュラルな要素が未来の科学と融合し、なんとも言えない複雑な様相を見せる所が魅力的です。

  • 2004年から2022年にかけての話。上巻の1974年当時の話が下敷きになっている。前半は色々と面白いが、エンディングに向かって設定の無理がたたって興味が薄れた。

    中途半端に登場する日本のNPOのキャラは意味不明だったが、彼らが経験する途上国援助の無力感の話は興味深かった。

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    「健康 」を解決するためには 「収入 」や 「教育 」を解決しなければならず 、 「収入 」や 「教育 」を解決するためには 「健康 」を解決しなければならない 。もちろんそれだけでなく 、 「保険 」 「投資 」 「貯蓄 」 「定職 」 「生きがい 」 「不動産 」 「衛生 」など 、すべての問題が 、他のすべての問題と複雑に絡みあっていた 。
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    また人々が断片的なフラッシュ記憶の積み重ねで「人生」を記憶しているという話と、たいていの人は9.11に何をしていたかは覚えているが、その前日の記憶は無い、という話も面白かった。

    ハワイ島で読み始めてそのまま読了。

  • ポル・ポトの娘と言われて育ち、
    (書き途中)

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