- 本 ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152097262
感想・レビュー・書評
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私には理解が難しかった
本書内の言葉を借りると「レンズが合わないせいで、彼の見る風景を写真に収められない。」
物語より風景・状況描写が多いSFで、論文の説明を読んでる感じでした
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植物の環境応答メカニズムを利用した演算装置が巨大な計算機として利用されている未来東京のSF話。設定が本当によく考えられているし、その世界の描写が上手く想像するうちにどんどん引き込まれた。「自然な倒木程度なら〜巨大なシステムの中では冗長性に回収できる」というちょっとした内容ですら実際の生態研究のトレンドを取り込んでいるし、そんな例を数えたらキリがないくらい考え尽くされている。だからこそ、都民がどう生活しているかの描写はもっとたくさんあってほしかった(登場人物全員が都民の1人というより客観的な立場だったのもある)。
ストーリーは確かにボリューム的にもあっけなく終わった感があるけれど、それ以外の部分が最高だったので大満足。 -
2084年の東京。植物をコンピュータとして活用できる技術が開発され、東京をぐるっと囲む環七・環八が広大なグリーンベルトに…。
という舞台装置だけで既に嘆息してしまうくらい、素敵な設定です。植物と人間の関係性において、こんな未来があれば良いと思いました。(もちろん、良い話ばかりでもない訳ですが)カバーイラストも素晴らしい。
話の筋は、グリーンベルトで起きた事故を調査していく中でドラマがあり…というものです。正直なところ、本著の末尾についている選考委員の選評を読んでしまうと誰もがストーリーはイマイチと言わざるを得なくなる気がするので、感想書くの難しいなぁと(笑
ひとつ言うとすれば、エピローグ的な最後のくだりでの主人公たちのやりとりがもどかしいと言うかぎこちないと言うか理系っぽいと言うか不自然と言うか…キャラの動かし方は次作以降良くなるんだろうと思うので、期待です。
ボリューム感的に手頃なので、未来の東京に思いを馳せる意味で良著ではないかと思いました。 -
緑地帯となった環状七、八号線に取り囲まれた2084年の東京。植物が演算に応用される、そんな夢のような技術<フロラ>が社会を支える近未来SF。
やや散文的だけれど、描写が端正で平熱低めの筆致が世界観とも合っていた。酸素濃度が高そうな都市だな…と思ったけど、新宿は相変わらず混沌としているらしい。
作品世界を彩る風景を眺めるように、さらりと読める中編。
読後感も良かった。 -
図書館で。
うまいこと消化できなかったけどフワフワとした気分になった。
植物を計算資源として利用することができるようになった近未来の東京。
植物計算資源 フロラ。フロラ関連企業に勤めるフチヒコ。植物科学者ヒタキ。フチヒコの少年時代の知り合いツグミ。
フロラは人間が管理してるのか?
フロラに支配されるのか?
自然との共生とは?
を問いかけているのかなぁ。
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日当たりが良く、静かで、埃っぽいその広場だけが、安心できる場所だった。広場を出ると、キャンパスも東京も、とらえどころのない広すぎる場所だと感じた。細部まではっきりと見通すことができるのに、息のできる水面が見つからない、明るい淵だと思った。
(P.77)
「コルヌコピアがもたらす豊穣は、花や果物で表現される。ゼウスを育てた山羊の乳と違って、花や果物はなくても死ぬことはない。それらの甘く芳しい感覚は、やはり贈り物であって、生存の必需品ではないんだ。だから、それらを得るには、望む必要がある」
(P.137) -
フロラという植物を利用したシステムで「計算させる」という技術によって進化した東京。表紙が雰囲気をあらわれしていると思います。
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・「植物の計算資源化」と「緑の東京」はSFか未来予測か(『コルヌトピア』書評)
http://hiah.minibird.jp/?p=2992 -
第5回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作品。
植物の生理機能を演算処理に使用できるようになり、東京は広大なグリーンベルトで23区を環状に囲み、世界でも有数な処理能力を持っている。そんな中、グリーンベルト内の植物に僅かなトラブルが頻発するようになり、その原因を調査していくにつれ、植物と人間の繋がりに踏み込んでいく。
なかなか斬新な世界観が面白い。
しかし、日本の多くの地方は自然に朽ちるに任せ、首都圏だけがその無尽蔵の演算能力のおかげで、日本の最盛期レベルの人口を維持している。静かに世界の田舎になっていく日本という国で、唯一国際的なネットワークに組み込まれている東京。だが近い将来、植物の成長が著しい東南アジアが日本に取って代わる・・・
これからのリアルな日本の国際的位置付けも、まさにこうなっていくのであろう。
津久井五月の作品





