特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー ノーベル文学賞受賞記念講演
- 早川書房 (2018年2月6日発売)


- 本 ・本 (104ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152097477
作品紹介・あらすじ
デビュー前の若き日々から現在にいたるまでの問題意識、思い出の中の日本について、そして現代社会の諸問題にどう立ち向かっていくか。日系イギリス人作家カズオ・イシグロのノーベル賞受賞記念講演を書籍化。原文と土屋政雄による日本語訳を収録した対訳版!
感想・レビュー・書評
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極めて明確に、簡潔に、美しく、イギリスの地で創作を開始した日本人の血を持つ作家が、半生を語った。ノーベル文学賞受賞記念講演。
始まりの2冊は日本を舞台にした英語の文学だった。次は、きわめてイギリス的な話なのに、世界的な世界観を描いた。らしい。
私はカズオ・イシグロの小説は読むまいとしてきた。人生は短く、読まなければならない本ははるかに多い。読み始めたならば、一冊だけで済むとは思えなかった。ただ、この小さな講演記録文章によって、世界基準とも言えるかもしれない文学を見渡す地図を貰った気がした。「遠い山なみの光」と「日の名残り」と「わたしを離さないで」を読んでもいいかもしれないと思い始めている。
最後に一つの呼びかけをー僭越ながらノーベル賞受賞者からの呼びかけをーお許しください。この世界の全体を正すことは困難です。ならば、せめて本を読み、書き、出版し、推薦し、批判し、授賞しつづけられるよう、私たちの住むこの「文学」という小さな一角だけでも、維持発展させていきましょう。不確かな未来に私たちが何か意味ある役割を果たしていくつもりならー今日と明日の作家から、それぞれのベストを引き出そうと願うならー私たちはもっと多様にならなければなりません。(95p)
「この世界」をどう見るのか、なぜ「全体を正すことは困難」なのか、「多様」とは何なのか、は此処に簡潔に語られている。
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カズオ・イシグロのノーベル賞受賞記念講演の日本語訳。
毎日新聞のウェブサイトで英語・日本語訳の両方とも読めるので少し迷ったが、やはり、手元に置いておこうかなと。
生い立ち、何に気をつけて小説を書いているか、今の時代とこれからの未来について思うこと、丁寧に語られています。
I'll have to carry on and do the best I can.
左ページは英語、右ページは日本語。赤いハードカバーの小さな素敵な本でした。 -
途中で投げ出したりしないで、最後まで読んでほしい。一読に値します。2017年ノーベル文学賞受賞記念講演。英文と和訳が左右のページにそれぞれ掲載されています。英文は平易です。
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ノーベル文学賞をとってからもう6年か。もともとノーベル賞に興味はなかったけれど、当時、カズオイシグロの受賞を聞いたときはびっくりした。
彼の作品は全部読んでいて、好きな作家の一人だったから。
映画『日の名残り』を観たのがきっかけで、カズオイシグロを知り、原作を読んだ。
そしていつものように、好きな作家の作品は出版された順番に読んでいきたいと思い、『遠い山なみの光』から順に読んでいった。
読めば読むほどはまっていく。
ノーベル文学賞受賞記念講演を収録した本作は、スピーチであるせいかとても読みやすい。でもぎゅっと大切なことが詰まっている。
『日の名残り』のくだりでは、まさに私が一番好きな部分について書かれていて、本を通して作家とつながった気がしてわくわくした(カズオイシグロさんに届いてますよーと伝えたい)。
本の存在の大切さ(というかなんというか)をあらためてかみしめた。
ということで、次は『日の名残り ノーベル賞記念版』を読もう。 -
My Twentieth Century Eveningを特急二十世紀の夜と訳すかっこよさ。
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いつも心に響く
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はじめて読んだカズオイシグロ。これで彼の作品を判断するなんてできないのですが、平坦でわかりやすい文章が意外だった。作品を読んでない分、この本への理解はかなり浅くなってしまうが、最後に書かれた、未来への普遍的かつ重要な願いを読んで、ノーベル文学賞を獲るような方の思想の本質はそこにあるのか! となかなかの発見があった。未来がもっと多様になること、そしてよりよく進歩すること。凡人の私でもその理想に突き進んでいきたいと強く思ったし、世界で評価される作品の本質はこうでなくちゃと勇気づけられた。ちゃんと彼の作品も読みます。
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丁寧な文を書く人だし、丁寧に話す人だ。こんなジェントルマンな風情の作者も若い頃はたくさん迷いがあったんだなあと。若者は意外と社会のムードとか流行とか空気とかにとらわれすぎていて、真に追い詰められないと自分の本当にやりたいことや欲していることが見えないことがある。この方にとってのそれは、自分の記憶の中の日本をそれが消えてしまう前に書き残すことであり、それが道しるべとなって作家の道を歩き出した。でも作家デビュー後も常に新しい表現対象や方法を思索しチャレンジする姿勢にはこの方の人生に対する真摯な態度が見て取れます。とてもしなやかでしっかりした人だなあという印象を持ちました。
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カズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞した際のスピーチ。彼の真面目で優しい性格がよくわかるが、内に秘める情熱も見え隠れする。
よく知られている通り、彼は5歳まで日本で暮らした後、日本人の両親と渡英し移民した。その後大人になるまで日本に行くことはなかったが、彼の心の中には常に(想像による)日本があったという。その「記憶」をとどめようと書いた小説が評価された。
日本への憧憬を持ちつつもイギリスをいかに愛しているかが綴られている。また、小説と全く関係のないことから、ハッとするアイデアが浮かび、それが自分のスタイルを決定的に変えたことも書いてあった。
彼の小説は胸がじんわりと痛むものも多いが好きだ。「日の名残り」がまた読みたくなった。
著者プロフィール
カズオ・イシグロの作品





