花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生

  • 早川書房 (2018年5月17日発売)
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  • 本 ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152097651

作品紹介・あらすじ

1920年代、アメリカ南部。オクラホマ州の先住民保留地で20数名が相次いで殺される事件が発生。のちのFBI長官フーヴァーと敏腕捜査官ホワイトが、石油利権と人種問題が複雑に絡む陰謀の真相に迫る。『ロスト・シティZ』の著者が放つ傑作ノンフィクション

感想・レビュー・書評

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  • 映画「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の原作。予告編を観て面白そうだな、と思って図書館で借りました。

    石油の利権で裕福になったネイティブアメリカン、オセージ族。1921年5月、オセージ族のモリーの妹、アナが行方不明となる。1週間後、アナともう1人の死体が見つかる。そしてモリーの周りで人が次々と死んでいく。殺したのは誰か。次は自分が殺されるのではないか…。

    図書館での本の扱いとしては小説ではなくて、歴史・北アメリカ史・中央南部諸州 (253.6)。
    『事実は小説より奇なり』と言うけれど、小説でもありえないぐらい周りで人が—ネイティブアメリカンが―次々に死んでいきます。映画ではネイティブアメリカンのモリーの夫、7アーネストが主人公となっているようですが、本では、モリーと特別捜査官のトムが中心となって話が展開していきます。誰を信用したらいいのか、いや、誰も信用できない状態でページが進んでいき、ハラハラさせられます。
    このハードカバー版の副題に「インディアン」とあえて入れているところに出版社や訳者の意図が見えます。「インディアン」と蔑称で呼び、殺しても、金を横領しても罪悪感がない白人社会が恐ろしく、どうにもならないところにもどかしさを感じます。
    人権無視で次々にお金のために殺され、後見人制度を悪用されてお金をむしり取られていくオセージ族の人々。20世紀初頭の差別については、黒人差別はよく知られているけれど、ネイティブアメリカンについては全く知らなかったので、この本のようなことがあったことに驚かされました。
    100年後石油が枯渇し、同じ土地で跡地の風力発電の建設をめぐって裁判になるって、皮肉すぎます。

  • ディカプリオの新作映画の原本と知って読んでみた。

    追いやられた居留地オクラホマに眠っていた石油、その利権を奪い取るべく群がった白人たちの犠牲となった多くのオーセジ族の人々の苦難の歴史と、ままならない捜査。

    著者グランは膨大な資料にあたり子孫にも面会して、1921年~25年「狙われた女」、1925年~1971年「証拠重視の男」、2012年~「記者」としてルポする。オーセジ族の歴史を描くことはアメリカの先住民政策も描くことになり、そこに描きだされたのは「アメリカ黒歴史」とでもいうものだな、と感じた。原文がいいのか訳文はとても読みやすい。

    メインとして描かれるのはオーセジ族女性モリーとその夫で白人のアーネスト・バークハート。モリーの姉、妹夫婦、母が不審な死を遂げる。そしてアーネストのおじのウィリアム・ヘイル。ヘイルは手広く牧畜業を営む名士で「オセージ・ヒルズの王」と呼ばれる。そして事件当時連邦司法捜査局長に就任した若きフーバー。フーバーは正直な捜査官ホワイトを派遣する。ホワイトの捜査のおかげで犯人は捕らえられるが、フーバーは組織の宣伝以上のことはしなかった。

    著者が子孫に面会すると、当時殺されたのは24人とされたが、事件になっていないが不審死を遂げたオセージ族は他にもたくさんいることが分かる。さらに街の白人全体がいわばグルになってオセージ族の石油利権を奪うために殺人をしていた、といっても過言でないような状況が浮かびあげる。しかしそれは公にされることはなかったのだ。

    「花殺し月」はオセージ族で5月のこと。
    エリース・パスチュンの詩。「ウキギエ」という詩の中でアナの死を詩う。
      ”ラスカ・ズィサ・ツェゼ” 花殺し月のころに
      わたしはブラックフィッシュやカワウソやビーバーの川を渡ろう


    メモ
    ・オーセジ族は今のミズーリ、カンザス、オクラホマ、ロッキー山脈西端までの範囲に住んでいた。
    1870年代初頭:オーセジ族はカンザスの領有権を恒久的に保障されていたが、開拓者が増加したため、オクラホマへ移れといわれる。このカンザスは「大草原の小さな家」のローラがいたところで、ローラは父から、もうすぐ政府がオセージ族を立ち退かせる、と聞かされる。
    1877年、インディアンの生活の糧であったバッファローがほぼ全滅する
    1904年、オーセジの族長は政府との交渉で、地下の埋蔵物はオーセジ族が有する、との契約をとりつけた。族長は石油があることを知っていた。このおかげで土地は部族員だけで分割され(一人当たり675エーカ)、石油会社からの賃貸料、ロイヤルティの権利を得た。さらに先住民は半人前とされ(白人の)後見人が必要で、家族を殺し権利者を一人にし、その後見人になるために殺人が起きていたのだった。




    映画ではディカプリオはモリーの夫役。ロバート・デ・ニーロは顔役ヘイル役。この二人悪者なんですよね。どう描かれているのか。


    2017発表
    2018.5.25初版 図書館

  • 読後、世の中知らない事ばかりと己の無知に途方にくれる。
    物語のような大げさな展開はないが著者の緻密な調査、根気強い取材がリアルで文章が刺さる。
    特に最終章…衝撃。
    当時の白人の中には油田と同じようにインディアンも採掘すりゃいいぐらいに考えていたのだろうか?
    大草原のローラも複雑な闇がある。

  • 現実の歴史を辿るノンフィクション。ネイティブ・アメリカンに対する白人の入植者の横暴さ、卑劣さが際立った。しかも解明されない多数の殺人事件。その為に組織されたFBIの誕生など、凄過ぎて読後に虚脱感があった。嫌なアメリカの始まりが見えてくる。

  • 小説であるかノンフィクションであるかという以前に、圧倒的な史実の重さに打ちのめされる。合衆国の黒歴史。

  • 19世紀、アメリカ。ネイティブアメリカンのオセージ族は広大な土地を所有していたが、トーマス・ジェファーソン大統領に数百万エーカーの土地を手放すよう命じられ、カンザスへと移った。その後、結局政府は土地を割り当てることにした。その中でオセージ族が代わりに割り当てられたオクラホマの土地から、石油が出ることが分かった。裕福になったオセージ族を襲うのは、関係者が24人も殺害される事件。発足当初のFBIは解決できるのか。

    めちゃくちゃ面白いドキュメント。殺人事件の謎を解く過程も面白いけれど、アメリカの狂ったような歴史も非常に興味深い。

    19世紀、チェロキー族の保有地の一部を政府が買い上げ、4万2千の区画に分割し、なんと1893年9月16日正午に一番乗りしたものに与えると発表した。何日も前から何万もの人垣が出来、殴り合いながら突進して行ったそうだ。クレージー。

    また、20世紀初頭、汚職まみれ、能力不足の警察や保安官に代わって、推理し尾行ししていたのは私立探偵だった。(ピンカートン探偵社は知っていたけれど、まさか捜査の補完をしていたとは)

    というような歴史の話がてんこ盛り。そして事件の謎が解かれていくプロセスも良かった。ありそうでない、ドキュメント+ミステリーだった。

  • フィクションとして読んだら「入念に恐ろしい状況を作り込んであるけど、流石にここまではないわ〜まぁフィクションだからな」と思いそうな、実におぞましいノンフィクション。
    時系列仕立ての構成に引き込まれつつ、膨大な数の裏付け資料によって度々我に返り、冷や汗をかいた。

    (多少のネタバレ)
    欲に眩まず良心と勇気を持って事件解決や阻止に尽力しようとした人々が、いとも簡単に消されていく絶望感がすごい。

    これが今のアメリカでは堂々と出版でき、広く読まれる状況なのが少し救いだと感じる。

  • 「死刑囚」に挟まっていたチラシを見て、以前に読みたいと思ったことを思い出した。フラワー・キリング・ムーンの訳だったんだ、変なタイトルで気になっていたけど最初のページに書いてあってすっきり。

  • 書架にあると、つい目を留めてしまう、美しくミステリアスなタイトル。
    前のめりでイッキ読みしてしまった。(それでも二日かかった)

    オセージ族のお金に群がる白人たちが、含みをもって口にする「インディアン・ビジネス」という言葉。あまりに端的にすべてを表していて、怖すぎる。
    そうか、彼らにとってはビジネスみたいなもんなんだ、と妙に腑に落ちてしまった。だから、次々に行われる殺人も、畑の刈り入れみたいな感覚?

    引用されていた『ジュリアス・シーザー』のセリフがすごく印象的だった。
     ”そのおぞましい姿を隠せるほど暗い洞窟は、どこにあるというのだ?
     探しても無駄だ、陰謀よ。
     その姿は微笑みと愛嬌に隠すがいい。”
    ・・・シェークスピア、すごいな、と思った。
    (シェークスピアと言うと、どうしてもジョセフ・ファインズのお色気むんむんな姿を思い浮かべてしまう私・・・肖像画と全然違うのに~!)

    しかし、下手するとアメリカ建国時代にまでさかのぼる必要のあるこの事件、著者がじっくりゆっくり丁寧に事実を積み上げて展開してくれたおかげで、容易に理解することができた。この筆力、すごいと思う。それにクールで素敵な文体。(翻訳だけど)

    そして、本当に悲しいことだけれど、これは当時の誰にも防ぐことはできなかった事件だなぁ、とも思った。
    「金が連中を引き寄せるから、どうすることもできない」というオセージの人の言葉のとおりで。

    一番悲しいのは、オセージ族の人たちが本当に欲しかったものは、お金なんかじゃなかったということだ。
    土地だって、居留地としてあてがわれたものじゃなくて、彼らがなけなしのお金を出して買ったものだった、というのには驚いてしまった。あまりにも不毛な土地だったから、そこなら白人たちもそっとしておいてくれるだろう、というのがその土地にした理由だったと言う。
    確かHistory.comの動画で見たのだけど、居留地に強制移住させられる前に、東部にいたある部族は、きちんと法的手続きを取って、土地をめぐって訴訟を起こしたと言う。そして、最高裁で、勝利と言わないまでも、彼らに有利な形で判決が出たというのに、やっぱり土地は取り上げられてしまった。
    この本でも、オセージの人たちはただ手をこまねいて黙っていたばかりではないことが分かる。でも、いつも、すべての手が手詰まりになって終わる。何をしても、どうやっても搾取される。

    この本には多くの人物が登場するが、悪人も善人も非常に興味深く描かれていた。どの人物も、実話ならではの陰影に富んでいて、複雑で多面的。
    部下から「度を超したバカ正直」と言われたホワイトも素敵な人だったけれど(ある意味で神が遣わした救世主のようだった)、私は特に、謎めいたコムストックという人物に興味をひかれた。ブリティッシュ・ブルドッグって、犬連れてるのかと思ったら、ぴかぴかの、と書いてあったので、銃の方なのね。こういう小道具のお陰で時代の空気、土地の雰囲気がやけにリアルに感じられる。
    他にも、時代の変化の荒波にもまれながら、必死で部族を守ろうとする歴代の族長たちの姿には、とても心打たれた。

    読んでいると、映画「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(傑作です!)がやたら思い出されたが、この本はスコセッシが映画化中と言う。
    二時間ほどに収めるには、かなり登場人物が絞られることになるんだろうな、と想像する。きっと、より分かりやすく、エンタメとして楽しめて、それでいてモリ―や遺族の悲しみもよりリアルに感じられるものになるんだろう、と楽しみ。

  • ちょうど一年ほど前にコルソン・ホワイトヘッドの『地下鉄道』を読んだ。南北戦争より30年前に逃亡する黒人奴隷たちの物語だ。
    人間が人間に対してどうしたらあのように残虐になれるのかと慄然したものだが、本作は『地下鉄道』よりさらに100年も後の話である。それなのに、本質的なところがなんら変化していないことがわかる。

    アメリカで現実に起きた、ジェノサイドの記録と言ってよかろう。本書はれっきとしたノンフィクションなのだから。

    1920年代、自分たちの土地を追われ政府にあてがわれた土地から石油が出たことから、突如として大金持ちになったインディアンのオーセージ族(とはいえ、彼らに資産の管理能力はないと見なされ、白人の後見人をつけることが義務付けられる)。彼らがひとり、またひとりと不可解な死を遂げ、事件解明に着手しようとする人や証言をしようとする人たちも次々に命を落としていく。
    FBIを立ち上げたばかりのフーヴァーがどんな手を使ってでもこの事件を解明すると宣言。幾度も迷宮入りかと思われながらも、ひとつひとつ小さな亀裂を丹念に叩いて証拠を拾い出していく捜査官たちの執念と誠実さが心を打つ。フーヴァーではなく、彼らの存在が、この作品に描かれるほとんど唯一の「良心」である。
    黒幕を探り当てるまでの推理、逮捕までの攻防、裁判がどう動くか(もしもインディアン殺人なんて動物虐待とどう違うのか、と思う人間が裁判員だったら…)、はらはらどきどき、それこそ本の帯に推薦を書いているジョン・グリシャムばりの展開である。

    この事件と裁判から100年近くが経って当事者たちはすべて世を去った後、作者の回想となるエピローグ的な章がまたすごい。裁判も終わってからの後日談かと読み進むうちに、はっと伸びる背筋は、そのうち凍るだろう。

    『地下鉄道』を読みながらも感じたことだが、米国という国では人びと(欧州系白人)がこうして財を成したのかと改めて思う。アメリカ・ファーストと豪語するあの男やそのとりまきたちの心情は、当時となんら変わらないのだ。

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