幻想の経済成長

  • 早川書房 (2019年3月20日発売)
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本 ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784152098450

作品紹介・あらすじ

GDP(国内総生産)を拡大し続ければ、我々は幸福になれるのか?『日本‐喪失と再起の物語』で話題を呼んだ《フィナンシャル・タイムズ》の元東京支局長が、日本の新幹線からケニアの物々交換まで、世界各地で取材した事例を踏まえ、新たな可能性を提示する。

感想・レビュー・書評

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  • GDPは第二次世界大戦中のアメリカが国民所得推計を測る為、生み出された。漠然と、戦争能力を査定するための指標が始まりだと認識していた。また、お金でカウントできないものは含まれない。つまり、犯罪率が低く、公共サービスの高い効率性、健康で長い平均寿命など、こうした点はGDPに含まれない。本著は、こうしたGDP信仰に冷や水を浴びせる一冊だ。しかし、こちらはGDPなんて端から絶対視していないため、自ら冷や水を浴びる。まるでアイスバケツチャレンジだ。

    人々の幸福感は絶対的な富の量ではなく、周囲の人間との相対的な差異によって決まる。不平等賃金を拒否する猿の例を引くが、まさに。カウントして、労働を測り、比較し、気持ちを満たす。位置関係を確かめるための指標が世になんて多い事か。自分の価値は自分で決めれば良いが、プロジェクト単位では、その意義が結成力に直結するため、組織維持のために指標が必要。国家も同様。

    幸福な国々かどうかは、6つの変数によって説明できる。所得、平均健康寿命、頼れる知人や親族の存在、他人に対する信頼感、行為主体性、寛大さ。有名なブータンの国民総幸福度GNHなんていう指標もある。皮肉な話だ。幸せかどうかは主観で良いのではないか。指標で測られるお仕着せの幸福感にリアルとのギャップはないのか。幸福モデルは人により異なる。

    GDPが素晴らしい発明である事は間違いないが、経済成長を測定する一指標に過ぎない。問題は、GDPがあらゆる尺度の頂点に君臨していることで、国が成功しているかどうかその数値だけで判断されてしまうからだ。この点は良く分かる。こうした理解の下、正しく判断する事が重要だ。

  • 週刊東洋経済でインタビューを読み、興味がわいたので書店で購入しました。結果から言うと満足しています。GDPの限界論については以前から一連の議論がなされていたかと思いますが、ここ数年間の議論熱の高まりを見ると、今度こそ本当に変化が起こるのではないかと感じており、その背景や世界中での議論の広がりなどは本書から包括的に理解できました。著者はフィナンシャル・タイムズの記者ということで、現地での取材を前面に打ち出した記述が多いのですが、特に新興国の統計作成官へのインタビューはなかなか興味深く読みました。統計作成は政治に密接に関係していること、それは特に新興国では顕著だということがにじみ出ている内容でした。つまり現政権に不利になるような統計作成は自分の身(生命さえも)を危うくする、ということです。

    他方少し気になった程度ですが、本の端々から「労働者vs資本家」「富裕者vs貧困者」のような二項対立的な記述が多く、これは著者の心理的バイアスがかかっている気はしました。ベストセラーになった本「ファクトフルネス」の用語を使えば分断本能がかかっている気がしました。本書では、労働分配率が下がり資本分配率が上がっている、という記述がありましたが、確か実際は両方の数値が下がっているはずです。その意味で、インタビューなどの現地現物の情報が多い反面、データの裏付けが弱い印象は感じました。ただGDPあるいはGDPの代替指標として世界各国で提案している各種新指標については、現地インタビューを通じてリアリスティックな姿を提示してくれてとても理解が深まりました。

  • SDGs|目標8 働きがいも経済成長も|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/765110

  • GDPの有用性を認めつつも、人間の幸福度を測るには問題があることを提起しています。筆者は今までの経済記事を、鵜呑みにはしない方がいいよと言っているように思います。すごく乱暴に例えるなら、工場を建てて環境を破壊して、さらにその環境を戻すための施設をつくればGDPは増えるのだろうけど、それでいいですかということかと。国民一人あたりのGDPというワードを少し疑いながら、報道を見ることになりそうです。

  • GNP否定派でなく、定義の問題

  • GDPの有効性は認めつつは万能ではないと説き、政治においてあまりにも重きを置かれすぎていることを批判する本。
    例えば、穴ほって埋めるを繰り返すとGDPは上がるが、そういうものを排除した指標が必要である。
    しかし指標というのは常に恣意的なものであり、であるならば国民の価値観が反映されたものであることが望ましい。

  • 読むのにとっても時間がかかった。理由は、この本は学術書や実用書の類ではなく、「面白いノンフィクション、ルポタージュ」の体裁だから。

    いつものようにビジネス書を読んでいる時ならば、マーカーと付箋を片手に「読み返した時に拾うところ」を残していく感覚で読み進めるのだけども、今回は実に時間がかかった。エキサイティングな小説を読んでいるように活字を追ったし、適度に難解なので読み返すこともしばしば。

    読書感としては「フラット化する世界」(トーマス・フリードマン)とよく似ている。ジャーナリスト特有の時折ユーモアや皮肉を交えた饒舌な筆致。貨幣価値に交換可能な尺度ばかりに注目すると本来的な幸福観を歪めたり見失ってしまうぞ、というのはマイケル・サンデルを始め、「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」(ヤニス・バルファキス)でも語られていることであるが、本書はより統計官のジレンマや苦労に寄り添ったものになっている。そして、全体的に「経済学者」と「金融業」に対する批判が漂っていて。

    まとめると、
    ①GDPの測定対象になっているものも、正確に計れていない。
    ②GDP測定対象になっていないものも相当ある。
    ③絶対視されているGDPが映す世界とリアルはかなりの乖離がある。そもそも「経済」という概念がリアルではない。
    ④より良い代替指標も無いので、様々な指標を用いて補完し合うべき。
    という事のよう。

    そして、経済成長万歳という手放しな姿勢には疑念をぶつけながらも「FACTFULNESS」(ハンス・ロスリング)にもあるように、低開発国の人々が人間らしい生活を手に入れるための経済成長を否定するべきではないとし、実際にハンス氏のコメントも紹介している。

    私が心に残ったのは、指標や統計の設計そのものが恣意的で政治的であるとは言いながらも「測定できないものは管理できない」というドラッカーの言葉を引用しながら、良き統治を目指すのなら良き測定をしなければならないというメッセージだ。まさに政策や意思決定でのdata drivenの重要性と難しさを語っているわけで、正確に測る事も記録に残す事も放棄してしまったように見える我が国は、世界が国民所得3.0に向かおうとしている時に、国民所得1.0の要件を満たしていないのではないかという2週遅れの絶望感を禁じ得ない。

    『「より優れた」測定方法ほど、「より優れた」社会を築く力を持っていることを意味する。』(p274)

  • 日常で数多く耳にするGDPには、1つの数値で簡潔に経済を示せる利点がある一方で、その簡潔さゆえに家事などの仕事量は示すことができない。
    GDPは便利なものであるが、過信は良くなく、多面的な見方が必要であると思う。

  • 東2法経図・6F開架:331.19A/P65g//K

  • GDPの限界、と言えば新しい話ではない。
    それでも本書は、GDPの技術的な問題だけでなく、なぜ我々はGDP教のような経済最優先の社会になったのか、そのために何に目をつぶってきたのかを問う点が新鮮だった。
    四半期の成長率に一喜一憂し、コンマいくつを伸ばすのが我々の望みではではないはず。
    一方で、幸福度を測ると言われても、抽象的過ぎて全くしっくりこなかったが、カナダなどで新たな取り組みが行われているという。我々は何に価値を置くのか、その変化を測定し、見える化する努力が大切だと思った。

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