津波の霊たちーー3・11 死と生の物語

  • 早川書房
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本棚登録 : 274
レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152097422

作品紹介・あらすじ

在日20年の英国人記者は被災地で何を見たのか? 震災直後から東北に通い続けた著者は、大川小学校事件の遺族たちと運命的な邂逅を果たす。取材はいつしか相次ぐ「幽霊」の目撃情報と重なり合い――。『黒い迷宮』の著者が悲しくも不思議な津波の余波に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 東日本大震災では3月11日に学校の教師の管理下にあった子供達のうち75名が死亡しました。そのうちの74人は石巻市の大川小学校の児童達でした。すなわち大川小学校以外の学校ではあの巨大な津波に対して的確な避難がなされ、人的被害がほとんど出ていないということなのです。
    大川小学校で何があったのか、生き残った児童やその保護者、子供を亡くされた保護者への丹念な取材から”あの時”に何があったのかを追い求めていきます。
    取材を進めるうち、あの震災で様々な意味で人間関係の断絶が生じていることが浮き彫りになります。「わが子が生き残った保護者」と「わが子が亡くなった保護者」、そしてわが子が亡くなった保護者のなかでも「その遺体が発見された保護者」と「未だ遺体が発見されていない保護者」というふうに。
    わが子が犠牲になった保護者の方々は教師の避難指示に過失があったではないかと訴訟を起こします。ところがわが子が生き残った保護者の人からすれば、日々わが子が世話になっている教師や学校を訴えることになり、訴訟には消極的になってしまいます。またわが子の遺体が発見されていない保護者の方はまずはわが子の遺体の捜索が第一で「訴訟で勝ったら気が晴れるのだろうか」と訴訟にまで意識が回らないのが現実です。
    「震災の被害」と一言で片づけることができない複雑な人間関係を正確に描き出したノンフィクションで、読んでいて苦しくなる部分もありますが、マスコミが報道していない真実を丹念な取材で拾い上げている印象を受けました。

  • オカルティックなことは子供の時から興味があったので、不思議な体験の話も素直に受け止める方ですが、より興味のある「人の気持ち」の部分について丁寧に表現しているこのが1番印象に残った部分です。
    同じく家族や自宅を失っても、亡くなった人数、構成。
    自宅の損害の有無、職業など少しずつ条件が違う。
    その違いが人の気持ちを違え、人間関係を壊していく過程がなんとも言えない気持ちになりました。


    実名での書籍化は本人との信頼関係があってのことだと思いますが、ここまで複雑で繊細な人の気持ちを受け止めることができる筆者ならではの偉業なのかもしれません。

    子供を持つ母として、社会的な自分の立場などを考え、気持ちだけで行動を決めるのは危険だなと思ったり、筆者の言う通りそのまで自らを律しなくてもいいのかな?と思ったり。

    大川小学校の訴訟のくだりでは、私が仕事でお世話になった弁護士の吉岡先生が何度か登場します。インタビューも何度もされたんだなと思われますし、先生も丁寧に対応してるなと思いました。
    この頃も何度か、一緒にお仕事させてもらっていましたが、こちらの依頼のお仕事もしっかりされてました。
    個人的には遺族の方はいい弁護士さんに相談なさったなと思います。

    ちょっと自分のコンデションがイマイチな時に読み始めてしまい、しんどいところもありましたが、結局止められず短期間に読了

  • いつまでも胸に残るすごい本に出あうとはまさにこのこと
    2018年刊行ではわたしのベストテン入り
    著者のリチャード・ロイド・パリーには敬意を表する以外ない

  • 津波に襲われた小学校の記録であり、多くの被災者が体験した「霊的現象」の記録であり、「世界の活火山の10分の1が集中し・・・世界的にも珍しいトリプル・ジャンクション(三つのプレートの境界がぶつかって交わる点)がひとつどころか、ふたつも存在する・・・激しい自然の暴力にさらされる国」(P223)における国民性、宗教観についての洞察であり、そして何より鎮魂と再生の「物語」(訳者あとがき)である。
    個人的には数年に一度出会えるか、という本だと感じている。

    あれだけ甚大な被害を出した東北震災においても、登校していた児童の犠牲者はたった一か所、大川小学校以外ではほぼゼロだった。大川では校庭に避難した児童のほぼ全員、74名が亡くなった。教育委員会は当時「地震直後の津波で逃げる暇がなかった」と説明した。のちの調査で、実際には地震から津波到達まで1時間近くあったことが判明した。

    「現場の人はがんばったのだから今後の教訓として」と、総括する日本(の役所)の体質、それを受け入れようとする姿勢に著者は不信感をあらわにする。日本人が美徳とさえ思っている「我慢」について(その英訳の難しさも指摘しながら)、それは「しばしば、自尊心の集団的な欠如とも思える状態を意味することさえある」と指摘する。

    震災のあと、霊にまつまる話は枚挙にいとまがなかった。「その人がのぞんでいたのは・・・息子さんにもう一度会うことだけでした。幽霊かどうかなど関係ない。いや、幽霊に会うことを望んでいるんです。・・・私たちが目指すのは、超自然の現象を目撃しているという事実を自らが受け容れられる環境を作ることです」
    「人が幽霊を見るとき、人は物語を語っている。途中で終わってしまった物語を語っているんです」(P278-280)
    物理現象としての霊を信じるか信じないか(私は信じていないし、著者もおそらく同じ)、とは違う次元の話だとわかる。

    The Economist誌のBooks of the Year受賞作とのこと。

  • 津波の犠牲者をその周りの人々がどのように受けとめたのか。もちろん受けとめ方は人それぞれなのだが、それらがうまく構成されたドキュメンタリの中に編み込まれている。構成の軸は大川小学校の事件。この事件を詳細に見ていくだけでも、様々なことを考えさせられる。誰が悪い訳でもないが、問題はこじれていく。それを少しでも解きほぐすことができないか。当事者でもわからないことを一読者がわかるわけもないのだが、この問題を考えるのに必要な様々な問いかけが、この本によって提示されていると思う。

  • 前半は嗚咽をこらえきれず、後半は終始震えが止まらなかった。

    どんな言葉をもってしても足りないに違いないが、それでも誰かが記録しなければならない。取材・調査の真摯さ、それを受け止める精神的なタフさ、そして”外国人”の目であることで客観性とも言える距離が保たれたことも幸いしている。
    決して類として見ず個としての生命の尊さに向き合いながら、ここまで構成する力量と人柄には敬服以外にない。

    ものすごいものを読んでしまった。

  • お恥ずかしながら、大川小学校のことはうっすらとしか知らなかった。金田住職がおっしゃる通り、報道で取り上げられなかった数多くの悲しみとは異なると評価すべきではないし、よもや上にも下にも置きたくないと思っていたし、その考えは今でも変わらない。
    ただ、私はあまりにも何も知らなかった。3.11といえば、人や車を飲み込んでいく津波の衝撃映像と福島原発、遅々として進まない東北の復興のことしか知らなかった。津波の爪痕から家族の遺体を探し続けることや、それが生き残った人々の友情や信頼関係にどのように影を落としていくのか、知らなかった。
    この本はそうした被災することのリアルが丁寧に記録されていて、読み進めることが辛くなることもあったけど、ようやく津波が被災地にもたらした影響が何だったのか分かった気がする。
    また、この本では大川小学校の悲劇と震災後に数多く報告された霊的体験を通して、日本人の精神性や政治行動に関する特殊性が時には批判的に炙り出されている。日本にしっかりと根を下ろした外国人ジャーナリストだからこそ得られた視座と洞察で、とても示唆深かった。

  • タイトルから想像された心霊現象への興味本位で本書を読み始めて深く反省している。

    心霊現象の部分もあるが、多くは大川小学校の児童たちの遭難から裁判までの経過に充てられていた。

    英国人の目を通して語られる日本の矛盾(日本人が感じていない)にハッとさせられるところも多々あり。
    安倍晋三の評価は痛快にすら思える。

  • 3.11関連はこれが初めてだけど,読むのが苦しかった.外国人が書いている点も興味深い.
    よく取材されてるし,事実も東北人の性格や国民性もよく分析されてる.日本人は全てを受け入れ,我慢することが美徳だと思ってる.でももう聞き飽きた.そろそろ欧米みたいに声を上げて変えていこう!という指摘.
    自然災害の多かった日本で,「全ては無に着する」「ありのままを受け入れていくしかない」という仏教が根付いたのはやはり当然のように思える.
    それに慣れすぎてしまったから,自然災害に限らず自分から変えようとしない.そこには政治も含まれる.
    政府への低い期待感がプラスに働き,回復力と自立精神に拍車をかけるようになったというのは面白い指摘.何という皮肉.

    あと,私は東北出身だけど,東北のことが「理解しづらい方言,どんよりとした雰囲気・・現代日本人にとっても異国情緒溢れる場所」とか書かれてて苦笑.

  • 何となく新聞報道などで知っていたアウトラインでなく,もっと踏み込んだ真実がここにある.日本人の体質とも言える事なかれ主義が外国人である著者によってはっきり言葉にされていくところが小気味よかった.大川小学校の関係者に丁寧に取材した記録はとても貴重なものだと思う.また,霊の存在に踏み込んだ後半の物語には色々と考えさせられた.

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