140字の戦争――SNSが戦場を変えた

制作 : 安田 純平 
  • 早川書房
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152098627

作品紹介・あらすじ

ソーシャルメディアは21世紀の戦争をいかに変容させたか? パレスチナの戦禍をツイッターで発信し「現代のアンネ・フランク」と呼ばれた少女、スカイプを通じてイスラム国に勧誘されラッカに渡ったフランス人女性などに取材し、情報戦の知られざる実像に迫る

感想・レビュー・書評

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  • 本書はソーシャルメディアにより各種紛争がどのように変化していったのかを詳細なインタビューや取材からあぶり出している。
    本書で焦点とされたのは
      ・ガザ地区でのイスラエルとハマスとの紛争
      ・クリミア併合におけるロシアとウクライナの紛争
      ・マレーシア航空17便撃墜事件の真相
      ・IS(イスラム国)の紛争
      ・テロとの戦い―ISとアメリカによるサイバー空間でのせめぎ合い
    などだ。
    現代の戦争はどのナラティブ(物語)が国際的な世論や人々の共感を得ることができるかが最も重要となっている。そのナラティブを発信する最も重要な武器がソーシャルメディアだ。
    例えば、イスラエル軍によるガザ地区への空爆の状況を現地に住むパレスチナの少女がTwitterで実況し国際的な世論を親イスラエルから反イスラエルへと変えた。
    少女はイスラエル軍の攻撃に対して、写真とメッセージで戦ったのだ。
      「生まれてから、三度の戦争を生き抜いてきました。もうたくさんです」
      「これはうちの玄関の前で爆撃された車です」
      「子どもを空爆してはいけないとただ世界に伝えて」
    このようなソーシャルメディアのメッセージによりイスラエル軍は圧倒的な戦力によりガザの戦場では「勝利」したが、国際的な世論では「負けた」のだ。

    イスラエル軍もソーシャルメディアの圧倒的な影響力を理解し、軍の中にソーシャルメディア担当者を置きイスラエル軍の正当性を発信した。
      「ハマスはガザ地区の住民を人間の盾にしている」
      「ハマスは世界中から得た支援金をテロを起こすための地下トンネルの構築の為に使っている」
      「ハマスはテロの拠点をわざと病院や学校の近くに設置している」
    イスラエル軍はこのようなメッセージを発信するも、担当者は言う「我々がいかにイスラエル軍の正当性を主張しようと、爆撃で殺害された子供の写真にはかないません」。

    ソーシャルメディアにより戦争は新たな戦いに突入した。強力な兵器を有する国家が必ず勝つという時代はもう終わってしまい、今はナラティブ(物語)で戦う時代になった。その戦場では、国家同士が戦うのではない。個人同士が戦うのだ、しかも一個人が銃を持って戦うのではない、スマートフォンを持って戦う時代へと変貌しているのだ。

    この本で描かれているのはガザ地区やクリミアやシリアと日本人から見れば遠い場所でのできごとかもしれない、ニュースで見るくらいしか名前を聞くことすらないだろう。
    しかし、僕たちにとっても決して他人事ではないし、ある意味においては、もうすでに経験しているのだ。
    2016年2月に投稿された匿名ブロガーによる「保育園落ちた日本死ね」のブログが国会で取り上げられるほど話題になったのはたったの3年前のことだ。
    もちろん、このブログは当時の日本の児童保育環境の悪さを訴えたもので戦争とはなんの関係もないが、このブログのように国民の共感を得られれば、一個人がこれほどの影響を与えることができることが明らかとなった瞬間だった。

    しかし、ちょっと想像して欲しい、もし日本が現在戦時下でこのような民衆の声を代弁するような非常に巧妙に作られた偽のメッセージが悪意を持って流布されたとしたら。

    この状況が、現在イスラエルやパレスチナ、ロシアやシリアなどでごく当たり前に行われている。
    ロシア政府は、偽情報、それこそ『フェイクニュース』をブロガーや一般人を大量に雇って親ロシアなナラティブを大量に生み出しネット上に溢れさせ、イスラム国は心に不安を持つ若者に対して、計算し尽くされた方法でネット上から忍び寄る。

    僕たちが何気なく毎日使っているソーシャルメディアが世界を誰も想像ができなかった未来へと変えていっている。
    それが僕たちのいるこの世界の現実なのだ。

  • 借りたもの。
    現在進行形で、SNSの世論への影響の深さとそれが戦争にどのような影響を与えるのかをまとめた一冊。
    ジョン・キーガン『情報と戦争』( https://booklog.jp/item/1/4120051285 )は戦争の勝敗を左右する情報収集・情報戦の話が主体だったが、こちらはプロパガンダに関連する内容だった。
    パレスチナ、ウクライナ、IS問題を通し、SNSが人々を繋げるだけでなく、分断することを指摘する。

    著者が‘ホモ・デジタリス’と定義する、インターネットを介して世界的なネットワークを築き上げ、影響力を発揮する現代人。
    報道と異なる、リアルタイムでその危機を中継・訴える。その臨場感。
    それらは感情に訴えてくる――死の恐怖、子供の死――。それは誘発する、怒りを。
    ‘中央集権化した国家権力に対峙するのは、分散化した市民の力である(p.214)’
    それが大きな大きなうねりとなり、窮状の改善を訴え、反対運動などが起る……
    しかし、それらは必ずしも良い方向に転ばない。

    興味深かったのは、ロシアによる情報戦に関する検証。
    外交にも内政にも“情報戦”の扱い方を心得ていることを感じさせる。
    トロール(荒らし)工場と言える、ウェブメディアのフェイクニュース生成会社の存在を紹介。
    2014年7月17日のマレーシア航空17便撃墜事件のロシア側の嘘を、一般人がネットを用いて暴いた等……
    SNSの二面性、両刃の剣である事例が挙げられてゆく。
    著者はこれを新たな力、新たな脅威として捉えていることが伝わってくる。それは市民、国家権力双方に。
    どちらも言えることは、「正しい情報を、ありのまま伝えよ」という所か。
    プロパガンダがSNSによって大きく変わる可能性があるのは事実だろう。

    しかし……SNSがもたらしたこれら世論が、どれだけ世界情勢、戦争の結果を左右する影響を与えたのだろうか?ロシアは結局クリミアを併合したし、パレスチナとイスラエルの問題は解決しない。
    状況が固定されると、既成事実を覆すことはできなかった。

    そうなる前に事を改善できないという事実があった、という事だろうか。
    過去の事例の検証に関しては、非常に興味深い話だった。未来に関しては、この本からは何もわからない……
    戦争の仕方が、これで変わるとは思えない……

    そこから疑問を持つ。
    「“戦争”とは何か?」と……
    短絡的に“武力衝突”が「戦争」というイメージもあるが、こうした情報戦による既成事実の生成、主導権争いそのものが“戦争”ではないか、と。
    対立・分断の空気を醸造し、S&TOUTCOMES『民間人のための戦場行動マニュアル』( https://booklog.jp/item/1/4416519354 )でもあった、戦争が始まる前の予兆そのものだった。

    flier紹介。( https://www.flierinc.com/summary/2045 )

  • 法律変わって、ネットの情報を安易に信じて拡散するとあっさり訴えられる時代になりましたね。
    イーロン・マスクのお陰でtwitterの環境が変わってからこの本読みましたが、テロリスト・カルト信者・反政府主義者なんかは、多分この環境にも適応して信者増やそうとするのかなぁとうんざりした気分になりました。
    自分だけは騙されないと考えないで用心しなきゃね。

    追記
    一般社団法人colaboの不正会計問題でホモ・デジタリウスな動きをする人が出てきてますね。

  • 戦争でそれぞれ当自国が正当化するために、個人がSNSでそれぞれ宣伝していくかの事例である。
     イスラエルとパレスチナ自治区、ロシアとウクライナまではよかったがISについてはSNSとあまり関係ない勧誘の事件まで入っていた。
     どれかひとつ、例えば、ロシアとウクライナについてだけの話でも十分に1冊の本になるであろう。

  • ロシアのやってることはずっと変わっていないんだな、と思いました。
    逆に今、行われているウクライナの戦争を考えると生き急いでる感じがしてなんで?と思う。

  • ↓利用状況はこちらから↓
    https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00550619

  • しばらく積読になっていたものを自分の休暇というタイミングで手に取り、その途中でロシアがウクライナに侵攻してしまった。なんとなく感じていたSNSの影響力、それが戦争で果たす役割についてガツンと事例で殴られながら思い知らされる感覚であった。

  • SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/765164

  • 新しい戦争の正体、それは140字で語られる戦地の個人の叫びに呼応してできる見過ごせない「うねり」。冷徹な政治判断や戦地での作戦が、多くの人の感情的な「いいね」やリツイートによって曝かれるだけでなく、そもそも戦争の作戦として利用されている現実を知らずに、今の世界や平和について語ることはできないと感じた。

  • 情報戦(「相手の情報を奪い取る戦い」ではなく、「いかに自分たちに有利な印象を信じ込ませることができるかというプロパガンダ合戦」)において、流されてくる情報を、著者は「ナラティブ(語り)」と表現する。興味深い。

    今にして思えば、五木寛之の第56回直木賞受賞作「蒼ざめた馬を見よ」(非常にトリッキーな、共産主義擁護小説)も、そういったテーマの作品だった。

    報道において中立的な立場がありうるのか、というかなり深刻な問いを読者に突きつけているように思う。

    ソーシャルメディアは、行為を可視化し、中央集権的な情報のコントロールを破壊する。その結果、社会を分断して社会の不安定化を招く。

    戦争と平和の境目は曖昧となり、戦争はますます政治力の行使となる。政治に終わりはないから、戦争にも明確な決着はなくなる。

    2010年のソーシャルメディアによる「アラブの春」、ガザ紛争、ウクライナ、IS(イスラム国)による洗練された迅速な勧誘を題材にしている。

  • SNSの登場が二十一世紀の戦争にもたらした影響について、パレスチナの紛争、親露派との戦いが続くウクライナ、ISが蹂躙する中東におけるそれぞれの立場、それぞれのケースを取材して明らかにする。

    SNSは、人と人とを繋ぐ一方で社会を分断する相反する性質と、個人に国家に対抗する力を与え、一方官僚組織は有効にこれを活用できないという実態がある。
    SNSの登場により、誰もが発信し、誰もがどこで起きた出来事でも即座に知ることができるようになったことで、戦争におけるアクターの正当性を示すナラティブの重要性は格段に高まり、これをめぐるナラティブ戦が、戦争において展開されるようになった。ナラティブ戦を戦えないものは、現実での戦争も継続することができない。

  • FacebookやツイッターなどのSNSが戦争を変えた、が本書のテーマだが、変えてしまったのは戦争だけに限らないのだろう。
    ロシアによるマレーシア航空機撃墜の真相を暴いたのが個人のネットワークの力だとは初めて知ったが、個人が大国を追い詰めていく様などこれまででは考えられなかったこと。
    その一方で、知りたいことだけ知ろうとすればフェイクニュースに翻弄され、我々を操ろうとする者たちの思いのままになってしまう。
    空気を読むことを強い、安易なパッシングがはびこる日本を鑑みると、一層恐ろしさが増した。

  • Flierで要約版を読了。
    SNS(Twitter)を使うことで、今まで国やメディアに隠されていた真実を暴露された事例が紹介されている。
    本書では戦争にクローズアップされているが、日本の日常においてもSNSでいろいろなことがばれるのは日常茶飯事であり、メディアに対してのSNSの在り方を考えさせられる。

  • ●戦争の本質が変わったことに私が初めて気づいたのは、2014年春にウクライナ東部に入り、ニューヨーク・タイムズ紙やNBCよりも、Twitterの方がずっと情報が早いことを実感した時だった。現地でメインの情報源となったのは、既存の報道機関ではなく個人だった。
    ●情報革命によって、そのパラダイムを全体的に過去のものとなり、その代わりに結末もない、ネットワーク型の、戦争でもなく平和でもないと言うグレーゾーンの戦闘状態が生まれたのです。
    ●サイバー・ユートピアニズム。すなわち「インターネットは抑圧する側ではなく、抑圧される側に有利に働く」と言う考え。しかし、政府はその同じプラットフォームを使って対抗するナラティブを拡散する。ホモ・デジタリスが国家に挑戦しようものなら、国家は必ず反撃する。
    ●ソーシャルメディアは包括的な2つの方法で絆を破壊し、人々を分断する。1つ目は、ソーシャルメディアは対立を煽る。2つ目は少しわかりにくい。プラットフォームは公平とは言い難く、ユーザから金を得るために作られた資本主義の仕組みに他ならない。アルゴリズムが、その個人が気に入ると判断したコンテンツを差し出してくれる。その結果、同類性が生まれる。そして偏見が強まり、憎悪が増幅する。それが分断を呼び、戦争の危機が高まる。
    ●歴史上、重要な情報技術が登場するたびに時代は不安定になった。15世紀の活版印刷技術が宗教戦争。1920年代にラジオが普及し、第二次世界大戦。そして現在のTwitter。
    ●イスラエルとハマスが武力で戦えば、勝者はどちらか一方だけだ。だがイスラエルが戦っていたのは、ハマスだけではなかった。無限にナラティブを作り出せるホモ・デジタリストも戦っていたのだ。そのナラティブが国際政治のレベルで敵に損害を与える能力は、潜在的に無制限である。
    ●イスラエルが世界に対して反論した3つの物語。①そもそもガザ侵攻の原因が、ロケットを大量に撃ちこんできたはもハマス側にあると言う主張。②ハマスの地下トンネルの値段。これらの資源を使えば、ハマスは家やモスク学校などを建設できた。人道支援に使わずに戦争に使ったと言うことだ。③ハマスが、民間人を人間の楯に利用していると言う主張。
    ●インターネットは、もちろん抑圧される側だけでなく抑圧する側にも恩恵をもたらす。確かに独裁国家と戦う人々を助けるのかもしれないが、最後には、国家も同じツールを使って必ず反撃に転じる。
    ●ほとんどの人はろくに記事も読まず、リンクをクリックしないから、ミームや風刺漫画自体でメッセージを伝えなければならないことも教わった。そこで、ウクライナの政治家をアシストに仕立て上げて、プーチン大統領の偉大さと、オバマ大統領の悪質さを伝えるミームをこしらえた。これらのナラティブの中心に据えたのは、ウクライナの惨状を招いたのはオバマ大統領とメルケル首相の責任だと言うテーマである。
    ●イスラム国は勧誘にまつわるあらゆるプロセスをSNSで行う。
    ●世界最強を誇る国家の政府の主要機関ともあろうものが、ネットワークでつながり、内戦で荒廃した街の壊れかけた建物に潜む個人や、自宅の部屋の中でコンテンツを作って共有する10代の若者に、全くはがたたないのだ。
    ●2016年末にオックスフォードの辞書編集部は、その年を最もよく表す言葉として「ポスト・トゥルース」選び、「世論の形成において、客観的事実よりも感情的、個人的な意見の方が強い影響力を持つ状況」と定義した。アメリカの若者にとって、1番のニュースの情報源は今やソーシャルメディアだと言う。
    ●ナラティブ=語り。事実であるかどうかや論理性よりも、感情的な訴えかけてあると言う点が重要だ。

  • 戦争や紛争は今やSNS抜きには語れない。
    ただしそこには嘘の情報や、誤った情報、そして一面的な情報に溢れていて、事実を見極めるのが困難になってきている。
    虚偽のデータを流すアカウントは削除されるようになってきているようだが、完全には無くせないだろう。アメリカ以外のSNSでは削除もされないだろう。
    アクセス数を稼ぐためだけに派手な情報を垂れ流す輩も数多くおり、ますます事実を見極めるのが難しい。
    今こそこの時代に適応した、ジャーナリズムに則ったメディアが必要である。

  • 最初の現状分析は完全に同意できるわけでもないが、否定しうるものでもない。SNS経由でISにスカウトされた女性の話は、単にバカでなく、用意周到に準備され選抜され丁寧に罠をかけてきたのが分かって、これは認識を改めた。全部読んでないが、確かに交戦だけが戦争ではない。

  • ソーシャル・ネットワークが変えた世界で、直接現地(ガザ地区からシベリアまで)に出向き、対象者と向き合って話を聴くというアナログな取材で得られた真実の重さ。これが本書の強みである。武力とは異なる“ナラティブ(語り)”の応酬が21世紀の戦争の姿であり、著者が“ホモ・デジタリス”と呼ぶ人々(デジタル・ネイティブ?)がどのように関与しているか、非常に興味深く読んだ。なかでも、マレーシア航空機がウクライナ上空で撃墜された事件を調べる“安楽椅子探偵”のような仕事にビックリ!

  • 家の近くで空爆が今でも続いているようです。
    フェイクニュースをつくる者、それから守る者達の戦いを描いている。

  • 19/07/28
    寝落ちを繰り返しながらも読了。
    内容は興味深いのだけど、全般的に冗長な構成でした…

  • Twitterでは感情を揺さぶるツイートが拡散されていき、それで大衆を味方につけて戦争を有利に働かせるという内容。
    Twitterは善意も悪意も増幅されやすく、世の中には悪意の方が多い。

  • ガザの少女とイスラエル軍のように章を変えながらそれぞれのナラティブ(語り)を追っていく構成が、一方的なプロパガンダとしての見方とは一線を画し、「ナラティブの戦争、戦争のナラティブ」としての視点を明確にする。
    あと、bellingcat は検証作業上有益。

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