RE:THINK(リ・シンク) 答えは過去にある

  • 早川書房 (2018年11月20日発売)
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本 ・本 (408ページ) / ISBN・EAN: 9784152098153

作品紹介・あらすじ

電子タバコ、昆虫食、医療用ヒル、エピジェネティクス……科学理論からイノベーションまで、いったん消え去りながら「考え直され」脚光を浴びるものは多い。求めるものはすでにあったのだ。サイエンスからビジネスまで応用できる、現代人に必須の考え方のヒント

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  • 電子タバコ、昆虫食、医療用ヒル、エピジェネティクス(獲得形質の遺伝)……科学理論からイノベーションまで、いったん消え去りながら「考え直され」脚光を浴びるものは多い。求めるものはすでにあったのだ。サイエンスからビジネスまで応用できる、現代人に必須の考え方のヒント・・
    という宣伝文句通り、「答えは過去にある」というテーマに沿って多岐にわたる分野での歴史的変遷を考察した思考実験の書です。結構な分量であるにもかかわらず、図表類を一切使っていないので、読書意欲を最後まで継続させるのがむつかしかったが、処々に出現する金言や問題提起にどきりとさせられる。
    例えば、
    アイデアについて、「ある事柄が新しいうちは、それは真実ではないといわれ、後にそれが真実だとわかると、それは重要ではないといわれ、やがてその重要性が否定できなくなると、ともかくそれは新しいことではないといわれる」(P22)
    エピジェネティクスとは、例えば、ストレスにさらされた母マウスの子孫は母親のストレス因子も遺伝されるという後成的遺伝のことをいうが、この理論と「適者生存の法則」との関りや、人間の場合には後成心的ストレスはポジティブな環境があれば分子レベルの宿命から逃れられるという話(P63)もいい。
    出版バイアス(P199)とは、雑誌で発表される論文は(特定の人に)望まれた結果に沿うモノだけで、好ましい結果でない論文は無視されるという事象で、権威ある雑誌で発表された論文だからと安心はできないし、日本でも「報道しない自由」などと開き直ったメディアの存在を忘れてはいけません。
    政治家の現状分析については、「政府は自国の裕福な圧力団体の利害に縛られて、海外の債券市場の投資家たちの奴隷になり、専門職化した政治家には、普通の職業人生を送ったこともなく、自分の権力を永続させることにしか関心がない。再選のために支援者のご機嫌をとらなくてはならないので、地球温暖化対策のような本当に必要な政策は後回しにされ、社会にとって最善の行動を実行するインセンティブや長期的視点が希薄」(P295)なため彼らのおいしい既得権をいかに縮小させるかも民主制度再生へのヒントかもしれません。
    本書の各章には詩的でぶっ飛んだ(私には)タイトルが冠されていますが、12章「善悪の彼岸」は必読です。
    この章で扱われるのは、優生学(筆者は積極的優生学と消極的優生学にわけて論じます)、子供を持つ権利(スウェーデンでは犬を飼うのにライセンスが必要なように、悲惨な子殺しが起きないように人間にもという思考実験や現実には中国の一人っ子政策などは変形した政府ライセンスだし、そもそも産む権利は万人に保障されるべきだという議論)(P325)など刺激的な話題が展開されています。
    エピローグでは、人類が核兵器を発明したことを喜ぶ時がくるかもしれない(P361)という刺激的な1文があり、その心は、地球を滅亡させる小惑星の衝突を避けるために、小惑星の上空で起爆させれば速度や方向を変えることができ、まさに救世主となりえるからだという。要は、使う目的によるということですが、今なお核兵器が増産され続けている世界情勢だからこそ、人類の叡智が試されているわけです。
    扱う領域の広さと読み応えのある内容、知的刺激を求める読者には、ぜひ一読をお勧めします。

  • 長すぎ 後書きからで充分

  • 「新しいアイディアは古いアイディアから」「温故知新は世界中で起こっている」ということで、たくさんの事例が紹介されている。電気自動車、加熱式タバコ、吸血ヒルを用いた治療などなど。シュンペーターさんのイノベーションの定義もニュートンの巨人の肩に乗っている発言も、本質は同じなのだろう。本書は古いものから新しいものを見つけるヒントになりそう。

  • ・古いアイデアを、新しい状況に投入すると、むしろ非常に強い力を
     発揮するかもしれない。
    ・行動主義の古い仮定は、いつの間にかよみがえりつつある。
    ・今の時代、経験主義がすべてであり、合理主義は過ぎ去った時代の
     迷信であるかのように思われている。
    ・正しい考えに到達するには、間違った考えが必要。
    ・エポケーという懐疑論者の態度を取り入れ、信念の保留を維持する。

  •  そもそもわたしたちが実際はデモクリトスが正しかったと知っているのも、現在の標準があるからだ。確かにワインバーグが指摘するように。デモクリトスは科学的実験が標準として求められる文化のなかで育ったわけではないのは事実だ。また、自説を検証できる正確に較正された科学的な器具も手にはいらなかった。それにもかかわらず、デモクリトスはT正しかった。だが、たまたま属していた文化は、ふたつの面で彼のアイデアを受け入れる準備ができていなかった。第一に、その文化における最も影響力の大きい思索家たちが、デモクリトスの原子と空虚というみごとなまでにミニマリズムの世界によって突き崩されそうな、魂や自然の目的といった原理に固執したこと。第二には、単にその文化が、デモクリトスのアイデアの正しさを証明できる物理的な備えを持っていなかったことだ。(p.102)

     常識からするととんでもないことこそ、いつの時代も科学の仕事であり誇りである。観測によって確実に支持されている理論が自分の常識と食い違うなら、後者を適応させなくてはならない。そういうわけで、たとえば、わたしたちは、一見すると個体の物質が、ほとんどは空間(ただのゆらぐ電荷のパターン)で構成されている原子からなることや、地球が太陽のまわりをまわっているのであり、その逆ではないことを受け入れている。もしかしたら宇宙での意識の発現は、ほとんどありそうもないことだったとネーゲルは考える。だが、ありそうもないことは不可能なことではない。(p.171)

     地球はほんとうに丸いということを、わたしやあなたはどうして知っているのだろうか。要するに、そう信用してかかっているのだ。それを示す一般的な現象を、自身が体験しているかもしれない(遠くの船のマストが上のほうだけ見えたのは、地球のカーブに残りの部分が隠れたからだ)。だが、ほかの人たちの説明も受け入れている。「20世代にわたり、人々が地球は丸いと信じていたが、それは自分たちのいたどの教室にも地球儀があったからだ」と、マーク・サージェントは書いている。「証拠なんてない」。いや、証拠ならあるし、それも大量にあるのだが、自分で確かめていないのも事実だ。専門家はこぞって地球は丸いと言う。わたしたちはそれを信じ、毎日を生きていく。(p.193)

     他の分野と同じように政治では、“再考する”はすなわち、その場しのぎのいい加減な説明ではごまかされないおそろしくしつこい子どものように、「なぜやらないのか?」を尋ねつづけることだ。(p.301)

     車の運転とは機械のほうが効率よくおこなえるような単純な技術的操作ではないという事実である。それは道徳的な操作でもあるのだ。車に運転を任せれば、モーターの制御だけでなく道徳的な判断をもアウトソースすることになる。年間100万人の犠牲者を救うため、わたしたちが払う対価として考慮すべきなのはまちがいないだろう。しかし、少なくとも自動走行車のアルゴリズムを具体的にどのようにプログラムすべきか、そしてどのような道徳的選択をそこに埋めこむのかは、かならず知っておくべきことになりそうだ。(p.322)

  • レビューはブログにて
    https://ameblo.jp/w92-3/entry-12460489262.html

  • ☆古きものを再発明する

  • 革新とは何もないところに突然振って湧くものでも、過去の技術や思想を破壊したうえに打ち立てるものでもない。古いアイデアを見直し、過去の失敗についてもう一度考え直すこと。
    アイデアには時宜がある。時代に応じて評価は変わる。

  • 「保留」が大事。

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