イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史 下

  • 早川書房 (2020年6月4日発売)
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本 ・本 (464ページ) / ISBN・EAN: 9784152099440

感想・レビュー・書評

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  • 上巻に続いてイスラエルの各情報機関の行動を描写しているが、完璧に成功した作戦があったかと思えば、その成功から生まれた過信のために手痛い失敗を引き起こすという流れが何回かあり、モサドほどの組織であっても人の集まりなのだと妙な感慨を覚えた。

    最後の章の、『イスラエルの情報機関の物語はさまざまな意味で、見事な戦術的成功に彩られた物語であると同時に、悲惨な戦略的失敗の物語でもある』という一文が、この本の内容をよく表している。大書ではあるが、一読に値する。

  • 次々と書かれている暗殺の経過は、いささかうんざりするところもあるが、これがイスラエル側からの見方なのだろう。
    ことの性格上、パレスチナ、アラブ側からの視点は反映されていないので、これを「事実」として一方的に受け容れるのは危険だろう。
    人種問題と宗教問題とが重なり合っていると、本当に血で血を洗う闘いになるのがよくわかるけど、理解しがたいところもある。

  • 2024.2.15
    読み終わった達成感よ!

    国の存続のため、国民の生活を守るためにここまでしなければならない国がある。

    確かに麻痺しているところや意地になっているようなところもあるんだろうけど、やらなきゃやられる、ただそれだけのような気もする。

  • 自分用メモ 抜き書き・感想長文。
    著者はジャーナリストだがモサドのテーマで博士号をとった学術背景もあり、イスラエルの安全保障やインテリジェンスの研究者として評価されているという。

    1962年、隠遁生活を送る学究肌のホメイニに啓示がくだった。自らを政治・宗教両方の指導者とし、イスラム帝国を実現するためにイスラム教シーア派の教義を都合よく変更した。イラン国王はじめ宗教的でない君主や首長を正当性無しとし、民衆には殉教を喜びと教え込んでイスラム革命の実現に邁進した。

    1973年、イランのイスラム革命の前、ホメイニは追放されてパリにいた。しかし、配下のシーア派過激主義グループのイランの若者は(レバノンにいた)PLOアラファトの援助で、PLOの訓練基地で破壊工作、情報活動の方法、テロ戦術などを学んだ。PLOはスンニ派で、シーア派はPLOからすると異端なのだが、イスラエルを共通の敵と見て同盟を結んだのだった。

    1978年のイランのイスラム革命後、ホメイニはイスラム革命を世界に広げようとしていた。まず、レバノン南部に多く存在する貧しいシーア派勢力が支援の対象となった。イラン外相はレバノンのかなりの部分を支配する持つシリアと結び、さらにレバノン南部に革命防衛隊を作った。これがヒズボラである。レバノンの貧しいシーア派は熱意が高く、イスラエルの脅威となった。

    1980年後半のなると、イスラエルよりヒズボラのほうがはるかに優れた情報収集力を備えていた。虐げられ、抑圧されていたレバノンのシーア派をヒズボラが組織化し、そこに大義や理念を吹き込んでいった。その結果、金で転ぶ者が少なくなり、イスラエルのエージェントをレバノン国内で勧誘することが困難になった。

    ハマスの創始者ヤーシーンは、ガザに住む難民だった。ムスリム同胞団に入り、1960年代から70年代初頭にかけて教育や社会福祉のネットワークを設立した。ガザのムスリム同胞団は、政治的野心のない社会運動と認識されていた。しかし、イランのイスラム革命により、イスラムは政治的勢力になれるという自覚を持つようになった。イラン革命は、イスラムが政治的・軍事的な力を行使し、国を統治するイデオロギーになれると証明したのだ。
    イスラムの過激主義に感化されたヨルダンやサウジの資産家はイスラム過激派に資金を提供するようになった。このような資金を受け取ったひとりに、ウサマ・ビン・ラディンがいる。

    ヤーシーンも資金を受け、武装集団を組織し、1981年ごろからイスラエルに対するジハードの準備をしていた。ヤーシーンは自爆テロを肯定する教義を生み出した。1987年末の第一次インティファーダのころにはガザとウエストバンクの精神的・政治的指導者となっていた。ジハードの始まりを宣言すると、自分たちの組織を「イスラム抵抗運動」と命名、頭文字から「ハマス」と呼んだ。

    1992年、ハマスのテロに苦しむイスラエルはハマスメンバーを大量にレバノンへ追放した。イスラエル・レバノンの国境緩衝地帯で難民のような停滞を余儀なくされていたところ、ヒズボラが支援を申し出た。シーア派過激派のヒズボラはスンニ派であるパレスチナ人と一般に協力関係にないためハマスは躊躇ったが、共通の敵を前に結局は受け入れた。
    生活に必要な物資の提供を受け、次に軍事・テロ活動の指導も受けた。ハマスは戦闘や諜報に関する訓練をほとんど受けたことがなかったが、通信・暗号化、経過気やロケットランチャーの使用法、諜報・防諜活動、市街戦、接近戦などの訓練を受けた。追放はハマスにとって痛手だったが、恵みとなった面も大きかったのだ。

    1993年に劇的な変化があったという。ハマスの自爆テロはまったく命を惜しまないものとなった。ヤヒヤ・アヤシュは自爆テロ志願者をつのり、小型爆弾を開発し、志願者をうまく説きつけて自爆テロを実行させた。
    アヤシュは他の指揮官と違って、ガザからイスラエル領内へ出かけて民間人を狙った自爆攻撃を展開した。結果、テロリストの力が急激に増した。ハマスのライバルと言えるパレスチナイスラム聖戦機構(PIJ)も自爆テロなどで多くのユダヤ人死傷者を出させた。

    1993年、ラビン首相はインティファーダを止めるため、ペレスらが着手したオスロでの和平交渉に合意した。
    合意の相手はテロを止めたPLOのアラファト議長。世界はこれでパレスチナとイスラエルの和平の道のりが始まったかと期待した。イスラエル政府内でもテロとの戦いは終わったと一時は考えられた。

    ーーーー(世界がというか、ぼんくらな私も)
    しかし、PLOとアラファトはパレスチナ全体を掌握していたわけではない。当時、日本のメディアからPLOは腐敗してウエストバンクで贅沢にのうのうと暮らしており、パレスチナ人の支持率が低いと聞こえていた。イスラエルは知名度があり、与しやすい相手を交渉相手としたのだ。

    オスロ合意によりイスラエルとパレスチナ自治政府は互いにいろいろなルールを守る努力をしつつ、反発するそれぞれの右派を抑えることなどできなかった。イスラエル市民はオスロ合意で占領地を引き渡したためにテロ被害が増加したと考え、抗議運動が高まった。
    シリアはヒズボラをけしかけてレバノン駐留のイスラエル軍の被害は大きくなった。

    本来であればパレスチナ自治政府の領域では、パレスチナ人テロリストは自治政府が逮捕するのが道理だが、アラファトはユダヤ人陰謀説を述べて取り組まなかった。イスラエルはパレスチナ自治領域で逮捕権はない。しかし、激烈なテロを止めるためハマスのヤヒヤ・アヤシュをガザ地区内で携帯電話爆弾により暗殺を計画、1996年に実行した。

    1995年、ラビン首相は左派の集会においてユダヤ人過激派によって暗殺された。

    ハマスは全国的に活動していたが、これに対して、シン・ベト(イスラエルの公安)は地域ごとに活動していたため、アヤシュ暗殺計画を発動するまでアヤシュの居所すらわからなかった。ラビン首相殺害時、シン・ベトの警備担当者はやすやすと暗殺者を通過させてしまった。

    ジハードを最優先するPIJは社会変革も同様に重視するハマスよりも過激であった。指導者シャカキの暗殺は1990年から計画されたがモサドは本人の行方をつかむことにも手間取り、実行は1995年だった。一度はチュニスからリビアへ向かう辺鄙な道路上で爆死させる手筈だったが、当日はモロッコからエジプトにかけてラリーが開催され欧州からの参加者でにぎわっており、作戦は中止となった。

    ーーーーーーイスラエルのモサドといい、シン・ベトといい、意外に間抜けな失敗を多く犯している。ハマスより優秀と言えるかわからない。イスラエルの洗練された印象が本書を読めば読むほど覆ってしまった。
    イスラエルは欧州で暮らしていたユダヤ人ーー先進的で教養も財産もある強いアシュケナジムたちーーを中心に建設された国家であるから、プライドが高く、当然欧州先進国並みの民主国家たろうとしてきたに違いない。
    しかし、現実にはテロリストと同じレベルで無法な暗殺合戦を行い、国際社会からならず者国家と言われても仕方のない手段を取らなければ、国が治められない。他国のパスポートを偽造したり、他国領内で暗殺したり、爆弾で市民の巻き添えを出したり、自国の法を無視して裁判なしの処刑を行ったり。とても法治国家とは言えない面がある。イスラエル国内は常に右派左派に分断されていて、それゆえの迷走とばかげた失態も多いようだ。

    2000年になるとイスラエルの暗殺手法はハイテク化により飛躍的に進化した。あまりに数多くの暗殺を実行したため、もはやイスラエルの関与を否定できず、逆に正当化して声明を出すこととした。暗殺された者が犯していた悪事を詳細に明らかにし、イスラエルには反撃する十分な理由があることを証明した。

    暗殺の正当化は国際社会から非難されたが、9.11以後は形勢が逆転した。他国から暗殺手法の伝授を求められるようになった。
     ーーーオバマ大統領がオサマ・ビンラディンの暗殺(というか襲撃・殺害)を承認したのもここに根拠があったのかもしれない。ビン・ラディン個人の襲撃には驚いたが、家族親戚友人の巻き添えも厭わずという無法さに誰もが驚愕したのではなかったか)

    イスラエルは個人の暗殺に法的な根拠を与えて制度化した。暗殺といっても密かに静かにというやり方ではなくミサイルを飛ばしたり爆発物を仕掛けたりといったことで、もちろん妻や子供、通行人にも被害が出た。それらもとりあえず合法ということになる。イスラエルの暗殺は闇の組織で行われるものではなく、ひととおりの作戦立案、協議、首相の承認など一連の手続きを踏むシステム化されたものなのだ。
    後ろ暗い暗殺、無関係な人間を巻き込むことも多々あるシステム。頻発する自爆テロを止めるにはテロ組織の上層部を暗殺で叩くしかないということから多数の暗殺計画を次々に行った。ターゲットがなかなか一人にならない場合、周りにいる人々も一緒に殺害しても良いということにもなった。

    ーーーイスラエルとパレスチナの戦いは正規軍同士、兵隊同士の戦いというものはない。互いに一般人がどのくらい血を流したかで勝敗を競ってきた。普通の戦争と何も類似するところがないように思う。

    あまりにも暗殺の数と規模が大きくなり、2002年の時点では、何が起きているか全く知らないイスラエル人は一人もいなかった。

    2002年ごろにはイラン、シリア、ヒズボラの完全な同盟が結ばれていた。これにより、ゲリラ、自称革命家、凶悪犯が広範なネットワークを形成し、きわめて効率よく軍事活動を展開できるようになった。このネットワークの最高位にいたのは
    イスラム革命防衛隊のガーゼム・ソレイマーニー
    ヒズボラのイマード・ムグニエ
    シリアのムハンマド・スレイマーン将軍である。

    ハマスやヒズボラは十分な資金援助や本格的な武器を持ち専門知識も受けることができた。ガザにはロケット砲が持ち込まれ、ヒズボラは大量の武器を保有することになった。レバノン南部にはヒズボラの巨大な掩蔽壕やミサイル格納庫が密かに建設された。

    2007年、パレスチナ自治政府は選挙に負けたファタハが依然として支配していた。怒ったハマスはファタハの役人を虐殺してガザ地区を占領し、パレスチナ自治政府とは別の国家を樹立した。
    このとき、自爆テロが再開されており、ガザのロケット砲とレバノンのミサイルがイスラエル全土を射程距離内に置き、過激派戦線の先行きは明るく見えた。

    このあと、またイスラエル側が抑えに出て情勢は二転三転する。シリアの核施設攻撃、イランの核計画関与の科学者暗殺、経済制裁など、イスラエルの敵対関係は外に向かって大きくなった。

    本書の最後は長くモサド長官を務めたメイル/・ダガンの言葉で終わる。ダガンは秘密工作でアラブ人を殺すことが問題解決になると思っていた。イスラエルの地理的・民族的・宗教的紛争を終わらせるためには、外交努力を尽くさなくても、秘密工作を利用すればいいと。実際、それが驚異的な成功を収めたため、イスラエルの指導者の大半は、平和を達成するために必要な、未来像、政治的手腕、政治的に解決しようとする熱意を持たなくなっていた。晩年のダガンはこれが戦略的失敗と気づいた。紛争を終わらせるには、二国家共存しかないという結論に達していた。一国家二民族ではアフリカのアパルトヘイトのように国際社会から孤立し、絶望・対立する生活しか望めないのだ。

    ーーー2024年現在、イスラエルは一国家二民族共存は無理なので、パレスチナ人を消滅させる道を選んだと見える。現在の戦闘が起こる以前、イスラエル領内のパレスチナ人はほぼ諦めの境地でイスラエルに順応するしか平穏に生きる道はないと考える人も増えていたと聞くけれど、今はそれも難しくなっただろう。

  • 国家とユダヤ人を危害から守るためにあらゆる手段を講じるイスラ エル。イスラエルの新聞記者が政府・軍関係者への膨大な聞き取り から明らかにした、イスラエルで特殊任務にあたるモサド、シン・ ベト、アマンの3機関による、諜報活動と要人暗殺作戦の初の通史

  • 翻訳が良かったのでストレスなく読めた。

  • 下巻も終わりのない争いが続く。読み終えても、現実世界の争いは何も終わっていない。

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