- 本 ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152098573
作品紹介・あらすじ
他者の感情が読めないアスペルガーの私は、早期経頭蓋磁気刺激という実験的施療の影響で、感情が見える世界へと放り込まれた。待っていたのは希望と戸惑い、そして「アルジャーノン」のようになるのかという不安……患者が自ら語る稀有なアスベルガー施療体験。
感想・レビュー・書評
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注意して読んだのは、TMSを施されたあとのジョンを含む被験者の変化がどのように現れ、それらが彼らの言葉でどう表現されるかということ。
この表現に使われる言葉が抽象的であればあるほど私の想像はクリアになっていく様に感じたし、それを脳科学的に解析するアルバロをはじめとする医師たちの言葉はその想像を実際に脳の構造を描きその機能を理論だててくれた。
既に観た映画『アルジャーノンに花束を』は本書を映画化したものと思って読み始めたがそれは違った(よくある原作と映画化の相違みたいなものかもしれない)
どちらも良い作品であるだと思うが。
やはりこの本の優れているのは何と言っても、日本語訳。ジョンのTMSの受け入れ揺れに動く切ない心情や、アスペルガーとしてもって生まれた過敏な感覚が更に研ぎ澄まされていく様子がジョン自らが語る言葉の繊細さで見事に伝えてくれているところにある。
TMSを受けた自分を想像して、自己の感覚の拡張世界に入り込んでみたり、逆にアスペルガーになった自分が、失うことになった感覚で生きる世界に入り込んでみたりしながら読んでいる自分がいた。現実にいながら、隔絶したカプセルの中の時空を味わった。映画でなく本でこんなトランス状態になれたのは久しぶりだ。
素晴らしい時間をくれた 本。
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字数が多く、読むのにとてつもなく時間がかかった。
リアル版アルジャーノンに花束をという感じ。
自閉症について勉強になった。
文章が論理的で難しい話もいっぱい出てきて読むのが大変だったけど人生の悩みやら色々書かれていて心動かされるものがあった。 -
作中にも出てくるが「アルジャーノンに花束を」思い出した。
アスペルガーであることのメリットには考えさせられる。
認知神経科学への興味がわく。 -
「普通の人」の定義ってなんだろう。
そう考えさせられるお話。
病気は治すことが良いとされていて先天的な精神障害もその例外ではない。しかし、筆者の体験からは必ずしもそうではないと思い知らされた。
もっとも、筆者は病気という認識はなくひとつの個性として受け入れてきた時間が長いことが功を奏していたのだろうけども、自閉症と診断された子供はかつての筆者のように学校や親からはそれは悪いもので治さなければいけないものとして認識しなければいけなくなる。
病気として定義づけることはマイナスの要素を孕んでいて、治療することはその人の個性を奪う可能性もあることを周りの人間は知っておかなければならない。
試しにこの治療をやってみました、「普通の人」みたいに人の心が分かるようになりました、ハッピーエンドです、で終わらないのはノンフィクションの良いところ。
様々なことを考えさせられるこの作品は多くの人に読んでもらいたい。 -
アスペルガーの著者が、治療のため先進的脳科学治療を受けた体験を書いたもの。
それまでわからなかった人の気持ちや感情がわかるようになる。
それで良かったこともある反面、妻の鬱々した気持ちが伝わってきたり、過去にされた自分への悪口の意味に気づいたり、辛い面もあった。
治療で生きづらい人生が変わると思っていたが、
感情や気持ちを手に入れていわゆる普通の人になれたところで、普通の人も実は生きづらい環境であったことに気づく。
当たり前なんだけど、どちらがいいとか、どちらが悪いとか生きづらさの問題は、そういうことじゃないんだと感じた。 -
軽度のスペクトラム障害を持ちながら、音楽エンジニア、自動車修理工場経営などで、成功してきた著者が、中年になって、脳の一定の箇所に電圧をかけるというTMS療法の実験台となり、他人の感情を理解する能力を得ることができ、その療法の効果は短期間で消えたものの、その後もひとの感情を気にかけるという能力が残ったことにより、その後の人生が豊かになったという実録。
もっとも、同時期に同じ療法を受けた彼の息子は、TMSの効果が消えたあと、特段のプラスはなかったようなので、うまくいったのは、特殊事例なのかもしれない。
なぜ、アメリカの本は、この程度の内容なのにこんなにページ数が多いのか、不思議だ。 -
非常に面白かったし、興味深かった。
現在、知っているADSDやASDについての知識が、いかに表面的なもので、中途半端なものか、わかったし、未知の領域なのだ。 -
新聞の書評で おっ と思って
その日のうちに 図書館に行った
なじみの図書館であり
この本が ちゃんと選書されていることに
あらためて なじみの(!)図書館で良かった と
いゃあ ノンフィクションの醍醐味を
たっぷり 堪能させてもらいました。
副題に
「私のアスペルガー治療記」とあるように
著者自身がご自分の 治療経過を克明に
わが身、わが脳を通して語ってくれる
かなりの高度な 解析能力 そして
文章力が必要とされるのは当然のこと
医療分野の専門用語が
いくつも出てくるのだが
著者の経験があまりにも
強烈で 興味深いので
のめり込むように読み進まう
本文中にも 出てくるけれど
私たちの「脳」の未知数は
どれほど あるのだろう…
と 思わせられました
人が感情を持つことで
どれほど 豊かになるのか
人が感情を持たないことで
どれほど 有能になれるのか
いろいろなことを
考えさせてもらえました