【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ

  • 早川書房
4.27
  • (784)
  • (589)
  • (250)
  • (30)
  • (8)
本棚登録 : 8512
感想 : 670
  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152099198

作品紹介・あらすじ

ノースカロライナ州の湿地で村の青年チェイスの死体が発見された。人々は真っ先に、「湿地の少女」と呼ばれているカイアを疑う。6歳のときからたったひとりで生き延びてきたカイアは、果たして犯人なのか? 不気味な殺人事件の顚末と少女の成長が絡み合う長篇

感想・レビュー・書評

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  • とても引き込まれた一冊でした。
    殺人容疑で囚われているカイア。
    物語終盤で、これは事故だったのか、殺人だったのか、誰が犯人なのか、真実に近付いてくると、どうかカイアが有罪になりませんように‥‥と祈らずにはいられませんでした。
    なのに、真実が明らかになってしまうとこの物語は終わってしまう、本を閉じたくない、と思っている自分もいました。

    六歳からたった一人で生き抜いてきたカイア。読む前は、自然の中、例えば無人島のような所でたった一人で生きてきたのかと思っていたのだけれど、そうではなかった。街の近くの湿地で暮らすカイアは食べていくために何とかしてお金を稼がなければならない。それは他人と関わって生きなければならないということ。無人島で一人で生きていくよりも、他人が近くにいて誰とも心を通わせることができないことの方が遥かに孤独を感じると思う。この胸を締め付けられるような孤独の描写が辛くてとても痛かった。

    そんなカイアも恋をして、他人と繋がる喜びを知る。しかし、また別れが訪れる。喜びを知った後の孤独。それはどんなに辛いことか‥‥この辺りは随分と昔、若き日に読んだゴールズワージーの『林檎の樹』を思い出しながら読んでいました。
    カイアの孤独を救ってくれたのが女友だちだったなら、と何度も思いました。でも、カイア自身が言っているようにカイアが繋がっているのはもっと大きなもの、自然そのものなんですよね。

    自然の中で暮らすカイア。
    自然界の理、本能。最終的には人間もそこに行き着くと気付くカイア。でもやはり、集団に属したい、愛し愛されたいとも願うカイア。
    息苦しい程の美しい大自然の描写、たった一人で生き抜いた女性の力強さ、この物語の世界観にどっぷりと引き込まれました。

  • 作者のディーリア・オーエンズは、ジョージア州出身の動物学者で、この作品は69歳で執筆した初めての小説だそうです。
    非常にオーソドックスな恋愛小説であり、ミステリーです。
    最後のどんでん返しまで本当に飽きさせない、とてもよくできたストーリーだと思いました。
    ベストセラーになっているのも頷けました。


    以下途中までのストーリーです。

    主人公の少女カイアは、1969年、6歳の時に母が家を出て行ってから、しばらく暴力的な父親と二人で暮らしますが、父もいなくなり、学校に通ったのはわずか1日だけ。
    その後、ひとりで貝を獲って売りにいったり、燻製を作って売りに行き、ひとりで生活しています。

    そこに年上の少年テイトが現れ、カイアに読み書きを教えてくれます。
    カイアとテイトは恋仲になりますが、テイトは大学で生物学の研究をするために地を去り、カイアとの約束を破り帰ってこなくなります。

    打ちひしがれたカイアは、村の裕福な家の青年チェイスと付き合い始めますが、チェイスはカイアに結婚をちらつかせるものの、裕福な家の娘と婚約を発表してしまいます。

    もうひとつのストーリーは、1969年チェイスが不審死事件の被害者となって発見されます。
    その容疑者として、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれて、ひっそりとひとりで貝殻の標本を作りながら暮らしていたカイアが疑われます。

    そこへ、大学の研究を終えたテイトが帰ってきてカイアに何度も謝ろうとしますが、カイアはテイトを決して赦そうとしません。

    カイアはずっと湿地の家で6歳のときからひとりで自然の中で育った少女だったので町の人たちとは馴染めないという負い目がありました。

    カイアとテイトは幸せになれるのかと、はらはらしました。
    カイアが生き残ったたった一人の兄のジョデイと再会するシーンには目頭が熱くなりました。

    • くるたんさん
      まことさん♪こちらでもこんにちは♪

      ジョディとの再会、私も涙しました。
      ジョディといい、母親といい…みんないろいろな仕方ない気持ちを胸に押...
      まことさん♪こちらでもこんにちは♪

      ジョディとの再会、私も涙しました。
      ジョディといい、母親といい…みんないろいろな仕方ない気持ちを胸に押さえこんでいたんですよね。

      ジャンピン夫妻がいてくれて良かった…つくづく思いました( ´ ` )
      2020/06/03
    • まことさん
      くるたんさん♪

      そうですね。
      カイアは自然の中で一人で育ったけれど、ジャンピン夫妻をはじめとして、助けてくれるこころのある大人が周り...
      くるたんさん♪

      そうですね。
      カイアは自然の中で一人で育ったけれど、ジャンピン夫妻をはじめとして、助けてくれるこころのある大人が周りにいて、幸せでしたね。
      テイトやテイトのお父さんも忘れられません。
      2020/06/03
  • 500ページある大作。
    海外作品(あまり得意ではない)だし、図書館で借りたし、読み切れるかな…と思いながら読み始めた。
    結果、余裕(3日間)で読了。
    ぐいぐい惹き込まれて、ページをめくるのをやめられない感じ、何だこれ、自分でも驚いた。


    湿地で暮らす少女の一生。
    そもそも湿地で暮らすということが、どういうことなのか想像するのが難しい。
    街から離れ、学校にも通えず、頼みの綱であるはずの家族との別離、孤独だけが寄りそう日々。
    自分なら、無理である…
    過酷という言葉では足りない人生。

    今作はミステリー作品に分類されるのかもしれないけれど、個人的には一人の女性の人生をカモメの目線で見せてもらった感じ。切なさが溢れた。

  • この間仕事中ひまだったので(おい)フォローさせて頂いてる方たちの過去のブックリストを見てました(フォロワーさんたちのタイムラインにひまわりめろんのいいねが大量に並びウザかったと思われます。申し訳ない)
    そこでみなさんのブックリストにこの『ザリガニの鳴くところ』がことごとく入っていました
    いやほんとにすごい量
    なのでもうめちゃめちゃ期待してました
    期待度マーーックス!!です

    『ザリガニの鳴くところ』期待度マックス!
    略してザリックス生命(「生命」どっから来た?)

    いや期待以上に面白かったです

    途中ちょっと不安要素もありました
    これちゃんとハッピーエンドで終わってるよね?大丈夫だよね?って
    じゃなかったらカイアの人生悲しすぎるよって
    いやいや信頼するフォロワーさんたちがこの流れでバッドエンドになる物語に高評価与えるはずがない!と信じて読み進めました
    結果は…自分の目で確かめて下さい!(ビシィっ!)

    果たして「湿地の少女」は私たちになにを伝えたかったのでしょうか?
    考えました
    盲目的な愛はその言葉通り視界を遮りいずれは闇に落とすのか、崇高な道徳心は偏見や差別を乗り越えることができるのか、あるいは乗り越えることを強制することでむしろ誤った判断を生むのか、人間も湿地に住む鳥や昆虫と等しく、生きるための生き残るため定めに従わざるを得ないのか、信じることとは、本当の孤独とは

    この物語は読み手に様々なことを感じさせ、考えさせる物語でした
    「湿地の少女」が問うた答えは『ザリガニの鳴くところ』にあるのかもしれません(きれいにまとめた風にしてぼかしやがった)

    • 辛4さん
      ひまわりめろんさん、こんにちは。
      いいお話でしたね。
      ”ことごとく入っていました” ← (笑)
      そうね~
      みなさん、とってもいい本を...
      ひまわりめろんさん、こんにちは。
      いいお話でしたね。
      ”ことごとく入っていました” ← (笑)
      そうね~
      みなさん、とってもいい本をたくさん読まれていますね。(禿同)
      なので、私は良さそうな本をみなさんのレビューで見つけたら、”積読” 設定してしまいます。外れがあまりないですもんね。
      (※ 積読設定は、Amazonでサンプル送信、してます。購入して読まないのはもったいないけれど、サンプル読んでそれからよかったら本当に購入すればいいので、コスパ最高!と思って自画自賛)
      (私は電子書籍の方で読んでいました。。ブクログもまとめてくれてもいいのに、と思ったりして)
      2022/03/13
    • ひまわりめろんさん
      辛4さん
      こんにちは

      この日が来るのを待っていました
      辛4さんがコメントをくださる日を!
      辛4って読み方「からし」でいいんですか?(引っ込...
      辛4さん
      こんにちは

      この日が来るのを待っていました
      辛4さんがコメントをくださる日を!
      辛4って読み方「からし」でいいんですか?(引っ込み思案か!)

      電子書籍でしたか!
      先程チェックさせて頂きました
      「自然」そうですよ!
      「自然」はカイアにとってずっと味方であってくれたんでしょうね

      自分は読み終わったあと特にみなさんがどんな感想持ったか気になって見るんですが
      電子書籍のチェック漏れてました
      気付かせてくれてありがとうございました!
      2022/03/13
    • 辛4さん
      ひまわりめろんさん、早速のレス、本当に恐縮です。

      えええええ~っ そんなそんな
      私なんてマイナーな存在ですから。覚えてくださっていた...
      ひまわりめろんさん、早速のレス、本当に恐縮です。

      えええええ~っ そんなそんな
      私なんてマイナーな存在ですから。覚えてくださっていただけでうれしいです。

      ”からし”、ねえ。。。あまり考えたことないです。
      いつもスープカレーは辛さ4をお願いするので、ということで。
      ちょっと、というかなり辛めが好きなんですね。

      ひまわりめろんさんと本棚に共通点が結構あるので、なんかうれしいです。森沢さん、小川糸さん、結構読まれてますね。森沢さん、いいですね~。なんか泣けてきますです。ツバキ文具店シリーズみたいなのは私は泣けます。
      森沢さん、まだ読んでないものがあるので(セールでちょくちょく安く買えるのでたまっちゃった~(うれしい))。読みますよ~♪

      そうそう、ときどきフォロワーさんが怒涛の如く登録している本があったりして驚くことがありますね。いい本みつけた~♪、と思ったらみ~んな、登録してるの。
      あちゃー、って思います(笑)「旅をする木」とかね。

      それでは今後ともよろしくお願いいたします(レス不要です)~
      2022/03/13
  • 舞台はノースカロライナ州の湿地

    かつては追放者、反逆者、逃亡者などのいわゆる流れ者達しか辿り着かないような場所
    勝手に住みついても誰もその土地を欲しがらないような不毛な地
    しかしながら実際は陸地にも水中にも多様な生き物のいる豊かで肥沃な土地なのだ

    この場所主人公カイアの家族は住んでいる
    アルコール依存症かつDVの父親
    かつては育ちの良かった母親
    二人の姉と二人の兄
    そして主人公カイアは五人兄弟の一番末っ子、6歳だ

    まず母親が青い旅行鞄を持って去って行く
    そして上の兄と姉達
    一番年が近く仲の良かった兄のジョディまでも…
    とうとう父親と二人残される
    当然父親は留守がちでカイアを放置
    それでも何とか週に一度タダではやらん、家事と引き換えだ!となけなしの僅かなお金を渡される

    字も読めない
    まともな服もない
    食べるものない
    もちろんお金も…
    たった一人での初めての買い物
    相手に何を言えばいいのか
    どれだけお金を渡せばいいのかもわからない
    空腹だけが彼女を前進させた

    結局父親もカイアが10歳の頃帰らなくなる
    収入は全くのゼロに
    そして全くの独りぼっちに

    足に釘が刺さるような大怪我、餓死しそうな空腹、小屋を叩いて騒喚く少年達の悪質な悪戯に息を殺して涙をこらえることも…
    そうどんな時もたった一人で過ごすのだ
    話しかける唯一の相手はカモメ
    学校に行ったのはたった1日

    それでもたくさんの人に助けてもらう
    まだお金の勘定ができないカイアにお釣りを多めにくれるスーパーの店員
    学校に行く義務を見逃してくれる補導員
    カイア相手になんとか商売を成立させようとする黒人夫婦
    読んでいてとても救われ、心安らぐ数少ない場面だ

    彼女は自分で何とか生きる術を見つけ、知識をつけ生きていく
    そんな折、読み書きを教えてくれる青年テイトと出会う
    カイアの世界が広がる
    聖書に書いてあった家族の名前と生年月日を初めて知るのだ
    それまで自分の年や誕生日も曖昧だったのだ
    また学ぶことにより湿地の生き物達の生物学など結びつき、人生が少しずつ好転し始める

    が、それも束の間…
    酷い裏切りの連続に打ちのめされる
    逆境に追い討ちをかけるような人生
    なぜこんな境遇なのか、自分が一体何をしたというのだ!
    心の叫びにやりきれなくなる
    それでもカイアの周りの自然の豊かさ、そこにいる生き物達がなんとか彼女の心を支える

    彼女に、彼女の人生にひたすら夢中にさせられた
    ひとりの少女が自分の手で生き、自分の足で大地を踏み、人生を生き抜く成長の物語だ
    …いやちょっと待った!
    うっかり忘れそうになるが、この書はミステリーなのだ
    そして心震える恋愛要素もある
    家族の物語でもある
    他にも読みどころは多岐にわたる
    この時代のアメリカの差別社会が浮き彫りになっている
    有色人種居住区があり、学校は白人と黒人は別だ
    レストランでも「黒人入店お断り」である
    白人の子供が黒人の大人を平気で差別する
    またカイアは沼地のトラッシュと呼ばれる
    こちらは逆に生きていくために手助けが必要な子供に大人があからさまな差別をする
    アメリカ社会だけではないだろう
    人類の差別と偏見、周りに流され同調してしまう心理
    この時の心理はあなたや私なのだ
    そう突きつけられた

    この著を読みながら、人間の深層心理を考えたり、自分はどうなのか…自問自答する部分が多く、その辺りがベストセラーの要因であるような気もする
    設定はある意味極端ではあるものの、誰もが自分の心に問いかけずにいられない
    そしてカイアに心寄せずにいられない

    描写もわかりやすく、あまり湿地に詳しくないながらボンヤリ情景が目に浮かぶ
    湿地の自然の豊かさだけと深さ
    少女の孤独さ
    このコントラストが非常に良くも悪くも映える

    カイアに心を寄せながら、そっと見守るように夢中で読んだ

    ミステリー部分に言及したいことがあるのだが、少しでも触れると完全なるネタバレになるので残念ながら触れられない
    非常に思うところのある結末だ
    どう感じるか
    多くの意見があるだろう
    個人的に一番語りたい部分が触れられないのが残念である…(泣)

  • 心に残したい。

    最高。

    湿地で起きた不審死事件。
    疑惑の目を向けられたのは幼い時に家族に置き去りにされたカイア。

    まるで湿地に埋もれた感情、埋めざるを得なかった彼女の感情のかけらを一つずつ丁寧に掘り返していくような時間。
    涙し心震え、水彩画のように彼女の心も色づくことを願う そんな様々な感情がこみ上げる時間だった。

    自然、人にどれだけ彼女の孤独は支えられ包み込まれたのだろう。

    愛をひたすら求めた彼女の姿を永遠に心に刻み残したい。
    残さざるを得ない。

    ミステリかつ一人の少女の成長譚は最後の最後まで心震えずにはいられない。

    • まことさん
      くるたんさん♪こんにちは。

      この作品は、他の方のレビューもあって、知っていましたが、くるたんさんのとても素敵なレビューを拝見してとって...
      くるたんさん♪こんにちは。

      この作品は、他の方のレビューもあって、知っていましたが、くるたんさんのとても素敵なレビューを拝見してとっても読みたくなった本です。
      ご紹介ありがとうございました!
      ミステリーだけど全然怖くなかったし、ストーリーも凄くよくできていて、最後の最後まで飽きさせない、至福の読書体験でした。
      最後に大きなどんでん返しがあったけれど、この結末でよかったと本当に思いました(*^^*)
      この作品は星6をつけたいかんじでした!
      本当にありがとうございました!!
      2020/06/03
    • くるたんさん
      まことさん♪こんにちは♪

      ありがとうございます♪

      ミステリーでもあるんだけれど、貧困や暴力、差別などあの時代の社会問題を盛り込んだ作品で...
      まことさん♪こんにちは♪

      ありがとうございます♪

      ミステリーでもあるんだけれど、貧困や暴力、差別などあの時代の社会問題を盛り込んだ作品でしたよね。

      そして何より湿地の自然描写が美しかったのが良かったです。
      最後の最後は…驚きもあり…。
      詩がまた心に響きました( ´ ` )
      2020/06/03
  • 光溢れ、水が草を育み、水蒸気が空に立ち昇っていく。
    舞台はノース・カロライナ州の湿地。
    もちろん原文が良いのだと思うが、情景が眼前に浮かび上がる、美しく余韻のある翻訳が素晴らしかった。
    読み終わってからもう1週間くらい経つのだが、今でも湿地に佇み、カモメと戯れる美しい少女カイアの姿を思い浮かべることができる。

    5人きょうだいの末っ子として育ったカイア。ある日、大好きな母さんが家を出て戻って来なくなる。櫛の歯が欠けるように、兄姉も、酒乱の父も出ていき、カイアは一人湿地の小屋に取り残されてしまう。
    学校にも通えなかったカイアに読み書きを教え、孤独を癒してくれたのは、村の少年テイトだった。しかしテイトは、カイアを心から大切に思いながらも、大学進学のために去ってしまう。
    戻らないテイトを待って傷つき、さらに人との関わりを避けるようになったカイアは、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、湿地の生き物を愛し、つぶさに観察し、羽根や貝を丁寧にコレクションして、一人静かに暮らす。
    そんな彼女に、村の裕福な青年チェイスが近づく。チェイスは好色で、カイアの大切な湿地のことを同じように理解しているわけではなかったけれど、いつしか恋人同士となる。しかし、チェイスはカイアに結婚をちらつかせながら、こっそり令嬢と婚約をしていた。新聞で知って傷つき怒るカイアに、チェイスは関係はそのまま続けようと迫るのだ。

    他方、事件の起きたのは1969年。火の見櫓の下に、チェイスの死体が発見された。死因は転落死と思われるが、その付近に足跡はなく、他殺であるとの断定には至らない。しかしチェイスがつけていた貝殻のペンダントがなくなっていた。そのペンダントは、湿地の少女がプレゼントしたもの。疑いの目が湿地の少女に向けられる。

    孤独な少女期から大人になり、チェイスと出会って別れるまでの章と、事件が発生してからカイアに捜査の手が及び、法廷で被告人として裁かれるまでの章が、交互に展開される。

    法廷の場面では、ミステリーな雰囲気が強くなる。
    カイアにはその日、バスで遠方に行っていたというアリバイがあった。
    でも、カイアが一人夜に戻ってきて湿地に向かうことは可能だったこと。
    事件当日、湿地をボートで進むカイアの姿を目撃したというエビ漁師がいること。
    チェイスの服に、カイアの部屋に置いてあるニットと同じ繊維がついていたこと。
    そして、チェイスに復縁を迫られて「殺してやる!」と叫んでいるカイアの声が聴かれていること。状況証拠は不利なものばかり。

    こんな状況下で、「湿地の少女」をこれ以上一人にしないと、カイアを信じてそばについていようとしてくれる人たちがいてくれたことは救いだ。

    カイアに帰る先はない。たった一人で生きる彼女を包み込み守ってきたのは母なる湿地だけだった。
    彼女は湿地での生活を守って、湿地の生き物から学んで、最後まで湿地で生きたのだ。
    驚きはない。私には納得の結末だった。

  • アメリカのノースカロライナ州の入江の多い海岸線のある地域の“湿地”。そこは、人々から「大西洋の墓場」と呼ばれ、船が難破しやすいところで、また、一見不毛の地に見え、誰も住みたがる人などいなかった。そこの住人はというと、追放者や債務者、戦争や法律から逃げてきた者、逃亡した奴隷など、記録に残らない者たち。彼らは独自の法に基づいて生き、町の人々も彼らのことには関わりを持とうとしなかった。
     カイアはその湿地にある小屋で父母と何人かの兄弟と暮らしていた。父親は戦争で負傷し、働かず、酒ばかり呑んで、家族に暴力を奮っていた。母親は美しく、良家の出身で芸術や文学の趣味を持った人であったが、そのような夫と一緒になってしまい、貧困と暴力に耐えながらも家族が少しでも快適に暮らせるよう工夫したり、いつもカイヤを明るい笑顔で包んでくれる人であった。
     しかし、その母がついに出て行ったまま帰ってこなくなった、父の暴力に耐えかね、身を守るために本能的に出て行ったのだ。六歳のカイヤが二度と振り返ってくれない母の姿を見送るシーンはとても切なかった。そして同じ理由で他の兄弟たちも次々と家を出て行き、父親もたまにしか帰って来なくなり、とうとうカイヤは一人になった。
     町の教育委員会がカイヤを迎えに来て、学校に連れて行ったが、「貧乏白人(ホワイト・トラッシュ)」と呼ばれるカイヤは差別的な目で見られ、耐えかねて逃げ出し、二度と学校へは行かなかった。
     まだ子供で、字も読めないカイヤがどうやって生きていったか。貝を掘ったり、魚の燻製を作ったりして、それをジャンピンという黒人が経営する生活用品店に売りに行き、ジャンピンの店からボートの燃料を買ったり、古くなった服を分けてもらったりしていたのだ。カイヤが心を許せるのはジャンピン夫婦と湿地の生き物たちだけ。カイヤの楽しみは湿地で拾った珍しい鳥の羽や貝などを集めて、分類して飾ること。字が書けないので、独自のマークを付けて分類していた。私は母親目線でカイヤを抱きしめたくなった。
     もう一人カイヤの味方になってくれた人がいた。ある日、切り株のテーブルのような所に珍しい鳥の羽が置かれて
    いた。カイヤはそれを喜んで持ち帰り、お返しにカイヤも珍しい鳥の羽を置いておくと次の日には無くなり、代わりに別の美しい羽が置かれていた。そしてカイアもまた…。字の読めないカイヤに代わりにカイヤの心に響く物を使ってメッセージを伝える行動は鳥や動物の求愛の手段のようでみずみずしい。テイトはカイヤが一番慕っていた兄、ジョディの友人。カイヤに惹かれ、カイヤに文字を教え、湿地の自然について書かれた本を貸したりした。テイトに文字を習ったおかげで、カイヤは家の片隅に残っていた聖書を見て、自分や家族の本名を知ったり、母の残した詩集を読んだり、自然に関する知識を深めたりした。湿地の自然を愛する二人は惹かれあった。だけど、テイトは大学入学とともにカイヤの元を離れた。必ずすぐに会いにくると言ったのに、戻って来なかった。
     家族にも唯一愛したテイトにも捨てられ、それでもカイヤは逞しく暮らしていったが、やはり愛情にうえていた。町のナンパな青年、チェイスに惹かれ、遊ばれてしまったが、カイヤは本気になってしまった。「結婚しよう」とまで言われたのに、チェイスが他の女性と婚約したことを新聞で知る。
     チェイスのことに傷つき、「やり直したい」と謝るテイトの所に戻る気にもなれず、カイヤは増々自分の湿地の生き物の研究に没頭し、テイトの勧めで本を出すまでになる。
     しかし、結婚してもなお、カイヤを付け回し、暴力を奮ってまでカイヤをものにしようとするテイト。そんなとき、テイトの死体が海岸で見つかり、カイヤは疑いをかけられる……。
     動物学者、ディーリア・オーエンズによる未開の湿地の魅力が存分に書かれた小説。カイヤは誰も住みたがらない湿地で生き物の世界の奥深さ、自然の豊かさと残酷さを知る。カイヤが差別される社会は湿地で観察出来る自然界の掟に似ているとカイヤは自覚する。カイヤの目の前に広がる自然だけでなく、カイヤの心の中も誰よりも豊かである。誰も経験しないような孤独、誰よりも強い生命力、誰よりも深いピュアな愛。未開の湿地と人間の心の美しさを知ると同時にその両者の本能的な恐ろしさも教えてくれた小説だった。
     

    • Macomi55さん
      goya626
      大丈夫ですよ。そういう系ではないので。深くて、大きくていいお話ですよ。
      ただ、やっぱり女は怖い?いやいや、母なる自然の恐ろ...
      goya626
      大丈夫ですよ。そういう系ではないので。深くて、大きくていいお話ですよ。
      ただ、やっぱり女は怖い?いやいや、母なる自然の恐ろしさを感じますね。壮大な小説ですよ。
      2021/11/28
    • Macomi55さん
      本ぶらさん
      文学作品だと思いますよ。大変美しい作品です。途中までミステリーの部分はいらないのではないかと思いながら読んでました。でも、最後に...
      本ぶらさん
      文学作品だと思いますよ。大変美しい作品です。途中までミステリーの部分はいらないのではないかと思いながら読んでました。でも、最後には自然の恐ろしさと人間の底知れなさにのみこまれたようになりました。すごい小説です。
      2021/11/28
    • goya626さん
      おお!!
      おお!!
      2021/11/28
  • 二つの小説がひとつに縒りあわされている格好になっている。一つは一九六九年に沼地で起きた一人の男の死の謎を追うミステリ仕立ての小説。もう一つは、その十七年前の一九五二年に始まる稀有な生き方を強いられた一人の女性の人生を追った物語である。

    アメリカ東海岸、ノース・カロライナ州の海岸沿いには湿地帯が広がっている。水路が入り組むその辺りは開発が進んでおらず、もともとは逃亡奴隷や人生をしくじって流れ着いた貧乏白人たちが、粗末な小屋を建てて生活する土地となっていた。彼らはホワイト・トラッシュと呼ばれ、唯一の市街地であるバークリー・コーヴの住民から差別を受けていた。ただ、湿地は多様な生物が棲む豊かな土地でもあり、魚介類が豊富で、その気になれば自活できる環境にあった。

    主人公のカイアは両親と兄姉とともに潟湖とオークの森に隔てられた海沿いの土地に建つ小さな小屋に住んでいた。貧しい暮らしではあったが、優しい母や兄のジョディに守られて六歳までは健やかに育った。一九五二年八月のある朝、母が家を出て行った。父親は酒を飲んでは暴力をふるう男で、残された兄や姉は次々と家を出て行き、二度と帰ってこなかった。いちばん年の近い兄のジョディも、出て行ってしまうとカイアは一人になった。

    父に定職はなく、戦争で足を負傷したため障害年金で生活していた。もともとは広大な綿畑を持つ富裕な一家に生まれたが、大恐慌が起き、ゾウムシに綿がやられ、借金を負い、家を失った。学校をやめて働き出したが、何をやっても長続きしない。妻の実家は製靴工場を経営しており、そこで働き夜学に通うも、酒に溺れて退校処分となる。心機一転まき直しのため、湿地に建つ小屋へ家族で引っ越し、出直すはずだったが結局は酒浸りというのがこれまでの経緯。救いようのない男だ。

    ぷいと家を出ると何日も帰ってこない父は頼りにならず、カイアは記憶に頼り、トウモロコシ粥を作り、菜園のカブの葉をゆでて飢えをしのぐ。少しずつ家事もできるようになると、父もカイアを見直し、素面の父とボートに乗って魚を釣る平穏な日々も持てるようになった。そんなある日、母からの便りを読んだ父は手紙を焼き捨て、怒って家を出て行ってしまう。一人ぼっちになったカイアの孤独な生活が始まる。

    帯に「2019年アメリカで一番売れた本」とある。ベスト・セラーというのは、ふだん本を読まない人がこぞって読むからベスト・セラーになるのだ、という。だから、設定はいささか極端なものになりがちだ。年端もいかない少女が、人里離れた湿地の小屋に一人きりで生きていくのだ。学齢が来ても、親のいない少女は学校に行かない。家に迎えに来た女性に連れて行かれた学校で「湿地の少女」とからかわれ、二度と行かなくなる。少女の友だちは小屋近くにある海辺に集まるカモメだけだ。

    父親の置いていった金が途絶えると、貝を掘って袋に詰め、ボートで顔見知りの黒人の店に行き、物々交換でガソリンや食料品を手に入れる。ジャンピンという黒人は酷い差別を受けていたが、カイアに優しく、妻のメイベルは服やその他の品々をカイアのために都合してくれたりする。もう一人、テイトという少年との出会いがカイアの人生の転機となる。テイトはジョディの友だちでカイアを知っていた。鳥の羽の交換を通じ、二人は仲良くなる。カイアはテイトに読み書きを教わることになる。

    乾いた大地が水を吸い込むように、文字を知ったことでカイアの知識欲に火がつく。もともと、貝殻や鳥の羽を集めるのが好きだったカイアは、それらを図鑑で調べ、名前や採集場所その他を記載するようになる。テイトは学校の教科書の他にも詩集やナチュラリストの書いた本をカイアに与え、カイアは自分の見知っていた物についてぐんぐん知識を吸収していく。それらはやがて、テイトの手を通じ、出版社に送られて本にされることになる。

    二人は惹かれあっていたが、カイアに死んだ妹の面影を見ていたテイトは最後の一線を越えることなく、大学に入るため湿地を去った。再び一人になったカイアは、もう立派な女になっていた。そんなカイアに目を留めたのがバークリー・コーヴの商店主の息子で、フットボールの花形選手でもあったチェイスだ。二人は急速に関係を深めるが、結婚を約束しながら、チェイスは町一番の美女と結婚してしまう。

    沼地に建つ火の見櫓から転落して死んでいたのはチェイスだった。不思議なことに足跡も指紋もないことから、保安官は殺人を疑う。チェイスが死ぬ少し前にカイアと争っているところが目撃されており、保安官はカイアを逮捕する。しかし、カイアはその夜、出版社の人間と会うため、別の町にいてアリバイがあった。後半は、カイアの弁護士と検察側の法廷劇となる。敏腕弁護士によって次々と証言の不備が暴かれていくのは痛快だが、カイアは差別されていて陪審員の出す評決は予断を許さない。

    謎の提出で幕が開いた物語は、謎解きで幕を閉じる。そういう意味では通常のミステリのようだが、そうとも言い切れない。ホタルやザリガニをはじめとする湿地の多様な自然、種の保存の為になされる生物の行為、生命を維持するための動物の本能の持つ残酷さ。湿地の中でひとり生きる女の孤独。閉ざされた集団の持つ差別性。孤独な人間の中に育つ、他者との間に一線を画す心情。様々なものが多種多様な色糸で織りなされ、描き出された一枚の大きなタペストリーを思わせる一篇である。

  • 読み終わるのがさみしい本だった。

    帯に書いてある、言葉たち。
    「泣いたのは、森で一人ぼっちの彼女が、自分と重なったからだ。
    ―同じ女性というだけで。」
    「この少女を、生きてください。」

    本当だ。読後にすぐにそう思った。いや、読書中もきっと、ずっと。
    カイアは私だった。
    カイアとの共通点なんて女性であるというただそれだけのことなのに。
    カイアは私だった。

    何がそうさせたのかがはっきりわかるほど、自分は賢くも読書家でもない。
    ただただ、私もトウモロコシ粥をかき混ぜ、カモメにエサをやり、落ちている羽根を広いあげて、足を水に浸して歩く。そんな日々がもう何年も続いたようだった。

    「出会えてしまうんだもんなあ、こんな本に。」
    本当にそうだ。
    改めて、読書っていいな。
    たった2000円で、今いる場所も時代も年齢も天気もなにもかも、関係なく心は1960年代のアメリカの湿地にある。ほかのどんな娯楽ともちょっと違う。
    私の目の前には枝を垂らしたオークの木があって、ちょっと傾いた小屋があって、古ぼけたボートがあって、ジャンピンは笑顔で出迎えてくれる。そしてこれは、私の記憶だ。
    読んだ人それぞれの風景があって、音があって色がある。それは紛れもないその人の記憶だ。
    ほかのどんな娯楽ともちょっと違うところ。漫画とも映画とも違う、自分の作り上げた世界を自分で見まわす。お話の世界が自分の世界になる。

    出会えてしまう、こんな本に、ふとした瞬間、唐突に。
    あ~、読書って、いいなあ。

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