日の名残り ノーベル賞記念版

制作 : 村上 春樹  土屋 政雄 
  • 早川書房
4.00
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本棚登録 : 48
レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152097583

作品紹介・あらすじ

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い……。ノーベル文学賞作家の代表作が新装幀、新判型で登場。

感想・レビュー・書評

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  • 2019年10月10日読了。休暇をとった英国の老執事は、自動車旅行の途上で自分の執事人生・主人・館での日々を回想しはじめ…。ノーベル賞作家となったイシグロ氏の99年の作品だが、ものすごく「テクニカル」な小説だ、という印象。文体は優雅だし(英語で読んでみたいもの)、一人称の主人公の手記という形式にも不自然さが全然なく、語り手が「語らないこと」を否応なく意識させられる構成、世界情勢やイギリスの変化に想像が膨らむ描写、など実に見事な小説だ…。「主人公がプロの執事」である、ということが「肝心なことを語らない語り手」という設定に必然性を与えている、ということにも感心する。ラストも、もっと違う形のエンディングもあり得たと思うが、「この終わり方にしてくれてありがとう」と作者に言いたくなる洒落たもの。胸が苦しくなる・後悔する思い出がある、というそのことこそがまさに「自分の人生を生きた」ということの証になるのではあるまいか。

  • 村上春樹が小説ごとにストラクチャーを変えて執筆するイシグロの姿勢に驚嘆の意を示したのは決して村上春樹自身がイシグロとは正反対に同じストラクチャーで執筆し続けたからではないだろう。イシグロは小説の持つ偶然性の賜物に縋るのではなく、むしろ実験的に小説の技巧や種類別の特性を研究して、そこから得られるものを吟味しながら書いているのが我々が読書をしている中でも感じ取ることができる。例えば彼は「わたしを離さないで」でSFチックな世界観の中で一人の人間の成長を描き、現実離れした倫理観と私たちの心の対比を読者に実施させることに成功した。SFというのは本来読者たちとは程遠い領域で発生しているとみられるものだがイシグロは見事にそのジャンルにおいて真に私たちに語りかける物語を作り上げることに成功したのである。そのように、イシグロは研究を重ねてきたのである。だが、いずれにしてもイシグロはやはり一貫して小説を執筆する上での意志みたいなものが感じられるのである。イシグロの小説をたくさん読んだわけではないので手前味噌で申し訳ないのだが敢えて推察してみると、イシグロはもしかすると閉鎖した空間の中での人間の心情を描いているのではなかろうか。小説というものはえてして無限に広い空間を構築することができるので登場人物たちが振る舞うその舞台も大きくなりがちであるがイシグロの小説はそうではなく、むしろ一つの建物内に集約されてしまうほどの領域で物語が紡がれているのである。私は思うのだが、彼はそうすることによって人間が本来抱えている信念や意識づけを浮き彫りにしようとしたのではないだろうか。そして、それが記憶に置き換えられる時とのギャップを観察しようとしたのではないだろうか。史実と人の記憶とのギャップはいつでもあるもので、ある時は非常に理不尽なこともある。それが日の名残りでは描かれていて、私たちにその存在を再認識させてくれる。彼はそのように、ともすれば忘れてしまうようなことを思い出させてくれるのである。私はこの小説に出会えたことに感謝しつつ、その冒険の中で得られたいくつもの思い出が日の名残りのようにあり続けれ欲しいと願った

  • あまりに長く待たされたので、もうどっちでもいいかと思って読みました。イギリスの貴族に仕える執事さんの一人語り。ところどころ忘れてしまったり、曖昧だったりするのはわざとみたいです。だうんとん・アービーを見てたので、なんとなく雰囲気は分かりました。
     第一次大戦後、ヒットラーの魔の手によって反逆者となってしまったご主人様についてもわざと曖昧に描くことで、かえって興味をそそられるのですね。うまいなあ。

     巻末に村上春樹氏の解説がありましたが、なんか自分の宣伝をしているようで(これは私が春樹氏の作品のよさがわからないので)、スルーしました。ほんとにカズオ・イシグロ氏も春樹氏の作品を全部読んでるのかなあ。リップサービスじゃないのぉと言ったら、世の春樹ストたちに怒られますかね。

  • 映画を観てからずっと原作も読みたいと思っていた一冊。
    格調高いのは映画と同じ。
    ダーリントン卿に仕える執事、スティーブンス。
    映画は女中頭ミス・ケントンとの淡い恋を主軸にしてたけど、小説はそれ以外にもダーリントン卿が政治的な面で波にのまれていく様も描いている。
    でも、そこでも執事であるスティーブンスは自分の意見を持たないように努め?あくまでもダーリントン卿の言動に尊敬と信頼をよせて盲信しているんだよね。
    それが執事としての品格であるかのように。
    解説が村上春樹なのも嬉しかった。
    ふたりは朋友なのね。
    あーまた、映画も観てみたくなった。

  • 「執事はかくあるべし」との美学に固執し、自分の気持ちや考えを顧みず、行動しなかったことへの後悔が感じられた。
    味わい深い翻訳だったが、題材としてあまり興味がある分野ではなかった。ノーベル賞受賞作という触れ込みがなければ読み通せなかったかも。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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