なめらかな世界と、その敵

著者 :
  • 早川書房
4.30
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本棚登録 : 1280
感想 : 126
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152098801

作品紹介・あらすじ

複数の並行世界を行き来するのが当たり前になった世界で、事故によりその能力を失ってしまった女子高生の孤独を描く表題作のほか、ゼロ年代・セカイ系・伊藤計劃以後・百合などの潮流を傑作SFに落とし込む短篇集。2010年代で最もSFを愛する作家がついに登場

感想・レビュー・書評

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  • SFの短編集です。
    どうも最近SFと相性が悪い気がする。
    昔々、子供の頃はけっこう好きだったんだけどなぁ。
    6篇の中でひとつもハマるのがなかった。
    残念(._.)
    ま、めげずに次行こう。次!

  • 「これいいよ、すごく面白いよ」と妻と娘に本を見せて言うと「えっ、何この表紙の絵…まるで」「ライトノベルみたい?」「そう、それ」-ライトノベルばりにこの短編集は読み易いSFだ。
    SFといえば、現実離れした訳の分からない小説だと思っていたが、このSF小説にはがつんときた。難解で哲学的なテーマではなくて、ここで問われているのは、人への愛、文明の進歩への疑義なのである。どんな形態の小説であっても、普遍的なテーマはあり得るということを改めて知らされたし、物語性豊かであるほうが私にはそれが響いてくることも分かった。
    「なめらかな世界と、その敵」並行宇宙を行き来する世界での少女の友情を描く。
    「ゼロ時代の臨界点」架空のSF黎明期を描いてSFへの愛を謳う。
    「美亜羽へ贈る拳銃」攻殻機動隊の世界ばりの脳を改変するのが常態となる近未来を描きながら、やはりテーマは愛なのだ。
    「ホーリーアイアンメイデン」人を抱きしめるだけで性格を聖人並みにしてしまう能力について描き、極楽浄土の是非を問うている。
    「シンギュラティ・ソヴィエト」IA社会の行きついた先に希望はあるのか。人間の自由意思がテーマか。
    「ひかりより速く、ゆるやかに」主人公の弱さ、卑怯さは私のものだ。それでも彼はひとり身を投げ出して友を人々を救おうとした。やはり愛と再生の物語なのだ。
    ―と勝手に解釈してみた。読者それぞれにいろいろ考えさせるのが優れた小説なのだろう。

  • 「広義のミステリ」なんて言葉や、本格・変格論争なんてものがあるように、推理小説はその定義をめぐって議論が繰り返されてきた。SFの世界にもそういう議論はあるのかな。あり得たかも知れない世界の擬似体験がSFの真骨頂なら、本書はまさにそのど真ん中である。
    本書を構成する6つの短編は、もしもこんなことが起きたら、歴史がこう動いていたら、という仮想の上で主人公が動き出す。むしろ主眼は人ではなく、そのあり得た世界である。全体的に少し青臭い感じもするけれど、個人的に楽しめたのは、ミステリ色の強い「ホーリーアイアンメイデン」、書き下ろしの「ひかりより速く、ゆるやかに」。

  • 読み応えのある作品集だった。
    特に後半の3作品に感銘を受けた。
    「ホーリーアイアンメイデン」書簡体のオーソドックスな構成。歴史の絡ませ方の妙。落ち良い。
    「シンギュラリティ・ソヴィエト」ソヴィエトの人工知能ヴォジャノーイ対アメリカの人工知能リンカーンの対決する世界。人間はもはや駒。人間性からの解放?優れたディストピア物語。
    「ひかりより速く、ゆるやかに」速度をこんな風に使うとは、ただただ驚き。

  • 伴名練さん初の短編集。6篇を収録。「なめらかな世界と、その敵」の不思議な表現とそれが成り立つアイデアと世界構築が秀逸。ストーリーのはじまりのインパクトが凄い。「ひかりより速く、ゆるやかに」のアイデアと展開がこれまた秀逸。乗覚障害なんていう言葉が楽しい。
    稀刊奇想マガジン準備号カモガワSFシリーズKコレクション(2015年12月)なめらかな世界とその敵、Workbook93 ぼくたちのゼロ年代京都大学SF・幻想文学研究会(2010年8月)ゼロ年代の臨界点、伊藤計劃トリビュート京都大学SF・幻想文学研究会特殊検索群1分遣隊(2011年11月)美亜羽へ贈る拳銃、年刊日本SF傑作選5~3を編むパイロット版カモガワSFシリーズKコレクション(2017年12月)ホーリーアイアンメイデン、改変歴史SFアンソロジーパイロット版カモガワSFシリーズKコレクション(2018年5月)シンギュラリティ・ソヴィエト、描き下ろし:ひかりより速く,ゆるやかに

  • 2010年代以降の日本SF史を彩る傑作短編集。
    表題作「なめらかな世界と、その敵」は無数の並行世界をスライドしつつなめらかに生きる少女と、それを可能にする「乗覚」に障害をきたして一つの人生しか生きられなかったマコトの物語で、まずパラレルワールドを行き来するというアイディアに脱帽である。ネタ自体は珍しくないのだが、自由意志で常に並行世界を行き来する日常というのが斬新で、それがそのまま未成年たちの無限の可能性を表しているという点が巧みである。そして「乗覚」が当たり前だからこそ、それができないマコトの絶望感は真に迫るものがあり、だからこそクライマックスは花火のように輝いている。本作は喧伝されている通りの百合であり、多少の陰謀などもあるものの、骨子はまさに女子高生同士の関係性にあり、その無鉄砲さと後悔を引き換えにしても失いたくないものが読後に突き刺さるのだ。

    「美亜羽に贈る拳銃」は伊藤計劃の傑作『ハーモニー』に捧げるトリビュートであり、愛もそれに纏わる感情も人格さえもブレインインプラントで望むままに規定できる世界において、愛の本質を試される物語である。人間が人間であるためのほとんどが代替可能ながら、そこで描かれる葛藤はなによりも人間らしく、二転三転する展開に翻弄されるが、オチはやはり美しい。

    個人的に目を引いたのは「シンギュラリティ・ソヴィエト」で、人工知能が東西冷戦を収束させたという歴史改変もさることながら、合衆国の人工知能「リンカーン」とソ連の「ヴォジャノーイ」の駒となってしまった人間を描きながら、スパイ同士の緊迫感のある問答が光る。作中に仕込まれた謎の正体も驚かされたが、人間の叡智を超えた「ヴォジャノーイ」が画策したものがただのバースデーケーキというオチのぶっ飛び具合が素晴らしかった。余談だが、ドウエル教授の生首というベリヤーエフネタが出てきたのには笑ってしまった。

    書き下ろしである「ひかりより速く、ゆるやかに」はこの短編の殿を務める作品として一番完成度が高く、青春要素はかなり強い。低速災害と呼ばれる未曾有の時間災害に巻き込まれた新幹線と、そこから断絶して現代に取り残されてしまった少年という取り合わせが魅力的である。西暦4700年後に彼らを乗せた新幹線が到着するという絶望感と、足掻こうとする取り残された少女である薙原、そして人知を超えた災害によって徐々に壊れていく日本の描写には食い入るように読まされてしまった。ソシャゲやインスタ、LINE、ガチャ、小説投稿サイトなどの2010年代の高校生カルチャーなども相まって、ぶっ飛んだ設定ながら土台には現代的なリアリティがしっかりと根付いている。そんな中で、作中に挟まれた西暦4700年が主人公の小説というネタは完全に虚をつかれたし、そこから主人公の犯した罪と、それに対する購いのクライマックスへと繋がる手腕は見事。まさに青春であり、しっかりとしたハッピーエンドにまとめたのは作者の非凡さを感じてしまった。

    どの物語も、問われているのは人間の本質であり、彩るのは人と人との関係性である。自由奔放なアイディアと、キャラクター要素が強いながらも感情に切々と訴えかけてくる登場人物たちの心境こそが最大の魅力で、判名練は追いかけて行こうと決意した傑作である。

  • 「なめらかな世界と、その敵」☆☆☆
    冒頭から景色がぐるぐると変化し、登場人物は一行ごとに変わり、何が書かれているのかと混乱させられた。
    この作品中の人間たちは暑いからと冬の並行世界に飛んだり、学校の先生と話しながら別の世界の友人と話したりと、とても自由に複雑にふるまうせいだ。
    並行世界を行き来する作品は数あれど、これだけスムーズに行き来し続けるのは初めて読んだ。
    物語には、並行世界に移動することが常識となっている世界で、それができない少女マコトが登場する。
    その状態はつまり私たち現実世界の人間と同じなのだが、彼女にとってはそれは一つの制約を受けていることになる。
    マコトの「私から目を逸らせないのは、私だけだからな」というセリフが印象に残った。
    この短編集にはギミックとしては既存作にあるものの、そこにひとひねり加えた作品が多くおもしろい。

    「ゼロ年代の臨界点」☆☆
    日本の架空のSF史についての解説で、注釈も含めて読み進めていくと、主要人物3人にしか見えていなかった世界が垣間見えてくるスタイルは面白いが、ほかの作品に比べて得るものが少なかった。

    「美亜羽へ贈る拳銃」☆☆☆☆
    人の恋愛感情を固定するインプラント(ナノマシン)を開発した北条美亜羽は、敵対する神冴との勢力争いに負け、神冴家に取り込まれることになる。
    それを嫌がった彼女は神冴への呪いの言葉を口にして、ほとんど自殺のように自らにインプラントを打ち込んだ。
    その効果は、神冴実継を好きになるというもの。
    美亜羽は別人のように実継を愛するようになるが、それがインプラントにより植え付けられたものだと理解している実継はその愛情に応えることができない。
    二人は人格と愛情をどのように捉えていくのか。

    タイトルは梶尾真治『美亜へ贈る真珠』をもじっているが、内容的には関係は薄い。
    美亜羽の名前はもちろん伊藤計劃『ハーモニー』から。
    「憧れてその名を僭称する人間は寧ろ、彼女から一番遠い凡庸な魂の持ち主だ」というセリフはBLEACHの「憧れは理解から最も遠い感情だよ」というセリフを思い出した。

    「ホーリーアイアンメイデン」☆☆
    抱擁することによって相手の人格や態度を変えてしまう能力を持った女性と、それを間近で見続けた妹の物語。
    姉がどういう考えだったのかも知りたかった。

    「シンギュラリティ・ソヴィエト」☆☆☆
    ソ連のAIが技術的特異点(シンギュラリティ)を迎え、アメリカに技術的に勝利した世界。
    ソ連の市民たちはAIに制御され、彼らの脳はAIの演算装置の一つにされるまでになっている。
    しかしアメリカもそのままでいるはずはなく……。
    いかにも近未来っぽい作品で、アメリカとソ連の対決シーンがかっこよかったり、人間には理解の及ばないAIの技術の壮大さが感じられたりとワクワクする作品だった。

    「ひかりより速く、ゆるやかに」☆☆☆☆
    高校の修学旅行生を乗せた新幹線が突然停止する事故が起きた。
    しかも外部から干渉することができない。
    しかし、停止しているかのように見えた新幹線は実は時間が遅くなっているだけで、少しずつ進んでいた。
    ただし、新幹線の時間は外に比べて二千六百万分の一になっており、次の駅に着くのは西暦四七〇〇年ごろだ。
    主人公のハヤキはインフルエンザに罹ったせいで修学旅行に行けなかった生徒で、新幹線の乗客を助けようとする人々や、勝手に話題性のある事件に盛り上がっている世間や、事故の被害関係者たちを見つめていく。

    「時間停止」ではない「時間圧縮」モノにはいくつか既存作があり、本作中でも事件の解決策を探る参考書籍として挙げられている。
    私が知る中では先ほども挙げた梶尾真治『美亜へ贈る真珠』、古橋秀之『ある日、爆弾がおちてきて』に収録されている「むかし、爆弾が落ちてきて」。

    時間という絶望的な隔たりとそれに挑む高揚感があったり、人間ドラマがあったり、主人公にももちろん物語があって青春ものとしての一面も持っていて面白かった。

  • めちゃくちゃすごかった。
    SF×巨大感情、これがエモというやつかしら……。「ひかりより速く、ゆるやかに」が噂通り鳥肌たつくらい圧倒的で、でも敢えて「シンギュラリティ・ソヴィエト」を推したい。これは……語彙が飛ぶわ……すごい本でした……。

  • 「美亜羽へ贈る拳銃」「ひかりより速く、ゆるやかに」が好みです。特に「ひかりより〜」は、全要素のバランスが完璧のように感じられました。

  • #日本SF読者クラブ 良作揃いの短編集。表紙の女の子は、表題作に登場するマコトちゃんかな。この表題作と書き下ろしの「ひかりよりも速く、ゆるやかに」がお気に入り。

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著者プロフィール

’88年生まれ。’10年「遠呪」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、受賞作を改題・改稿した『少女禁区』でデビュー。編書に「日本SFの臨界点」シリーズなど。最新作は『なめらかな世界と、その敵』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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